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モンゴル語の典型的な主題マーカーの主題表示機能

3.1 主題マーカーと属性叙述文・事象叙述文

3.1.1 叙述の類型

主題マーカーと属性叙述文・事象叙述文との関係の考察に入る前に、属性叙 述文・事象叙述文について少し触れておきたい。その理由は、研究者によって、

属性叙述文・事象叙述文に対する定義や考え方が異なるので、本研究で使う属 性叙述文・事象叙述文について少し説明を付け加えたい。

叙述の類型には属性叙述と事象叙述の2種類がある。益岡 (2008)は、佐久間

(1941)の「物語文」「品定め文」、三上 (1953)の「動詞文」「名詞文」、川端 (1976)

の「動詞文」「形容詞文」を受け継ぎ、叙述には属性叙述と事象叙述の2種類が あると指摘した(1は、著者が益岡 (2008) を改変したものである)。

図1益岡 (2008)の叙述の分類

3.1.1.1 属性叙述

属性叙述について、益岡(2008)は「属性叙述は対象が有する属性を述べる ものであり、文のレベルでは基本的に「主題(対象表示部分)+解説(属性表示部 )」という有題文の形で表される」と指摘している。影山(2008)は「時間が 経過しても展開することなく、恒常的に持続する性質(属性)を述べる文を属性 叙述文と呼ぶことにする」と述べている。影山 (2012) では「属性叙述文の見か け上の統語構造は多種多様であるが、意味解釈は「X(主題)はY(述部)である」と いう意味構造に収斂する」と指摘している。山岡 (2000)も「<属性叙述>とは、

名詞的概念を表す主題に、属性概念を表す命題を結びつけることによって行う 叙述のことで、<属性叙述>文は必ず有題文に限られると指摘する。

属性叙述 事象叙述

内在的属性 非内在的属性

カテゴリー属性

所有属性 単純所有属性 履歴属性 叙述

たとえば次の(1)0 は、日本がもつ「地震国」「先進国」「島国」など種々の属 性の中から「島国」という属性を付与する属性叙述文である。

(1) <日>日本は島国だ。 (益岡2008:5)

3.1.1.2 事象叙述

益岡 (2008) は「事象叙述は特定の時空間に実現するイベント(出来事)を 述べるものである」と指摘している。影山 (2008) は「時間の推移によって展開

発生・継続・終了)する出来事や状態を表す文を事象叙述文と呼ぶ」と指摘し ている。

(2) <日>花子はその結果に失望した。 (益岡2000:44) 益岡と影山の事象叙述・属性叙述に対する考え方が少し異なる。影山 (2008)5

は 、 益 岡 が 属 性 叙 述 文 の 例 と し て あ げ た 「 日 本 は 今 不 況 だ 。」

(益岡2000:47)を属性叙述文ではなく、事象叙述文だと主張する。その理由につい

て、「「日本は2000年から2006年まで不況だった」のように始点と終点を明示 できるし、また、「日本は今、不況のさなかにある」の「さなか」のような出来 事の進行を表す表現とも整合するからである」と述べている。本研究は益岡

(2008) の枠組みを援用するが、影山 (2008) の事象叙述の判断基準も参考する

1は影山による叙述の分類で、筆者が一部改変した)。

表 1 影山 (2008)の叙述の分類

叙述の タイプ

事象叙述

開始・終了の時間を明示できる

属性叙述

開始・終了の時間を明示できない

出来事 状態 準属性 (内在的)属性

例示 彼は2003年に大学 を卒業した。

彼は 1997 年から 2005 年まで学生だ った。

彼は(ふだんは) 愛想がよい。

彼は(*ふだんは) 長身だ。

5影山 (2008:26) は、「本稿の「(内在的)属性」は、かなりの程度、益岡の「カテゴリー帰属 の属性と対応するが、完全に一致するものではない。たとえば「西洋人の男性は、女性に 優しい」という例を考えると、「女性に優しい」という性質は「西洋人男性」というカテゴ リーを特徴づけるひとつの属性とみなされるだろう。しかし、この文に「ふだんは」とい った時間の限定を加えて「西洋人の男性は、ふだん女性に優しい」と言っても何らかの問 題はないから、これは本稿で言うところの「準属性」に当る。同じくカテゴリー帰属属性 でも、「ゾウは鼻が長い」という場合なら「ふだん」を付け加えることは不可能であるから、

