A. 現状、最近の報告・活動の概要
A.8 利害関係者の活動
PAN Europe は2011 年5月発表の内分泌攪乱性農薬の基準に関するポジションペーパー
(PAN Europe, 2011)において、他の毒性効果も含めて内分泌系への影響が観察されるなら ば物質を内分泌攪乱性を持つものと見なすことを提唱した。この場合作用機序が知られて いることは要求されない。内分泌攪乱性を持つ物質を同定するには、すべてのホルモン系 を研究し、低曝露量試験を行うことが必要であり、したがって曝露時期を考慮して実験動 物には発達期を通じて物質を給餌すべきである。EDには非線形の曝露量・応答関係の例が 報告されているから、閾値の概念は適用すべきではない。
必要とされるのは内分泌攪乱性の認定の証拠のみであるため、EDの各種定義は論じられて いない。PAN Europe は、リスク評価でなく危険性評価に基づくアプローチを提唱してい る。
試験済みの物質の危険性の評価のためには、詳細な文献調査が必要であり、その際に独立 機関のデータを優先すべきである。物質の試験に関しては、PAN Europe は独立の内分泌 攪乱研究者が開発中の最新のプロトコルを推奨する。
試験結果の解釈については、動物で観察された効果は原則としてヒトに関連あるものと見 るべきである。内分泌攪乱性を持つ物質の有害作用について疑いがあるときは、予防原則 を適用し、更に試験の評価が進むまでは流通を禁止すべきである。
CHEM Trust
CHEM Trustは2011年9月「内分泌攪乱性化合物に関する論議への寄与」(CHEM Trust,
2011a)を発表した。この文書はWWFの欧州政策局の資料に基づいている。2012年4月に
はCHEM TrustとHEALが共著資料「内分泌攪乱性化学物質の規制における問題点と解決
策」(CHEM Trust, 2011b)を発表し、EDの評価・同定に際して下記の原則を考慮すること
を推奨している。
EDの定義に関してCHEM Trustは、WHO/IPCSの定義(WHO/IPCS, 2002)を有用な作業 原則と認めつつも、物質が内分泌系を攪乱した「結果として健康に有害な作用を及ぼす」
この定義に基づけばEDの同定の基準は、物質が(i)内分泌攪乱性を持つか(内分泌攪乱性の 発現機構の詳細な知見は要求されない)、(ii)有害作用を(実験システムにおいて)惹き起こ す可能性があるかである。有害作用の基準についてCHEM Trustは、規制には「可能性の 高い重大な効果」(probable serious effects)および「有害作用を及ぼす可能性のある」(may cause adverse effects)という表現があることから、有害作用が無理なく予測できることが 必要としている。化学物質が ED であるか否かの判定基準に作用強度の閾値を含めるべき ではない。
CHEM TrustはEDの同定に一層適合するように化学物質の試験要件を改善する必要性を
強調している。現行のOECD 試験法には限界があり、危険性評価においては OECD 以外 の方法にも相応の重みを持たせるべきである。また不要な試験を避けるため、in vitro情報 を証拠として活用すべきである。
CHEM Trustは、非線形曝露量・応答曲線、低線量効果(閾値の存在しない可能性を含め)
などの性質も承認している。
リスク管理についてはCHEM Trustは、内分泌攪乱性が「リード効果」でなくても、それ が認められれば直ちに規制の対象とすることを推奨している。或る種の内分泌攪乱性物質 を作用強度の閾値を根拠に厳格な規制から外すことは、規制の目的である健康の保護の達 成を妨げるおそれがあり、行うべきではない。
ECETOC
EDの評価・同定に関するECETOCの立場は下記のWeybridge定義に基づいている。
「EDとは、内分泌機能の変化を通じて無傷生物またはその子孫の健康に有害作用 を及ぼす外因性物質である」(EC, 1997)
しかしながらBars et al. (2011)が指摘するように、WHO/IPCS (2002)、EC (1999)、日本 環境省(2005)の各定義も、効果の有害性という要素を共通に含んでいる点で重要である。こ のためEDの同定に対するECETOCのアプローチでは、内分泌活性の機構と、規制目的に 関連する最終エンドポイントに対する明らかな影響の両者を示すことが重要とされている (ECETOC, 2009)。したがって生態毒性試験の場合は、最終的な効果は集団に関連したもの
