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第3章 MICE ビジネスにおける会計に関する考察

5. ホテル産業の現状

ホテルには,直営,フランチャイズ (FC),マネジメント契約 (MC),リースに代表され るさまざまな経営形態がある。 以下,ホテル産業に特徴的なMCについて説明する。

Eyster(1988, 邦訳p.5)はMCについて,次のように説明している。

資産オーナーは施設の運営及び管理に関し全責任を負う代理人(雇用者)としてオペレ ーター(ホテル企業)を採用する

この代理人としてオペレーターは,オーナーになり代わって施設運営から上がる収入 から全ての事業経費を支払い,マネジメント・フィーを受け取り,残金についてはオー ナーへ送金する

オーナーは土地,建物,家具,設備,備品及び運転資金等,宿泊施設全般を提供し,

当該プロジェクトに関する全ての法律上及び金融上の責任を負う

(8) 中村氏は著書のなかで,「私はこれ(USALI)をヒルトンでの 25 年間のうちに身につけ た。 支配人,総支配人の時には毎月,このシステムに則ったリポートを提出し,本社 とのやり取りを進めていたのだ」,「それだけによくわかるのだが,ユニフォームシス テムは,チェーンでなければ学ぶことができない」,「インディペンデントのホテルが 独自に学ぶのは不可能に近い。 ならば協会が,その手伝いをすべきではないか」,

「会員ホテルの役員や総支配人,幹部社員等の能力・資質向上をめざしたホテル・

マネジメント養成プログラム,トップセミナー,幹部育成セミナーなどを実施して いる。 ここで学び,国内ホテルで,さらに海外のホテルでも立派な総支配人として 活 躍 で き る ホ テ ル マ ン を 育 て る こ と が , わ れ わ れ の 夢 で も あ る 」( 中 村, 2010, pp.205~206;括弧書き筆者挿入)と述べている。

(9) これらの他にも,仲谷(2003),川脇(2005),海老池(2002),品田(1980)などに 先行研究を見出すことができる。

(10)吉岡(2011)は日本のホテル産業の特徴として,料飲宴会売上の占める割合の高さを 挙げている。 この点にも日米ホテル産業間に違いがあり,USALIが定着しない理由と いえるかもしれない。

さらに,ここにいうマネジメント・フィーについては,売上の2.5~4.5%と,利益の5~10%

の合計とされている(Eyster, 1988, 邦訳pp.26~27)(図表4-2)。

図表4-2: MCにおけるマネジメント・フィー

総収入のうち 営業総利益のうち 代 表 的 独 立 系 オ ペ レ ー タ ー 2.5%~3.5% + 5~8%

代表的チェーン・オペレーター 3%~4.5% + 10%

出典: Eyster (1988, 邦訳pp.26~27)より筆者作成

この売上および利益は,USALI に基づく計算(計上)方法によるのが一般的である。

すなわち,とくに利益についていえば,財務会計にいう営業利益や当期純利益といった 項目ではなく,USALI の定める「営業総利益」(あるいは「総営業利益」)(GOP; Gross Operational Profit) を用いるのが一般的である。

この点でUSALIは,必要不可欠な会計基準であるといえる。 すなわち,資産オーナー

とホテル企業がMCを締結する際,さらには,業績悪化に伴う契約解除の基準を定める際 に,USALIに基づく会計数値を用いるからである。

さらに USALI は,ホテルを構成する各部門(客室・料飲・賃料その他)の収支状況を

1 つの基準のもとに把握できるため,オーナー企業にとっては自社が所有するホテルの 比較を容易に行うことができるという点で,有用といえる。

なお,これらの経営形態を図示すると,図表4-3のとおりである。

図表4-3: ホテルの経営形態とリスク負担 リース契約 マネジメント契約

(MC)

フランチャイズ

(FC) 直営

不動産 資産オーナー 資産オーナー 資産オーナー 資産オーナー 損益の帰属 ホテル企業 資産オーナー 資産オーナー 資産オーナー 従業員 ホテル企業 資産オーナー 資産オーナー 資産オーナー 人事・運営権 ホテル企業 ホテル企業 資産オーナー 資産オーナー ブランド・ノウハウ ホテル企業 ホテル企業 ホテル企業 資産オーナー

例 ザ・リッツカー ルトン東京

パークハイ アット東京

フォーシーズ

ンズ椿山荘 帝国ホテル

出典: 並木他(2008, p.36)より筆者作成

日本においては,チェーン展開していないホテルに直営形態が多い。 しかし,グロー バル・メガ・チェーンと呼ばれるホテル企業では,いわゆる「持たざる経営」(つまり,

リース契約,MC,FC など)が多い。 一例として世界最大規模のインターコンチネンタ ル・ホテル・グループでは,直営以外の形態が全ホテルのうち99%以上(4,476軒のうち 16軒のみ;2010年3月31日現在)である(11)。 また,日本においては,鉄道企業や不動 産企業が資産オーナーであるケースが多くみられる。 たとえば,ザ・リッツ・カールトン 大阪は阪神電気鉄道が資産オーナーである。 このように,一概にホテルといっても,ホテ ル企業が資産を所有しているケースばかりではなく,そのため,資産オーナーとの間で様々 な契約が締結されることになる。

(2) ホテル業界の人材流動性

ホテル業界は,そこで働く人材の流動性(入職,離職)の割合が高いことで知られて いる。 厚生労働省の調査(平成21年雇用動向調査)によれば,入職については「宿泊業,

(11)大屋了三氏(IHG・ANA・ホテルグループジャパン 最高執行責任者 COO)の講演「激 動の時代-最近のホテル業界の動き-」(2010年7月28日。 主催:日本国際観光学 会「ツーリズム・フォーラム」事務局)より。

資産オーナー

ホテル企業 リスリスクク大大

リリススクク大大

飲食サービス業が121万人と最も多く」,「33.2%と最も高」いことが,また,離職につい ては「宿泊業,飲食サービス業が 117 万人」であり,「32.1%と最も高」いことが示され ている(厚生労働省, 2010)(図表4-4)。

図表4-4: 産業別入職率・離職率

出典: 厚生労働省(2010)をもとに筆者作成

この点に関連し五十嵐(2009, p.50)は,「人事に関して最も問題であると思われている ものは,日本ホテル協会加盟ホテル,全日本シティホテル連盟加盟ホテル共に,「優秀な 正社員の雇用確保が難しい」こと」,「それは,両団体加盟ホテル合計では4割を超える」

との調査結果を示している(12)