76 3.光を採光する展示実験
前章 ま で で行 っ た 光を 透 過 させ る 作 品と そ の 展示 方 法 の実 践 を 踏ま え て 、自 然 光を 取 り 入れ る 作 品と 展 示 方法 の 模 索 及 び 有 用性 の 検 討を 行 う 。ま た 自 然光 の 持つ 瞬 間 性や 時 間 によ る 変 化な ど の 特徴 が 作 品の 印 象 にど の よ うな 影 響 をも たらすのかを検証する。
3-1.実験準備
使用 す る 作品 は 第 一章 で 光 の透 過 の 主観 評 価 で 使 用 し たも の と 同じ も の であ る。この二つの作品を異なる光環境の下で鑑賞した場合の、作品それぞれの時刻 ごとの光の分光分析と印象評価を行った。
今回の展示では、一つは後方から自然光を採光できるよう窓に張り付け、障子 紙を透過した光が鑑賞者に見えるようにした。これを作品 A とし、もう一つは 後方からの採光はなく、正面から自然光が照射するように、窓に面した壁に設置 した。これを作品 B とした(図 108,109)。
(図108)自 然 光 を 透 過 させ る 作 品 A (図109)自 然 光 を 透 過さ せ な い 作 品 B
ど ちら も 人 工 光の 照 明 のあ る 屋 内 で あ る。 今 回 の 実験 で は 時間 の 経 過 で 変 化 す る外 光 を 作品 に 取 り入 れ る ため に こ の展 示 方 法を 提 案 した が 、 その 際 に 時間 経 過と と も に変 化 す る背 景 の 景色 も 作 品の 演 出 の一 つ と 捉え 、 外 光を 透 過 させ る作品を外界の景色が見える窓に設置した。
77 実際に作品を展示した際には、人工光での展示に比べて、透過 させた作品では 奥 行き を 感 じら れ 、 薄く 障 子 紙を 貼 っ て光 が 通 りや す い 箇所 以 外 でも 光 の 明る さ や色 彩 の 豊か さ が 感じ ら れ ると い っ た違 い が 見ら れ た 。ま た 照 射す る 作 品に 関しても、照射する光は柔らかいが作品の色彩がより見やす く、素材感を感じや すいといった点が見られた。その反面、透過させた作品では陰になった部分が暗 く感じられ、時間によっては作品が見えづらいといった点も見られた。
この二作品に対するSD 法による印象評価を13 人の男女に対して行った。
SD 法には絵画の印象評価に用いる27対の形容詞を使用し、7 段階に分けて評 価を行った。使用した形容詞対は長・原口(2013) による絵画印象の尺度50を用 いた。また印象評価と並行して二作品に対して光の分光分析を行った。作品A は障子紙を透過した光を、作品Bは作品に反射した光を測定した。印象評価に ついては、展示時間中の14時台に作品を鑑賞し評価を得たのが4人、15時台に作品 を鑑賞し評価したのが5人、16時台に作品を鑑賞し評価したのが4人であった。鑑 賞者は二作品を比べて鑑賞した。鑑賞時間については、実際の展示会での状況と同 じく制限を設けなかった。印象評価の設問は次の図のよ うなものである(図110)。
測定と作品への評価は実際の作品展示会において行った。被験者一人につき作 品を一度のみ鑑賞してもらい、それぞれの作品に対する評価を行った。当日の 天気は晴れで、使用した機器はLED メーターMK350PLUS である。
50 長 潔 容 江 ・ 原 口 雅 浩 「 絵 画 印 象 の 研 究 に お け る 形 容 詞 対 尺 度 構 成 の 検 討 」 『 久 留 米 大 学 心 理 学 研 究 』 第 12 号 、2013年 、pp.81-90
78 性 別 ( 男 性 ・ 女 性 ・ そ の他 ) 年 齢 ( 歳 )
2つ の 作 品(A、B)は 「 い の ち 」 を テ ー マ と し た 作 品 と な っ て い ま す 。 作品Aは 作 品 の 後 方 か ら 自 然 光 を 透 過 さ せ て い ま す 。作 品Bは 光 を 透 過 さ せ て い ま せ ん 。 こ の2つ の 作 品 の 印 象 に 対 し て 、 そ れ ぞ れ 以 下 の7段階 の う ち 当 て は ま る も の に 印 ( 〇 ) を つ け て く だ さい
作 品A 非 常 に
非 常 に か
な り
か な り や
や
や や な い
作 品B 非 常 に
非 常 に か
な り
か な り や
や
や や ど ち ら で ど
ち ら で
な い
作 品 に 関 し て ご 意 見 や ご 感想 な ど あ り ま し た ら 、 ご 自 由 に お 書 き く だ さ い 。
回 答 は 以 上 で す 。 ご 協 力 あり が と う ご ざ い ま し た 。 (図110)ア ン ケ ー ト の 設問