(たとえば生存率あるいは生殖への影響)でなければならない。ECETOCは(生態)毒性 データ(特定対象についてのin vitroおよびin vivo試験、補助的試験、複数のエンドポイ ントに対する最終的試験を含む)の範囲の評価にWoE手法を用いることを推奨している。
ER/AR結合試験、ER安定導入転写活性(STTA)試験、アロマターゼ活性試験、ス テロイド産生活性に関するH295Rスクリーニング
‒ 1つ以上のED活性を標的とするin vivoの機構的試験
哺乳類
子宮肥大試験(OECD TG 440)、Hershberger試験(OECD TG 441)
生態毒性
魚類21日スクリーニング試験(OECD TG 230)
魚類短期生殖試験(OECD TG 229)
両生類変態試験(OECD TG 231)
‒ 有害作用を示し以後のリスク評価に利用できる複数のエンドポイントを含むin vivoの 最終的および支援試験
哺乳類
US EPA思春期雄/雌ラット試験(US EPA, 2011d, 2011e)
強化28日反復経口毒性試験(OECD TG 407)
亜慢性試験(OECD TG 408, TG 409) (OECD, 1998)
出生前発達毒性試験(OECD TG 414)、慢性/発癌性試験(OECD TG 451, 452, 453)
齧歯類単世代試験(OECD TG 415および拡張版)
齧歯類二世代試験(OECD TG 416)
生態毒性
魚類性的発達試験(OECD TG 234)
修正魚類全サイクル試験、たとえば US EPA OPPTS 850.1500 (U.S. EPA, 2004) の修正
鳥類および両生類部分または全ライフサイクル試験(開発中)
こ れ ら の 試 験 の 結 果 を 評 価 す る た め の デ シ ジ ョ ン マ ト リ ッ ク ス が 開 発 さ れ て い る
(ECETOC, 2009)。これは最終的試験または支援試験の結果(有害作用を示す)と、in vitro
またはin vivoの機構的試験の結果とを組み合わせるもので、前者による「内分泌毒性を示
唆する有害作用」と、「内分泌毒性を示唆する内分泌活性」の証拠の両方が得られた場合の み「Weybridge 定義による EDの十分な証拠」があると考える。内分泌系に関連する作用 機序の十分な証拠がない場合、ヒトには関連があるものと見なす。哺乳類についての試験 に関連するデータをヒトの健康および野生動物(魚類と両生類または鳥類と哺乳類)への 関連で評価するため、一連の補助的デシジョンツリーが用意されている。ある物質に対し
てWeybridge定義によるEDの十分な証拠があると結論された場合には、更に次の毒性プ
ロファイルを考慮する。
‒ 効果は特異的であるか(すなわち、効果を全身毒性の間接的な効果と見なし得るか)。
物質はEDの懸念があるとは見なされず、10倍以下ならEDの懸念があるとすること が提唱されている。生態毒性評価においては、陸上環境に比べて水生環境では種の多 様性が大きいため、最小のリード効果と内分泌媒介効果との分離比は更に大きくとる 必要がある。
‒ EDの作用機序はヒトの健康または環境中の種に関連するか(曝露が無視できない場合。
規制(EC) No 1107/2009第3.8.2項の警告を反映)。
‒ EDの作用強度はどの程度か。作用強度の概念は、リスク評価に代えるには不十分とさ れているが、懸念の大きい物質と小さいものを区別するには役立つ。作用強度の評価 あるいは考えられるカットオフ基準で検知できないED性を持つ物質もEASであり、
標準的なリスク評価を行う必要がある。ECETOCはヒトの健康との関係を考える際の 基準として、1)曝露量/濃度、2)曝露の持続時間(弱いEDの影響が現れるには長時間 の曝露が必要であると仮定)、3)内分泌効果の種類と強度、4)家狂される種の数(異な る種の間の、また種または生態毒性モデルとヒト健康モデルとの間のリードアクロス の可能性を考慮)、の4つを提案している。環境影響に関するEDの「作用強度」の評 価については、ヒトの健康に関するのと同じ基準を用い、「他の分類群に対する内分泌 効果の特異性」(たとえば魚類でのED活性の作用強度を藻類での非ED効果と比較す る)を追加することを提案している。