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第3節 初等理科学力調査の結果と考察
Ⅰ.分析方法と結果‑
中日における初等理科学力の比較にあたっては,まず,問題ごとに正解を1点, 不正解を 0点として得点化を行い,調査問題の信頼性の検討を行ったo そして、
学力全体と学力の各構成要素という2つの視点から中日の比較を行った。
1.信頼性の検討
学力調査問題の信頼性を検討するために,調査問題の信頼性係数(Cronbach α)を算出したo その結果,中国が0.68であり,日本が0.73であったo したが って,本調査問題の内部一貫性は保証されたと考えられるo
2.学力全体について
全体的な学力を把握するために,両国の総得点の分布と総得点の差という2つ の視点から比較を行ったo
(2‑A)総得点の分布
両国の学力の総得点の分布状況を明らかにするために,被験者の総得点の分布 を調べた。その結果を次頁の表1 ‑ 3 ‑ 1に示す。
この表1 ‑ 3 ‑ 1から,次のことがいえる。
正答率100‑76%の割合は日本が中国より高く、 75‑51%の割合、 50‑26%の 割合では中国の方が高いo なお、 25‑0%の割合は両国とも0であるo
第1華 中国の初等理科学力の現状
表1 ‑3 ‑ 1 総得点の分布の比較(%)
正 答 率 中 国 日本
10 0 7 6 2 7 .4 4 6 .6
7 5 ‑ 5 1 6 2 .9 4 9 .3
5 0 ‑ 2 6 9 ●7 4 ●1
2 5 ‑ 0 0 0
(2‑B)総得点の差
両国の学力における総得点の差の有無を明らかにするために、両国の学力の総 得点の平均値をt検定により比較したo その結果を表1 ‑ 3 ‑ 2に示すo
表1 ‑ 3 ‑ 2 総得点の差の比較
問 題 数
平 均 値
t 値
中 国 日本
総 得 点 4 1 2 6 .6 6 2 8 .8 9 2 .7 0 **
p<0.01
この表1 ‑ 3 ‑ 2から,次のことがいえる。
学力の総得点は、日本の方が高く、両国の間に有意な差が認められたa
3.学力の各構成要素について
設定した学力の構成要素である知識Ⅰ、知識Ⅱ,実験技能を中日で比較するに あたっては、各構成要素における得点の差,各構成要素の関連という2つの視点 から比較を行った。
(3‑A)各構成要素における得点の差
各構成要素における得点の差の有無を明らかにするために,各構成要素におけ る得点の平均値の比較をt検定により行ったo その結果を表1 ‑ 3 ‑ 3に示すo
表1 ‑ 3 ‑ 3 各構成要素の得点の比較
区 分 問 題 数
平 均 値
t 値
中 国 日本
知 識 Ⅰ 1 6 l l .3 4 l l .4 3 0 .2 9 表口識 Ⅱ
1 5 9 .8 9 1 0 .8 9 2 .2 8 * 実 験 技 能 1 0 5 .4 4 6 .5 6 4 .0 0 ☆☆
p<0.01 p<0.05
この表1 ‑ 3 ‑ 3から、次のことがいえるo
構成要素ごとの比較においては,知識の単純再生により解答可能な問題である 知識Ⅰでは、両国に有意な差はない。しかし,複数の知識の組み合わせを必要と する問題である知識Ⅱ及び実験とそれに付随する技能が必要な問題である実験技
能においては、いずれも日本の方が有意に高い。
(3‑B)各構成要素の関連
両国において、学力の構成要素である知識Ⅰ、知識Ⅱ、実験技能の間の関連を 明らかにするために,因子分析を行ったoその結果を次真の表 3 4に示すo
第1華 中国の初等理科学力の現状
表1 ‑ 3 ‑ 4 両国における各要素の因子負荷量
, 中 国
、\
日 本
区 分 因 与 1 区 分 因 子 1
知 識 Ⅰ 0 .8 8 知 識 Ⅱ 0 .7 6
知 識 Ⅱ ● 0 .5 8 実 験 技 能 0 .7 0 実 験 技 能 0 .3 6 知 識 Ⅰ 0 .5 6
この表1 ‑ 3 ‑ 4から,次のことがいえる。
両国とも1つの因子が抽出された。そこで、因子負荷量が0.50以上の項目を因 子構成項目とすると、日本は3つのすべての構成要素が因子構成項目となる。し かし、中国は実験技能の因子負荷量が小さいため,因子構成項目は知識Ⅰ,知識
Ⅱの2つとなる。この結果から、日本においては知識Ⅰ、知識Ⅱ、実験技能のす べてが1つの学力構造にまとまっている。しかし,中国においては知識と実験技 能が1つの学力構造にまとまっていない。
今まで述べてきたことから、学力の比較結果は以下の5点に整理できる。
