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6.2.1 2 次元での主成分分析

6.3 脳波から筋活動推定の実験

6.3.2 信号の処理手順

信号の処理の流れを図6.9に示す.本実験ではオフラインで筋活動推定を行い,

計測した脳波(Raw EEG)を256点の窓幅(256 msec),50%のオーバーラップで 高速フーリエ変換(FFT)を行い,7-30 Hzのパワースペクトルを算出した.これ により,128msecごとに各周波数帯域のパワースペクトルを得ることができ,周 波数分離することで体動などの影響で発生する低周波領域(5 Hz以下)のノイズ や生体アンプでの電源ノイズ(50 Hz)を分離することが出来る.脳波は各計測点

(C3,F3,C4,F4)のµ波帯域(8-13 Hz)とβ波帯域(13-30 Hz)の低周波領域を含

んだ7-30 Hzのパワースペクトルを入力信号とした.

本実験では,脳波パワースペクトルと肘関節のAdmittanceモデルから得られた 推定筋活動vˆemgを用いて,PCAで窓幅4096 msecの50%のオーバーラップ(;0.5

Hz)に脳波-筋活動モデルの生成を行う.ここで,モデルの生成の窓幅を4096 msec

にするのは,肘関節を伸ばした状態から90度屈曲状態までの脳波と筋活動および 関節トルクの変化をモデルに反映させるためである.次に,入力信号の脳波と筋活 動は変化の特性が時変であると考えられるため,モデルの更新が必要となる.今 回,各計測点(C3,F3,C4,F4)のパワースペクトルから推定された筋活動vˆemg と,被験者の肘関節の角度から推定された筋活動vemgと比較し,RLSを用いてパ ラメータを更新し,筋活動を推定していく.また,結果の比較のために計測され た筋活動vemgは整流平滑化(20点の移動平均+0.7 Hzの一次ローパスフィルタ)

を行い,推定された筋活動vˆemgもローパスフィルタ(5点(窓幅640msec)の移 動平均)を用いて平滑化し,その相関係数による評価を行う.

RLS

Estimated EMG EEG-EMG

Model Raw EEG

angle,

Admittance model of Human arm

Driving signal EMG angular velocity,

νemg

νemg

ε

angular acceleration

PCA Window width: 4096msec

every 2048msec ( 0.5Hz)

Short Time FFT Window width 256msec Overlap: 50%

Power Spectrum of EEG 7-30Hz

Average Rectified Value

EMG Correlation coefficient

evaluation Moving Average 5 points (640msec) Estimation

Evaluation

Moving average 20 point + Low pass filter 0.7Hz

図 6.9: 筋活動推定のための信号処理手順

6.3.3 推定結果および考察

提案した手法を確認するため,被験者3人での検証実験を行った.被験者Aが 1試行の肘の屈伸運動を行った時の筋活動推定結果を図6.10に示す.ここで,実 線(青線)は計測された筋活動,破線(赤線)は脳波から推定された筋活動を表わ している.計測された筋活動が大きく増加する瞬間から被験者Aは肘の屈曲運動

(Flexion)をし始め,一定時間の維持運動(Keeping)を行った後,筋活動が大きく

降下するタイミングに伸展運動(Extension)をしている.この屈曲運動から伸展運 動までの区間を運動状態(Motion)とし,それ以外の区間を安静状態(Rest)と した.この図から,推定された筋活動は計測された筋活動が大きくなると共に上 がり,逆に小さくなると下がっていることが分かり,相関係数rは0.94となった.

また,被験者Aはこの1試行の肘の屈伸運動を10試行行い,その相関係数は平均 で0.85となった.

そして,図6.11に被験者Aの連続して2回の屈伸運動を10試行行った時の相関 係数が最も高かった時の推定結果を示す.このうち,1試行目の屈伸運動(Motion)

では相関係数は0.79となり,2回目では0.88と高くなった.そして,2回の屈曲運 動と安静状態(Rest)を含めた全体の計測筋活動との相関係数は0.89であった.ま た,この2試行の屈伸運動10試行の全体の相関係数の平均は0.85となった.

