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低周波振動の特徴と考察

ドキュメント内 筑波大学大学院博士課程 (ページ 31-40)

第 5 章  弦振動における低周波振動

5.3 低周波振動の特徴と考察

Fig. 5-4を見る限りでは、水平成分の低周波振動に関しては、垂直成分ほどは

っきりしたものは確認できない。また、Fig. 5-5は横軸が水平方向の低周波振動、

縦軸が垂直方向の低周波振動で、低周波振動のx-y平面上における軌跡を表した ものである。図中の矢印は軌跡をたどった方向を示している。水平方向の低周 波振動は垂直方向の低周波振動と比べて小さいので、図上では水平方向を2.5倍 に拡大して表している。Fig. 5-5を見ても、通常の振動のようなきれいな回転運 動は見られない。垂直方向、水平方向ともに近い周波数で周期的な運動をして いるのであれば、このリサージュ曲線では短期的に円を描くように運動するは ずである。こういったことから、低周波振動は主に垂直成分に現れることがわ かった。

-0.02 -0.005 -0.05

0 0.05

-4 1

x 10

-5 0 5 x 10 -3

x 10 x 10

-12 -7

-5 0

x 10

x 10 x 10x 10

-0.01 0 0.01

-8 -2

x 10

-3

-1 -10 -2 x 10

-3

0

2 -0.02 0 0.02

-0.04 0 0.02

-15 0 5

-0.04 0 0.02

x 10

-3

x 10

-3

x 10

-3

x 10

-3

x 10

-3

-8 -2

-0.01 0 0.01

x 10

-3

5

Horizontal Vibration (mm)

V ertical V ibration (mm)

0.0-1.0(s) 1.0-2.0(s)

3.0-4.0(s)

5.0-6.0(s)

7.0-8.0(s) 2.0-3.0(s)

4.0-5.0(s)

6.0-7.0(s)

Fig. 5-5 低周波振動のリサージュ曲線(x-y平面での軌跡)

ただ、打弦から 1 秒間までの間は水平成分についても大きな低周波振動が確 認できる事がわかる。しかし、Fig. 5-5の右下の図を見てわかる通り、ある程度 時間がたった後では垂直成分よりも水平成分のほうが大きいことがわかる。こ れは通常の振動にも共通して言えることで、水平方向の減衰が小さいというこ とである。

さらに、この低周波振動はある特徴を持っていることがわかった。Fig. 5-6,Fig.

5-7は、低周波振動の波形を測定位置ごと、時間ごとに並べたものであり、それ ぞれの左側が垂直成分、右側が水平成分に対応している。また、Fig. 5-7は□印 が実際に計測されたデータ点であり、実線がそのデータにスプライン補間をか けたものである。Fig. 5-6を見ると、まず垂直成分についてであるが、弦の全長 の中心付近(z=638 mm)から離れるに従って振幅が大きくなる傾向がみられる。

さらに、z=592 mmz=572 mmの間で位相が逆転していることがわかる。また、

水平成分については、弦の中心付近から離れるに従って振幅が大きくなる傾向 は弱冠みられるが、ほとんど一定であるといってもよい。しかし、垂直成分の ように位相が逆転しておらず、垂直成分とはまた違った挙動を示していること がわかる。またFig. 5-7では、垂直成分については、時間の早い段階では弱冠ず れが生じているものの、その後のデータでは計測範囲の両端で変位が逆になっ ていることがわかる。水平成分については、垂直成分と比べてもあまり目立っ た特長は見られないが、複数の節を持って振動している可能性も見受けられる。

0 2 4 6 8 10 0 2 4 6 8

Time(s)

Vertical Horizontal

Position in z axis(mm)

452

472 492

512

532 552

572 592

612 632 652 672

692

712

732 752 772

UDC

10

0 50

-50

Displacement of (Ǵm)

Fig. 5-6 測定位置ごとの低周波振動

Vertical Horizontal

Time (s)

