一.●▼●●
I. 細胞性粘菌の有性的生活環
ⅠⅤ. gp138遺伝子のクローニングと構造解析
gp138について,さらに詳しく知るために, gp138をコードする遺伝子 をクローニングし,その構造を解析することにした。まず,融合能をもつ NC4細胞を125Ⅰでラベルした後,細胞膜を単離,可溶化し,これにgp138 抗血清のFabを加えて,生じた沈降物を2次元電気泳動(2D‑PAGE)に かけ,シングル・スポットを得た。このスポットを切り出して,ガス・フェー ズ・アナライザーでgp138のN末端のアミノ酸配列を決定した。その結果 は次のようであった。
Va1‑lle‑Asp‑Pro‑SerGln‑Asn‑Glu‑Val‑Met‑Ser‑Asp
D. discoideumではすでに数10個の遺伝子が単離されていて,それらの 塩基配列が明かにされている。それに基づいて, D. discoideumの各アミノ 酸に対応するコドンの使用頻度表ができている。それを参考にして,上記 のアミノ酸配列に対応するオリゴヌクレオチドのプルーブを作製した。
一方, NC4の系統株の代わりに, NC4から単離された突然変異株KX3 株からDNAをとり,これを種々の制限酵素, EcoRI,SalI,Hl'ndIII,KpnI, XbaIで切断し,ラベルしたプ/レ‑ブと反応させてサザン‑ハイブリダイ ゼ‑ションを行った。NC4の代わりにKX3の株の細胞を用いたのは,バク テリアのDNAの混入を防ぐためで,KX3はバクテリアを餌とせずに液体 培地中で増殖するoその結果, EcoRlを除き,すべての酵素で切ったDNA のフラグメントに2本のバンドが検出された。このことは, gp138の遺伝
細胞性粘菌U)環境適)七、と遇仏子発現 45
H+ 216kb : H S GP138A LL̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲̲些=j= ‑ l
Hbvl・3kb‑H
GP138B I ̲i±=」‑ l 図2
(‑が粘菌のゲノム巾に2コピーあるか,あるいは,構造の似た遺伝子が∴
つ存在していることを示唆している。一一万, EcoRIで切ったフラグメント に一つしかバンドが検出されなかったのは,おそらく,これら二つの遺伝 子が染色体の近い位置にあるためと考えられる。
そこで,HindIIIで切ったフラグメントに生じた二つのバンド,2.6kbと 1.3kb付近を切り出して, DNAを抽出し,ベクター(pUC18)にそれぞれ 組み込んで,大腸菌に導入してクローニングし,サブジェノミック・ライ
ブラリーを作製した。そして,このライブラリーの中から,上記のプルー ブとハイブリダイズするクローンを単離した。こうした単離したクローン のベクターからさらに,粘菌のDNAを切り出してラベルし,新しいプルー ブとして,制限酵素で切ったKX3のDNA断片と,もう一度ハイブリダイ ズさせた。その結果, SalIで切った4.6kbと, EcoRVで切った4.Okbの 二つのフラグメントを得た。そして,これらを再びベクターに組み込んで 大腸菌内でクローニングし,最終的にgp138をコードする二つの遺伝子, GP138AとGP138Bの全領域を含むフラグメント, pGP138‑H2.6, PGP 138‑S4.6, pGP138‑H 1.3, pGP138‑V4.U,を得た(図2)0
こうして得たフラグメントの塩基配列を決めることにより,遺伝子GP 138AとGP138Bの構造が決定された。 GP138Aはすべてで2,464, GP 138Bは2,466の塩基の配列からなっている。その構造は互いによく似てい て, 91.8%のホモロジーをもつことが分かった。
遺伝子GP138Aの例でみると(図3),開始コドンのメチオニン(ATG)
46
図3
のまえにアデニンが幾つか列んでおり,ATリッチの配列がつづいている。
これは粘菌細胞の遺伝子に一一一般的にみられる特徴である。また,終止コド ンTAAの18ヌクレオチド下流にAATAAAの配列がみられるが,これ は粘菌細胞の遺伝f‑の終止点近くに共通にみられる配列である。開始コド ンの61ヌクレオチド下流に,gp138のN末端の12アミノ酸から予想され
細胞性粘菌の環境適応と遺伝子発現 47 る36ヌクレオチドの配列がみられた。開始コドンからこのN末端までの 間のアミノ酸配列は,実際のタンパク質には存在しないので,この部分は 多分,シグナル配列として用いられているのではないかとおもわれるo
GP138Aの塩基配列の中に,イントロンの存在を推測させる配列GT/
AGが幾つか存在した。そこで,このことを確かめるために,融合能をもつ NC4細胞からm‑RNAを単離し,そのcDNAをつくった。次に,GP138A とGP138Bの遺伝子の開始および終止点近くのアンチセンス鎖の配列を 10数個もつオリゴヌクレオチドを合成し,それをcDNAに結合させてプ ライマーとして, PCR法でそのオリゴヌクレオチドが結合したcDNAだ けをアンプリフアイし,それをベクターに組み込んでクローニングした。こ うしてクローニングしたDNAの塩基配列を決定することにより, GP 138Aの遺伝子には三つのイントロンが存在することが明らかになった。
Ⅴ. gp138遺伝子の発現
gp138をコードする遺伝子はGP138A以外に,もう一つ非常に構造の よく似たgp138Bがあることが示された。しかし,この二つの遺伝子はと もに発現しているのであろうか。もし発現しているとしたら, ■これらは細 胞の融合能の獲得に伴って発現しているであろうか。
