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先輩故人会員のメッセージ(既掲載原稿からの抜粋)

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第2章  原子力システム研究懇話会の活動の展開

2.2  先輩故人会員のメッセージ(既掲載原稿からの抜粋)

原子力システムニュース 1992年6月号「巻頭言」

ラドンとラジウム

斎藤 信房

 放射能と私との出会いは昭和12年に遡る。当時、東大理学部化学科の学 生であった私は、分析化学実験の中で、飯盛里安先生考案のIM泉効計を用 いて東大構内三四郎池の水のラドン含有量の測定を行った。また昭和14年 には卒業研究の一環として、鉱物中のラジウムの定量も行ったので、天然物 中のラドンとラジウムの含有量については現在でも興味を持っている。

 ところで、最近、ラドンが急に脚光を浴びることになったのはご承知の通 りである。居住環境中のラドンと娘核種による一般公衆の被ばくが問題とな り、国連のUNSCEARはいち早くこの問題を重要なものとしてとりあげ、米 国のEPAなども主として家屋内の空気のラドン濃度に大きな関心を示してい る。私に言わせれば、最近のラドン研究や調査はいささか過熱ぎみであるが、

データが蓄積されることは結構なことであると思って冷静に見つめている。

 ラドンの核種(トロンも含めて)はいずれも半減期が短く、それ自体は長 期間存在し得ないので、その親であるラジウム核種の天然における分布を知 ることは重要である。わが国では、天然物中のラジウムやラドンの濃度の測 定は、すでに第二次世界大戦以前から行われ、とくに東大の木村健二郎研 究室は多くの開拓的業績を残している。それ以来、多くの人々によりラジウ ム、ラドンの研究が行われたが、測定器の著しい進歩にも拘らず、戦前の研 究の評価は依然として高い。

 ラドンについて、日本の公衆が関心を持っているのは、ラドンと娘核種に よる被ばく線量のことではなく、いわゆる“ラジウム温泉”や“ラドン温泉”の 効用のことではなかろうか。学問的には放射能泉として分類される山梨県 の増富、島根県の池田、鳥取県の三朝などの鉱泉は、ラドン含有率が高く、

世界におけるラドン鉱泉のベストテンを選べば、三朝は別にして増富や池田 はその上位にランクされる。しかし、鉱泉のラドン含有量とラジウム含有量

の間にはほとんど比例性はない。ただ、はっきりしていることは、放射能泉 では、ラドンは水中のラジウムとの放射平衡量よりは、桁ちがいに多く含ま れていることである。これは、ラドンの主たる発生源は、鉱泉ではなく、そ れと共存している鉱泉沈殿物であるからである。このような沈殿物のラジウ ム含有量は極めて高く、10−10〜 10−8グラムRa/グラムである。とくに先年、

私どもが見出した、鹿児島県猿ヶ城鉱泉の沈殿物では、10−8グラムRa/グラ ムで、世界でトップレベルにある。この値はふつうの岩石のラジウム含有量 に比して約10万倍も高い。鉱泉のラジウム含有量とそれに共存する鉱泉沈殿 物のラジウム含有量の間にも比例性はない。水中から沈殿物にどの程度ラジ ウムが濃縮されるかは、沈殿物の化学組成に左右されるからである。

 放射能泉地帯に居住する人達は、ラドンによる被ばくのことなど全く気に せず、健康によいと信じて入浴しているようであるが、私も同様に放射能泉 には喜んで入浴することにしている。

[東京大学名誉教授:平成10年 3 月退会]

原子力システムニュース 1993年6月号「巻頭言」

地層処分と社会的合意形成

天沼 倞

 本年 1 月末に青森で高レベル放射性廃棄物に関する国際フォーラムが開催 され、500人近くの出席がありました。場所柄もあったのでしょうがこの問 題についての関心の高さが思われます。

 高レベル放射性廃棄物は世界の国々ではいずれも地層処分を行う計画を 持っており、そのための研究、開発が続けられていることは御承知の通りで すが、処分の長期安全性については、多くの実測データに基づく予測的解析 による間接的実証が試みられています。従って評価期間が長くなる程不確か さが増すことは避けられず、このため処分実施に至るまでには処分技術の社 会的受容が必要であるにも拘わらず中々合意形成上困難が大きく、廃棄物先 進諸国であるスウェーデンやフィンランド等でも努力を重ねている状況です。

