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典型的な主題マーカーの主題表示機能

第7章では、日本語とモンゴル語の典型的な主題マーカー「は」とbolの類似 点と相違点について考察する。具体的には、①主題マーカーと属性叙述文・事 象叙述文との関係、②格成分が主題になっている文、③格成分の連体修飾部が 主題になっている文、④述語名詞の連体修飾部が主題になっている文、⑤被修 飾名詞が主題になっている文、⑥節が主題になっている文、⑦破格の主題をも つ文の順に考察していく。

7.1 主題マーカーと属性叙述文・事象叙述文

この節では、両言語における典型的な主題マーカーと属性叙述文・事象叙述 文との関係について見ていく。すなわち、日本語の主題マーカー「は」とモン ゴル語の主題マーカーbolは属性叙述文・事象叙述文と深い関係があることを述 べる。具体的には、単文の「は」と bol、従属節の中の「は」と bol、まとめ、

の順に述べていく。

7.1.1 単文にみる「は」と bol

単文に使われる「は」とbolを、属性叙述文と事象叙述文の2種類に分けて考 察する。具体的には、属性叙述文にみる「は」と bol、事象叙述文にみる「は」

とbolの順に考察する。

7.1.1.1 属性叙述文にみる「は」と bol

図 1 のように、属性叙述には多くの下位項目がある。以下で、図 1 の属性叙 述の分類にしたがって、属性叙述文にみる「は」とbolについて考察する。

図1 益岡 (2008)の叙述の分類

属性叙述 事象叙述

内在的属性 非内在的属性

カテゴリー属性

所有属性 単純所有属性 履歴属性 叙述

(ア) 属性叙述文には、日本語の主題を表す「は」もモンゴル語の主題を表 すbolも用いられる。

以下で、述語が名詞、形容詞、動詞である属性叙述文を 1 つずつ取り上げて、

主題を表す「は」とbolがその中に用いられるかどうかについて見ていく。

まず、属性叙述をしている名詞述語文の中に主題を表す「は」とbolが用いら れるかどうかについて考えたい。次の(1)は名詞述語文で、対象である「クジラ」

が「哺乳類」というカテゴリーに帰属することを示している。

(1) a.<日>クジラは哺乳類だ。

b.<モ>

ᠬᠠᠯᠢᠮᠤ‍ᠪᠤᠯ‍ᠰᠦᠨ‍ᠲᠡᠵᠢᠭᠡᠯᠲᠡᠨ‍ᠶᠤᠮ᠃‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍

‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍

qalimu bol sUn tejigelten yum.

クジラ は 哺乳類 MP

(クジラは哺乳類だ。)

次に、属性叙述をしている形容詞述語文の中に、主題を表す「は」とbolが用 いられるかどうかについて考えたい。益岡(2008)が指摘するように、単純所有属 性を表す文の典型は形容詞述語文である。たとえば次の(2)は、形容詞述語文で、

「あの先生」という対象が持つ「厳しい」という性質を表している。

(2) a.<日>あの先生は厳しい。

b.<モ>

ᠲᠡᠷᠡ‍ᠪᠠᠭᠰᠢ‍ᠪᠤᠯ‍ᠴᠢᠨᠭ᠍ᠭ‍ᠠ‍ᠶᠤᠮ᠃

tere baGsi bol cingG_a yum.

あの 先生 は 厳しい MP

(あの先生は厳しい。)

最後に、動詞が述語になっている属性叙述文に主題を表す「は」とbolが用い られるかどうかについて考えたい。益岡(2008)が指摘するように、履歴属性を表 す文の典型は動詞述語文である。たとえば次の(3)は、動詞述語文で、過去のこ とを「履歴」として述べている。

(3) a.<日>私はアメリカに何度も行った。

b.<モ>

ᠪᠢ‍ᠪᠤᠯ‍ᠠᠮᠸᠷᠢᠺᠠ‍ ᠳᠤ‍ᠤᠯᠠᠨ‍ᠤᠳᠠᠭ‍ᠠ‍ᠤᠴᠢᠵᠤ‍ᠥᠩᠭᠡᠷᠡᠪᠡ᠃

bi bol Amerika-du olan udaG_a oci-ju Onggere-be.