Measured EMG Estimated EMG r = 0.94

Rest Motion

Keeping

Flexion Extension

Rest

ARV EMG [V]

Time [s]

2.0 1.0 1.5 0.5 2.5 3.0

0

0 5 10 15 20 25 30 35 40

図 6.10: 被験者Aの1回の屈曲伸展運動の推定結果

Measured EMG Estimated EMG

Rest Motion Rest

ARV EMG [V]

Time [s]

2.0

1.0 1.5

0.5 2.5 3.0

00 5 10 15 20 25 30 35 40 45

3.5

4.0 Motion

r = 0.89

r = 0.791 r = 0.882

Rest

図 6.11: 被験者Aの2回の屈曲伸展運動の推定結果

次に,図6.12に被験者Bが肘の屈伸運動を1回行った時の相関係数が最も高い 推定結果を示す.この時の相関係数は0.83であり,6試行の計測を行った時の計 測筋活動との相関係数の平均は0.75だった.また,図6.13は,2試行の肘の屈伸 運動を行った時の結果で,1試行目の屈伸運動(Motion)の相関係数は0.83とな り,2試行目では0.85であることから,1試行目より2試行目の相関係数が上がっ ていることが分かる.そして,2回の屈曲運動と安静状態(Rest)を含めた全体の 相関係数は0.86であった.さらに,これらの推定筋活動の昇降は計測された筋活 動と同じタイミングであることが分かる.また,6試行の計測を行った時の相関係 数の平均は0.79であった.

次に,被験者Cの実験結果について述べる.被験者Cでは8試行分のデータを 解析した.その結果,肘の屈伸が1試行の場合,相関係数の平均は0.72となり,最 高で0.80であった.その時の結果を図6.14に示す.また,2試行連続屈伸した場 合では,1試行目の相関係数は0.55,2試行目は0.78となり,ほかの被験者と同様 に2試行目の相関係数が高いことがわかった.その結果を図6.15に示す.2回の

Measured EMG Estimated EMG r = 0.83

Rest Motion

Keeping Flexion

Extension

Rest

ARV EMG [V]

Time [s]

1.0

0

0 5 10 15 20 25 30

0.8 0.6 0.4 0.2

図 6.12: 被験者Bの1回の屈曲伸展運動の推定結果

Measured EMG Estimated EMG

Rest Motion Rest

ARV EMG [V]

Time [s]

2.0

1.0 1.5

0.5 2.5

0

0 5 10 15 20 25 30

Motion

r = 0.86

r = 0.831 r = 0.852

Rest

図 6.13: 被験者Bの2回の屈曲伸展運動の推定結果

屈曲運動と安静状態(Rest)を含めた全体の相関係数の平均は0.67となり,最高で 0.76となった.被験者Cでは,計測された筋活動に比べて,少し遅れて上昇し,2 試行目の推定された筋活動は計測された筋活動とほぼ一致している.また,筋活 動の変化が安定している時は,推定筋活動も安定していることが見られた.

これらの結果を表6.1に,3人の被験者の肘の屈曲・伸展運動時の脳波から筋活 動を推定した結果をまとめる.また,推定の精度の数値評価には計測筋活動の積 分値Semgと推定筋活動の積分値Sestimateの差を計測筋活動の積分値で次式のよう に割合を表わし,その平均を算出した.

error = |Sestimate−Semg|

Semg ×100[%] (6.31)

その結果,計測した筋活動と推定した筋活動の相関係数は最高で0.94となった.そ して,それぞれの積分値の差の割合の平均は被験者AとCは10%以下となり,被 験者Bにおいて平均値が最大の10.5%となった.本手法により,安静状態からの

Measured EMG Estimated EMG r = 0.80

Rest Motion

Keeping

Flexion Extension

Rest

ARV EMG [V]