①学力の総得点の分布において,正答率100‑76%の割合では日本が中国より高 く、 75‑51%の割合、 50‑26%の割合では中国の方が高い。なお, 25‑0%の 割合では両国とも0である。
②学力の総得点は、日本が高く、両国間に有意な差が認められた。
③学力の構成要素である知識Ⅰは、両国の得点に有意な差はない。
④学力の構成要素である知識Ⅱ及び実験技能では、日本の得点が高く、両国間に 有意な差が認められた。
⑤日本では,学力の構成要素である知識Ⅰ、知識Ⅱ,実験技能が1つの学力構造 にまとまっているのに対して、中国は1つの学力構造にまとまっていない。
Ⅱ.考察
本調査では、中国の初等理科学力の現状を明らかにすることを目的として,中 日の初等理科学力の比較を行ったo その結果、日本の方が中国よりも総得点が有 意に高いという結果となった。序章でも述べたように、中国において初等理科教 育が重視されるようになったのは近年である。このため,中国の初等理科学力を
向上させるためにはIt 教育環境の改善を継続して行う必要があると考えるo また,学力の構成要素別に中日の比較を行った結果,知識Ⅰにおいては両国に 有意な差は認められなかったo しかし,知識Ⅱ,実験技能においては,中国より
も日本の方が有意に得点が高いという結果となった。そこで,このような結果と なった原因を検討するために,両国の初等理科の評価の観点の趣旨を比較するこ とにした。中国と日本の初等理科の共通の評価の観点である「知識・理解」, 「実 験技能」の2つの趣旨を次頁の表1 ‑ 3 ‑ 5に示す。
この表1 ‑ 3 ‑ 5から,次のことがいえる。
評価の観点である「知識・理解」について、日本の平成3年版「′j、学校児童指 導要録」では,̀̀自然事象の特徴や相互の関係、規則性などについて理解している''
と示されている。これに対して、中国の1992年版「′J、学自然教学大綱」では,"了 解", "知道"及び"理解"の3段階に区分されているo
上述のことから、 「知識・理解」の評価の観点では、中国は単純再生の知識を評 価の重点に、日本は知識の組み合わせや相互の関連を評価の重点に置いていると いえるo このような違いが、知識IIの得点に有意な差が生じた一因ではないかと 考えるo
また,この表1 ‑ 3 ‑ 5から、次のこともいえる。
評価の観点である「実験技能」について,日本の平成3年版「小学校児童指導 要録」では、自然事象を観察し、実験を計画、実施し、機械・器具などを目的に 応じて工夫して扱うことや,それらの過程や結果を的確に表現することも要求し ている。これに対して,中国の1992年版「小学自然教学大綱」では、 "初歩習得"
と"習得"の2段階に区分されている。 主
上述のことから、 「実験技能」の評価の観点では,中国は実験の操作を評価の重
第1章 中国の初等理科学力の現状
点に、日本は実験の操作だけでなく、実験の過程を評価の重点に置いているとい える。このような違いが,実験技能の得点に有意な差が生じた一因ではないかと 考える。
表1 ‑ 3 ‑ 5 共通の評価の観点の趣旨の比較 革 点
■中 国
日 本
知 識 ●理 解
了 解 ‥記 憶 す る 必 要 が な く 、 試 ●自 然 事 象 の 特 徴 や 相 互 の 関 験 の 対 象 に し な い 0 係 、 規 則 性 な どに つ い て 理 解 し 知 道 : 学 習 し た 知 識 の 要 点 を 話
し 、 書 く こ と が で き 、 勉 強 し た 自 然 の 事 物 を 識 別 す る こ とが で き る 0
理 解 ‥学 習 し た 知 識 の 道 理 が 分 か り、 勉 強 し キ 知 識 で 自 然 界 に 存 在 す る 問 題 を 初 歩 的 に 解 釈 す る こ ■と が で
き る O
て い る O
実 験 技 能
初 歩 習 得 : 教 師 の 指 導 の も とで 自然 事 象 を 観 察 し 、 実 験 を 計 正 確 に 操 作 で き る O 画 、 実 施 し 、 機 械 、 器 具 な ど を 習 得 : 独 力 で 正 確 に 操 作 で き 目的 に 応 じ て 工 夫 し て 扱 う と と る O も に 、 そ れ ら の 過 程 や 結 果 を 的
確 に 表 現 す る 0
注:この表は中国教育部1992年版小学自然教学大綱及び日本旧文部省平成3年版小 学校児童指導要録により作成したものである。