第 3 章 個別化医療進展に向けた課題
3.1. バイオバンク
3.1.2. バイオバンクの現状
次に、世界におけるバイオバンクの現状を概観する。ここでは、世界の主要バイオバン ク100 件62)をリストアップし、その内容について調査した。図3-2には、国別のバイオバ ンク数を示す。バイオバンク数が最も多い国は英国(15件)で、次いで多いのは米国(14 件)であった。また、全体の7割にあたるバイオバンクが欧州に存在し、特に北欧諸国(ス
61) OECD, Glossary of statistical terms, Definition(http://stats.oecd.org/glossary/detail.asp?ID=7220)。
62) P3G (Public Population Project in Genomics)に登録されたバイオバンクのうち必要な情報が揃う94件に加 え、”Biobanks in Europe: Prospects for Harmonisation and Networking” (EC/JRC, 2010)等を参考に6件を選定 し100件とした。
コホート研究(追跡調査研究)
バイオバンク 追跡調査
(現在→ 未来)
環境要因・生活習慣等で群分け
(例:食事内容、運動習慣、喫煙…)
疾病発症率調査 ゲノム情報
(ゲノム・コホート)
オミックス情報
(分子疫学コホート)
追跡調査
(過去→現在→未来)
患者
「原因」で集団を分ける
ケース・コントロール研究(症例対象研究)
原因調査
(過去← 現在)
患者
健常者 患者
健常者
患者群、費患者群で群分け 危険因子の同定
(例:肥満、高血圧、高脂血症…)
疾患関連遺伝子
等 ゲノム情報
「結果」で集団を分ける
52
ウェーデン12件、ノルウェー7件、フィンランド5件、デンマーク4件)に多くのバイオ バンクが見られた。中でもスウェーデンは、英国や米国に次いで第3位のバイオバンク数 を示した。スウェーデンでは、古くからヒト由来試料が研究資源として保存されていた。
また、個人識別システム(個人識別番号)や健康情報登録制度など、バイオバンクに必要 な社会基盤が整備されており63)、これらがバイオバンクの設立を促した一因と考えられる。
なお、日本の2件は多目的コホート研究とバイオバンク・ジャパンであった。
図 3-2 国別にみたバイオバンク数
注:複数国が関与するバイオバンクは重複してカウントした。
出所:Public Population Project in Genomics (P3G)のWebサイト、Biobanks in Europe: Prospects for Harmonisation and Networking, European Commission-Joint Research Centre (2010)及び関連文献をもとに作成(2012年5月現在)。
出典:政策研ニュースNo.36「バイオバンクの現状と展望」、医薬産業政策研究所(2012年7月発行)。
図3-3は、バイオバンクの設立数を年代別に示したものである。1970年以前に設立され たバイオバンクは3件で、最も古いものは1948年に設立された米国のFramingham Heart
Studyだった。1980年代に入るとバイオバンクの設立数は 19 件と急速に増加し、ゲノム
医科学研究が本格化した2000年代には43件に達している。
図3-4にはスポンサー別のバイオバンク数を示す。バイオバンクのスポンサーとしては、
政府や国公立研究機関などが 60%以上を占め、非営利団体などの公益法人と大学または病 院によるバイオバンクがそれぞれ16~17%を占めた。また、民間企業が単独でスポンサー となっているバイオバンクは、アイスランドのIcelandic Biobank(deCODE)のみであっ た。
図3-5に示すバイオバンクの参加者数を見ると、1万~10万人が約6割、10万~100万 人が約3割を占め、参加者数100万人を超えるバイオバンクが2件存在した(英国Million Women Study:130万人、米国Million Veterans Program:100万人)。
