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先行研究レビュー

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 30-69)

はじめに

本研究における先行レビューの全体像は、図 1 に示すように、まず、銀行の貸出行動に 関する文献調査と銀行論・金融論に関する先行研究レビューを行い、銀行業が収益を上 げるための重要な要素を明らかにする。次に、本研究が企業活動の変化を主な研究テー マとしていることから経営学の諸研究について検討を行うとともに、近年発達している財務 諸表に現れない企業価値を可視化する試みである知的資本についてレビューを行う。そし て、知的資本と同様に、見えない価値の一つであるに意思決定理論についての先行研究 レビューを行う。最後に、研究手法であるシステム思考およびシステム・ダイナミクスに関す る先行研究レビューを行う。

図 1:先行研究の範囲

2. 1節 貸出行動に関する文献調査

本節では、銀行業の主な収益源である貸出を取り巻く状況と、貸出に関する重要な要素 について文献調査と先行研究レビューを行う。

2. 1. 1項 銀行業の基本機能

全国銀行協会(2017:16-23)によれば、銀行の基本的機能は 4 種類で、1. 貯蓄手段の 提供機能(預金の受入れ)、2. 資金の供給機能(資金の運用)、3. 信用創造機能(預金 通貨の創出)、4. 資金決済機能(支払手段の提供)であると言う。1 と 2 は一連の機能であ り、銀行は、受け入れた預金を、貸出や有価証券で運用することによって収益をあげるとと もに、収益を原資として預金に対して利息をつける。預金者側からみると銀行は、預金者 に有利な貯蓄手段を提供するとともに、経済活動における資金の過不足に対して、資金の

不足主体と余剰主体との間に入って資金の過不足に対して、資金の過不足の調整の円滑 化などの役割を果たしている。具体的には、受け入れた預金の一部を支払準備として残し、

それ以外の大部分の資金を貸出や有価証券投資に振り向けることによって、企業や個人 等に資金を供給する。

2. 1. 2項 銀行の貸出行動と景気循環

銀行の貸出行動と景気循環について検討する。Samuelson(1939)らによる乗数加速度モ デルによれば、国内総生産(GDP)は消費と投資により決まるという。ここで言う投資は資本 設備や在庫の増加のことで、銀行の貸出とは必ずしも同じではないが、企業が設備投資 や運転資金を賄うために銀行から借金することは通常の企業活動の一部と考えられるから、

銀行の貸出行動が、景気循環に影響を与えると考えることは妥当であろう。しかし、一般的 に2012年以降景気上昇局面にあると言われるが、銀行の主要収益源である貸出は伸び 悩みを見せている。そこで、伸び悩む理由の一つと考えられる銀行の貸出行動に対する 規制について検討する。

図 2は金融庁/日本銀行(2010:2)が作成した「バーゼルⅡ3が有する景気循環増幅効 果」を説明した資料である。この資料では、自己資本比率規制が景気後退期に景気をさら に悪化させる可能性があることを示しているが、具体的には、景気が後退すると、デフォル ト確率4 が上昇し金融機関に損失を発生させる。このことは金融機関にリスク・アセットの増 加と資本の減少をもたらす。資本が減少すると自己資本比率が低下するから、それを補う ためにリスク・アセットを削減する動きが発生し、その結果信用収縮(貸し渋り)が起こりさら に景気後退を増幅させる懸念がある、というものである。そして、バーゼルⅡはバーゼルⅠ よりもリスク感応的な枠組みであることから、景気循環を増幅させるとの懸念があるが、現時 点においては、バーゼルⅡが景気循環を増幅させるとの証拠は必ずしも見られないともし ている。

3 バーゼル銀行監督委員会が公表している国際的に活動する銀行の自己資本比率や流動性比率等に関 する国際統一基準のことをバーゼル合意と言い、1988 年に最初に策定され合意をバーゼルⅠ、2004 年に改定された合意をバーゼルⅡと言う。その後、2007 年夏以降の世界的な金融危機を契機として、

再度見直しに向けた検討が進められ、2017 年に新しい規制の枠組み(バーゼルⅢ)について最終的な 合意が成立した。日本を含む多くの国における銀行規制として採用されている。

4 債務者が将来の一定期間において債務不履行状態となる確率。

図 2:バーゼルⅡが有する潜在的な景気循環増幅効果

(金融庁/日本銀行(2010)より転載)

この銀行の貸出行動(図 2)を元に貸出行動に影響を与える要素を抽出するために、シ ステム思考を使用して因果ループ図を作成する。図 2は、時間の経過に伴う各要素の変 化を説明しているので要素に重複があるから、要素の重複を取り払うと図 3となる。

