D. 疫学情報、野外情報、 (生態)毒性学情報
D.3 ヒトまたは野生動物の内分泌活性物質への曝露の危険性の特徴づけのための in
試験または動物実験の利用
細胞系または分離した受容体を用いたin vitro研究は多数存在する。情報が蓄積されるにつ れて、内分泌攪乱に関連する健康影響の予測に各種in vitro試験が有用であることがますま す明らかになってきた。米国EPAのToxCastプログラムでは、内分泌活性による物質のス クリーニングを高スループットシステム(HTS)で行うために、受容体試験や酵素試験を用い ている(U.S. EPA, 2012b)。OECDガイダンス文書150 (OECD, 2012a)には、物質の内分泌 攪乱性を評価するためのin vitroスクリーニング法および試験法(レベル2)が多数列挙さ れ、それらの適用範囲や限界が論じられている。
内分泌攪乱によるヒトおよび野生動物の健康影響を解明する上で動物実験は大きな寄与を なしてきた。この分野では生殖関係の障害が依然として主要な研究対象であるが(たとえ ば或る種のアンドロゲン性または抗アンドロゲン性 ED によって、実験動物の雄の生殖管 に各種の発達異常が誘起され(Toppari, 2008)、それはDESに曝露されたヒトでの観察結果 を反映している)、神経発達および甲状腺ホルモンに媒介される障害も研究されている。早 期の発達への影響に関するWHOの報告書(WHO, 2012)には、医薬や工業用化学品によっ て実験動物に誘起される内分泌攪乱関連の効果が 100 例以上挙げられている。このような 情報が、化学物質が内分泌攪乱を惹き起こし有害作用を及ぼすことの証拠であることは疑 いない。そのような効果が動物モデルで明瞭に示されているのであるから、ヒトも曝露量 次第ではリスクに曝されていることは明らかである。こうした動物実験は一般に学術論文 として発表され(すなわち法規制の枠組みで行われたものではない)、またヒトに対しては 必ずしも有意義とは言えないような高曝露量が用いられていることも多い。規制の目的の ためには、曝露量・応答曲線の全体を考慮しつつ、ヒトの曝露に対して有意義な曝露量で の実験を行う必要がある。
EDの有害作用を実証するための要求条件は、ED試験のための OECD 概念フレームワー
またはex vivo試験のデータからin vivoでの有害作用へのロバストな外挿法が存在しない 以上、避けて通ることはできない。
結論として、物質が ED として作用するか否かの判定に際しては実験的・機構的研究が今 後とも最も重要な情報源であり、ヒトや野生動物の健康に影響する物質についても推定で きる可能性がある。ある物質がin vitro試験において内分泌系の受容体に結合した後、受容 体と標的とをつなぐ細胞間伝達システムに干渉し、あるいは標的細胞に内分泌に関係する 応答を誘起するならば、内分泌活性が強く示唆されるものと解釈される。適当な動物モデ ルによって内分泌系に関連する有害作用が更に示されるならば、この物質は ED であると 判定しなければならない。
用語集
有害作用 Adverse effects
生体、個体群、または(下位)集団の形態、生理、成長、発達、生殖または寿命の変化で あって、機能障害、ストレス補償能力の障害、あるいはその他の影響への感受性増大を生 ずるもの。
IPCS
アンドロゲン Androgens
男性生殖器の発達を促進するステロイドホルモン。男女両性の性機能にも寄与する。
Endocrine Society
最終エンドポイント Apical endpoints
内分泌系のみの反応(ビテロゲニン誘導など内分泌系に依存する生理的変化を含む)でな く、生体全体としての応答(生殖能力、成長など)を記述し、生物学的適応度に関連を持 つと考えられるin vivo試験の結果。最終的な応答には内分泌系の変化によるものも、そう でないものもある(たとえば生殖能力はED によっても非ED によっても影響される可能 性がある)。
OECD
臨界作用 Critical effect
作用因への曝露量を増加させたとき、最も敏感な種に最初に現れる有害作用またはその前 兆。
EPA Glossary
IPCS
エキスパートシステム Expert system
専門家によって構築された規則のデータベース(4.2.2.6項参照)。
EFSA
物質のグループ化とリードアクロス Grouping of substances and read-across approach 物理化学的・毒性学的・生態毒性学的性質が類似しているか、または規則的なパターンに 従う物質群は 1 つのグループ、または「カテゴリー」に属すると見なすことができる。グ ループの概念を適用するには、物理化学的性質、ヒトへの健康影響、環境影響または環境 風の運命がグループの標準物質のデータから内挿によって推定(リードアクロス)できな ければならない。これが可能ならば、すべての物質をすべてのエンドポイントについて試 験することは必要でなくなる。
JRC/IHCP
危険性 Hazard
生体、生態系または(下位)集団が曝露されたときに有害作用を及ぼす可能性のある、あ る作用因または状況に固有の性質。
