本章においては、第5章で行った個人情報に対する慰謝料としての受入補償額に対する 分析結果をさらに検証するため、第6章のアンケート調査と同時に実施した調査から得ら れたデータを用いて、CVMによりWTA推定を行う。7.1節において抵抗回答について 説明した上で、7.2節で実証分析を行い、7.3節で受入補償額の推定結果を示す。
なお、アンケート実施において回答者に提示した金額は、第6章の表6-3のとおりで ある。
7.1 抵抗回答
抵抗回答と除外した回答数を表7-1に示す。
一方、反対理由のうち「慰謝料としての金額が少なすぎる」、「慰謝料はいくら多くも らっても満足できない」、「金額の問題でない」は、たとえシナリオを変更しても回答が 変更する可能性がないため、通常の支払拒否回答とみなした。その結果、分析対象とした 回答数は表7-2のとおりである。
表7-1 抵抗回答
医療 金融
基本 身体
情報 情報
抵抗回答 情報 情報
質問の意味がわからない 9 11 19 7
情報漏洩については気にならないから、慰謝料はいらない 3 7 4 3 妥当な金額がわからない、金額の算出根拠がわからない 0 4 1 1
3 1 4 1
事業者が漏洩しないようにすべき、事業者の対策を示すべき
漏洩した情報の内容や被害による 7 7 5 0
その他 7 3 3 0
計 29 33 36 12
表7-2 分析対象データ
種別 回収数 抵抗回答 % 分析対象数
基本情報 538 29 5.4 509
医療情報 538 33 6.1 505
金融情報 532 36 6.8 496
身体情報 539 12 2.2 527
7.2 実証分析
全有効回答について得られた回答パターンをCVM.xlsに代入し、ランダム効用モデル に基づいた対数線形ロジット分析による推定を行った[1]。個人情報別に、推定した結果、
および図7-1~7-4に受諾率分布と受諾率曲線に示す。いずれも1%水準有意であ った。
(1) 基本情報
変数 係数 t値 p値
constant -2.975 -3.025 0.003***
ln(Bid) 0.267 3.118 0.002***
n 509 対数尤度 -346.646
(****1%水準有意)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
280,000 250,000 220,000 190,000 160,000 130,000 100,000 70,000 40,000 10,000
YES NO
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
0 10,000
40,000 70,000
100,000 130,000
160,000 190,000
220,000 250,000
280,000
図7-1 受諾率分布および受諾率曲線(基本情報)
(2) 身体情報
変数 係数 t値 p値
constant -6.071 -4.539 0.000***
ln(Bid) 0.491 4.492 0.000***
n 527 対数尤度 -353.602
(****1%水準有意)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
470,000 420,000 370,000 320,000 270,000 220,000 170,000 120,000
YES NO
70,000 000 20,
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
\0 20,000
70,000 120,000
170,000 220,000
270,000 320,000
370,000 420,000
470,000
図7-2 受諾率分布および受諾率曲線(身体情報)
(3)医療情報
変数 係数 t値 p値
constant -4.517 -4.184 0.000***
ln(Bid) 0.356 4.329 0.000***
n 505 対数尤度 -338.928
(****1%水準有意)
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
0 30,000
180,000 330,000
480,000 630,000
780,000 930,000
1,080,000 1,230,000
1,380,000
0% 20% 40% 60% 80% 100%
1,380,000 1,230,000 1,080,000 930,000 780,000 630,000 480,000 330,000 180,000 30,000
YES NO
図7-3 受諾率分布および受諾率曲線(医療情報)
(4)金融情報
変数 係数 t値 p値
constant -5.348 -6.082 0.000***
ln(Bid) 0.461 6.834 0.000***
n 496 対数尤度 -294.812
(****1%水準有意)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
1,540,000 1,370,000 1,200,000 1,030,000 860,000 690,000 520,000 350,000 180,000 10,000
YES NO
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
0 10,000
180,000 350,000
520,000 690,000
860,000 1,030,000
1,200,000 1,370,000
1,540,000
図7-4 受諾率分布および受諾率曲線(金融情報)
7.3 受入補償額推定結果のまとめ
表7-3に推定したWTA推定額を示す。中央値は半数の回答者がYESと答え、残りの 半数がNOと答える提示額に相当し、平均値は受諾率曲線の上側の面積をもとに計算する ものである。平均値は、WTAの場合膨大な金額が算出されることから、最大提示額で裾 切りを行った。
また、表7-4に受諾率によるWTA推定額を示す。受諾率50%が中央値に当たる。
基本情報の提示額は10,000円から280,000円であることから、およそ60%タイルが最大 提示額に近い金額となっている。身体情報の提示額は20,000円から470,000円であり、58% タイルが最大提示額に近い金額である。医療情報の提示額は30,000円から1,380,000円で、
62%タイルが最大提示額に近い。最後に、金融情報の提示額は10,000円から1,540,000円 であり、77%タイルが最大提示額に近い金額となっている。
本分析から導出された推定値については、第5章の結果と合わせて、次章で考察を行う。
表7-3 WTA推定値
(円)
種別 平均値 中央値
基本情報 147,022 63,552
身体情報 219,546 235,410
医療情報 742,653 329,123
金融情報 1,040,650 108,704
表7-4 受諾率によるWTA推定額
(円)
受諾率 種別
50% 58% 60% 62% 70% 77%
基本情報 63,552 269,511 1,301,061 身体情報 235,410 454,387 537,768 1,322,965
医療情報 329,123 1,029,424 1,304,049 3,566,575
金融情報 108,704 261,855 682,532 1,493,069
脚 注
[1] モデルは、栗山「EXCELでできるCVM」(2007)を利用した。