第 4 章 装着者の動作意思推定と状態推定
4.2 動作意思推定アルゴリズム
動作意思の推定には,床反力と上半身の側屈角を利用することは既に述べた.ここでは,
それぞれの装着者の動作情報を反映したセンサ出力を用いて意思推定を行う具体的な手法に ついて論じる.
4.2.1 床反力を利用した意思推定方法
図4.2に床反力を利用した意思推定を用いた軌道追従制御のブロック線図を示す.HALと 装着者のブロックから床反力データが抽出され,意思推定器に入力されていることが分かる.
床反力を用いた推定法では,装着者の重心の移動,つまりどちら側の脚上に重心があるかを 判定している.この判定を行うことによって,装着者の状態に応じた適切な歩行支援を行う ことができるのである.この判定には,第3章の軌道追従制御のための仮目標軌道の生成の 項で述べたPhase分解方法(Step 1)を流用している.
frを右脚床反力,flを左脚床反力とすると,右脚への重心移動を判定する条件は,
l
r f
f > ( 4.1 )
で表され,逆に右脚への重心移動を判定する条件は,
l
r f
f < ( 4.2 )
で表されることになる.
図 4.2 床反力による意思推定を用いた軌道追従制御ブロック
4.2.2 上半身側屈角を利用した意思推定方法
図4.3に上半身側屈角を利用した意思推定を用いた軌道追従制御のブロック線図を示す.
本研究で,レートジャイロによって計測している3種類の上半身角度(Pitch 軸回り,Roll 軸回り,Yaw 軸回り)のうち Roll 軸回りの角度である側屈角を利用したのは,この角度が 歩行中の左右方向への重心移動を反映している情報であると考えられるためである.図 4.3 によると,HALと装着者のブロック(右脚)からレートジャイロのデータに基づいて算出さ れた上半身の角度データが抽出され,意思推定器に入力されている.図 4.2と異なるのは,
上半身角度は脚に依存するデータではないために,一方の脚のブロックからのみ意思推定器 への出力が記述されている点である.
上半身側屈角を用いた推定法は,床反力を用いた推定法と比べて,脚の踏ん張りが利かな いような重度下半身不随の障害者にも適用可能である.また重心移動の結果として現れる床 反力よりも,装着者が積極的に行う上半身動作を捉えた上半身側屈角データを用いることは,
各Phaseにおける脚動作支援を行う前の意思推定が可能であり,装着者に違和感を与えない
効果的な歩行支援を行う上で有効である.
本手法では,図4.4に示すように鉛直軸を上半身角度の零点,装着者に対して時計回りつ まり装着者の左手方向への回転を正回転と設定し,上半身角度が0.05[rad]を上回ると左脚側 への重心移動(左脚を支持脚にするための準備)が行われたと判定し(式(4.3)),-0.05[rad]
を下回ると右脚側への重心移動(右脚を支持脚にするための準備)が行われたと判定してい る(式(4.4)).つまりこの-0.05[rad]から0.05[rad]の範囲は,角度データの微妙な変動によ
って Phase 遷移が装着者の意図しないタイミングで行われてしまうことを避けるための不
感帯として機能している.なお,Phase遷移の閾値として用いた角度は,健常者歩行の体幹 側屈角度に基づいている.江原らの研究[24]によると,健常者の歩行では体幹側屈角度は両 回転方向にそれぞれ最大約 0.07[rad]であり,このことから本歩行支援において閾値は 0.05[rad]とした.
図 4.3 上半身側屈角による意思推定を用いた軌道追従制御ブロック 図中の
θ
pは装着者の上半身側屈角である.Left
図 4.4 上半身角度データの認識方法
>
θ
+θ
p ( 4.3 )<