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:参入・展開方法の検討

ドキュメント内 ベビー用品調査章立て (ページ 46-58)

第 3 章では、市場を都市別に見ることによって、中国を一塊と見ていたときには目に入らなかっ た市場機会が見えてくることを示した。

本章では、その市場機会を掴むために、どのような参入方法が必要かを検討する。具体的には、

まず実際に市場機会を掴んだ企業の事例として、ピジョン中国を取り上げる。次に、特に資金に 限りがある日系企業にとって求められる現地パートナーの事例として、流通企業を 2 社取り上げ る。

【先行日系企業の事例:ピジョン中国】

ピジョン中国の概要

ピジョン株式会社は、1996 年から中国市場に進出、2002 年には上海に貝親嬰儿用品'上海(有 限公司'以下、ピジョン中国と記載(を設立し、中国市場での展開を進めてきた。現在では、流通 チャネル別に一次代理店 3 社、地域別に二次代理店 34 社と契約、中国全土 14,000 店舗にて商 品を販売している。

ピジョン中国が紹介される際に、必ず取り上げられるのが、その全国に張り巡らされた代理店網 とその管理手法である。しかし、これから事業を展開したいと考えている企業にとって関心が高い のは、そこに至る経緯や、そもそもの動機ではないだろうか。そこで、現状の代理店に関する事項 は他紙に譲り、中国法人設立当初より中国事業を進めていらっしゃった北澤憲政中国区総裁'ピ ジョン株式会社常務執行役員(に、代理店活用に至るまでの経緯を伺った。その上で、これまでの 10 年の経験を元に、日系企業の現状の課題や進出する際の方針についても伺った。

ピジョンの中国進出時の取り組み

ピジョン中国と他の多くの日系企業との大きな違いは、当初より、上海や北京の沿岸部だけでは なく、中国全土への大規模展開を目指した施策を取ってきたことにある。例えば、自社の中国拠

点を構えた理由は、中国ベビー用品市場への進出当初より、中国市場に将来の市場としてのポ テンシャルを感じていたためであり、製造拠点ではなく消費市場としてみなしていたためである。

しかし、中国市場という大市場に取り組む際に、初めから中国全土への展開を考えることは、通 常の感覚からは離れているように感じる。むしろ「千里の道も一歩から」とまず上海や北京などの 沿岸部大都市から参入するのが通常であるように思われる。その通常の方法を取らなかったの は、北澤中国区総裁の、海外における経験にあった。

「シンガポール、東南アジア、オーストラリア、アフリカ、中近東などの他国での経験から、

ある程度の規模に達しなければ、やっていけないと考えていた。例えば、製造一つとっ ても、下請け工場に対して発注する際に、販売量が小さくては「 MOQ'Minimum of Quantity:最小限の量(」に達せず発注すらできない。中国でビジネスをする際には、そう いったことだけは避けたいと決めていた」

このように、海外市場においては、ある程度の規模に達しなければデメリットが大きく、逆に達す ればメリットが大きいということを、これまでの海外経験より痛感していらっしゃったことが、中国全 土への展開と繋がったとのことである。

実際、中国全土へ展開し、ある程度の規模に達した近年では、中国政府と現地パートナーとの 関係も更に良好となっており、規模のメリットを享受できている。例えば、政府と正式な契約を結ん だ上で母乳の啓蒙活動を行なっていることは、ピジョンの知名度向上につながっている。

さて、「まずは『裾野』を広げることを意識してやってきた。これが、ピジョンの中国市場における 成功の秘訣だと考えている」とおっしゃっているように、中国全土の展開をする上で、ピジョン中国 が当初最も力を入れたことは、中国全土での販路の確保であった。

「販路の拡大」は、単に流通量を増やすという意味合いではない。販路を確保して中国市場で広 範囲にピジョン商品を流通させない限り、ピジョン商品の販売だけでなく、消費者のピジョン商品に 対する認知度向上、ピジョン商品の良し悪しの判断さえできないため、力を入れたということであ る。

「ピジョン商品を販売している店舗数を増やすことで、消費者の目に触れる機会を増やさ ないと、ピジョンブランドの認知度を高めることもできない。中国のベビー用品市場へ進 出した当初は、ピジョンの中国市場におけるネームバリューはわずかばかりあった。ま

た、一度ピジョンの商品を使ってもらえれば、ピジョンの商品の良さが伝わり、購入者が ピジョンの『広告塔』『オピニオンリーダー』となってくれるのではないかとも思っていた。」

