• 検索結果がありません。

第 8 章 one-hot 表示した整数最適化問題の高速解法 121

8.4 全結合強磁性 Potts モデルの QA

本節では,全結合強磁性Pottsモデルのハミルトニアンをone-hot表示を用いてIsing表 現した場合,QAの過程で1次相転移が発生することを解析的に示す.この結果は,エネ ルギーギャップがシステムサイズに対して指数関数的に減少し,QAを用いて効率的に基 底状態を探索することが不可能であることを示唆している.また,本節の後半ではQA 1次相転移が発生する原因を考察し,次節でのhalf-hot制約を用いた方法の提案に繋げる.

8.4.1 問題設定

全結合強磁性PottsモデルではJij =J >0であり,QAのハミルトニアンは

Hˆ= ˆH0+ ˆHq, (8.12)

Hˆ0= J 2N

Q q=1

( N

i=1

ˆ σzqi

)2

+ λ 2Q

N i=1

∑Q

q=1

ˆ σzqi

2

2(Q2)

Q q=1

ˆ σzqi

, (8.13)

Hˆq=−Γ

N i=1

Q q=1

ˆ

σqix, (8.14)

である.ここで,Γは横磁場の強さを制御するパラメータであり,Hˆ0ではペナルティ項 の展開によって発生する定数項を省略した.式(8.13)から分かるように,ペナルティ項は 全結合の反強磁性相互作用と外部磁場から構成されている.

強磁性Pottsモデルの基底状態の例を図8.1に示す.ただし,図が複雑になるのを防ぐ

ため,スピン変数間の相互作用は式(8.13)の第一項に含まれる最近接相互作用のみを示 してある.図8.1の基底状態はQ個の強磁性Isingモデルの基底状態から構成されており,

one-hot制約を満たすために1個のGSFMQ−1個のGSFMが配置されている.ここで,

GSFMとGSFMは強磁性Isingモデルの基底状態を表しており,GSFMはGSFMの全ての

љ

ј

ј

љ

ј

ј

љ

ј

ј

љ

ј

ј љ

ј

ј J ız

11

J ız21

J ız

Q1

S1=1 Si=1

J ız

12

J ız22

J ız

Q2

ız

13

ız23

ız

Q3

J ız

1i

J ız2i

J ız

Qi

䞉䞉䞉

ız

1N

ız2N

ız

QN

䞉䞉䞉

䞉䞉䞉 䞉䞉䞉 䞉䞉䞉

䞉䞉䞉 䞉䞉䞉 䞉䞉䞉

S2=1 S3=1 SN=1

q=1 q=2

q=Q

GSFM GSFM

GSFM 図8.1: 強磁性Pottsモデルの基底状態の例

スピンを反転させたものを表す.H0の第一項はQ個の独立な全結合強磁性Isingモデル のハミルトニアンの和であり,図8.1のスピン配位はH0の第一項と第二項を同時に最小 化する.このことから,ペナルティ項の強さを決めるパラメータλ

λ >0, (8.15)

と設定すればよいことが分かる(λを決める考え方の詳細は付録Aを参照).

8.4.2 自由エネルギーとオーダーパラメータ

鈴木-トロッター展開を適用した後に,静的近似を仮定するとN → ∞, β → ∞におけ る自由エネルギーとして

f({mq}) = J 2

Q q=1

m2q+ε(eff)min({mq}), (8.16) が得られる(導出の詳細は付録E.1を参照).ここで,mqqiz|i= 1,2, ..., N}に対する 強磁性オーダーパラメータであり,ε(eff)min({mq})は以下で与えられる有効ハミルトニアン:

Hˆ(eff)({mq}) λ 2Q

∑Q

q=1

ˆ σqz

2

Q q=1

(

J mq+Q−2 Q λ

) ˆ σqzΓ

Q q=1

ˆ

σqx,   (8.17)

の最小固有値を表す.ε(eff)min({mq})は2Q×2Q行列の最小固有値であり,Qが小さければ 厳密対角化によって数値的に求めることができる.{mq}は自由エネルギー[式(8.16)]を 最小化するように決定される.

8.4.3 オーダーパラメータの量子揺らぎ依存性

自由エネルギーを最小化する{mq}を求め,強磁性オーダーパラメータのΓ依存性と相 転移の次数を調べる.系を記述するオーダーパラメータはQ個あるが,one-hot制約の対 称性を考慮すると,自由エネルギーを最小化する{mq}1個のm()Q−1個のm(+) の2つのグループに分けられる.Γ = 0ではm()=1, m(+)= +1である(図8.1参照).

この対称性を利用するとオーダーパラメータの数をm(±)の2個に減らすことができる.

-1 -0.5 0 0.5 1

0 0.5 1 1.5 2

m(+) , m(-)

Γ / J

m(+) m(-)

図8.2: Q= 2におけるm(±)のΓ依存性

-1 -0.5 0 0.5 1

0 0.5 1 1.5 2

m(+) , m(-)

Γ / J

m(+) m(-)

図8.3: Q= 3におけるm(±)Γ依存性

自由エネルギーを最小化するm(±)Γ依存性をQ= 2,3,4で求めた結果を図8.28.3 8.4に示す.ここで,λ/J = 1と設定した.Q= 2ではm(±)が連続的に変化する2次相転 移が発生しており,Q >2ではm(±)が不連続に変化する1次相転移が発生することが分 かる.Q= 2とQ >2の場合で振る舞いが異なるのはΓが大きい領域であり,Q= 2で はm(±)= 0となっているのに対して,Q >2ではm(±)>0となる.Γが小さい領域では 全ての場合でm(+) >0, m(−) <0となっていため,Q > 2の場合は2つの領域の切替り でm(±)が不連続に変化することになる.Q >2の場合にΓが大きい領域でm(±)>0 なる原因は式(8.13)のペナルティ項に含まれる外部磁場であり,ペナルティ項を上手く調 整することで1次相転移を回避できると期待できる.ここで,全結合強磁性Pottsモデル の1次相転移は前章で検討した全結合XX相互作用の導入によって回避できないことを容 易に示すことができ,詳細な計算は付録Fに示してある.

-1 -0.5 0 0.5 1

0 0.5 1 1.5 2

m(+) , m(-)

Γ / J

m(+) m(-)

図8.4: Q= 4におけるm(±)のΓ依存性