る た め に 行 う も の で す 。 回 答 結 果 か ら 個 人 を 特 定 す る こ と は あ り ま せ ん 。 ま た 、 回 答 結 果 は 研 究 以 外 の 目 的 に 使 用 す る こ と は あ り ま せ ん 。
知 足 研 究室 所 属 博 士 課 程2年 岩 崎 可 奈 子
79 3-2.分光分析の結果
まずそれぞれの作品を時間ごとに分光分析した結果を述べる。
14時に作品Aと作品Bを測定した結果は以下の通りに示している。これを見る
と、作品A の色温度は5223K、照度は2900lx、分光分布図を見ると太陽光を透 過しているため380nm~430nm にあたる青い光以外のほぼすべての波長の光が 含まれていることがわかる。作品Bの色温度は4201K、照度は227.9lxで、分光 分布図が380nm~530nmの範囲にある光が少ないことがわかる。作品Bは作品A に比べると、自然光の影響もあるものの、屋内の人工光である蛍光灯の光の影 響も出ていると考えられる(図111,112)。
(図111) 14時 の 作 品A
(図112) 14時 の 作 品B
80
15時に作品Aと作品Bを測定した結果は以下の通りに示している。これを見る
と作品Aの色温度は5478K、照度は513lx となっている。分光分布図は14時に 測定したときと比べると全体的には多くの光を含んではいるが、580~600nm、
630~650nm の範囲での色が少し減少していることがわかる。その中で600nm
の光は際立っているので蛍光灯の影響が出てきていると推測される。作品Bの 測定結果を見ると色温度は4276K で照度は42.51lx となっている。分光分布図 は530nm~630nm の範囲にある緑~橙の光以外が大きく減っている。時間の経 過により窓から入る自然光が減り、屋内の蛍光灯の影響が強く出ていることが わかる。この時刻での二作品に影響を及ぼす光に差が出ていることがうかがえ る(図113,114)。
(図113) 15時 の 作 品A
(図114) 15時 の 作 品B
81 最後に16時に作品Aと作品Bを測定した結果を以下の通りに示している。こ れを見ると作品Aの色温度は5965K、照度は138.6lx となっている。分光分布図 を見ると緑の光と橙の光がやや突出しており、14時、15時の分光分布図と比べ ると全体的に数値が減っているが、割合には変化がないように感じられる。時 間が経過して、太陽が沈み始めたこともあるためか照度は減っている。
作品Bの測定結果では色温度は4567K で照度は23.57lx である。分光分布図 を見ると、530nm~630nm の波長の光が大きく突出しており蛍光灯の光の影響 が強く出ていることがわかる(図115,116)。
(図115)16時 の 作 品A
(図116)16時 の 作 品B
82 作品Aの測定結果の変移を見ると、16時での測定では、日が沈み自然光の影 響が少なくなり、代わりに屋内の蛍光灯の影響が強くなっていることがわか る。作品Bの測定結果をみても時間が経つにつれて蛍光灯の影響が強くなって くることで、485nm,535nm,585nm,600nm の波長の光( 青、緑、黄、橙) 以外 の光が見えづらくなっていることがわかる。この時間経過による蛍光灯の影響 での色の見えづらさが作品への影響に関わっているかどうか分析するため、自 然光と蛍光灯それぞれの散乱光の影響も考慮しながら、時間ごとの作品への印 象評価の結果を見ていく。
3-3. 印象評価の結果
SD 法(セマンティック・ディファレンシャル法)による印象評価は27 対の形
容詞を使用し、項目ごとに7段階に分けて評価を行った。使用した形容詞対は
「安定した-不安定な」「興奮的-沈静的」「動的-静的」「個性的な-平凡 な」「まとまった-ばらばらな」「男性的-女性的」「感情的-理知的」「強 い-弱い」「健康な-不健康な」「新しい-古い」「大人っぽい-子供っぽ い」「派手な-地味な」「明るい-暗い」「楽しい-寂しい」「表面的-深み のある」「暖かい-冷たい」「軽い-重い」「単純な-複雑な」「神経質でな い-神経質な」「陽気な-陰気な」「美しい-醜い」「面白い-つまらない」
「好き-嫌い」「良い-悪い」「柔らかな-固い」「ゆるんだ-緊張した」
「鈍い-鋭い」である。
SD法とは、感覚印象の測定に用いられる方法である。色や形、語音、象徴 語、音楽、映像、効果音といった感覚刺激が与える印象に適用され 、価値的な ものだけでなく、多次元的に評価がなされる51。
左右に形容詞対を配置し、その間を7段階に分けた。真ん中を「どちらでも ない」とし左右にいくにつれ「やや」「かなり」「非常に」をそれぞれ配置し た。二作品を見た鑑賞者には項目ごとに7 段階のうち一つに当てはまるものを 回答してもらう形で評価を得た。左から得点を-3、-2、-1、0、1、2、3と し、アンケートの結果から時間ごとの各項目の得点を計算し、平均と標準偏差 を出した(図117,118,119)(表7,8,9)。