IPCS
危険性の特徴づけ Hazard characterisation
有害作用を及ぼす可能性のある作用因または状況に固有の性質の定性的および可能な限り 定量的な記述。可能ならば曝露量・応答関係の評価およびそれに付随する不確実性を含め なければならない。危険性の特徴づけは危険性評価の第2段階であり、またリスク評価の4 段階のうちの第2段階である。
IPCS
危険性の同定 Hazard identification
ある作用因が固有の性質として生体、個体群または(下位)集団に及ぼす有害作用の種類 と本質の同定。危険性の同定は危険性評価の第1段階であり、またリスク評価の4 段階の うちの第1段階である。
IPCS
ホルモン Hormone
ホルモンは内分泌腺で作られ、血流によって組織または器官に達する化学的伝達物質であ る。ホルモンは成長、代謝、性的機能、生殖、心的状態など様々のプロセスに影響する。
高スループットスクリーニング(high-throughput screening, HTS)は特に創薬に用いられ る実験方法の一つであるが、生物学や化学にも関係する。HTSではロボット技術、データ 処理および制御ソフトウェア、液体取扱装置、高感度の検出器などを使用して数百万件の 生化学的・遺伝学的または薬学的試験を高速で実行することができる。これにより特定の 生体分子経路に対して調節活性のある化合物・抗体・遺伝子を迅速に同定できる。このよ うな実験の結果は創薬において、また生物学における相互作用や特定の生化学過程の役割 の理解において出発点となる。
JRC/IHCP
In silico法 In silico methods
In silicoは「コンピュータ上で、またはコンピュータ・シミュレーションにより実行される」
ことを意味する。この語は生物学でそれぞれ生体内、生体外での実験を意味するラテン語 in vivo, in vitroに倣って1989年に造語された。
JRC/IHCP
無傷動物 Intact organism
In vitroシステムに属さない、あるいは去勢や卵巣剔出を受けていない実験動物。
EPSA
In vitro試験 In vitro assay
生きた動物全体を用いない試験。使用されるシステムとしては無処理の動物から得られた 細胞株、細胞内標本などがある。
JRC/IHCP
In vivo試験 In vivo assay
生きた動物全体を扱う試験。哺乳類試験では個体を、野生動物試験では動物集団を扱う。
JIRC/IHCP
(Endocrine) Modality (内分泌)モダリティ
モダリティとは内分泌系内における軸、経路、信号伝達過程、またはホルモン機構である。
EFSA
作用機序 Mode of Action
観察された効果に至る生物学的に妥当な主要事象の連鎖であって、ロバストな実験結果と 機構的データに支持されるもの。作用機序は、主要な細胞学的・生化学的事象(すなわち 測定可能であり、観察された効果を生ずるのに不可欠な事象)の論理的な記述である。
実験または観察により得られた、標的生物の形態、機能、成長、発達または寿命に、同じ 種および系統の、同じ一定の制御された曝露を受けた正常な生物(対照)と区別し得るよ うな影響を及ぼさない、最大の物質濃度または量。
IPCS
エストロゲン Oestrogens
主要な女性ホルモンとして働くステロイド化合物のグループ。雌性二次性徴の発達を促進 し、月経周期を制御する。
Endocrine Society
(Q)SAR
化学物質の性質を分子構造から推定する方法。現行の実験法よりも少ない時間・コスト・
実験動物で物質の危険性に関する情報が得られる可能性がある。
JRC/IHCP
リードアクロス Read-across
データの間隙を埋める手法の一つ。動詞としては、化学物質の特定の性質または効果(発 癌性、生殖毒性など)に関する試験で得られたデータを未試験の類似化合物に適用するこ とをいう。類似した化学物質をアナログ法(少数の物質に基づく)またはカテゴリー法(よ り多数の物質に基づく)でグループ化して評価するのに用いることが多い。アナログ法ま たはカテゴリー法では、すべての物質をすべてのエンドポイントについて試験する必要は ない。
出典:EPA, Glossary of Terms, Methods of Toxicity Testing and Risk Assessment.
JRC/IHCP
リスク評価 Risk assessment
標的動物または(下位)集団に対するリスクを計算または推定すること。付随する不確実 性の確認、特定作用因の特性や標的システムの特性を考慮した曝露の追跡を含む。リスク 評価は危険性の同定、危険性の特性づけ(関連語:曝露量・応答評価)、曝露量評価、リス クの特徴づけの4段階から成る。リスク分析の第1段階である。
IPCS
リスク管理 Risk management
ある危険性に関して、関連するリスク評価情報に関わる政治的・社会的・経済的・技術的 要因を考慮しつつ、その危険性に対する規制および規制以外の対策を策定・分析・比較し、
適切な規制を選択・実施する意思決定の過程。リスク管理は、リスクの推定・排出および