Time [s]

0.8

0.4 0.6 0.2 1.0 1.2

00 5 10 15 20 25 30 35

図 6.14: 被験者Cの1回の屈曲伸展運動の推定結果

Measured EMG Estimated EMG

Motion Rest

ARV EMG [V]

Time [s]

0.8

0.4 0.6

0.2 1.0

00 5 10 15 20 25 30

Motion

r = 0.76

r = 0.551 r = 0.782

1.2 Rest

35 40 45

図 6.15: 被験者Cの2回の屈曲伸展運動の推定結果

屈曲,屈曲状態の維持,維持状態からの伸展と,時間と共に状態が変わる場合で も,推定可能であり本手法の有効性が示されたと言える.そして,図6.16に各被 験者が2試行続けて行った時の1回目と2回目の屈曲運動のそれぞれの相関係数 の平均を示す.被験者Cにおいて1回目の試行より2回目の方が相関係数が高く なっており,有意差が見られた.これは,計測筋活動と推定筋活動との誤差が肘の 角度・角加速度から得られた教師信号に基づいた逐次最小二乗法によりパラメー タの値が補正され,推定精度が向上したと考えられる.また,被験者AとBでは 1試行目および2試行目がそれぞれ推定精度が高かったため,パラメータの補正が 小さかったと考えられる.

6.3.4 まとめ

本章では,脳活動と運動情報の線形モデルと学習手法を使用することで,脳波 からの筋活動推定を試みた.まず,肘関節の屈曲運動時におけるµ波およびβ

表 6.1: 計測筋活動と推定筋活動の相関係数および誤差

Subject A Subject B Subject C

Once Mean 0.85 0.76 0.72

Elbow f/e (SD) (0.04) (0.06) (0.08)

R Max 0.94 0.81 0.80

Error Mean 9.77 10.50 5.51

[%] (SD) (6.48) (6.36) (3.72)

Twice Mean 0.85 0.793 0.66

Elbow f/e (SD) (0.04) (0.05) (0.08)

R Max 0.89 0.86 0.76

Error Mean 5.30 6.42 4.45

[%] (SD) (5.64) (2.41) (2.28)

1.0 0.8 0.6 0.4 0.2

0.0 1st 2nd 1st 2nd 1st 2nd

Subject A Subject B Subject C

Correlation coefficient

*

* P<0.01

図 6.16: 2回の屈曲伸展運動一回目と二回目の試行の相関係数平均値の比較

のパワースペクトルの変化を主成分分析を用いて,筋活動との線形モデルを作成 した.そして,その線形モデルを逐次最小二乗法で更新する際の教師信号として,

肘の角度,角速度,角加速度を用いた人の肘のAdmittanceモデルから推定された 筋活動を用いた.その結果,脳波から推定された筋活動は計測された筋活動との 相関係数が最大0.94となり,試行を増やすことで低い推定精度を向上させること ができ,脳波を用いたパワーアシストの有効性を示した.

の周期パワースペクトルの変 化の解析

前章において,µ波およびβ波のパワースペクトルの変化と筋活動を主成分分 析を用いて線形モデルを作成し,逐次最小二乗法を用いてモデルのパラメータを 更新することで筋活動の推定を行うことが出来た.線形モデルを作成する際に重 要となるのは,入力信号と出力信号が相関性を持つ信号であることと,入力信号 の試行間での差が小さいことである.これらの二つのことが保たれないと逐次最 小二乗法によって更新されたパラメータは発散しやすく,かつ収束しにくいと言 う欠点を持つ.そのため,本章ではまず,被験者が運動を行った時の筋活動と脳 波の試行間での差を相関係数で評価した後,運動した時の脳波のパワースペクト ルの特徴を新たな解析手法で解析し,筋活動との相関性のある入力信号を脳波か ら抽出を行う.そして,新たに得られた脳波の特徴量と前章の主成分モデルを作 成し,関節トルクの推定を行う.