高村 静
1 問題意識
交際への移行と結婚への移行では、意思決定に影響を及ぼす要因が異なることが明ら かになりつつあり、未婚状態から結婚状態への移行を検討する際、異性との交際に移行 する過程と、交際から結婚に移行する過程とを区分して検討することが、そのメカニズ ムをよく説明するうえで有益であると考えられる。例えば、男性の結婚への移行には収 入が影響を及ぼすことが指摘されているが、それは異性との交際に移行する過程におい てよりも、交際から結婚へ移行する過程において、強い影響があるとされている。
本稿は若い世代の交際から結婚への移行に焦点を当て、これまであまり検討されるこ とのなかった個人が有する社会関係性が結婚の意思決定にどのような影響を与えるの かについて検討を行う。なおこの際、次の2点を考慮に入れる。まず若い世代の地域間 異動に関する意向や実際の地域移動の経験と社会関係性との関連を考える。若年層の地 域間異動については、若者が地方から大都市に流出することで地方は消滅の危機にある、
という指摘から、地元に定着して早く結婚し、所得にかかわらず地元の友人関係の中で ハッピーに暮らしている、というとらえ方まで幅広い。実際にはそのどちらもが観察さ れる現象であろうが、それぞれの社会関係性とその可動性、結婚への影響について状況 把握を試みたい。
続いて3年前の交際時点におけるカップルの雇用形態や所得の組合せにより、結婚に 対して社会関係資本が及ぼす影響が異なるのかという点についても検討したい。初婚の タイプ別に発生率を推計した岩澤[2013]によれば、我が国の結婚は全体として発生率を 低めながら、質の変化も伴っている。見合いによる結婚や職縁結婚など発生率が低下し た失われつつある結婚のタイプがある一方で、夫あるいは妻が非正規雇用の結婚、夫あ るいは妻が専門職の結婚、夫が長男の妻方同居婚などが発生率を高めているという。ま た発生率の高まりは見られないものの、構成比を高めている結婚のタイプとして妻の方 が年齢や学歴等が高い結婚、友人の紹介による友縁婚などがある。これら今日的とされ る結婚の特徴は、夫が安定的な稼ぎ手であることを必ずしも前提としないことや共働き を前提とすることなどに共通点が見いだせるが、依然として男性稼ぎ手モデルの性別役 割分業観が根強い我が国で、このような新しいタイプの交際をする人が、結婚に移行す ることをためらうケースも多いであろうこともまた推測される。
男性の収入の水準や安定性、またカップルでの組み合わせが幅広い範囲で結婚への移 行要因と認知されるなか、それ以外の結婚を決める要因にはどのようなものがあるか、
この課題について社会的関係性の豊かさや生活スキルをそれに代わる要因として中心 的に検討することが本稿の目的である。
2 先行研究
結婚と社会経済的地位(学齢、収入、職業、従業上の地位などが)との関係について はこれまでに多くの研究がなされ、特に男性において経済的側面(収入や従業上の地位)
が結婚に大きな影響を与えることについて多くの指摘がなされている(例えば永瀬 [2002]、酒井・樋口[2005]、佐々木[2012]、高村[2015]など)。両者の関係性について近 年では、①交際なしから交際ありへの移行、②交際ありから結婚への移行と、結婚に至 るプロセスを区分し検討する研究が行われている。たとえば永島[2015]は、男性につい て前述①②のプロセスを明確に区分して収入の影響を検討しているが、収入が影響を与 えるのは交際ありから結婚へのプロセスにおいてであり、交際なしから交際ありへの移 行に関しては、収入は有意な影響を持たないとしている。
出生動向基本調査(国立行政法人社会保障・人口問題研究所)によると、過去20年 ほどの間に平均初婚年齢については夫・妻ともに上昇が見られる一方で、出会いの平均 年齢にはほとんど変化が見られない。例えば平均初婚年齢は夫が1987 年に 28.2 歳で あったものが2010年には29.8歳へと23年間で1.6歳、妻は同様に25.3歳から28.5 歳へと3.2歳の上昇が見られるが、出会いの平均年齢は男性が1987年25.7歳、2010 年25.6歳とほとんど変化はみられない。女性についても同 22.7歳が24.3歳へと上昇 はしているものの、結婚年齢の上昇の程度ほどの差は見られない。このことはすなわち 交際期間の長期化傾向を示しており、事実、結婚までの平均交際期間は1987年の2.54 年から2010年の4.26年まで23年間で70%ほど長期化している。このことは交際から 結婚への移行が難しくなっていることを表しているものと考えられ、交際から結婚への 意思決定を規定する要因については、さらに検討される必要がある。この際、前述のよ うに男性の経済社会的地位が大きな規定要因である点について疑問を持つ余地は少な く、若年の雇用環境の改善は当然に求められるが、一方でそれ以外の、ポジティブに意 思決定を後押しする要因も合わせて検討されることが、結婚を望む人の結婚への移行を 後押しするうえで必要であろう。
