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 文部科学省の統計(2010)によると、小・中・高等学校・特別支援学校に勤 める教員のうち、病気を理由に離職した者が1400人を超え、休職した者が8600 人を超える。そのうち精神疾患を理由に離職した者は900人弱、休職者は5400 人を超える。それぞれ、離職者、休職者総数の6割以上の数字である。病弱特 別支援学校においても、精神疾患を理由に休職、離職する者は多い。この理由 の一つに、病弱教育という特殊性があるのではないかと考え、今回の調査・研

究を行った。

 現在、病弱教育に携わっている教職員は、小中学校、特別支援学校で経験を 積み、いわゆるベテランの域に達した者が多い。これまでに様々な児童生徒を 担当し、教科指導、教科外の指導には、一定のスキルを習得し、実践を積み重 ねてきたと考えられる。また生活指導、保健指導、進路指導等の分掌業務(学 校内業務)についても、保護者対応、外部機関との連携等においても経験を積 んでいる者が多い。さらに、発達障害のある子ども、発達障害の二次障害のあ る子ども、被虐待の子どもにもかかわった経験があるであろう。しかしながら、

病弱教育に携わるようになって、病気の子どもたちや保護者を前に、今までの 経験をもってしても対処できないような精神的困難を覚える者が多いことが改 めて分かった。

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 これは、病弱教育経験が初めて或いは浅いから覚える困難ではなく、例え経 験を積んでいても、精神的には困難を感じることが多いということである。

1980年代から盛んになってきている研究にバーンアウトの研究がある。久保

(2007)は「Fimian&Blanton(1987)は、年齢とバーンアウトとの関連にか かわる変数として、ストレスへの対処法の違いを指摘している。経験を積むこ

とで、ストレスへの対処行動を学び、結果としてストレスひいてはバーンアウ トへの耐性が高まるとする見解である.Rosentha1、 Schmid&Black(1989)も,

年齢が高く人生経験が豊かになるほど,ストレスに対する計画的で適応的な対 処行動をおこなっている」と報告している(久保、2007)。ところが、今回調 査した限りではそのような結論は見いだせなかった。

 それでは、精神的困り感を覚える要因として子どもの病種・障害種が関係す るのか、また、抑うつ度にも違いがあるのかを検証してみたところ、担当する 子どもの病種・障害種によって相違が明確にはみられなかった。

 では、どの様な場面で精神的困り感を抱くのであろうか。この問題に対して、

今回寄せられた記述内容について考察をすることに重点を置く。そこから、精 神的困り感を覚えるメカニズムを見出すことを試み、その結果を図12のよう

整理した。

 精神的困り感の記述については、病弱教育特有のものであるものを抽出し、

その内容をそれぞれ3つに絞り、主な困り感と、どの様に乗り越えたのか、そ の対処法を大きく二つに分けて考えた。

関わる子ども

心の病気の子どもと関

 わる時

精神的困り感の内容 主な困り感 対処法

マイナス感情にさらされる 振り回される

信頼関係を築きにくい

感情のコントロールができない

どう支援指導してよいのかわからない

重い病気、進行性の病 気、慢性疾患の子ども  と関わる通

産もできない無力感 家族の気持ちに立ち入れない 心の中にもっていきようのない大き なものを感じる

どう受け止めたらいいのかわからない

どのように接したらいいのかわからない

ターミナル期の子どもと 関わる時や子供が亡く

 なった時

何もできない無力感 弱り切った子どもを見るのがつらい 悲しみの感情を封じなければならない

どのように接したらいいのかわからない

喪の作業ができない

組織チームで対応 研修・勉強 積極的意識

問題焦点型対処行動

子どもや保護者に向き合う

周囲の人に相談する

家族に相談する

気分転換を図る 休養・通院/服薬

消極的意識

情緒焦点型対処行動

図12 精神的困り感と対処法

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 教師を含むヒューマンサービス(対人援助職)に携わる者には、「感情労働」

という他の職種にない側面が要求される(佐藤、2012)。「感情労働」とは、自ら の感情を抑制し、適切に表出することが求められるものである(Hochschild、

1983)。ホックシールドは、自らに起ってきた感情が、その場において抱かね ばならない感情と異なるときに,それを自ら管理しようとすることを感情管理 であるとした。また、感情が状況に一致しない場合、感情が演技されることを 表層演技とよび、適切な感情表現を演:技していることを当人が意識し、もっと