図 3:システム思考による景気循環増幅効果

(図 2を元に著者が作成)

なおこの図では、それぞれの要素の表現を以下の通り置き換えている。

• 景気後退:Economic Condition

•

Capital Adequacy Ratio Economic Condition

Probability of Default

Capacity of Loans

-Non Profit Loans

-Write off +

-Default

+ +

Capital

-+

• 損失の発生:Default

• リスク・アセットの増加:Non Profit Loans

• 資本の減少:Capital

• 自己資本比率の低下圧力:Capital Adequacy Ratio

• リスク・アセットの削減:Write Off

• 信用収縮:Capacity of Loans

例えば、景気 (Economic Condition)が後退すると、デフォルト確率(Probability of Default)が上昇し、損失(Default)が発生する。損失が発生するとリスク・アセット(Non Profit Loans)が増加するとともに、資本(Capital)の減少をもたらす。資本が減少すると自 己資本比率(Capital Adequacy Ratio)は低下するから、銀行はリスク・アセットを削減

(Write Off)しようとする。その結果、信用(Capacity of Loans)が収縮し、景気をさらに後 退させると考えられる。一方、景気拡大時には、この逆の回転になると考えられる。このモ デルが正しいとすれば、このモデルは自己強化型のループであるから、景気は拡大か後 退の一方向にしか動かないことになる。実際には景気は上下動を繰り返すから、景気循環 の全てをこのモデルで説明することは出来ないが、少なくともバブルの成長と崩壊におけ るメカニズムの一部を表していると考えられる。なお、この図は銀行業務の一部を表したも ので、様々な要素を省略している。例えば、リスク・アセットは、貸出が回収できなくなって 初めて発生するので、要素の中に貸出があるべきだし、貸出の多くは貸出金利とともに回 収され、利益となるし、その利益の一部は資本の強化に充当される。ここでは自己資本比 率が貸出行動に与える影響のみ検討し、貸出行動全体の要素の抽出は、第3章で詳しく 検討する。

2. 1. 3項 銀行の貸出行動と規制

次に、図 2に記載された自己資本比率規制について検討する。先に述べた通り、銀行は 自己資金を元に貸出を行うのではなく預金を貸出す。自己資本比率規制が導入されるま では、貸出可能額の上限は預金額であった。(実際には、銀行の信用創造機能により預金 額以上の貸出が可能である。)もちろん、貸出が不良債権化した場合には金融機関は自 己資本の穴埋めをしなければならないから、原因がそれだけではなかったとしても、バブ

ルの成長と崩壊にともなう金融危機を度々発生させる一因となってきた。そこで規制当局 は金融システムを安定させるために金融業界に対し自己資本比率規制(バーゼル合意)を 1988年以降導入・強化してきた。金融庁(2004:1)によれば自己資本比率規制の基本的 な考え方は以下の通りである。ここで分母のリスク・アセットとは貸出等のことである。

自己資本比率 = リ ス ク ・ ア セ ッ ト自 己 資 本 ≥ 8% (1)

自己資本比率規制は、銀行の貸出モデルに一定の歯止めをかけようという取組みであり、

これ以降、貸出可能額は預金量ではなく、自己資本比率によって規制されることとなる。つ まり、貸出額を増やす前に、自己資本の増強を迫られたのである。

ところで、自己資本比率規制が導入された1988年当時の日本の銀行の自己資本比率を 調べてみると、都銀で8%前後、地銀では4%程度と都銀でも規制をクリアするのに精一杯な 状況5であり、仮に不良債権の発生に伴い分子の自己資本が毀損した場合は、分母の貸 出を減らす必要にせまられる。もしくは毀損した自己資本を何らかの方法で埋め合わせる 方法もあるが、不良債権が多数発生するような景気後退期には、通常、利益も減少するの で、自己資本を埋め合わせることは容易ではない。このような理由から、日本の銀行は、自 己資本比率規制導入以降、自己資本の増強に専念することとなる。図 4は全国銀行協会

(1997-2017)が公表するデータを元に自己資本と自己資本比率の推移を示したものであ るが、バブル崩壊以降、金融危機 (2001年と2007年) の時以外は、順調に自己資本は増 強され、その結果、2013年には自己資本比率は10%台を達成することができた。

5 日本への規制導入に際しては、海外営業拠点を有する銀行に対しては国際統一基準(8%)が、海外営 業拠点を持たない銀行(地銀)に対しては国内基準(4%)が採用されている。

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