益岡の「カテゴリー帰属の属性」でもあり、本稿の「(内在的)属性」でもある。」と述べ ている。

3.1.2 単文にみる bol

ここで、主題を表すbolが属性叙述文と事象叙述文に使われるかどうかについ て考えたい。

(ア) 属性叙述文には、主題を表すbolが使われる。

以下で、述語が名詞、形容詞、動詞である属性叙述文を 1 つずつ取り上げて、

主題を表すbolがその中に用いられるかどうかについて見てみたい。

まず、名詞が述語になっている属性叙述文に主題を表すbolが用いられるかど うかについて考えたい。益岡(2008)にも指摘しているように、カテゴリー属性を 表す文の典型は名詞述語文である。たとえば次の(3)は、名詞述語文で、「私の父」

が「羊飼い」というカテゴリーに属するという属性叙述文でもある。この文の 主題「私の父」はbolによって提示されている。

(3) <モ>

ᠮᠢᠨ᠋ᠦ‍ᠠᠪᠤ‍ᠪᠤᠯ‍ᠬᠤᠨ᠋ᠢᠴᠢᠨ‍ᠶᠤᠮ᠃

(NMGDXコーパス) minU abu bol qonicin yum.

私の父 は 羊飼いMP

(私の父は羊飼いである。)

次に、形容詞が述語になっている属性叙述文に主題を表すbolが用いられるか どうかについて考えたい。益岡(2008)にも指摘があるように、単純所有属性を表 す文の典型は形容詞述語文である。たとえば次の(4)は、形容詞述語文で、「この 髪飾り」が「高い」という属性を所有している単純所有属性叙述文でもある。

この文の主題「この髪飾り」はbolによって提示されている。

(4) <モ>

ᠡᠨ᠋ᠡ‍ᠭᠡᠵᠢᠭᠡ‍ ᠶᠢᠨ‍ᠵᠢᠮᠰᠡᠭ᠌‍ᠪᠤᠯ‍ᠮᠠᠰᠢ‍ᠦᠨ᠋ᠡᠲᠡᠢ᠃

(NMGDXコーパス) ene gejige-yin jimseg bol masi Unetei.

この 髪-GEN飾り は とても 高い

(この髪飾りは(値段が)とても高い。)

最後に、動詞が述語になっている属性叙述文に主題を表すbolが用いられるか どうかについて考えたい。益岡(2008)にも指摘があるように、履歴属性を表す文 の典型は動詞述語文である。たとえば次の(4)は、動詞が述語になっている属性 叙述文である。この文の主題「私たちのグループのアルスランさん以外の数世 帯」はbolによって提示されている。このように、属性叙述をする動詞述語文の 中でも主題を表すbolは用いられる。

(5) <モ>

ᠮᠠᠨ‍ ᠤ‍ᠳᠤᠭᠤᠶᠢᠯᠠᠩ‍ ᠤᠨ‍ᠠᠷᠰᠯᠠᠨ‍ ᠤ‍ᠬᠢ‍ᠡᠴᠡ‍ᠪᠤᠰᠤᠳ‍ᠬᠡᠳᠦᠨ‍ᠡᠷᠦᠬᠡ‍ᠪᠤᠯ‍ᠴᠥᠮ‍ᠨᠡᠶᠢᠯᠡᠵᠦ‍ᠠᠵᠢᠯᠯᠠᠳᠠᠭ᠃‍

(NMGDXコーパス)

man-u duGuyilang-un arslan-u ki-ece busud kedUn erUke bol 私たち-GENグループ アルスラン-GENほう-ABLほか 数 世帯 は

cOm neyile-jU ajilla-daG.

みんな 集まる-CV 働く-VN

(私たちのグループのアルスランさん以外の数世帯はみんな集団で働く。)

3.1.3 従属節にみる bol

3.1.3.1 従属節の種類

日本語とモンゴル語は、従属節の分類が異なる。本研究は日本語とモンゴル 語の対照研究であるため、両言語の従属節の分類を同じ枠で見る必要がある。

本研究は、日本語記述文法研究会 (2008)の分類に従う。以下で、日本語とモン ゴル語の従属節の分類を示しておく。

1) モンゴル語の従属節の分類(内蒙古大学蒙古学院蒙古語研究所1964

2) 日本語の従属節の分類(日本語記述文法研究会 (2008)等位節

並列節 引用節

状況語従属節(条件節、時間節、原因・理由節)、主語従属節、目的語

従属節 従属節

補足節:名詞節、引用節、疑問節 名詞修飾節

条件節:順接条件節、原因・理由節、逆説条件節 従属節 時間節

目的節 様態節

等位節・並列節

3.1.3.2 主題表示の bol が使われる従属節

ここで、主題を表すbolがどのような従属節の内部に使われるかについて考え たい。以下で、名詞節、引用節、疑問節、名詞修飾節、等位節の順に見ていく。

(イ) 名詞節、引用節、疑問節、名詞修飾節、等位節の内部には主題を表す bolが使われる。

名詞節:名詞節の内部には主題を表すbolが用いられることがある。名詞節の 内部に主題を表すbolが用いられる条件は、その名詞節が属性叙述文であること である。たとえば次の(6)は、「コウモリは哺乳類である」という属性叙述文が名 詞節になっているので、その名詞節の内部には主題を表すbolが用いられる。