まず, NC4の細胞を液体培地,暗条件下で培養し,異なる時間にサンプ ルをとって細胞の融合能を調べた。また,その全RNAを調製して,ラベル
したGP138AのcDNAとハイブリダイズさせた。その結果,培養後, 9時 間目以降になるとこの遺伝子は発現し始め, 12時間目で最大になることが 示された。このように,遺伝子GP138Aは,明らかに,その発現が細胞の 融合能の獲得と時間的に二致している。 GP138BのcDNAを用いて同様 の実験をおこなったところ,その結果も同じであった。しかし,GP138Bと はGP138Aは構造が非常によく似ているため, 138BのcDNAにGP 138AのmRNAがハイプリグイズする可能性もある。そこで,それぞれの 遺伝子について,互いに配列が違う箇所を用いてプループをつくり,それ によってそれぞれの遺伝子の発現をはっきりと特異的に調べることにし た。まず, GP138Aで, GP138Bと配列が違う箇所を選んで,そのアンチ
48
センスとセンスDNA鎖の両端部分に対合するオリゴヌクレオチドのプラ イマーを合成した。 ‑1・方,暗条件下で液体培養した細胞からm‑RNAを調 製し,これにセンス鎖のプライマーをくわえてcDNAを合成した。こうし て,できたcDNAにアンチセンス鎖のプライマーをくわえてPCR法に よってGP138Aの発現を調べたところ, GP138Aは暗培養後, 9時間目で かなりの量発現しはじめ, 12,15時間目で最大になる。ところが山方,同様 にして調べたGP138Bは培養以前から発現しており,培養6時間目まで発 現しているが,その後,急激に減少する。このように,二つの遺伝子はまっ たく逆に発現していることが分かった。
PCR法でアンプリフアイするサイクルの数から, GP138Aの遺伝子は GP138Bの10倍以上,発現していることが示された。したがって,細胞の 融合能の獲得と一致して発現するGP138Aが,二つの遺伝子の主役である
A a 8 8 0 つJ 3 8 1 1 A
P.p p s
ql q一口フAl
gp80 9p138A gp138B PsA
図4 Comparis()n of C‑terminal region of gp138 with thnse or gp80 and
PsA
N‑term)nat Globular Reglon
図5 Schematic model 。f gp138
∃∃∃∃∃∃∃
巨巨書巨巨に
細胞性粘菌U)環境適応‑tと遺伝)'・発現 49
ことは確かである。しかし,GP138Bの遺伝子の機能はまだ明らかでない。
その構造はGP138Aとよく似ているが,機能はあるいは異なっているかも しれない。
ⅤⅠ.性的細胞融合におけるGP138遺伝子の役割
細胞の性的融合には,少なくとも,二つのステップが必要である。 一つ は,同じ生物種か否かの認識および交配型の認識で,もう一つは,膜融合 である。そして,これらを行うために,細胞同士をある距離に近ずけるた めの接触,あるいは接着のステップが必要とされるであろう。
gp80
^^血…^Jih.帆.A
''''.W.'YrVVJllY‑l町
1514
1 730
図6 Hydropathy of gp80, PsA and gp138
5()
Table 2. Fusion‑related Proteins in D, di.wm'deum Protein 嶺メ蚌竊エF Celltype gp138 3 NC4‑C,HMl‑C
gp70 度 HM1‑C
GG6antigens #Rテ3" NC4‑C,HM1‑C
DElantigen 2 NC4‑C
HH9antigen 2 NC4‑C,HMトC
GP138の塩基の配列から推定されるアミノ酸の配列を決め,同じような アミノ酸配列をもつ既知のタンパク質があるか否かをデータ一・バンクで 調べてみた。その結果,似たタンパク質はほとんどないことが分かった。た だ,同じ粘菌でそのC末端部分の配列がよく似ているものがあった(図4)0 それは細胞表面に現れる糖タンパク質gp80とPsAで, gp80は無性的生 活環の集合期に細胞が接着するときに働いている。また, PsAは胞子に分 化する前の細胞に特異的に現れる。これらの分子の特徴は,疎水性のC末 端部分が膜を貫いておらず,膜表面にリンクしていて,柄状に膜からつき でた形で,塊になった残りの部分をささえている,と推測されている(図
5)。
GP138Aから推定されるアミノ酸配列のハイドロパシイ・プロットを, gp80,PsAのハイドロパシイ・プロットと比較したところ,よく似ていた
(図6)。したがって,おそらくgp138はgp80,PsAと似た構造をしている であろう。
最近,細胞に融合を起こさせるウイルスがもつ膜融合分子の構造が明か にされてきた。これらの分子には共通の構造の膜貫通部分がある。さらに 最近,ほ乳類の精子から,これらのウイルスと同じ構造の膜貫通部分をもっ た分子が単離された。このことは,性的融合を含め,細胞融合に関わる分 子が同じ基本構造をもつことを示唆している。もしそうであれば, gp138 分子は膜融合の分子ではなく,細胞の相互認識あるいは接着のプロセスに 働く分子かもしれない。その構造が接着分子gp80と似ていることち,この 可能性を示唆する。接着と認識の分子は別々の分子であってもよいが,必 ずしも別々である必要はないだろう。