63) 増井徹、「スウェーデンのバイオバンク」、科学研究費補助金(基盤(B))「生命科学・医学の発展に対 応した社会規範形成-生命倫理基本法の構築」班長:位田隆一 分担研究報告書(平成18年度)。
1514 12
9 8 8 7 6 6
5 5 4
3 2 2 2 2 2 2
1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1
英国 米国 スウェーデン フランス イタリア オランダ ノルウェー オーストラリア カナダ フィンランド ドイツ デンマーク 中国 日本 ニュージーランド ポーランド ロシア スロベニア スペイン オーストリア ベルギー チェコ クロアチア エストニア アイスランド イラン ラトビア リトアニア マレーシア メキシコ ルーマニア サウジアラビア シンガポール 台湾 ウクライナ
53
図 3-3 設立年代別バイオバンク数
注:100件のうち開始年度不明のバイオバンク1件と2011年以降に開始されたバイオバンク1件は含まない。
出所・出典:図3-2に同じ。
図 3-4 スポンサー別バイオバンク
注:複数のスポンサーが関与するバイオバンクについては重複してカウントした。
出所・出典:図3-2に同じ。
1 1 1 3
19 30
43
0 10 20 30 40 50
バイオバンク数
(件数)
公益法人 17%
大学/病院 16%
企業 2%
その他 2%
政府・公的機関
63%
54
図 3-5 バイオバンクの規模
注:参加者数は原則として予定数または最終目標数を示した。
出所・出典:図3-2に同じ。
図 3-6「試料」 「情報」の種類
注1:「血液・体液 他」は血液・唾液・尿・臍帯血・口腔細胞・毛髪・爪などを含む。「血液・組織 他」は上記に加え て脂肪組織・脳組織・がん病変組織などを含む。ただし、各バイオバンクがそれぞれ全ての試料を含むわけではな い。
注2:「環境」は居住地・教育歴・出生国・家族構成・生活習慣などの情報、「医療」は身体所見・病歴・診療録などの
情報、「家系」は家系図情報を含む。ただし、各バイオバンクがそれぞれ全ての情報を含むわけではない。
出所・出典:図3-2に同じ。
3 2
27
57 11
制限なし 100万人 以上 10万~100万人 未満 1万~10万人 未満 1万人 未満
( 参加者数)
血液 のみ 血液+体液 血液+組織 そ の他
35 43 16 6
+他 +他
<試料>
環境 医 療
環境+医療 環境+医療 +家系
14 4 67 15
<情報>
55
図3-6には、「試料」及び「情報」について種類別にバイオバンク数を示す。「試料」に関 しては、血液のみを収集するバイオバンクが35件、血液に加えて他の体液(唾液・尿・臍 帯血)と口腔細胞・毛髪・爪などを収集するバイオバンクが43件であった。さらに、これ らの「試料」に加えて脂肪組織・脳組織・がん病変組織などの体組織を収集するバイオバ ンクが 16 件であった。「情報」に関しては、環境情報(居住地・教育歴・出生国・家族構 成・生活習慣等)および医療情報(身体所見・病歴・診療録等)をあわせて取得するバイ オバンクが約7割(67件)を占め、これらに加えて家系情報を収集するバイオバンクが15 件であった。
図3-7には、「試料」及び「情報」の継続的収集を設定しているバイオバンク数を示す。
約7割のバイオバンクで、「試料」または「情報」のいずれかまたは両方について収集のフ ォローアップが計画されている。表3-1は、バイオバンクで保管・管理されている「試料」
及び「情報」について、外部研究者への提供の可能性を示したものである。アカデミア研 究者に対しては77件のバイオバンクで「情報」の提供を認めており(うち71件は「試料」
提供可)、企業研究者に対しては61件のバイオバンクが提供を認めていた(うち55件は「試 料」提供可)。ただし、提供にあたっては、ほとんどの場合、各バイオバンク独自の審査な どの条件が設定されている。
図 3-7「試料」 「情報」のフォローアップ
出所・出典:図3-2に同じ。
情報
30
試料
2
情報& 試料
37
追跡収集なし
31
56
表 3-1 外部研究者への提供
注:( )は情報に加えて試料を提供可能なバイオバンク数。
出所・出典:図3-2に同じ。