(6) <モ>

ᠪᠠᠭᠪᠠᠭᠠᠢ‍ᠪᠤᠯ‍ᠰᠦᠨ‍ᠲᠡᠵᠢᠭᠡᠯᠲᠡᠨ‍ᠪᠤᠯᠬᠤ‍ ᠶᠢ‍ᠮᠡᠳᠡᠭ᠍ᠰᠡᠨ‍ᠦᠭᠡᠢ᠃

‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍‍

baGbaGai bol sUn tejigelten bolqu-yi mede-gsen Ugei.

コウモリ は 哺乳類 である-ACC 知る-VN ない (コウモリは哺乳類であることを知らなかった。)

引用節:引用節の内部には主題を表すbolが用いられることがある。引用節の 内部に主題を表すbolが用いられる条件は、その引用節が属性叙述文であること である。たとえば次の(7)は、「バトさんは学部生だ」という属性叙述文が引用節 になっているので、その引用節の内部には主題を表すbolは用いられる。

(7) <モ>

ᠪᠠᠭᠰᠢ‍ᠪᠠᠲᠤ‍ᠪᠤᠯ‍ᠤᠶᠤᠲᠠᠨ‍ᠶᠤᠮ‍ᠭᠡᠵᠦ‍ᠬᠡᠯᠡᠪᠡ᠃

baGsi Batu bol oyutan yum gejU kele-be.

先生 バト は 学部生 だ と 言う-PAST

(先生はバトさんは学部生だと言った。)

疑問節:疑問節の内部には主題を表すbolが用いられることがある。疑問節の 内部に主題を表すbolが用いられる条件は、その疑問節が属性叙述文になること である。たとえば次の(8)は、「鯨は魚か哺乳類か」という属性叙述文が疑問節に なっているので、その疑問節の内部には主題を表すbolが用いられる。

(8) <モ>

ᠬᠠᠯᠢᠮᠤ‍ᠪᠤᠯ‍ᠵᠢᠭᠠᠰᠤ‍ᠶᠤᠮ‍ᠦᠦ‍ᠰᠦᠨ‍ᠲᠡᠵᠢᠭᠡᠯᠲᠡᠨ‍ᠶᠤᠮ‍ᠦᠦ‍᠂‍ᠲᠠ‍ᠲᠠᠭᠠᠵᠤ‍ᠦᠵᠡᠭᠡᠷᠡᠢ᠃‍

qalimu bol jiGasu yum uu sUn tejigelten yum uu ta taGa-ju Uje-gerei.

クジラは 魚 MP か 哺乳類 MPか あなた当てる-CV 見る-OPT

(鯨は魚か哺乳類かをあなたが当ててみてください。)

名詞修飾節:「~との」「~という」を介する内容補充名詞修飾節の内部には 主題を表すbolが用いられることがある。名詞修飾節の内部に主題を表すbolが 用いられる条件は、その名詞修飾節が属性叙述文になることである。たとえば 次の(9)は、「人は猿から変化した」という属性を叙述する文が名詞修飾節になっ ているので、その名詞修飾節の内部には主題を表すbolが用いられる。

(9) <モ>

ᠲᠠ‍ᠬᠥᠮᠥᠨ‍ᠪᠤᠯ‍ᠰᠠᠷᠮᠠᠭᠴᠢᠨ‍ᠡᠴᠡ‍ᠬᠤᠪᠢᠷᠠᠵᠤ‍ᠢᠷᠡᠭ᠍ᠰᠡᠨ‍ᠭᠡᠳᠡᠭ᠌‍ᠦᠭᠡ‍ ᠶᠢ‍ᠢᠲᠡᠭᠡᠨ‍ᠡ‍ᠦᠦ᠃

ta kOmUn bol sarmaGcin-aca qubira-ju ire-l_e gedeg Uge-yi itegen_e UU.

