楊 世 英
1. 労働力市場の分断性
がなくそのまま失業者となっていた。労働力市場では過剰供給で需給構造はアンバランス状 態にあった。マクロ的政策による政策介入を行わざるを得なかった。一方,政策的対応が求 められたものの,労働力市場そのものは機能せず,政府は深刻化する雇用情勢を緩和するた め,労働力市場の制度整備を着手した。それがいわゆる中国の労働力市場の制度整備が始まっ た契機であった。しかし,中央政府政策や地方政府の条例は農村労働力の都市への移動が阻 害しているから2,同一労働には同一報酬を実施するという労働力市場の原則は労働力市場 の制度整備の初期段階から,実現できなかった。
業種間における労働力市場は依然分断している。一例として中国の公共事業は市場化が かなり遅れているため,市場メカニズムは機能せず,国有企業(公有制経済)の独占状態が いまなお続いている。このような行政手段による独占は国家独占主義の一種といっても過言 ではない。このような独占企業に市場経済制度を導入せず,労働力市場への参入制度は未だ 整備されていない。市場からの准参入は難しい。非公有制経済(民間企業)企業の独占企業 への参入はほぼ不可能である。
このような業種間の独占状態は労働力における産業間の移動に影響している。本来なら ば産業間における賃金格差は労働力移動の規定要因となっている。しかし,中国の独占企業 は独占利潤を転化した結果,業種間において賃金格差が生じたため,本来の労働力価格を反 映せず,労働力移動の阻害要因となっている。現状では,業種間でも同一労働同一報酬が実 現していないので,産業間における労働力の移動はきわめて稀少である3。
そして,労働力市場の参入制度が依然整備されておらず,行政手段による労働力市場管 理が依然として続いている(2000年12月8日に公布した『労働力市場管理規定』は市場関 連サービス,市場管理およびマクロ的な意思決定の根拠となっている,当該規定はすでに 2007年11月に廃止された。そのかわりに『就業サービスおよび就業管理規定』が2008年 1月1日から実施)。公共事業(電力・水道・ガスなどインフラ基幹産業)は独占企業の代 表格として知られる。確かに改革以来,このような独占状態は規制緩和によりいくつかの改 善が見られたが,労働力市場の准参入制度などの面で行政制度による制限現象が依然存在し ている。競争を必要とする制度環境が整備したとは言い難い。
独占企業への投資構造が依然単一化している。市場経済に適応する多元化なおかつ競争
2 農村からの労働力が排除され,一例として「農民工」の採用については農村出身者は採用者総数上 には何パーセントとか決められていたこともよくある。とくに大都市では業種により制限が違う。
差別性が強い許可証制度が実施された。許可証制度に伴って各種名目費用が徴収される。また,社 会保険,子女教育などの面にも差別問題が存在している。失業者は最低生活保障にすら保障されな い状態である。それを労働力市場の形成に契機となっていた。形成する客観条件が揃えたと考えら れる。
3 同一労働同一賃金原則とは同質・同量の労働に対して年齢,学歴,性別,人種,民族などの差異に かかわりなく同一額の賃金支払いを求める原則である。
型の投資構造が未だ形成していない。つまり非公有制経済による独占企業への参入は体制上
(あるいは政策上)の阻害による依然不可能である。さらに独占企業の改革がかなり遅れて いるため,業種間における労働力市場には依然分断され,その直接の結果は業種間における 賃金格差が拡大されている。独占企業の労働賃金は特段高い。これは単純に独占企業労働力 の付加価値が反映でなく,独占企業が独占利権を利用して得た独占利潤を労働者に転嫁しす ぎない。この意味ではこのような企業の独占構造が労働力市場の制度整備や労働力の自由移 動を直接に阻害しているといえる。業種間における労働力の流動性が非常に低いため,さら に将来的にはこうした状態が続けば,社会全体の就業規模の拡大は難しくなる4。
中国は,労働力市場を通じて労働需給を調整し,最終的に就業規模を拡大させるという従 来の労働力市場の機能が働いているとはいえ,労働力の市場化が進んでいない。行政手段に よる独占・介入は依然存在している。
労働力市場は体制(制度)による分断化されている。中国では,企業体制内外において 二つの労働力市場が存在している。つまり正規労働力市場と非正規労働力市場がある。体制 内にある正規労働力市場については,雇用安定ないし市場管理体制(制度),労働者の権益 保護など雇用環境が整っている。しかし賃金が一方的に上昇して賃金硬直性が強いから,労 働力の価格メカニズムが機能していない。一方,非正規労働力市場では非正規労働部門に就 業している非正規労働者を対象とし,現実では多くの農村から出稼ぎ農民(農民工)と都市 部の非正規労働者は対象となっている。非正規労働力市場の特徴としては低賃金・労働環境 の悪化・雇用の不安定性・市場制度の未完備・雇用機会の不平等・不公正な競争環境・不対 等な労資関係(労使関係)などがあげられる。さらには賃金未払い問題や社会保障加入率が 低いなども特徴的である。しかし労働力の価格メカニズムは機能している5。
こうした分断している労働力市場は雇用機会の不平等化問題をもたらした。就業管理体制 が差別化しているから,体制内では社会保障制度が整備され,労働契約がほとんど結ばれて いる。正式な労働組合もある。しかも体制外労働市場は市場管理制度が未完備状態である。
労働契約率・社会保険加入率は非常に低く低賃金状態が続いている。同一労働同一報酬問題 もあり,雇用政策上の差別表現としては中央政府・地方政府が実施した積極的雇用政策・条 例の対象は体制内就業者だけに留まっている。職業訓練・失業保険など面においても出稼ぎ 農民「農民工」が就業サービスの対象外となっている。都市部においても国有企業以外の失 業者(リストラ者を含む)も対象外となっている。この意味で公正的な雇用環境が形成され ているとは言えない。
4 労働力市場の競争性がなくなる恐れがあるので,労働力市場への参入の増大と労働需要とが衝突す ることを回避できなくなる。
5 企業においては,内部労働力市場,外部労働力市場が分けている。
さらに,このような分断した労働力市場は労働者の職業選択にも影響している。労働力市 場には流動性が低く移動コストが高いから,就業は地元傾向となっている。就業選択範囲が 限定されている。地域間における労働力の流動性が非常に低いため,大卒者の初回就業行動 にも反映されている。彼らは常に沿海地域の大都市・中都市などを選ぶ。つまり仕事より労 働場所を優先に選択する動きがあった。生産要素である労働力の配置は合理的でなく,過剰 と不足が同時に存在する状況が現れた。いわゆる労働力過剰と人材不足のジレンマ(ディレ
ンマdilemma)問題が見られ,過剰から不足への転換点(いわゆるルイス転換点)に迎いつ
つある状態として考えればよい。
今後は,都市と農村の協調の取れた発展のための制度的障害除去にポイントを置き,労働 力,資源などの合理的な移動と最適化を図るべきである。都市と農村の統一的労働力市場・
公平な就業制度を設けるために,戸籍管理制度の改革により都市・農村の統一的戸籍登録管 理制度を構築,農村から都市への移動制限の緩和,社会保障の農村全域への拡大が必要であ るとしている。