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第1章 国際財務報告基準(IFRS)に対応した会計戦略論の新たな指標値とその有用性

4. むすびにかえて

第1章では,製造業のサンプルとしてクボタとパナソニック,非製造業からはホスピタ リティ産業(30)の代表例ともいえるホテル産業のスターウッドとマリオットを例示してき た。 そして,業種業態の違いにかかわらず,本稿において提示した会計戦略論における 新たな指標値,すなわち,総資産利益剰余金・その他包括利益累積額,総資産利益剰余金・

その他包括利益累積額比率,算出による営業利益,総資産利益剰余金その他包括利益累積 額・営業利益比率が有用である,という点を示した。 特に近い将来において,日本にIFRS

(29) ただし,サンプルとして用いた企業が 4 社のみであり,業種業態も限定されているた め,どちらの指標値がより有意であると結論づけるのは難しい。

(30) 「ホスピタリティ産業」については,「サービス産業の中でも特にホスピタリティとい う補助的要素の強い産業群であり,製品の販売上において,重要な機能として直接顧 客と接することを行う産業である」(小沢, 1999, p.186)との定義がある。 また,「ホ スピタリティ」について力石(2004, p.12)は,「思いやり,心遣い,親切心,誠実な 心,心からのおもてなし,という意味があり」,「物事を心,気持ちで受け止め,心,

気持ちから行動に移すこと」としている。 この説明に基づくならば,ホスピタリティ 産業とは,“思いやり,心遣い,親切心,誠実な心,心からのおもてなしを要する産業,

物事を心,気持ちで受け止め,心,気持ちから行動に移すことを求められる産業”と いうことができる。

が導入される見通しとなっているが,これら指標値は IFRS に対応するべく設計されて いることから,今後も会計戦略論における KPI(Key Performance Indicator; 重要業績 評価指標)として活用することが可能である。

第 1 章ではまず,「会計戦略論」の先行研究をレビューし,経営戦略を駆使してある べき「目標短期収益力」の達成を可能とする企業体質を作り上げることが,「会計から考え た経営戦略,すなわち会計戦略論である」ことを確認した(碓氷, 2004a, p.22)。

ついで,会計戦略論における新たな指標値として,総資産利益剰余金・その他包括利益 累積額,総資産利益剰余金・その他包括利益累積額比率,算出による営業利益,総資産 利益剰余金その他包括利益累積額・営業利益比率を提示した。 IFRSと従来の日本におけ る会計基準との大きな相違点として包括利益があるが,この包括利益(および,その他の 包括利益,その他の包括利益累積額)を会計戦略論の指標値に取り込むことの意義を明確 にし,その視座において総資産利益剰余金・その他包括利益累積額と総資産利益剰余金・

その他包括利益累積額比率を定義した。 また,IFRSでは営業利益の表示が義務づけられ ていないことから,同項目の表示がない場合でも対応できるよう,算出による営業利益と 総資産利益剰余金その他包括利益累積額・営業利益比率を定義した。 さらに,この営業 利益が当該企業にとっての本業によって生み出される利益を表すことから,この項目に よって短期的な収益力を測るものとした。

これら新たな指標値については,従来の指標値,すなわち「長期収益力比率」,「短期 収益力」,「短期収益力比率」との比較検討するため,4 社の数値を掲載した。 これらの 検討により,各指標値の有用性をある程度は検証できたものと考える(31)

日本へのIFRSの導入は,金融庁(2009, p.13~16)によれば,その「任意適用の時期に ついては,IFRSの国際的な広まりを踏まえると,企業及び市場の競争力強化の観点から,

できるだけ早期に容認することが考えられ,具体的には 2010年3月期の年度の財務諸表 からIFRSの任意適用を認めることが適当」であるとされている(32)。 IFRSが日本にどの ような形で導入されるにせよ,企業会計における基準が新たなものとなるのであるから,

(31) 今後,さらなる検討と検証を要すると考える。

(32)「様々な考慮要素の状況次第で前後することがあり得ることに留意する必要があるが,

IFRSの強制適用の判断の時期については,とりあえず2012年を目途とすることが考 えられる」,「強制適用に当たっては,実務対応上必要な期間として,強制適用の判断 時期から少なくとも3年の準備期間が必要になるものと考えられる(すなわち2012年 に強制適用を判断する場合には,2015年又は2016年に適用開始)」とされている(金 融庁, 2009, p.13~16)。

