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本節ではグループ構成員間のコミュニケーション支援に必要となる機能について議論 する.

4.2.1 説得的コミュニケーションとアウェアネス

グループの意思決定では見解の一致を目的として,また何らかの統一解を導き出すこ とを目的として,しばしばグループ構成員間で対人説得が行われる.対人説得とは“主に 言語的手段を使用して,納得させながら受け手の態度や行動を送り手の意図する方向へ と変化させる行動”であり[深田99],対人説得のために使用される手段のことを説得的 コミュニケーションという.この説得的コミュニケーションの代表的モデルにELMがあ る.ELMは,説得的コミュニケーションの影響のおよび方に関するモデルであり,中心 的ルートと周辺的ルートを仮定する.中心的ルートとは情報の内容について,証拠や記憶 に基づき論理的,分析的に考慮したうえで態度を決定するルート,周辺的ルートとは上記 以外,すなわち情報の内容自体よりも情報提供者の信憑性などの周辺的手がかりによって 態度を決定するルートである.

ELMでは,受け手の情報精緻化の度合(内容を吟味し理解する度合)に応じてこれら のどちらかのルートを経て態度が決定されるとする.当然,精緻化のレベルが高い中心的 ルートの説得の方が持続的な態度変化をおこすので理想的である.しかしながらサイモン の限定合理性[Simon76]に指摘されるように人間があらゆる情報について考慮をしなが ら判断を下すことは困難であり,常に中心的ルートレベルの精緻化を行うことはできな い.特に不確実性の高い状況下であったり,問題が論理的,客観的な解を持たないような 場合には,周辺的手がかりをもとにしたヒューリスティクスによって意思決定を行うこと も少なくない.つまり,現実の意思決定においては周辺的手がかりを用いる周辺的ルート がもたらす影響も重要な意味を持つと考えられる.近年CSCWの世界で注目されている アウェアネスの概念も,コミュニケーション一般における周辺的手がかりを積極的に収 集・提供していこうとするものととらえることができる.したがって,周辺的手がかりは そのままアウェアネスと読み替えることも可能であり,この点からもGDSSと周辺的手 がかりの関連性を読み取ることができる.

専門性 信憑性

信頼性 知識と専門的技術 公明さと誠実さ

関⼼と配慮

4.1 信憑性への影響要因

4.2.2 合意形成のためのコミュニケーションへの影響要因

周辺的手がかりのなかでもコミュニケーションへの重大な影響要因としてあげられるも のに情報源の信憑性がある[榊02].信憑性は主として,送り手が中立的な立場で情報を 提供しているという信念である“信頼性”と,送り手がメッセージについて専門的な知識 を持っているという信念である“専門性”の2要素からなり[広田02],更に,信頼性と専 門性の知覚に影響を与える要因として,1.知識と専門的技術についての知覚,2.公明さと 誠実さに関する知覚,3.関心と配慮の知覚があることが報告されている[Peters97].これ らの関係について 図4.1に示した.グループでの意思決定における交渉,すなわち相互的 な対人説得の場面において説得的コミュニケーションは欠かせない要素であるため,上記 の知識・専門性,公明さ・誠実さ,関心・配慮といった3要素が重要となることが考えら れる.

3章において筆者はGDSSの提供するアウェアネスとして“協調行動過程支援において 必要となる情報共有過程に関してグループメンバーが相互認識し,気付くという概念” あるナレッジアウェアネス[Yamakami93],“データの変遷を認識し,気付くという概念” であるコンテクストアウェアネスを指摘した.知識・専門性,公明さ・誠実さ,関心・配 慮の3要素はこのうちのナレッジアウェアネスに相当するものと考えられ,その意味から これらの要素がグループでの意思決定において,説得する側,される側双方にとって有効 と考えられる.

ここで,現在筆者が想定する意思決定はお互いの直接的な利害の対立がなく,グループ 構成員は全員が協調して意思決定にあたるという前提のうえに立脚しているので,「2. 明さと誠実さ」に関しては全構成員について同程度に確保されていると考えることが可能 であり,本論文においてはその知覚の支援を要しない.したがって,以下ではグループ構

成員間のコミュニケーションを主とするグループでの意思決定を支援することを目的とし て,知識・専門性と関心・配慮の知覚を支援することを考える.