岩澤[2013]は、1970 年以降一貫して進む日本の未婚化の流れの中で起こっているの
は、量的な縮小だけでなく質的な変化でもあると指摘する。岩澤[2013]によれば全体と しては婚姻率が低下するなかで比率を高めているのは次のような結婚である。①友人か らの紹介など個人的ネットワークによる出会いの結婚、②年齢や学歴が妻の方が高い結 婚、③夫が安定的な稼ぎ手であることを必ずしも前提としない結婚(夫・妻が非正規雇 用の結婚、夫・妻が専門職の結婚)、④同棲を経ての結婚、⑤夫が長男であっても夫の 親と同居しない・もしくは妻方の親と同居する結婚、などである。これらは戦後典型的 とされた日本的家族モデルを形成する結婚(①見合いや職場で出会った結婚、②年齢や 学歴が夫の方が高い結婚、③夫が安定的な稼ぎ手・片働きの性別役割分業型の結婚、④ 結婚により共棲を始める結婚、⑤長男の場合夫方の親と同居し直系家族世帯を形成する 結婚)の減少と背中合わせに生じている。すなわち従来の価値観の枠組みでとらえられ
観を持つ者、豊かな社会的関係性を持つ者などが結婚に移行する可能性が高い可能性が 考えられる。
豊かな社会的関係性(social connectedness)とはここでは社会的結合を通じて利用 できる資源(Coleman[1988]、Lin[2001])あるいは外部経済である社会関係資本(social
capital)を構成する基礎的な単位で、個人に蓄積されるものと定義する。個人の社会的
な活動や人との繋がりにより形成されるが、社会生活を送る上でのスキル(Putnam et
al.[2012])、あるいは自分以外の人やものに対する基本的な態度・信頼度としてもとら
える。社会的活動や人とのつながりは、紐帯(繋がり)をもつ人の量としてとらえられ
(Aldrich(若林訳,[2007]))、態度・信頼は社会の構成員としての貢献、社会的信頼、親 族などと過ごす時間、到達した教育水準、などの総体としてとらえられる (Putnam et al.[2012])。Putnam et al.[2012]によれば、これらの社会的な関係性は、(カトリック)
教会での活動やボーイスカウト・ガールスカウトの活動への参加、近隣で子どもに関心 を持ちあう関係など居住する社会によって提供されるものもあれば、親が帯同して課外 活動に参加すること、例えばサッカーやバレエの練習に行くことや図書館など文化的施 設に行くことなど、親の関与によって提供されるものがある。近年、社会による対人関 係性の提供が細る一方で、親による関与の度合いが増し、特に社会経済的地位のある親 によるこれらの提供の厚みが増すことが、世代を超えた社会階層の固定化の1つの要因 である可能性が指摘されている(Putnam et al.[2012])。
こうした社会的関係性と結婚の影響については例えば高村[2015]は、両親との良好な 関係や幅広い人間関係のあること、地域に十分な保育サービスの提供があることが未婚 男女の結婚意欲(いずれ結婚するつもりとの意識)や出生意欲(子どもを1人以上ほし いとの意識)を高める可能性が高いと指摘している。ただし、この指摘は交際相手の有 無等にかかわらず未婚者全般の意欲を対象にした分析であり、実際の結婚への移行に関 する意思決定にどれほど影響をもつのかについては明らかにされてはいない。
岩澤[2013]が指摘するいわゆる新しいタイプの結婚の(相対的)増加は、兄弟数の減
少による長男長女の増加、雇用情勢の変化や女性の就業者の増加など、社会変化を反映 している側面もある一方で、個人の価値観の変化を反映している側面もあると考えられ る。特に若年者の結婚に対する意識については2極化が指摘されることがある。例えば 結婚・出産に関して田中[2015]は未婚女性のうち若いコーホートでは(1970 年代後半 生まれに比べ、1980 年代後半生まれの方が)結婚に対する希望の強さやほしい子ども の数にばらつきが見られることを指摘し、コーホート内での希望の在り方に差がみられ る傾向を指摘している。以上の点を踏まえ、ここでは3年前に交際相手がいた一定の年 齢層の男女を対象に、結婚への移行を規定する要因について分析を進めることとする。
また交際・結婚の各類型については、これまでも検討されてきた社会経済的地位に加え、
個人の社会関係性との関連性、居住地や居住地の移動の影響についても検討することと する。