1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6

Position in z axis (mm)

452 472 492 512 532 552 572 592 612 632 652 672 692 712 732 752 772

-50 0 50

Displacement of U

DC

( Ǵ m)

Fig. 5-7 測定位置ごとの低周波振動

この特徴的な挙動を示す低周波振動の存在は、ピアノ弦の挙動の解明におい て重要なものであると思われる。この低周波振動が存在する原因として考えら れるものを挙げると、対象弦が巻き線であることが考えられる。巻き線は、裸 線に銅の弦を巻きつけた構造になっている。また、この弦は端から端まで均一 な巻き線ではなく、Fig. 5-8に示すような構造になっている。鍵盤側の裸線部の

長さは15 mm、反対側は17.5 mmとなっており、両端の裸線部の長さが異なっ

ていた。先ほど述べたように、低周波振動の節はz=572〜592 mm間に存在する が、これは弦全体(長さ 1275 mm)に対する割合で示すと、鍵盤側の留め金か

ら44.86〜46.43 % の位置に相当する。また、裸線部の長さの比をこれに対応さ

せると46.15 % となり、弦全体での位置に置き換えるとz=588.46 mmの位置に

相当することになる。このことから、巻き線部の両端の裸線部の長さの比が低 周波振動の節の位置に関係している可能性が高い。

Fig. 5-8 対象弦の構造

Fig. 5-9 推定される弦全体の低周波振動の様子

Fig. 5-9は低周波振動の弦全体の様子(推測含む)である。Fig. 5-9のように低

周波振動が存在していると仮定すると、巻き線部が自由端振動をしているとい うことができる。パルス波が巻き線部を往復して定在波を形成しているとする と、巻き線部の往復路長が2.485 m、低周波振動の周波数が0.616 Hzであるので、

巻き線上を伝わる波の進行速度は2.485×0.616=1.531 m/s となった。この速度は、

基本周波数成分の波がピアノ弦上を伝わる速度 104 m/s と比べてみても、はる かに小さいものである。[10]

この低周波振動について、弦ではなくフレームやピアノ本体自身が振動し、

弦振動に乗って測定された可能性もあるため、対象弦E1を打鍵したときの隣の 弦(F1)の変位を測定した。ここで、F1はミュートした(ダンパーが下りた)

状態で計測した。その結果をFig. 5-10 に示す。グラフからはほとんど振動して ないことが見てとれ、ピアノ本体またはフレーム自体の振動が低周波振動とな っている可能性は無いことがわかる。

また、z = 583〜590 (mm) にて再度測定を行い、低周波振動の節を詳しく求め

てみたところ、Fig. 5-11 のグラフを得ることができた。先ほど述べたように、

低周波振動の節は弦の両端の裸線部の長さの比と一致すると仮定した場合、節 の位置はz = 588.46 mm となる。そこでFig. 5-10 のz = 588 mm の振幅を見てみ ると、前後の振幅と比べて小さくなっており、その前後で位相が逆転している。

このことより、z = 588 mm が節であることとともに、低周波振動の節は弦の全 長を両端の裸線部の長さの比で分けた点と一致することが証明された。

-0.8 0 0.8

0 2 4 6 8 10

-0.8 0 0.8

Time (s)

Ux (mm) Uy (mm)

Fig. 5-10 E1を打鍵したときのF1(ミュート状態)の測定結果

0

z=583

z=584

z=585

z=586

z=587

z=588

z=589

z=590

0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5

-0.02 0.02 0

-0.02 0.02 0

-0.02 0.02 0

-0.02 0.02 0

-0.02 0.02 0

-0.02 0.02 0

-0.02 0.02 0

-0.02 0.02 0

Time (s)

Uy (mm)

Fig. 5-11 低周波振動の節近辺の測定結果

ドキュメント内 筑波大学大学院博士課程 (ページ 31-40)

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