ある中規模のヘルスケア会社が、増加する需要に対応する ため、プロジェクト・ベースの研究開発体制に再編成する 必要に迫られました。同レベルの人財を複数プロジェクトに 割り当てる必要性から、リソース管理モデルを大きく変更 することになりました。同社はまた、意思決定とシナリオ 策定を迅速に行えるよう、確実な自動需要予測プロセスの 導 入を検 討していました。これらの 取り組 みでは、要 員 管理に関してデータ重視のアプローチが要求されました。
この取り組みを実現するため、同社はまず、従業員をスキル 別に分類し、さまざまなスキル・カテゴリーに基づく役割を 定義しました。次に、役割によって従業員を識別し、プロ ジェクト単位で従業員の配置状況を追跡しました。その 結 果、必要なときに必要な場所に、要員コストに対比して 高いプロジェクトに人財を配置できるようになりました。
同時に、3年から5年の期間にプロジェクトがタイプ別に、
パイプライン上どの程度あるかを見積もり、プロジェクトの タイプに基づいて各役割の需要を特定しました。このデータ により、会社は各役割とスキル・セットの需要を予測できる ようになり、最終的に要員ニーズを把握できるようになり ました。
さらに統 合 化された、データ重 視 のアプローチにより、
会 社 は、常勤、契約、および外注の仕事に対してFTE換算 の 需 要を予 測することができるようになりました。この 仕 事と役割ベースのアプローチにより、短期および長期の 要員計画を綿密に立てられるようになり、また、データを 活 用 することで、リソース・マネ ージャー は 能 力 の ある 適 切な従業員に仕事を割り当てることができるようになり ました。
要員ニーズの山と谷を予測し明確に特定することで、新しい プロジェクト作業にはアベイラビリティーと専門能力を 考慮した割り当てができるようになり、以前よりも効果的に 従 業 員を配 置することができるようになりました。この 取り組みにより、会社は、長期的な要員ニーズを見積もる ことができ、各従業員への仕事の割り当て、短期の契約者 や外注の採用タイミングを適切に見極めて、コストを削減 することができるようになりました。
データが利 用 可 能となり、 人 事スタッフが情 報 分 析に必 要な スキ ルを身に付けた場合、従業員のパフォーマンスにどのような 影響を与えるであろうか。この影響は、分析対象となるデータの 種類によって異なる。 人事部門の従来のデータ分析は、組織と しての人事部門の有効性と効率性を知ることに力を注ぎ、全従 業 員の人数または会社の総売上高に対しての、人事が提供する サービス費用を計算するためにあった。この情報はコスト管理 方法の分析には役立つものの、通常、そこからは従業員のパフォー マンスを改善する方法についての考察がもたらされることはない。
例えば、空いているポジションを素早く埋めるための採用指標を 分析したとしても、新しく採用した従業員がハイパフォーマーか どうかを突き止めることはできない。そうではなく、データ分析は、
従業員の生産性(会社がビジネス目標を達成することができるか どうかはそれにかかっている)など、会社の経営を左右する重要な 指標に重点を置く必要がある。 人事部門は、事業部門ともっと 密 接に連携することで、企業業績に直接影響を及ぼす行動を 監 視し、統制することができる。 人財に関する評価指標をビジ ネスの優先事項に合わせることで、ビジネス目標の達成に向けた 従業員のパフォーマンス改善能力を高めることができる。
データ整 備とシステム統 合 の 大きな 課題(どの 回 答 者も口を 揃えて指摘していた)を解決し、データ分析能力を部門内に蓄積 していくことができれば、人事部門は、単にビジネス戦略に対応 するだけでなく、企業戦略そのものに人事の有用な意見を反映 できる絶好の位置に立つことができる。 データと情報の質の 向上により、企業業績と従業員パフォーマンスとの間のギャップ も埋められていくだろう。
48 適応力のある組織が持つ DNAの解明
ビジネスは変化し続ける。従業員がその変化に対応できるかどう かが問題である。
