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第5章 ホテル産業における収益拡大戦略

3. 先行研究

(1) バランスト・スコアカードと戦略マップ

「バランスト・スコアカード」は,Kaplan and Norton (1992) により紹介された。

Kaplan and Norton (1992) では業績測定システムとして位置づけられているが,後に

Kaplan and Norton (1993) ではマネジメント・システムとして紹介されている(大島,

2003, p.65)。 「 財 務 の 視 点 (financial perspective)」,「 顧 客 の 視 点 (customer perspective)」,「社内ビジネスの視点 (internal business perspective)」あるいは「社内 ビジネス・プロセスの視点 (internal business process perspective)」,そして「イノベー ションと学習の視点 (innovation and learning perspective)」あるいは「学習と成長の 視点 (learning and growth perspective)」の4つの視点を基本的枠組みの構成要素とし,

後述する「戦略マップ」とともに用いることで「ビジョンと戦略の効果的な策定と実行を 確保」し,「経営の品質向上に資するなどの経営目的に役立てられる戦略的マネジメント・

システム」である(櫻井, 2009, p255)。

さらに「戦略マップ」については,Kaplan and Norton (2000) により,「戦略とプロセ スを伝達するツール,そしてその実行を助けるシステム」(Kaplan and Norton, 2000,

邦訳 p.29)として,また,「バランスト・スコアカードに記入された項目を記入し,因果

関係を示すリンク上にはめ込み,期待する成果とそれをもたらす要因とがわかりやすく 結びつけられている」図として紹介された(Kaplan and Norton, 2000, 邦訳p.32)。

この「戦略マップ」の実例として鈴木(2011, pp.209~215)は,統計的手法による分析 の結果として描いた「都市近郊型リゾートホテルの収益性向上プログラム」におけるバラ ンスト・スコアカードと戦略マップを示した。 図表5-1はそのうちの戦略マップである。

図表5-1: 都市近郊型リゾートホテルの収益性向上プログラムの戦略マップ

出典: 鈴木(2011, p.213)

財務の視点

顧客の視点

社内ビジネス・

プロセスの視点

学習と成長の 視点

目標利益 25億円 売上高 350億円 戦略目標:収益性向上

営業コスト低減 サービス・

コスト低減 ホテル利用回数

の増加 販売単価の

上昇

リピート顧客 の増加

顧客 ロイヤルティ

ブランド・

イメージ

アットホームな サービス

効果的なコミュ ニケーション

サービス品質 の向上

手際のよい サービス

顧客情報の 活用

プロセスの 簡素化

従業員 ロイヤルティ

適切な採用 能力開発 理念への共感

戦略目標:

顧客との信頼関係の強化

戦略目標:

サービス品質の向上

戦略目標:

従業員ロイヤルティの向上

図表5-1の「財務の視点」には「販売単価の上昇」と「ホテル利用回数の増加」がマッ ピングされており,これはホテルにおける収益向上に向けた施策として一般的なものと いえよう。 後述するレベニュー・マネジメントにおいても,これに似た視点が重視されて おり,図表 5-1 から,同ホテルがレベニュー・マネジメントの観点を戦略に置いている ことが想定できる。

(2) サービス・プロフィット・チェーン

Heskett et al. (1994, 邦訳p.5)によれば「サービス・プロフィット・チェーン」とは,

「収益性,顧客のロイヤリティ,社員の満足,従業員のロイヤリティ,そして生産性の それぞれを関係づけるものである」(図表5-2)。

図表5-2: サービス・プロフィット・チェーンの流れ

出典: Heskett et al.(1994, 邦訳p.7)

図表5-2からわかるように,「サービス・プロフィット・チェーン」とは,その名称どお り,サービスがいかに利益に結びつくかを表したものであり,サービス業の多くを調査

従業員 生産性

顧客 ロイヤリ

ティ

売上と 成長

収益性 顧客

満足 顧客

サービス 品質 従業員

定着率

従業員 満足 内部

サービス 品質

業務戦略と サービス提供システム 職場設計

職務設計

従業員の選抜と育成 従業員の報酬と認知 顧客サービス用のツール

サービス・

コンセプト 顧客にとって の便益

標的顧客の ニーズに適合 するサービス の設計と提供

顧客維持率 反復購買 新規顧客の紹介

したうえでこの論を展開しているのである。

これら先行研究において示した2つ(バランスト・スコアカードと戦略マップ,サービ ス・プロフィット・チェーン)の構成要素には,多くの類似性を見ることができる。 そこ でこれら2つを参考にしつつ作成した,ホテル産業における戦略マップ(初版)を,以降 に示すことにする。

4. 客室収益拡大プロセスの検討