―男女による高まり方の違いと問題―
高見 具広
1 問題意識
本稿では、20代未婚者における交際相手との結婚意欲を問題にする。そして、結婚意欲 が何によって喚起・左右されるか、その男女差に焦点を当てて検討するとともに、カップ ルの結婚決定にあたって男女の結婚意欲がどう問題なのかについて考察する。
現代の少子化の要因のひとつに、平均初婚年齢の上昇に表される晩婚化の進行がある6。 そして、晩婚化の背景には、未婚カップルにおける交際期間の長期化も関係しよう。例え ば、国立社会保障・人口問題研究所「第 14 回出生動向基本調査」(2010 年)によると、
夫妻が出会ってから結婚するまでの平均交際期間は4.26年と、1987年(2.54年)に比べ
て 1.72 年長くなっている。交際期間の長期化は平均初婚年齢を押し上げている一因とい
える。
では、なぜ交際相手がいるにも関わらず結婚に進まないのか。カップルにおける結婚の 決定が、男女双方の結婚意欲が高い次元で釣り合うことで実現するものと考えるならば 7、 結婚決定の遅れには結婚意欲が鈍いことこそが問題となる。
といっても、現代の若者に結婚自体への関心がないのかというと、そうではない。前述 の「出生動向基本調査」を基にするならば、「いずれ結婚するつもり」という意味での意欲
(未婚者の生涯の結婚意思)は依然高い水準にある 8。にもかかわらず結婚が進まない背 景には、出会いの機会に原因を求められる部分もあるが 9、交際相手がいる者でも、様々 な理由による結婚の「先延ばし」意識があり、それが交際期間の長期化や晩婚化をもたら していると考えられる。そうすると、交際相手がいる者においては、「いずれは結婚を」と 考えているか否かよりも、どういう場合に「近いうちに結婚したい」という意欲を持つ(持 てる)のかを議論する必要がある。特に、平均初婚年齢が30歳頃となる中、20代の者が、
交際相手がいるにもかかわらず結婚を躊躇する背景には何があるのか。どうすれば結婚意 欲を喚起できるのか。本稿は、こうした問題関心から、20代未婚者における交際相手との 結婚意欲を問う。
6 厚生労働省「平成27年人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、平成27年の平均初婚年齢 は、夫31.1歳、妻29.4歳であり、平成7年における夫28.5歳、妻26.3歳と比べて約3歳上昇している。
もっとも、交際開始のタイミングが遅くなっていることも平均初婚年齢の上昇に関係することが、同調査 からうかがえる。
7 妊娠先行型の結婚など、場合によっては結婚意欲の高まりを伴わずに、特定のきっかけで結婚が決まる 場合もあるが、本稿では議論しない。
8 「平成25年版厚生労働白書」を参照。2010年調査において、「いずれ結婚するつもり」(男性84.8%、 女性87.7%)は、「一生結婚するつもりはない」(男性10.4%、女性8.0%)に比べて、大きな割合を占め る。時系列的にみると、「いずれ結婚するつもり」の割合はやや小さくなっているものの、多数派である ことに変わりはない。
9 岩澤・三田(2005)など参照。
では、何が未婚者の結婚意欲を左右するのだろうか。山田(2007)は、若者が結婚に進 まなくなった要因として、経済的要因、男女交際に関する社会的要因を挙げる。経済的要 因については、若者が稼ぎ出せる収入水準が低下する一方、結婚や子育てに期待する生活 水準が上昇して高止まりしていると論じる。なお、この期待水準の上昇には、未婚者が親 と同居して結婚を先延ばしできるという状況も関係する10。また、男女交際に関する社会 的要因については、結婚しなくても男女交際を深めることが可能になったという意識変化、
および男女の交際機会の拡大にともなう魅力格差の拡大を挙げる。特に「恋愛と結婚の分 離」の中、交際相手のいる未婚者にとって「結婚のメリット、デメリット」といった「結 婚する理由」を考慮する必要が生じるようになったことを、未婚化の背景として論じる。
量的な実証研究の知見も、山田の議論と整合する部分が多い11。まず、仕事の状況につ いて、非正規雇用の男性は結婚意欲が低いなど、特に男性において結婚意欲を大きく左右 する12。加えて、親との同居の有無13、交際相手との同棲など14、生活環境の影響が検証 されてきた。さらに、周囲からの影響については、友人関係の影響15、職場での異性ネッ トワーク有無による違いが検討されてきた16。