私 は アメリカ-DAT 何度も 行く-CV 過ぎる-PAST (私はアメリカに何度も行った‍(ことがある)。)

要するに、日本語の主題を表す「は」もモンゴル語の主題を表すbolも、属性 叙述文に使われることがある。この節で述べてきたことを表で簡潔に示すと、

次のようになる。

表 1 属性叙述文と「は」・bol

属性叙述文

主題表示のは

主題表示のbol

7.1.1.2 事象叙述文にみる「は」と bol

前の節で、属性叙述文の中には主題を表す「は」もbolも使われることを述べ た。この節では、事象叙述文の中には主題を表す「は」とbolが使われるかどう かについて見ていく。

(イ) 事象叙述文の中には、主題を表す「は」は用いられるが、主題を表す bolは用いられない。

事象叙述は、特定の時空間に実現するイベント(出来事)を述べるものであっ た。主題を表す「は」は事象叙述文の中にも用いられるのに対して、主題を表 すbolは事象叙述文の中には用いられない。たとえば次の日本語の例(4a)は、文 中に主題を表す「は」が用いられている。これに対して、その次のモンゴル語 の例(4b)では、主題を表すbolは用いられていない。これは、日本語の主題を表 す「は」は事象叙述文にも用いられるが、モンゴル語の主題を表すbolは事象叙 述文には用いられないことを示している。

(4) a.<日>花子は笑った。

b.<モ>

ᠬᠠᠨ᠋ᠠᠺᠦ‍

φ

ᠢᠨ᠋ᠢᠶᠡᠪᠡ᠃

Qanako φ iniye-be.

花子 φ 笑う-PAST

(花子は笑った。)

次の(5)は「は」と bol が用いられている例である。 (5a)の「は」は、主題の

「は」と対比の「は」の 2 通りの解釈が可能であるのに対して、(5b)の bol は、

対比のbolでしか解釈できないものである。これは、事象叙述文の中で用いられ るbolは対比の解釈を受けやすいことを示している。

(5) a.<日>私は帰る。

b.<モ>

ᠪᠢ‍ᠪᠤᠯ‍ᠬᠠᠷᠢᠨ᠌ ᠠ᠃

bi bol qari-n_a.

私 は 帰る-NP

((ほかの人が帰るか帰らないか、分からないが)私は帰る。)

要するに、日本語では、事象叙述文の中には、主題を表す「は」も対比を表す

「は」も用いられる。これに対してモンゴル語では、事象叙述文の中には、主 題を表すbolは用いられず、対比を表すbolしか用いられない。

ここまで述べたことを表で簡潔に示すと、次のようになる。

表 2 事象叙述文と「は」・bol

事象叙述文

主題を表す 対比を表す

bol ×

7.1.2 従属節にみる「は」と bol

前に、単文の中の「は」と bol について見た。この節では、複文の中の「は」

とbolについて見る。複文といえば、基本的に主文と従属節の2つの部分からな る。主文は前節で見てきた単文に近いものなので、ここでは、従属節の中の「は」

とbolを中心に見ていく。従属節のまとめは、分りやすくするために、各従属節 ごとにまとめるのではなく、最後に1つの表でまとめておく。

7.1.2.1 名詞節

名詞節の内部に、主題を表す「は」が現れることについて、日本語記述文法 研究会(2008:216)は、「形式名詞「こと」「の」を伴い、人や物の属性を叙述する 名詞節においては、主語を主題として「は」で示すこともできる。」と指摘して いる。日本語と同様に、モンゴル語の主題を表すbolも名詞節の中に用いられる。

(ウ) 日本語もモンゴル語も、名詞節が属性叙述である場合は、その名詞節 の中に主題を表す「は」とbolが用いられる。名詞節が事象叙述である 場合は、その名詞節の中に主題を表す「は」とbolは用いられない。

まず、名詞節が属性叙述である場合は、名詞節の内部に主題を表す「は」と bolが用いられることについて見ていこう。たとえば次の(6)の名詞節「コウモリ

は哺乳類である」は属性叙述文で、その名詞節の内部には主題を表す「は」と bolが用いられても自然である。

(6) a.<日>息子はコウモリ{は/が}哺乳類であることを知らなかった。

(日本語記述文法研究会2009b: 216)

b.<モ>

ᠮᠢᠨ᠋ᠦ‍ᠬᠦᠦ‍ᠪᠠᠭᠪᠠᠭᠠᠢ‍ᠪᠤᠯ‍ᠰᠦᠨ‍ᠲᠡᠵᠢᠭᠡᠯᠲᠡᠨ‍ᠪᠤᠯᠬᠤ‍ ᠶᠢ‍ᠮᠡᠳᠡᠭ᠍ᠰᠡᠨ‍ᠦᠭᠡᠢ᠃

‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍

minU kUU baGbaGai bol sUn tejigelten bolqu-yi mede-gsen Ugei.

