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図8:切断した巨大胞子嚢柄の切り口から外来遺伝子を含むベクターを直接症 入することによって形質転換を行う実験系。

このように,ヒゲカどの接合反応には,複数の過程で認識機構が働いて いると思われる。この認識機構の存在こそが,トリスポリン酸で言う共通 のフェロモンを持ちながら,属間での交雑の起るのを阻止している機構に なっていると推察される。事実,ケカビ目に属するケカビ(Mwor),クモ ノスカビ(Rhizopus),そしてユミケカビ(Absidia)などで,属間あるい は種間で交雑を行った際に,その反応は「初期」で停止したと言う報告が ある11,12)。これらの接合においては,いずれも認識過程の段階で停止したも のと我々は推測している。

Ⅴ.接合反応の分子遺伝学的解析への試み

シクロへキシミドの存在する培地上で,野生株どうしを接合させると,輿 味あることに,反応は全てS2の段階で停止する。したがって, S2期から次 の段階に移行するためには,新しい蛋白の合成が必要と思われる。我々は 現在,この蛋白の解析を試みている。これが,  糸口になって遺伝子の解析 にまで進展できればと期待している。

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一一万,遺伝子が単離できた後,形質転換を行う実験系の開発が必要とな るが,そのための一つの準備として,我々は最近,非常に効率よく,また 簡単な操作で外来遺伝子をヒゲカビ体内に導入する方法を兄いだした。そ れは,図8に示すようにヒゲカどの巨大な胞子嚢柄(菌糸の上に無性生殖 的に生ずる胞子形成器官)の強い再生力を利用する方法である。まだ胞子 を内部に形成していない若い胞子嚢を胞子嚢柄から切り出し,それを寒天 のブロック上に置き,下方の切り口から直接クローン化した外来遺伝j'・を 含むベクターを注入するものである13)。この胞子嚢は,やがて内部に多くの 胞子を形成して異化するが,その際に注入された外来遺伝子も胞子の中に 取り込まれる。また,胞f‑から発芽した菌糸の中で卜分に生存できるよう なベクターの開発も,現存試みている。

ⅤⅠ.おわりに

ヒゲカどの接合反応にはトリスポリン酸が関与していることは確かであ るが,それは初期のS2期までで,それ以降は細胞間認識を行いながら進行 するものと考えられる。トリスポリン酸の定量を行うと, β‑カロチンを多 く含む株は多くのトリスポリン酸を分泌しており,また形成される接合枝 の数はトリスポリン酸の星と比例する。しかし,最終産物である接合胞子 の形成とは,直接的には対応しない。考えてみれば, S2期の接合枝が不規 則に分岐した構造を持つのは,細胞間での情報の交換を効率良く行うため

に細胞の表面積を拡大しているとも考えられる。蛍光標識を付けたレクチ ンを用いてこれらの構造に結合させてみると,菌糸の先端部と同様に,揺 合枝の接着面に良く結合する。これは接着面では細胞壁が非常に薄くなっ ているか,あるいは欠落していることを示唆する。これらの事実は,いず れも上記の我々の考えを支持するものと思われる。

今後は,この細胞間認識に関与する機構を,分子遺伝学的な手法を取入

れながら,明らかにしたいと思っている。

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ヒケカビ(PhJ,(()myCe.i)における接合如己二の制御機構 85

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菌類の2次代謝産物生産と生活環制御

‑植物病原菌を例として‑

貫 名   学

Ⅰ.はじめに

一般に菌類を培養すると,その培養液中にその菌に特有でしかも独特の 構造を持つ代謝産物が蓄積されます1,2'。これらは生物の作るものの中では 2次代謝産物として分類されます。これらの中に厄植物ホルモンのジベレ リンを作る菌のように生産物が植物の生長ホルモンとしての普遍的のある ものであり,それを2次代謝産物と位置づけるには難しいものもありますo もっともジベレリン生産菌にとってはそれが植物ホルモンであろうとなか ろうと植物病原菌としてなくてはならない機能の一一一つであると考えること はできます。多くの生物に共通の1次代謝産物と比べて,2次代謝産物の中 にはその生物の固有の生きるしくみが反映されていると考えられます0

2次代謝産物はその生物にとって不要になった老廃物であるとも考えら れています。そのような機能を果たす化合物としては,低級脂肪酸のよう な普遍性の高い化合物が考えられます。しかし,いわゆる天然物と呼ばれ

る複雑な構造を有する化合物は,その生合成に多段階の酵素反応を必要と

し,またその生物が長い年月をかけて勝ちえてきたものであり,その生物 に固有の生きるしくみが隠されていると考えるほうが,多くの生物の作る 天然物の多様な構造とそれらの示す目覚ましい生理作用を考える1て役に 立ちます。

ここでは2つの菌について,生物の作る化合物の興味ある一面を報告し

山形大学農学部

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ます。

ⅠⅠ.いもち病菌の作る植物毒素 いもち病菌の種類

いもち病菌は,イネを栽培する上で最も恐れられている病原菌です。も‑, とも今「口ごは優秀な農薬や発生予察のシステムなどができています。しか し天候によっては大発生する危険を常にはらん言います。

