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6-1 イメージングの原理

本論文で対象とするような鉄筋を計測対象とする場合,不要反射波の干渉により所望波

(鉄筋)のピーク振幅を正しく抽出できず,(2-5)式の振動変位は不正確となってしまう.一 般に RC レーダでは孤立した物体の直上を移動しながら取得した波形を取得位置順に並べ た場合,その反射波の到達時刻はFig. 6-1-1のように放物線状のプロファイルを示し,スキ ャン方向の空間分解能は悪い.そこで,本報告では時間シフトしたレーダ波形を重ね合わせ るキルヒホッフマイグレーション法4)と呼ぶ合成開口処理を用いる.送受一体型レーダ波形 の時間軸は,𝑣/2を乗じてアンテナから反射体までの距離 𝑙 の関数とみなせる.このとき,

ある距離 𝑙 に現れる波は,アンテナを中心とする半径 𝑙 の球面上の任意の点から到来した ことを示す.その波源位置を推定するため,仮想波源(𝑥,𝑧)を仮定すると,𝑛番目のアンテ ナ位置(𝑥𝑛,0)から仮想波源までの距離 𝑅 は式(6-1)で表される.

𝑅(𝑥𝑛,𝑥,𝑧) = √(𝑥𝑛− 𝑥)2+ 𝑧2 (6-1)

光速を𝑐 ,比誘電率を 𝜀𝑟 とすれば,媒質の伝搬速度は 𝑣 = 𝑐/√𝜀𝑟 であり,アンテナ位置 (𝑥𝑛,0) で得られた受信波形を 𝑔(𝑥𝑛,𝑡) と表記すると,ある仮想波源(𝑥,𝑧)から各アン テナ位置に到来した波の振幅は 𝑔(𝑥𝑛,2𝑅/𝑣) に表れる.したがって,Fig. 6-1-2 のように アンテナ位置を中心に距離𝑅の同心円状に波形振幅 𝑔(𝑥𝑛,2𝑅/𝑣) を分布させ,すべてのア ンテナ位置についてこの操作を足し合わせれば,真の反射点では同一位相の波が足し合わ され評価関数値は成長する.一方,それ以外の場所では,位相がランダムに足し合わされる ことから評価関数値は低いままとなる.無変調成分とドップラ成分に対応したイメージン グ画像𝑢̇0(𝑥,𝑧),𝑢̇+(𝑥,𝑧)は式6-2,6-3で表される.

𝑢̇0(𝑥,𝑧) = ∑𝑁𝑛=1d𝑡d𝑔0̇ (𝑥𝑛,2𝑅(𝑥𝑛,𝑥,𝑧) 𝑣⁄ ) (6-2)

𝑢̇+(𝑥,𝑧) = ∑𝑁𝑛=1𝑔+̇ (𝑥𝑛,2𝑅(𝑥𝑛,𝑥,𝑧) 𝑣⁄ ) (6-3)

本処理は反射波の振幅情報も保存されていることから,真の反射体位置(𝑥𝑟,𝑧𝑟)での鉄筋の 反射振幅を用いて,式(6-4)により鉄筋の振動変位が得られる.これが,イメージングベース の鉄筋振動変位推定アルゴリズムである.

𝛿(𝑥𝑟,𝑧𝑟) = 𝑣|𝑢̇+(𝑥𝑟,𝑧𝑟)/𝑢̇0(𝑥𝑟,𝑧𝑟)| (6-4)

粗骨材の入った RC 供試体と弾性係数と振動変位の関係性を鉄筋かぶりや鉄筋径もパラメ ータとし確認する。また、実際に実験によって求めたパラメータを用いて弾性係数の推定を 試みる。

Fig. 6-1-1 レーダプロファイルの取得

Fig. 6-1-2 マイグレーション処理の概念

#1 #2 #3

アン テ ナ 位 置を中心に 同心円状に 受信振幅を 空間に分配

反射点位置の 振幅が成長

全ての受信波 形について同 様な処理を行

深さ

い積算

水平位置

6-2 RC 供試体における振動変位 6-2-1

実験概要

実験に使用したRC 供試体は、群馬大学環境創生理工学科小澤研究室作である。W400×

H100×D300 mmの角柱であり、D13 D16 D19異形鉄筋、かぶりは30 mm、40mm、50mmで

w/cを30、47、63の3種類である(w/cは水に対するセメントの比率である)。寸法と供試体

の概要をFig. 6-2-1に、計測イメージ図と概要図をFig. 6-2-2に配合表をTable 6-2-1~3に示 す。

また前述の配合の円柱供試体を用いて載荷試験を行い圧縮強度と弾性係数を求めた。その 結果をTable 6-2-4に示す。

Fig. 6-2-1 左:供試体の寸法 右:供試体の概要

Fig. 6-2-2 計測イメージ図

Table 6-2-1 w/c30 の配合表

W/C 単位量(kg/m3)