もらしく見えるよう努力することを深層演技(感情作業〉というように、感情 労働を複層に見出している。黒羽は教師の人間性側面で捉えがちな教育行為を 感情労働という視点から捉えることを試み、ある教師の教育行為に現出する感 情労働の具体的様相を分析・考察している。「教師は学校現場において子どもや 保護者に対して、感情を露わにした否定的な感情表出・保持を行わないような 振る舞い方がとられて」おり、その結果、「教師は自己像の指標があいまいにな

り、自己像の欺隔が起こり、自己の感情から疎外感を生じる」という(黒羽、

2011)。これは、対象の子どもたちに適切な感情を持っているように見える表 情やしぐさをすることが表層演技であるとすれば、そう感じるように自らの感 情を誘発することで、求められる感情を表出する深層演技を行った結果である といえるであろう。「教師たちにとって、自己の感情管理は押し付けられたもの というよりは、教師であるなら行って当然のこととしてとらえられている。」ま た、「子どもの行為が理想に近づくように教師は自ら進んで感情労働を行う」と いう指摘もされている(伊佐、2009)。

 以上のような見解を踏まえて、図12に整理した心の病気の子どもと関わる 時、重い病気・進行性の病気・慢性疾患の子どもと関わる時、また、ターミナ ル期の子どもと関わる時や子供が亡くなった時に抱く教職員の精神的困り感に ついて考えてみる。久保は「悩みや疾病、障害を抱える人たちと同じ立場に身 を置くこと、価値観を共有することは、多大な努力、それも情緒的な努力を伴 うものです。特に慢性疾患の患者さんや深い悩みを抱えた人を担当した場合、

その努力は並大抵のものではありません。このような状況に献身的にのめり込 んでいくことは、過度のストレスを経験することにつながり、ストレス性疾患 やバーンアウトのリスクを高めていきます。」と言う(久保、2004)。今回、多

くの記述内容から、援助の対象である子どもたちによって自らの感情のコント ロールが乱され、自らの感情が揺さぶられ、結果、抱えきれない思いにより精 神的に不調をきたすということが記述から読み取れた。「感情のコントロールが できない」「どう指導、支援してよいかわからない」「どう受け止めたらよいの        42

かわからない」「どのように接したらいいのかわからない」という記述に混乱を 見出すことができる。また、「被虐待の生徒対応で、巻き込まれていく教師に何 とかストップをかけなければと思うとき、または、自分も巻き込まれてしまい そうに感じる。」(心の病の子どもたちの在籍する分教室長)という記述を読む

と、日々多大なエネルギーを使い、バーンアウト寸前の教職員の姿が垣間見え る。病弱教育に携わるということは、子どもと家族が、厳しい治療に耐え、懸 命に心身の健康を取り戻そうとしている姿に接し、残された生命と向き合う厳 粛な場面での指導・支援においては、対人援助職としての教師の職業的な役割 を超えた、人間としての生き方や生き様が問われるということなのだと思う。

 次に、どの様に対処しているのかを整理した。図12にまとめたように、対 処の方法を大きく2種類の方法に分けた。これは、ストレスへの対処行動を、

「問題焦点型対処行動」と「情緒焦点型対処行動」の二つに分類したラザルス とフォルクマン(1982)に準じている。問題焦点型対処行動とはストレスを感 じているもとのストレッサーそのものを取り除こうとする行動である。何がス トレスの原因になっているか、何が問題であるのかを見出し、解決のための方 法を探ろうとする行為である。そのために、知識や技能を習得して実践すると

いう、いわば正攻法である。情緒焦点型対処行動とは、ストレス状態やそれに 伴って起こるマイナス感情を解消するために、気分転換を図るとか、考えない ようにするという方法である。これは直接問題解決につながる行動・思考では ないが、ストレスに伴う苦痛を軽減する方法である。このような観点から困難 をどのように乗り越えたかの問いに対する記述を分類したところ、回答の多く は、「周囲の人(同僚、先輩、上司等)に話を聞いてもらう、相談する、支援を 受ける」または、「家族に話を聞いてもらう」であった。これらの人間関係は、

まさにソーシャルサポートとなっている。このような対処法は、どちらかとい えば、情緒焦点型対処行動に分類できる対処法であろうが、この行動から次に、

問題焦点型対処行動に移行することもある。つまり、相談相手が先輩や上司等 の病弱教育においての経験豊富な者であれば、何らかのヒントを提示される場 合があると考えられるからである。

 職場での人間関係は、時として安心感や協働感を与えるものであって、さら なる前向きな姿勢への動機づけをしてくれるが、いくつかの記述に見られるよ うに、新たなストレッサーとなることもある。ヒューマンサービスに共通する 構造は、サービスの対象が人であり、サービスを提供する側は、人との関係性

を良好に保ちながらサービスを提供せねばならない。このことが、絶えざる情        43

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