本稿では、こうした既存研究をふまえつつ、データの特性を生かし、「交際相手のいる 20代未婚者」にフォーカスし、現在の交際相手との結婚意欲を問う。このように対象を限 定する理由は、結婚意欲の高低がもつ意味が、対象とする未婚者の年齢層、また交際相手 の有無によって大きく異なりうるからだ。まず、結婚意欲の有無は、分析対象とする年齢 層によって意味合いが多分に異なろう。未婚者が多数を占める若年層に対象を限定するこ とで、どういう者が「結婚はまだ先でいい」「結婚するかわからない」と考え、どういう者 が「近いうちに結婚したい」と考えるのかの知見を得ることが可能となる17。加えて、交 際相手がいる者といない者とでは、結婚意欲の意味合いが当然異なろう。本稿では、「交際 相手のいる 20 代未婚者」について十分な分析サンプルが確保できるというデータの特長 を活かし、結婚意欲の高まり方が男女で大きく異なり、それがカップルの結婚決定におい
10 山田は、学卒後もなお、親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者を「パラサイト・シ ングル」と呼び、未婚化・少子化の大きな背景と位置づけている。山田(1999)も参照。
11 ここで挙げる先行研究は、必ずしも本章の対象とする、交際相手のいる者、20代の者に限った知見で はない。
12 永瀬(2002)は、男女とも非正規雇用の者ほど、結婚に利益があると感じない傾向があり、その背景 として、特に男性では、低所得であることが関係することを検証している。
13 菅(2011)によると、親との同居は結婚の阻害要因になる。
14 不破(2010)によると、交際相手と同棲している場合、同棲していない場合と比べて結婚意欲が高い とはいえない。
15 釜野(2008)、野沢(2005)など参照。
16 職場の異性ネットワークによる違いについては、内閣府経済社会総合研究所(2015)参照。
17 これに対して、未婚者割合が相対的に少なくなる30代後半~40代層を対象とするならば、結婚意欲 が高いことは「意欲が高いけれど結婚して(できて)いない状態」をも含意しうるなど、20代未婚者を 対象としたときとは結婚意欲が異なる意味をもとう。なお、未婚者のみを対象として結婚意欲を検討する 際には、結婚意欲の高い者ほど結婚し、未婚者の母集団から抜けやすいことからくるセレクションバイア スに注意が必要である。この点からも、多くの男女が既婚者となる30代以降においては結果の解釈に困 難を伴うため、未婚者が多数派を占める20代に対象を限定したものである。
てどう問題なのかについて検討したい 18。データは、内閣府経済社会総合研究所が 2016 年に実施した「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票データを用いる。
2 結婚意欲はどう問題なのか
交際相手のいる20代の未婚男女の結婚意欲は、カップルの結婚決定においてどう問題 なのか。まず、個々の結婚意欲が結婚決定プロセスにおいてきわめて重要な要素であるこ とから確認しよう。本データから、3年前時点での交際相手との結婚意欲別に、その後の カップルの結婚・別離の有無をみると19(図1)、男女とも、3年前時点で「近いうちに結 婚したいと考えていた」者では、結婚(予定含む20)の割合が大きく、結婚意欲が低かっ た場合ほど、その後の別離の割合が高い。男女個々の結婚意欲は、カップルの結婚・別離 を大きく左右する要素と言えるだろう21。
18 もっとも、本調査の設計(「3年前に未婚で交際相手のいた者」を対象)にともなう未婚者サンプルの 偏りもあろう。
19本調査は、3年前時点で交際相手のいた未婚者を調査対象にしており、その当時の状況とその後の結婚 決定プロセスとの関係を検討できるというメリットがある。なお、図1では、3年前時点で20代だった 男女を対象とし、3年前時点の結婚意欲と、その後の結婚決定有無との関係を検討している。
20 調査票では、「結婚の予定」とは、「家族の承諾や周囲への公表等を行っている場合に限らず、お互い の意思を確認し、結婚の合意がある場合」としている。つまり、本人の結婚意欲だけでなく、相互の意思 決定であることが大事な要件である。
21 もっとも、本図での結婚意欲は、3年前時点の意欲について回顧式に尋ねたものであり、その後のカ ップルの状況を反映したバイアスがある可能性を否定できない。
62.7%
40.5%
13.2%
5.1%
73.8%
57.8%
32.9%
14.3%
6.4%
14.7%
17.9%
10.8%
4.4%
9.6%
15.5%
12.0%
30.9%
44.7%
68.9%
84.1%
21.8%
32.7%
51.6%
73.7%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
▼男性 近いうちに結婚したいと考えていた 将来的には結婚を考えていた 結婚するかどうかはわからなかった 結婚しないだろうと考えていた
▼女性 近いうちに結婚したいと考えていた 将来的には結婚を考えていた 結婚するかどうかはわからなかった 結婚しないだろうと考えていた
図1 3年前の交際相手との結婚・別離の有無
―男女別・3年前時点での結婚意欲別―
(3年前時点で20代の男女)
結婚(予定含む) 交際継続 別離