W C S G 混和剤

Ad*

Air S1 S2

1.00 3.15 2.64 2.73 2.86

1000 0.30 150 500 731.00 1169 7 0.9 359 372

30 4.5 15 21.93 35.07 0.21

10.77 11.16

Table 6-2-2 w/c47 の配合表

W/C 単位量(kg/m3)

W C S G 混和剤

Ad*

Air S1 S2

1.00 3.15 2.64 2.73 2.86

1000 0.47 184 392.42 675.64 1127.75 3.92 4.5 337.82 337.82

30 5.52 11.77 20.48 33.83 0.11773 10.13 10.34

Table 6-2-3 w/c63 の配合表

W/C 単位量(kg/m3)

W C S G 混和剤

Ad*

Air S1 S2

1.00 3.15 2.64 2.73 2.86

1000 0.63 180 284.84 752.22 1155.15 2.85 4.5 376.11 376.11

30 5.4 8.55 22.81 34.65 0.08545 11.28 11.53

Table 6-2-4 載荷試験により算出される圧縮強度と弾性係数

6-2-2 RC 供試体における加振レーダ計測結果

振動変位の精度を上げるためイメージングベースの振動変位算出を行った。鉄筋に対し てアンテナが直交する方向に100 mm間を5 mmずつ20点移動させて計測を行いマイグレ ーション処理を施した。各供試体における計測範囲の加振レーダ波形を横方向に並べたレ ーダプロファイルとマイグレーション処理を施した結果を Fig. 6-2-3~29 に示す。比誘電率 はそれぞれ、12、11、10としている。

Fig. 6-2-3 45.19 GPa D13 かぶり 3cm W/C

[%]

圧縮強度 [N/mm2]

弾性係数 [GPa]

63 28.18 31.20

47 41.81 35.23

30 79.59 45.19

Fig. 6-2-4 45.19 GPa D16 かぶり 3 cm

Fig. 6-2-5 45.19 GPa D19 かぶり 3 cm

Fig. 6-2-6 45.19 GPa D13 かぶり 4 cm

Fig. 6-2-7 45.19 GPa D16 かぶり 4 cm

Fig. 6-2-8 45.19GPa D19 かぶり 4cm

Fig. 6-2-9 45.19 GPa D13 かぶり 5 cm

Fig. 6-2-10 45.19 GPa D16 かぶり 5 cm

Fig. 6-2-11 45.19 GPa D19 かぶり 5 cm

Fig. 6-2-12 35.23 GPa D13 かぶり 3 cm

Fig. 6-2-13 35.23GPa D16 かぶり 3cm

Fig. 6-2-14 35.23GPa D19 かぶり 3cm

Fig. 6-2-15 35.23GPa D13 かぶり 4cm

Fig. 6-2-16 35.23GPa D16 かぶり 4cm

Fig. 6-2-17 35.23GPa D19 かぶり 4cm

Fig. 6-2-18 35.23GPa D13 かぶり 5cm

Fig. 6-2-19 35.23GPa D16 かぶり 5cm

Fig. 6-2-20 35.23GPa D19 かぶり 5cm

Fig. 6-2-21 31.20GPa D13 かぶり 3cm

Fig. 6-2-22 31.20GPa D16 かぶり 3cm

Fig. 6-2-23 31.20GPa D16 かぶり 3cm

Fig. 6-2-24 31.20GPa D13 かぶり 4cm

Fig. 6-2-25 31.20GPa D16 かぶり 4cm

Fig. 6-2-26 31.20GPa D19 かぶり 4cm

Fig. 6-2-27 31.20GPa D13 かぶり 5cm

Fig. 6-2-28 31.20GPa D16 かぶり 5cm

Fig. 6-2-29 31.20GPa D19 かぶり 5cm

マイグレーション処理を行うことで不要反射波と鉄筋反射を明瞭に分離できる結果とな った。マイグレーション後の波形から算出した振動変位をTable 6-2-5~7に示す。

Table 6-2-5 31.20GPa における振動変位[μm]

31.20GPa D13 D16 D19

3cm 6.48 7.42 6.63

4cm 5.12 5.39 6.04

5cm 2.99 4.46 4.47

Table 6-2-6 35.23GPa における振動変位[μm]

35.23Gpa D13 D16 D19

3cm 3.65 4.41 5.75

4cm 4.45 5.64 5.8

5cm 3.57 4.01 4.41

Table 6-2-7 45.19GPa における振動変位[μm]