この菌は多くの植物病原菌の中でも,興味深い実験材料です。イネの品 種改良により多数の品種がありますが,ある「冊垂はいもち病に強く,また 別の品種はいもち病にかかりやすい性質があります。つまりイネの品種に よりいもち病に対する抵抗性が違います3)。この品種間の抵抗性の差を分 子レベルで説明することはまだできません。またいもち病は多くのイネ科 植物にも見られます。これまでメヒシバ,エノコログサ,ミョウガなど33 属65種に寄生し,またその内の31種の植物のいもち病菌はイネにも病原 性を示し,またイネのいもち病菌は76樺の植物に対して病原性を示したと 報告されています。

このように,一つ一つの菌株にはどの植物につくかという病原性が同じ ものや異なるものなど生理的な性質の異なる多くの系統があります。イネ a)いもち病菌のレースの判別には9つの稲の品種が判別品種として用いら れています。またいもち病菌の属するPyricularia属菌の類別には,分生胞 子の形態,菌体外酵素の電気泳動パターン,交配,そして寄生性などが用

いられます。イネのいもち病菌の不完全時代はFyrZ'cularia grisea i sf'.

or̲vzlleで,また完全世代はMagnap()rlhe griseaです。我々は,生理的性質 などを異にするいもち病菌についてその二次代謝産物の研究を進めてしゝま す。特に,植物に対して毒性を示す代謝産物の生産性に注Hしてし、ます。図 1にこれまでにいもち病菌から単離した代謝産物U)構造式を示します。

いもち病菌の培養と代謝産物

いもち病菌の培養とその培養液からの成分の抽出には,菌を市販の醤油 を用いた醤油‑砂糖培地で振出培養し,培養液液を酢酸エチルで抽出しま す。醤油一砂糖培地は,それに玉葱エキスを加えたものが,キノコ類の培

['iT葉如) 2次代謝I)'(物ノl I)[と/i:捕環制御 89

Tenuazonlc acld

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≡≡鍔. HPy;lFhUJ.ol。,y,.c u.0.  ≡≡…:?oHPyEiChUJ霊oi,ricu 'ariol

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L‑i1 1いもで,九ij菌の代謝産物LT)構'昌。

義に使われます。 19樺類の培地で比較した結果,醤油一砂糖培地が最も菌 の生育や生産物の量が多いことが分かりました。また合成培地に醤油を少 し加えて菌を培養すると,その乾燥薗体重が増加します。醤油のどの成分 が生育促進を示すのかは分かっていません。

!州

いもち病菌を振とう培養して得られる最も特徴的な代謝産物は,ジヒド

ロビリキュロール(dihydropyriculol)4)です。そのベンジルアルコール部 分がアルデヒドになった化合物はピリキュロール5)で,イネの芽生えの生 育阻害を示し,葉に有傷投与すると,いもち病にかかったときに現われる 病斑と類似した褐色の斑点を形成します。これらの異性体としてピリキュ

ラリオール(pyriculariol)6)及びジヒドロピリキュラリオールがあり,ピリ キュラリオールはピリキュロールと同じ植物毒ノ性を示します。振とう培養 ではピリキュロ'‑ルとジヒドロピリキュロールが主ですが,ジャーファー メンターで通気撹拝培養するとピリキュラリオールとジヒドロピリキュラ

リオールが多くなります。テヌアゾン酸7)は,いもち病菌を静置培養すると 生産され,ピリキュロールより強い生育阻害作用を示します。テレストリ ン酸(terrestricacid)8)は,ある種の菌株にのみ検出され,その毒性はピ リキュロールと同様です。その他,菌のメラニン合成と関連するナフタレ ン系の化合物があります。

イネ科雑草のいもち病菌の生産する植物毒素

イネ科雑草のいもち病菌の分析から,メヒシバ菌に植物毒性を示す新し い代謝産物の構造を決定し,属名にちなんでピリカラシン(pyrichalasin)9) と命名しました。この化合物は,サイトカラシンと呼ばれるユニークな生 理作用を示す化合物群に属します。サイトカラシンは,カどの生産する化 合物で,細胞骨格のアクチンに対して作用し,細胞分裂を阻害し核分裂は 阻害しないため, 1つの細胞内が多核になり,核がとび出すなどの作用が知 られています10)。ピリカラシンはサイトカラシンと同様の生理作用を示し ます。カビに対する作用や植物に対する毒性と,サイトカラシン類の構造 との関係を調べた結果,抗力ビ性についてはC‑21位のアセチル基の存在 が重要であり, 一方植物毒性はC‑21位は水酸基でも同じであることが分 かりました。このことは微生物と植物のピリカラシンに対するレセブタ タ‑の構造に微妙な違いがあることを示しています。

いもち病菌の宿主の種類による代謝産物生産の特質

このピリカラシンやピリキュロール,ジヒドロピリキュロール類の生産 性について多数の菌株で調べた結果,イネ菌の90菌株中59菌株にピリ

ドキュメント内 真核微生物の環境応答と遺伝子発現 (ページ 88-122)

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