51 大 山 正 ・ 齋 藤 美 穂 編 『 色 彩 学 入 門 色 と 感 性 の 心 理 』 東 京 大 学 出 版 会 、2009年 、p.59
83 (図117) 14時 の 作 品Aと 作 品Bの 平 均
84 標準僅差(14時)(4 人)
項目 作品A 作品B
安定した~不安定な 1.4142 0.816 興奮的~沈静的 1.7321 1.732 動的~静的 1.2583 1.258 個性的な~平凡な 1.2583 0.957 まとまった~ばらばらな 1.5 0.957 男性的~女性的 1.291 0.577 感情的~理知的 1.5 1.291 強い~弱い 1.291 2.082 健康な~不健康な 0.5 1.155 新しい~古い 1.8257 1.708 大人っぽい~子供っぽい 1.7078 0.957 派手な~地味な 0.9574 1.5 明るい~暗い 1.2583 1.5 楽しい~寂しい 1.291 1.5 表面的~深みのある 1 1.258 暖かい~冷たい 0.8165 0.577 軽い~重い 1.8257 1.5 単純な~複雑な 0.8165 1.414 神経質でない~神経質な 1.2583 1.732 陽気な~陰気な 0.9574 2.217 美しい~醜い 0.5 0.816 面白い~つまらない 0.5774 1.633 好き~嫌い 0.5 1.258
良い~悪い 0 1.258
柔らかな~固い 0.5774 1.633 ゆるんだ~緊張した 1.7078 1.258 鈍い~鋭い 1.291 1.915
85 (図118) 15時 の 作 品Aと 作 品Bの 平 均
86 標準僅差(15時)(5人)
項目 作品A 作品 B
安定した~不安定な 1.30384 1.09545 興奮的~沈静的 0.83666 0.83666 動的~静的 1.516575 1.34164 個性的な~平凡な 0 1.30384 まとまった~ばらばらな 0.83666 0.70711 男性的~女性的 1.341641 1 感情的~理知的 1.643168 1.09545 強い~弱い 1.095445 1 健康な~不健康な 0.894427 1.64317 新しい~古い 0.547723 1.09545 大人っぽい~子供っぽい 1.414214 1.73205 派手な~地味な 1.224745 1.51658 明るい~暗い 0.547723 0.83666 楽しい~寂しい 1.81659 1.30384 表面的~深みのある 1.643168 1.64317 暖かい~冷たい 0.894427 0.83666 軽い~重い 0.83666 1.64317 単純な~複雑な 0.83666 0.70711 神経質でない~神経質な 1.30384 1.09545 陽気な~陰気な 1.224745 0.83666 美しい~醜い 0.447214 1.09545 面白い~つまらない 0.707107 0.83666 好き~嫌い 0.83666 0.44721 良い~悪い 0.447214 0.54772 柔らかな~固い 1 0.83666 ゆるんだ~緊張した 0.894427 0.89443 鈍い~鋭い 0.707107 0.70711
87 (図119) 16時 の 作 品Aと 作 品Bの 平 均
88 +
標準僅差(16 時)(4 人)
項目 作品 A 作品 B
安定した~不安定な 0.5774 1.4142 興奮的~沈静的 1.7078 1.2583 動的~静的 1.291 1.7321 個性的な~平凡な 0.5 1.2583 まとまった~ばらばらな 1 1.1547 男性的~女性的 1.2583 1.8257 感情的~理知的 1.633 1.291 強い~弱い 0.5774 1.291 健康な~不健康な 1.2583 1.291 新しい~古い 0.9574 1.291 大人っぽい~子供っぽい 1.2583 1.2583 派手な~地味な 0.5774 1.4142 明るい~暗い 1.2583 1.9149 楽しい~寂しい 1 1.8257 表面的~深みのある 1.4142 0.5774 暖かい~冷たい 1.291 2.0616 軽い~重い 0.8165 1.8257 単純な~複雑な 0.9574 0 神経質でない~神経質な 1.291 1.8257 陽気な~陰気な 1.2583 2.1602 美しい~醜い 1.2583 0.9574 面白い~つまらない 0.5 0.9574 好き~嫌い 1.1547 1.291 良い~悪い 0.5774 0.8165 柔らかな~固い 1.893 1.8257 ゆるんだ~緊張した 1.7078 1.4142 鈍い~鋭い 1.2583 0.8165