45.19GPa D13 D16 D19

3cm 5.37 7.12 7.64

4cm 3.91 5.46 5.47

5cm 3.25 3.3 3.92

Table 6-2-5~7中計測不良により極端に振動変位が小さいまたは大きい結果の部分には赤く

塗りつぶしてある。これはかぶりが浅いことにより直達波と反射波が干渉したことが原因 であると思われる。

Table 6-2-5~7を元に鉄筋径、かぶり、弾性係数による違いをFig. 6-2-30~33に示す。(グラ

フ中FEM解析で見られたような変化が見られなかった点には赤い三角形で示してある。)

Fig. 5-2-31 45.19GPa 鉄筋径による違い

Fig. 5-2-32 45.19GPa かぶりによる違い

Fig. 5-2-33 D19 弾性係数による違い

鉄筋径による違いでは、径が太くなるにつれて振動変位が増大する結果となった。これ は径が太くなることで、鉄筋に作用する力が大きくなるため振動変位が増大している。

かぶりによる違いでは、かぶりが深くなるにつれて、振動変位が減少する結果となっ た。これはかぶりが深くなるにつれて鉄筋に作用する力が弱まるため振動変位が減少して いる。

弾性係数の違いでは概ね弾性係数が増加すると振動変位が減少する傾向が見られた。

このことよりFEM解析で確認できた傾向が見られたため計測としての妥当性が示唆さ れる。

しかし、FEM解析で算出された振動変位が実計測で得られる振動変位よりも小さいため、

(4-3)式中の係数Kについて検討する必要がある。

6-3 RC 供試体における加振レーダ計測とシミュレーションの比較

第5章でFEM解析により算出された振動変位と第6章6-2で算出された振動変位を比 較するとFEM解析で算出された振動変位が小さい結果となった。これは実験での誤差 と、FEM解析での鉄筋周囲の変位拘束条件によることが原因であると考えられる。

しかしFEM解析での結果より振動変位と弾性係数が反比例の関係にあるため、FEM解 析の振動変位にフィッティングのための適当な係数 𝐾 を乗じた際に6-2節で算出された 振動変位とどれくらいの誤差があるか確認することにより実験での振動変位の妥当性を確 認する。

そこで実験とFEM解析での振動変位のRMS誤差が最小となる 𝐾 を求めた( 𝐾 = 5.98 でRMS誤差は1.10)。導出した 𝐾 をFEM解析で算出した振動変位にかけた表をTable 6-3-1~3に示す。

Table 6-3-1 31.20GPa における振動変位[μm]

31.20GPa D13 D16 D19

3cm 7.83 8.85 9.33

4cm 4.92 5.51 7.30

5cm 2.99 3.29 3.41

Table 6-3-2 35.23GPa における振動変位[μm]

35.23GPa D13 D16 D19

3cm 6.88 7.77 8.25

4cm 4.30 4.83 6.46

5cm 2.57 2.87 3.05

Table 6-3-3 45.19GPa における振動変位[μm]

45.19GPa D13 D16 D19

3cm 5.17 5.98 6.40

4cm 3.31 3.71 4.99

5cm 1.97 2.21 2.33

Table 6-3-1~3をもとに実験の結果との比較をFig. 6-3-1~3に示す。

Fig. 6-3-1 D13 鉄筋 FEM 解析と実験との比較

Fig. 6-3-2 D16 鉄筋 FEM 解析と実験との比較

Fig. 6-3-3 D19 鉄筋 FEM 解析と実験との比較

Fig. 6-3-1~3より係数Kをかけることによって振動変位が実験から算出した振動変位と近く

なっている。このことより算出した係数 𝐾 の妥当性が示唆される。

また、係数 𝐾 をかけた振動変位と実験の振動変位との誤差をFig. 6-3-4~6に示す。

Fig. 6-3-4 D13 鉄筋 FEM 解析と実験との RMS 誤差

Fig. 6-3-5 D16 鉄筋 FEM 解析と実験との RMS 誤差

Fig. 6-3-6 D19 鉄筋 FEM 解析と実験との RMS 誤差

Fig. 6-3-6~9より弾性係数35.23GPa(w/c 47)では他の2つより平均的にRMS誤差が大きく

なった。これはRC供試体での測定値が不備があったためである。計測に不備があったも のを除いてRMS誤差の平均を取ると約24%となった。24%のRMS誤差の範囲内であれば FEM解析の結果から実際の計測での振動変位を推定することができる可能性を示唆してい る。

またこれによりモデル式(4-3)式中のパラメータ(鉄筋径、かぶり、弾性係数)が既知であ れば加振レーダ計測における振動変位が推測可能である可能性が示唆され、振動変位と弾 性係数の依存性があることを示唆される。

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