企 業 の 評 判が人 財を惹き付ける重 要な要 因とされる一 方で、
キャリア機会の創出が人財を囲い込む大きな要因となるものと 思われる。今回の調査の参加者は、重要な人財を保持するための 最も大きな要因と考えられるものとして、新しいやりがいのある 仕事に就かせること(48%)、キャリアアップの機会を明確にする こと(43%)を挙げている(図16を参照)。
例えば、あるヨーロッパ企業の人事部門責任者は、人財の保持は
“ 個人のキャリアアップと従業員としての労働意欲に関わる問題 ” としている。また、アジア太平洋地域のある産業用製品の製造 会社のCHROは、「キャリアアップの機会を明確にしない、ある いは提供しない場合、従業員は会社を去ってしまうだろう」と述べ ている。
36 適応力のある組織が持つ DNAの解明
考察
今日のビジネス環境では、人財の惹き付け、採用から能力開発、
保 持に至るまでのライフサイクル全 体を管 理することが重 要 な の は明らかである。しかし、今回の調査からは、人財マネジ メントにおいて企業は能力開発(従業員のスキル開発)に重きを 置いていることが明らかとなった。テクノロジーが急激に変化し、
従業員の配置転換が激しく、仕事がより知識集約型になる環境に おいては、この重きの置き方は、的を射ているように思える。
短期間で新しいスキルを習得することが要求されるとするなら、
クラスルームやOJTなど、教育側のリソース依存のラーニング 戦略に頼る企業は、人財の需要に追いつくのに苦しむことになる だろう。配信型ラーニング技術の長所と直接対面の機会をバランス 良く取り入れた混合型ラーニング・プログラムは、将来の労働 力を確保するのにますます重要な役割を果たすことになる。これ らのソリューションは、配信型ラーニングの長所(コンテンツの 配布、受講結果の確認、いつでも好きなときに受講可能などを 簡単に実現できる)と直接対面のさまざまな機会(エキスパートと の面談、直接指導、スキルの職場環境への適用など)の、2つの 世界の良い部分を合わせたように見える。
IBM内でも混合型ラーニングの価値は評価されている。IBMの 営業部門は、教育の必要がある営業部員を数千人抱え、300時 間 を要するトレー ニングを6カ月間に圧 縮する必 要があった。
同時に、営業部員1人当たりの平均売上を増やす必要があった。
効率的なセールスに必要なOJTから得られる知識が相当の量に なることを認めた会社は、研修カリキュラムを活用するだけでなく、
メンタリング、コラボレーション、およびナレッジ管理も取り入れた ラーニング・エクスペリエンスの開発に着手した。IBMは、ラー ニング・エクスペリエンスを個々のニーズ(中途採用者や大学 新 卒者)に適用することを可能にするだけでなく、社内の他の 従業員の知識と経験を取り入れることを可能にするプログラム を設計した。このプロセスを採用した結果、新人の営業担当が 教育内 容をカスタマイズし、新しいツールを日常業務の一環に 取り入れ、指導担当員にフィードバックを返すことができるよう になった。
しかし、この能力開発(従業員のスキル開発)の分野が調査の 回答者によって強調されているものの、単に従業員の能力開発に 力を注ぐだけでは、今日の労働市場の変化に対応するには不十 分だといえよう。 多くの産業分野と地域で、企業は、ドット・コ ム時代を迎えて以来、かつてなかった人財不足に見舞われてい る。世界27カ国37,000人の労働者を対象に、2007年にマン パワー社が行った調査によると、世界の企業の41%が、適性 のある人財が不足しているため、ポジションを埋めるのに困難が 生じているという。16 今のところは人財争奪戦で十分戦えると考え ている企業も、労働力の高齢化や労働力を求める競争の激化と いった新しい圧力の出現により、優秀な人財を惹き付け、保持 する能力を見直さざるを得なくなるだろう。 あるテクノロジー 企業の人財担当責任者は次のように指摘している。「人財の惹き 付けと保持はますます難しくなりますが、やり遂げなければなり ません」
当社のコンサ ルティング経験より、求職者を惹き付けるための 優れたいくつもの実践例を確認している。そのひとつは、CRM
(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)に属するものだ。
これには、人 財プー ル の 中 の 各セグメント(ジェネレーションY 世代や退職者など)の需要を細かな部分まで把握すること、有望 な求職者に関する情報を入手すること、高い価値が期待される 人財セグメントに雇用活動を集中すること、結果を追跡し、測定 することなどが含まれる。テクノロジーは、有効な求職者リレー ションシップ管理のアプローチを実施する際に、重要な役割を 果たす。最新の『HR Magazine』の記事には次のような記述が ある。「求職者リレーションシップ・デ ータベースはCRMデータ ベースとはもちろん異なるが、基本的なツールであることは変 わらない。テクノロジーは、“ブランド” の構築、定期的なコミュニ ケーション、商品である募集職種の強調、求職者の関心の醸成、
スキルと能力に関するデータの継続的な収集に使われる」。17 マンパワー 社が実 現しているように、求 職 者とのリレーション シップをさらに強める方法として、企業はバーチャルな世界を活用 することもある(P38 関連記事の「次世代の求職者を惹き付ける:
Second Lifeのマンパワー・アイランド」を参照)。
37 企業が採用するもうひとつの戦略は、今までとは異なるエリアの
求職者を惹き付けることだ。 既存の人財争奪戦が激化している ため、企業は労働力の供給源を他に求め始めている。 例えば、
定年退職者やOB、出産を終え会社に復帰しようとする女性、自分 の条件に合った労働環境を求めている障害者など。 ある日本の 電気通信会社の人財開発マネージャーは次のように述べている。
「女性や定年退職者の再雇用を試しているところです」。これらの 求職者は、重要な知識や専門的知識をもたらすだけでなく、組織 への高い忠誠心を持っている。
人財の惹き付けに対して企業は既に分析的なアプローチをとっ ているが、優れた実践例の中には、分析的アプローチを同じ レベルで人財の保持にも適用しているものがある。これは、ビジ ネスの把握、すなわち、人財の保持が重要とされるビジネス領 域を特定することから始まる。こうした特別に扱うべき人財セグ メントを認識することにより、企業は、成功への原動力となる こ れら の 人財を最優先し、リソースを集中することができる。
人財の保持に必要な要因(人財セグメントによって異なる場合が ある)を 評 価することにより、企業はどの人財保持のテクニッ クを組み合わせたら適切かを判断できるようになる。分析的アプ ローチを採用することで、企業は、人財保持に関する全般的な 指標の背景を読み解くことができ、企業にとって重要な人財セグ メントに対してきめ細かなアプローチをとることができる。また 同時に、 報 酬とパフォーマンス管 理モデルと人 財 保 持 戦 略を 一致させる必要もある。
当初は、従業員のライフサイクル管理は人事部門が「掌握」して いるように見えるかもしれない。しかし、人事部門が戦略および 基盤プログラムの主導権を握ることができるとしても、これらを 実行に移すとなると複数の領域にわたって密接な調整が必要と される。有望な求職者を惹き付けるブランドを開発するには、マー ケティング、広告、IT、およびメディア担当部門が持っている能力が 必 要となる。 複合型ラーニングを実施するには、各事業部門 からの適切な指示と関与を仰ぎつつ、教育部門やIT部門とのやり とりが必要になる。 重要な人財の保持は、日常的に個々の従業 員と接し、各個人の要求や希望を把握し、全体的な企業文化と 職場環境の形成に寄与している各部門のマネージャーの重要な 仕事である。人事が主導する場合でも、最終的には経営陣全員の コミットメントと積極的な関与を受けることになる。
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