 国際フォーラムでも当然この関係の話題、講演が多くあり、フランスの新 生ANDRAの長官ワラール氏は初期のやや楽観的であった政策の失敗に鑑み て1991年に新たに制定された放射性廃棄物法に基づき昨今の状況について話 をされました。フランスでは高レベル放射性廃棄物に関し、政府が15年以内 に最終的にどうするかを決めることができるように、ANDRAが他の機関の 協力を得て技術開発を続けることになり、処分に関しても全般的に見直して、

わが国でもやっている核種転換処理も選択肢の一つとして研究を進めると共 に、これまでも行ってきていた地層処分技術をさらに進展させるために将来 の処分立地とは全く別に、高レベル放射性廃棄物の貯蔵を許さず研究だけを 目的とする深地下施設(URL)建設用の適当な立地を目下探査中です。そ してこの研究施設のための立地の社会的受容を考えてこれまでの方式を改め、

全ての関連情報を公開して国民に明示し、透明度を高めて地域住民との話 し合いによって決めることとし、現在既に公表済みの約30ヵ所の候補地点か ら 5 〜 10 ヶ所に絞って公衆との対話を進め、広い範囲にわたる意見を求め るためにネゴシエータとよぶ調整役を置いたり当該地域に科学評価委員会を

設置するなどして、最終的にはこれらの中から花崗岩と堆積岩の地層をそれ ぞれ 1 ヶ所づつ民主的に選定しようとしています。他の国でもサイトの決定 までには大体このようなやり方が行われているようです。

 さて、わが国では地層処分に関しては現在技術開発の初期段階ですが、

昨年の放射性廃棄物対策専門部会報告にあるように近いうちにフランス同 様、将来の処分予定地とは全く別個の立地に地下研究施設(できれば複数)を 持つ必要があります。また恐らく10数年後には処分予定地選定の時期が来 るでしょう。現在では地下研究施設の立地さえも中々社会に受け入れられな い状況ですが、この問題についての社会的合意形成を実現させる努力がまず 必要であると思います。これは原子力開発全般に亘る問題でもあるわけです。

 このため私達もかねてから今後は関連情報は全て公開し、公衆及び地域社 会との充分な信頼関係の下に話合いができるようにして合意形成の問題に対 応すべきであると考え、口にもして来ました。技術情報の公開は当然ですが、

わが国では立地の候補地名(複数)の公表については社会の情報受け入れ 体制の現状からその前に若干準備が要るのではなかろうかと近頃考えるよう になりました。

 それは、やはりこのフォーラムで翌日行われた大阪産業大学の今野教授の

「日本に於ける社会的合意形成に関する活動」と題する講演によれば、わが 国には欧米社会とは異なる長い歴史の間に醸成された種々の社会的特性が あって、例えば公共概念の欠如とか、国と地域社会の考え方の乖離等が目 立ち、そういう観点から云えば原子力とか廃棄物の処分などは本来受け入れ にくいような社会として構成されているということでありますので、そのよ うな社会に近代的民主社会で行われているような方式をどのように取り入れ て、社会的合意を求め成功させ得るかは大変難しい社会科学上の問題であり、

慎重な準備が必要であるように私には思われて来たからです。

 原子力平和利用のようなビッグテクノロジィを推進するには社会的な合意 形成が重要なことはつとに認識されていて、それにはこれ迄のように技術者 が懸命にPRに努めてもそれだけでは手に余るのであって、社会学、心理学、

倫理学等広く人文科学の分野での理解、協力、応援が必須であると云われ て来ました。この点では欧米諸国でも充分とは云い難いと思いますが、わが

国ではまだまだ前途遼遠の感があります。現実には近い将来の地下研究施設 の立地選定さえもかなりの困難があろうと考えていますが、まだ大分先のこ ととは云いながら将来の処分予定地選定に備えて、今から技術・工学に対す る人文科学の分野での理解、協力を得るための努力を地道に始めることは上 に述べた社会的合意形成の準備の一つとなり、またその前段階としても重要 であると思います。これこそ云うは易く行うは難い問題でしょうが、どのよ うにアプローチしたらよいかは今後皆で考えてなるべく早く対策を樹てなけ ればならない時期が来ていると痛感しています。

[名古屋大学元教授:平成10年 9 月退会]

ドキュメント内 カバー.ai (ページ 35-67)

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