ビジネス・モデル、人口構成、顧客の要求の変化により、企業は 現 在ある課題と将来の不確定さに取り組むために、人財活用の 方法を見直す必要に迫られている。適応力のある人 財は、こう したビジネス環 境 の 変 化に迅 速に対 応し、新しい 市 場 機 会 で 優 位に立つことができる。世界各地400人以上の人事担当責任 者へのインタビュー、および我々のコンサ ルティング経験から 得られた新たな知見は、いかにして企業は変化するビジネスの 可能性に応じて人財を変革していくかということである。
人 事 部 門 は、従 業 員 の 生 産 性 の 課 題 に つ い て、指 針 や 専 門 知 識 を 提供する戦略的な役割を担っている。しかし、人事部門 だけでそれを行うことはできない。 企業は、経営陣の主導の下、
一 連の活動を統合して、従業員の改革に取り組む必要がある。
従業員の日々の業務活動、問題、考え、および昇進希望に直接的に 関わる各部門のマネージャーも強化する必要がある。 情報シス テム部門は、従業員に関するさまざまな傾向の可視化、専門家の 探索、ラーニング・コンテンツの配信、および時間的、地理的に 分 断 されている個々の従業員同士を結び付けることを可能に する、新しいテクノロジーを見出し、それを実装する必要がある。
従業員の生産性と財務指標とを結び付けること、整合性のある デ ー タ基 準を策 定することは、財 務 担 当 責 任 者が特に時 間を かけ注意を払う活動である。マーケティングは、組織に加わる可能 性のある求職者に対して、意欲を高めるメッセージを送ることで 貢献し得る。その他にもさまざまなことが考えられる。
適 応 力 の ある従 業 員 を 育 成 するには、経 営 陣 だけでは なく、
組 織のあらゆる階層におけるリーダーシップが必要とされる。
しかし、今回の調査では、リーダーの育成に関して楽観できない 結 果が示された。 企 業は、現 時 点でリーダーが不 足している ことに 憂 慮して い るだ け で なく、新しいリー ダ ー を 育 成 する 能 力 がないことを問題視している。 世界規模での市場拡張に より、人を鼓舞するビジョンを語り、グローバル・チームを指導し、
ビジネス上の公約を果たすことのできる人財の需要が高まる につれ、いち早く、リーダー 人 財は枯 渇していく。企 業は、将 来 の ビ ジネス・リー ダ ー た ち がますます 重くのしか かる責 任に 対して準備できるように、彼らのスキルを育成し、ラーニング・
エクスペリエンスを提供するさらなる努力が求められる。
データと情報は、いかなる企業にとっても活力源となる。 多くの 企業は、従業員についての整合性の取れた信頼できる有意義 なデータ(スキ ル、適性、特に能力)が得られないことに苦しみ 続 けて いる。 こういった 情 報 から得られる見 識 が な け れば、
会 社 は、新しい人財を効果的に獲得し、社内にいる専門能力の ある人 財を発 見し、将 来 の 能 力 ギャップを特 定し、会 社に貢 献 する重要な人財を戦略的に評価し、保持することはできない。
会社が、膨大な時間、エネルギー、リソースを費やし、会社の財務 システムとサプライ・チェーンにとって悩みの種であった情報の 整備の課題に取り組んできたのに対し、人財情報の整備に向けた 活動は、まだまだ道半ばである。
あらゆる複 雑 な 変 革と同じく、人 財 の 変 革 は、一 連 の 独 立し た 取り組みとして実施されるのではなく、最終的なゴールを基 点に体 系 的に設 計していく必 要がある。人 財 の 変 革 の 各 施 策 は、企 業 の 経 営 方 針や他 の 改 善 活 動と整 合している必 要があ る。例えば、新しいスキルを適用できるキャリアアップの機会を創 出することを抜きにして、社内のリーダーシップ開発プログラム の強化に投資するのは全く無駄なことである。業績評価指標が 単に個人業績にしか紐づいていないのに、最新のバーチャル・
コラボレーションのテクノロジーを導入しても効果はない。した がって、従業員のパフォーマンス向上に関係する各種のタスクや プログラムは、共通の企業思想と改革の青写真に結び付けられ、
そして常にパフォーマンス結果に重点を置く必要がある。
人事部門は、適応力の ある人財を育成することで、ビジネスに 戦 略的に貢献し得る唯一の窓口となる。これまで、人事部門の 戦略的な意気込みを証明するための時間と機会がなかったと いうのであれば、まさに今、その時が訪れたのである。