その基準に適合した会計情報の活用方法が検討されなければならない。 その点で第 1 章 は,従来研究されてきた会計戦略論を,新たな基準である IFRS に適合させたことに,

その意義を見出しうると考える。

本章において提示した総資産利益剰余金・その他包括利益累積額,総資産利益剰余金・

その他包括利益累積額比率は,本稿全体のテーマである「ホスピタリティ戦略会計」にお いて,財務的な視点における重要な業績指標値である。 詳細については後述するが,ホテ ル産業において重要な役割を果たす“人”,また,“ホスピタリティ”に関する事柄に,多 大な影響を及ぼすからである。 (33)

参考資料

クボタ (2009a) 『ファクトブック 2009』.

クボタ (2009b) 『平成21年3月期 決算短信〔米国会計基準〕』.

松下電器産業 (2006) 『アニュアルレポート2006』.

パナソニック (2009a) 『アニュアルレポート2009』.

パナソニック (2009b) 『有価証券報告書』.

Kubota Corporation (2005~2009) FORM 20-F.

Marriott International Inc. (2004~2009) FORM 10-K.

Matsushita Electric Industrial Co., Ltd. (2005~8) FORM 20-F.

Panasonic Corporation (2009) FORM 20-F.

Starwood Hotel & Resorts Worldwide, Inc. (2004~9) FORM 10-K.

(33) 本章における研究の今後に向けた課題としては,包括利益とキャッシュ・フローとの 関連性についての研究が必要であろう。 たとえば,その他包括利益累積額が巨額のマ イナスで,それにより総資産がマイナスとなったとしても,キャッシュ・フロー計算 書には包括利益やその他包括利益累積額が影響を及ぼさないとすれば,事業を継続す ることに何ら支障はないといえるかもしれない。

章末資料:

日本のホテル企業の「長期収益力比率」と総資産利益剰余金・その他包括利益累積額比率

図表1-29: カラカミ観光の「長期収益力比率」と

総資産利益剰余金・その他包括利益累積額比率(グラフ)

出典:カラカミ観光(2007; 2008; 2009; 2010; 2011)より筆者作成

図表1-30: 東海観光の「長期収益力比率」と

総資産利益剰余金・その他包括利益累積額比率(グラフ)

出典:東海観光(2007; 2008; 2009; 2010; 2011)より筆者作成

図表1-31: ホテルニューグランドの「長期収益力比率」と 総資産利益剰余金・その他包括利益累積額比率(グラフ)

出典:ホテルニューグランド(2008; 2009; 2010; 2011; 2012)より筆者作成

図表1-32: ロイヤルホテルの「長期収益力比率」と

総資産利益剰余金・その他包括利益累積額比率(グラフ)

出典:ロイヤルホテル(2007; 2008; 2009; 2010; 2011)より筆者作成

図表1-33: 京都ホテルの「長期収益力比率」と 総資産利益剰余金・その他包括利益累積額比率(グラフ)

出典:京都ホテル(2007; 2008; 2009; 2010; 2011)より筆者作成

図表1-34: 帝国ホテルの「長期収益力比率」と

総資産利益剰余金・その他包括利益累積額比率(グラフ)

出典:帝国ホテル(2007; 2008; 2009; 2010; 2011)より筆者作成

図表1-35: 鴨川グランドホテルの「長期収益力比率」と 総資産利益剰余金・その他包括利益累積額比率(グラフ)

出典:鴨川グランドホテル(2007; 2008; 2009; 2010; 2011)より筆者作成

図表1-36: 藤田観光の「長期収益力比率」と

総資産利益剰余金・その他包括利益累積額比率(グラフ)

出典:藤田観光(2007; 2008; 2009; 2010; 2011)より筆者作成

章末資料の参考資料

藤田観光 (2007~2011) 『有価証券報告書』.

ホテルニューグランド (2008~2012) 『有価証券報告書』.

鴨川グランドホテル (2007~2011) 『有価証券報告書』.

カラカミ観光 (2007~2011) 『有価証券報告書』.

京都ホテル (2007~2011) 『有価証券報告書』.

帝国ホテル (2007~2011) 『有価証券報告書』.

東海観光 (2007~2011) 『有価証券報告書』.

ロイヤルホテル (2007~2011) 『有価証券報告書』.