あなた人 は 猿-ABL 変化する-CVくる-PASTという話-ACC信じる か (あなたは人は猿から変化したという話を信じるか。)

等位節:等位節の内部には主題を表すbolが用いられることがある。等位節の 内部に主題を表すbolが用いられる条件は、その等位節が属性叙述文になること である。たとえば次の(10)は、「あの家は古くて狭い」という属性叙述文が等位 節になっているので、その等位節の内部には主題を表すbolが用いられる。

(10)<モ>

ᠲᠡᠷᠡ‍ᠭᠡᠷ‍ᠪᠤᠯ‍ᠬᠠᠭᠤᠴᠢᠨ‍ᠮᠥᠷᠲᠡᠭᠡᠨ‍ᠢᠪᠴᠤᠤ‍ᠪᠤᠯᠪᠠᠴᠤ᠂‍ᠪᠢ‍ᠲᠡᠷᠡ‍ᠭᠡᠷ‍ᠲᠤ‍ᠳᠤᠷᠠᠲᠠᠢ᠃

tere ger bol qaGucin mOrtegen ibcuu bolbacu, bi tere ger-tU duratai.

あの家 は 古い かつ 狭い けれど 私この家-DAT好き

(あの家は古くて狭いけれど、私はあの家が好きだ。)

3.1.4 「主題マーカーと属性叙述文・事象叙述文」のまとめ

主題を表すbolと属性叙述文・事象叙述文との関係について、この節で見てき たことを表で簡潔にまとめると、次のようになる。

表 2 主題表示の bol と属性叙述文・事象叙述文

単 文 従 属 節

属性叙述文 名詞節 引用節 疑問節 名詞修飾節 等位節

bol

3.2 格成分が主題になっている文

格成分というのは、動詞や形容詞などの述語に対して、その動作を行う動作 主や対象、相手、手段など、あるいは性質や感情の持ち主などを表すもので( 1996:18)、「~φ(主格)」、「~yi, i(対格)」、「yin/un, Un/n」(属格)、「~du, dU/tu, tU

与位格)」、aca, ece(奪格)、「~bar, ber/iyer, iyar(造格)」、「tai, tei」(共同格)など の形をした成分である。

3.2.1 主格成分が主題になっている文

モンゴル語の主格助詞は日本語の格助詞「が」に近いもので、無助詞(以下、

φと記す)の形で表される。モンゴル語の主格は無助詞の形で表されるため、主 格成分が主題になった場合、基本的に「~φ+bol」の形をとる。

(ア) モンゴル語では、主格成分が主題になることがある。

モンゴル語では、主格成分が主題になることがある。たとえば次の(11)は、「労 働」という主格成分が主題になっている文である。

(11)<モ>

ᠬᠥᠳᠡᠯᠮᠦᠷᠢ‍ᠪᠤᠯ‍ᠠᠯᠢᠪᠠ‍ ᠶᠢ‍ᠪᠥᠲᠥᠭᠡᠳᠡᠭ᠌‍ᠶᠤᠮ᠃

(NMGDXコーパス) kOdelmUri bol aliba-yi bUtUge-deg yum.

労働 は すべて-ACCつくる-VN MP

(労働はすべてをつくる。)

主格成分が主題になっている文の述語動詞には、前の(11)のように、形動詞が 用いられることが多い。その理由は、反復・習慣的形動詞には恒常的な状態や 習慣的な繰り返しを表す用法があるからである。

ただし、主格が主題になっている文の述語動詞は、反復・習慣的形動詞だけ ではなく、動詞の現在形・未来形で表されることもある。その理由は、モンゴ ル語の動詞の現在形・未来形に恒常的な状態を表す用法があるからである。た とえば次の(12)では、qaraGda-n_a(見える)という動詞が動詞の現在形・未来形 になっている。

(12)<モ>

ᠬᠤᠷᠠᠭᠠᠨ‍ᠡᠭᠦᠯᠡᠰ᠂‍ᠬᠤᠷᠠᠮᠠᠯ‍ᠬᠤᠷᠠᠭᠠᠨ‍ᠡᠭᠦᠯᠡᠰ‍ᠪᠤᠯ‍ᠴᠥᠮ‍ᠦᠵᠡᠰᠭᠦᠯᠡᠨᠭ᠍ᠲᠡᠢ‍ᠰᠠᠶᠢᠬᠠᠨ‍ᠬᠠᠷᠠᠭᠳᠠᠨ‍ᠠ᠃

(NMGDXコーパス)

qurGan egUles, quramal quraGan egUles bol cOm UjeskUlengtei sayiqan