しかし、多くの日系企業がそうであるように、当時のピジョン中国も、投入できる資金は限られて いた。そこで、中国現地の販売代理店を積極的に活用するに至ったとのことである。

それでは、当時知名度も投資金額も大きくなかったピジョンは、どのように代理店と協業を進め たのか。まず、販売代理店に対しリベートなどの利益供与によって協業していくのではなく、代理 店のインセンティブとピジョンのインセンティブが揃うような取引条件を設けた。例えば、販売代理 店へのリベートは、進出当初から現在まで渡したことがないとのことである。

次に、流通チャネルに関しては、中国市場への進出当初は百貨店しか存在しなかったため、ベ ビー用品専門店の育成から取り組んだ。

また、広告・宣伝に関しては、現地パートナーの後押しによりピジョンの知名度は飛躍的に向上 した。例えば、ベビー用品専門雑誌との提携により、ベビー用品専門雑誌が積極的にピジョン商 品を押ししてくれた。

こういった販売代理店への取り組みにより、中国全土に強固な店舗ネットワークを張り巡らせる ことに成功した結果、中国で設立した2つの自社製造会社は、初年度で黒字化を達成し、ある程 度の規模を越えることができた。「資金を抑えつつ中国全土に販路を拡大するためには、販売代 理店の活用以外方法がなかった。それが逆に良かったのかもしれない。」とのことである。

ピジョン中国の取り組みが示しているのは、パートナーに対してこちらから提供可能なものは、

お金以外にもありうる、ということである。地道な小売店育成・開拓など、代理店の売上増をサポ ートするような施策を通じ、実際に代理店に儲けさせることで、更に次の代理店を呼ぶというモデ ルは、他の日系企業にとっても大いに参考にする点があると思われる。

今後進出する日系企業にとっての課題

最後に、中国で 10 年以上の経験を持つ北澤中国区総裁に、日系企業にとっての課題を伺った。

まず北澤総裁が指摘するのは、中国市場への進出の難しさである。確かに、中国のベビー用品 市場では、以前よりも多くの商品が売れ始めており、市場規模が拡大している。ベビー用品は、金

銭的余裕がないと購入しない便利用品であるものの、経済成長に伴う世帯・個人収入の増加によ ってお金を出して購入する人が増えてきている。

しかし、現在の中国ベビー用品市場は、新規進出が難しい市場である。というのも、中国ベビー 用品市場には、すでにブランドを確立した大手企業が存在する。加えて、無名のブランドであれば あるほど、優良な販売代理店を見つけることが難しい。実際、中国には、ピンからキリまでさまざ まな代理店があふれている。また、中国ベビー用品市場への新規進出には、ピジョンが本格進出 した 10 年前と比較すると多額の投資金額を要すると想定される。無名の企業であればあるほど、

販売代理店にリベートやディスカウントを要求されるであろう。

それでは、このような厳しい市場に対し、どのような参入方法が有りうるのだろうか。ここで、多く の日系企業が予定していると考えられる「まずは上海・香港市場において1店舗 1 店舗展開してい き、ある程度知名度が高まったところで地方都市に進出する」という考え方について、ご意見を伺 ったが、その答えは、そう簡単ではなく、「上海・北京は、新しいブランドがどんどん進出してきてお り、内陸の地方都市と比較して競争が激しいように感じている。実際、自社としても、上海は一番 難しい市場と認識している」とのことであった。

また、更に、1 店舗 1 店舗展開していっても、ある程度の規模を超えた際のメリットを享受すること は難しい。政府との関係、代理店との関係、百貨店など流通チャネルとの関係、工場との関係、

顧客からのブランドイメージなどなど、多数のメリットが享受できない状態では、競合企業に勝つこ とは覚束ない。

逆に、北澤総裁が指摘したのは、地方都市から攻めていくという考え方である。「大手ブランドに よっても、各エリアへの力の入れ具合にはばらつきがあるように思われる。競争が激しい沿岸部 都市から進出するよりも、むしろ、武漢などから進出し始めた方がよいのではないかと考えてい る。」とおっしゃるように、地方都市からの参入の可能性もあるという。ただし、今から進出を始める のであれば、先に指摘したような代理店探索などの問題は発生するので、それをどのように超え るかは難しいと思われる。このようなハードルを越える方法を模索した上で、地方都市にも目を向 けて見るのもまた一案と考えられる。

ドキュメント内 ベビー用品調査章立て (ページ 46-58)

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