息 子 コウモリは 哺乳類 である-ACC 知る-VN ない (息子はコウモリは哺乳類であることを知らなかった。)

次に、名詞節が事象叙述である場合は、その中に主題を表す「は」とbolが用 いられないことについて見ていく。次の(7)は、「先生が来た」という事象叙述文 が名詞節として用いられている例で、その名詞節の中に主題を表す「は」とbol を用いると不自然な文になってしまう。

(7) a.<日>*息子は先生は来たことを知らなかった。

b.<モ>*

ᠮᠢᠨ᠋ᠦ‍ᠬᠦᠦ‍ᠪᠠᠭᠠᠰᠢ‍ᠪᠤᠯ‍ᠢᠷᠡᠭ᠍ᠰᠡᠨ‍ ᠢ‍ᠮᠡᠳᠡᠭ᠍ᠰᠡᠨ‍ᠦᠭᠡᠢ᠃

‍‍‍‍‍

minU kUU baGsi bol ire-gsen-i mede-gsen Ugei.

息子 先生 は 来る-VN 知る-VN ない

(*息子は先生は来たことを知らなかった。)

7.1.2.2 引用節

引用節の中には「属性叙述文」と「事象叙述文」を取り込むことができるの で、その中には主題を表す「は」とbolを用いることができる。引用節の中に主 題を表す「は」とbolを使うかどうかは、基本的に、単文の中の「は」やbolと 同じである。

(エ) 引用節が属性叙述文の場合は、主題を表す「は」も bol も使われる。

引用節が事象叙述文の場合は、主題を表す「は」は用いられるが、主 題を表すbolは用いられない。

日本語もモンゴル語も、引用節は内部に独自の主題を持つことができる。よ って、直接引用節の内部には主題を表す「は」と bol を用いることができる。

たとえば次の(8)は、引用節が属性叙述で、主題を表す「は」と bol が使われて いる例文である。

(8) a.<日>先生は、田中さんは学部生だと言った。

b.<モ>

ᠪᠠᠭᠰᠢ᠂‍ᠲᠠᠨ᠋ᠠᠺᠠ‍ᠪᠤᠯ‍ᠤᠶᠤᠲᠠᠨ‍ᠶᠤᠮ‍ᠭᠡᠵᠦ‍ᠬᠡᠯᠡᠪᠡ᠃

baGsi, Tanaka bol oyutan yum gejU kele-be.

先生 田中 は 学部生 だ と 言う-PAST

(先生は、田中は学部生だと言った。)

次の(9)は引用節が事象叙述で、日本語の例(9a)の内部には、主題を表す「は」

が現れている。これに対して、その次のモンゴル語の例(9b)の引用節の内部には、

主題を表すbol が使われると、不自然な文になる。

(9) a.<日>佐藤さんは田中さんは来たと言っていた。

b.<モ>*

ᠰᠠᠲᠥᠦ‍ᠲᠠᠨ᠋ᠠᠺᠠ‍ᠪᠤᠯ‍ᠢᠷᠡᠯ‍ᠡ‍ᠭᠡᠵᠦ‍ᠬᠡᠯᠡᠵᠦ‍ᠪᠠᠶᠢᠯ‍ᠠ᠃

Satou Tanaka irel_e gejU kele-jU bayil_a.

佐藤 田中 来る-PAST と 言う-CV いる-PAST

(佐藤さんは田中さんは来たと言っていた。)

日本語では、「と」という引用節の内部だけではなく、「よう()」という引 用節の内部にも主題を表す「は」が用いられることもある。たとえば次の(10) は「よう()」引用節で、その内部に主題を表す「は」が使われている。

(10)<日>兄の野球チームは今年も優勝できないように思う。

(日本語記述文法研究会2009b: 218)

日本語の引用の形式「よう()」は、モンゴル語に対応しにくい面もあるこ とを考慮し、この形式における両言語の対照はしないことにする。

7.1.2.3 疑問節

疑問節の中の主題を表す「は」とbolについて考察する際、属性叙述をする疑 問節と事象叙述をする疑問節に分けて考える。

(オ) 属性叙述をしている疑問節においては、主題を表す「は」も主題を表 すbolも用いられる。事象叙述をしている疑問節においては、主題を表 す「は」が用いられるが、主題を表すbolは用いられない。

まず、属性叙述をしている疑問節において、主題を表す「は」とbolが用いら れることについて見てみたい。次の(11)の「クジラは魚か哺乳類か」は属性叙述 をしている疑問節で、この疑問節の中には主題を表す「は」とbolが用いられて