4.2.3 AHP ベースの GDSS における周辺的手がかり

知識・専門性や関心・配慮の度合に関しては意思決定を行うグループ構成員が親しい友 人同士であっても,確実に推し量ることができるとは限らない.これが,それほど親しく ない知人といったレベルの間柄であったり,分散環境など雰囲気(臨場感アウェアネス)

が伝わりにくい通信環境下であれば知覚の難度は更に向上すると考えられる.3章に示し た実験においても,対人圧力など臨場感アウェアネスの伝わりにくいWebカメラなどを 用いたビデオチャットでは,対面環境や相手の画像をほぼ実物大で見ることのできるビデ オ会議システムに比べて,理性的な会話,ELMでいう中心的ルートと考えられる会話が 多く見られており,他の論文[中山01]でも音声のみの方が理性的な会話がなされる傾向 のあることが報告されている.これを,“通信環境上の制約から周辺的手がかりの知覚が 困難となったため,仕方なく情報の精緻化に通常以上のリソースを割り当て,中心的ルー トレベルの精緻化が実施された結果”ととらえることもできる.もちろん,中心的ルート による態度変容は望ましいことであるが,分散環境下での意思決定において,合意プロセ スや結果への満足度がそれほど高くはなかったことにも注意を向けておく必要がある.

この知識・専門性や関心・配慮の度合に関して,AHPを用いた意思決定では,評価基 準をペアごとに取り出して「どちらがどの程度重要か」を問う一対比較と呼ばれる手法に よって重要性評価を下すため,各重要性評価値が知識・専門性や関心・配慮の度合の表出 を支援していると考えられる.特にAHPをベースとする既存のGDSSが持つ各グループ 構成員の評価構造木への重み付けを可視化する機能は,この知識・専門性や関心・配慮の 度合の知覚を促しており,これらは知識や価値観に対する気づき(ナレッジアウェアネ ス)を提供しているといえる.しかしながら,これらは積極的に知識・専門性や関心・配 慮の度合を表出・知覚させるために導入されたものではないため,十分な支援機能である とは言い難い.例えば,現状のAHPをベースとするGDSSで提供される重要性評価値な どのデータのみでは,ある重要性評価値について何らかの深い洞察や根拠のもとに入力さ れたものか,直感的・場当たり的に入力されたものか,説得の可能性はどの程度あるのか といったことを推し量ることが困難である.したがって,参加者間のコミュニケーション

によって合意形成を行うような場合には,それらの情報を参加者が自発的・積極的なコ ミュニケーションによって発掘しなければならない.

そこで筆者は,知識・専門性や関心・配慮の度合の表出・知覚を支援する情報として判 断メタ情報(Negotiation Meta-Information : NMI )を提案する.これは従来提供されてき た「重要性の程度」について,「不確定性」に関する次元を導入するものといえる.

4.2.4 判断メタ情報

判断メタ情報は自身の下した一対比較の重要性評価値に対する「確信の度合」及びその 評価にかかった時間の2つの情報によって構成される*1.ここでいう「確信の度合」とは

「自身が下した評価に対する信念,自信,確からしさの度合」を意味しており,知識・専 門性や関心・配慮も含めた自身の態度を表明する主観的なものである.「確信の度合」の 尺度としては表4.1に示す6段階評価を提案する.この尺度では「どちらでもない」など の中立の評価項目を排除することで,態度の保留を回避している.一方,評価にかかった 時間は各一対比較に要した時間をシステムが動的に取得・表示する客観的なものである.

なお,確信の度合を6段階に定めた理由は以下のとおりである.2.2.2項でも述べたよ うに,AHPにおける一対比較では“どちらも同じくらい重要”から極めて重要までの5 つのカテゴリーを用いて重要性を問う.そのため,確信の度合の評価に関しても粒度を一 対比較に近づけることを考えた.このとき,中立の“どちらも同じくらい重要”を項目か ら除外すると重要性に関して4段階で評価を入力させていることになる.重要性に関して は“どの程度重要か”ということなので方向は単一であるが,現在筆者の考える確信の度 合については,確信のある場合,ない場合の2つの方向が存在するため,それぞれの場合 について4段階の評価,計8段階での評価が妥当と思われる.ただし,一対比較における 上位項目,“非常に重要極めて重要”については,これまでの実験において被験者か ら「違いがわかりにくい」といった意見が聞かれたほか,最上位項目の“極めて重要”を 選択する被験者はほとんど観察されていない.これらのことから,確信のある場合,ない 場合についてそれぞれ強弱の尺度を盛り込んだ3段階の評価,計6段階の評価が妥当と考 え尺度を構成した.

*1これらは,知識・専門性や関心・配慮の度合を判断するためのメタ情報的なものであり,かつ,説得の受 け入れを判断するための補足的な情報にもなるため判断メタ情報と呼称している.