第1節 はじめに
台湾における会計概念フレームワークの構築は,1970年に台湾省と台北市の会計士協会 の会計問題評議会により,米国1で設定されていた会計原則をもとに,「一般公認会計原則(一 般公認會計原則彙編)」として提案されたことに端を発している。その後,1982年に,台湾 省,台北市及び高雄市の会計士協会のメンバーで構成される財務会計委員会が一般公認会 計原則を修正し,SFAS第1号として公布した2(劉・椎名[1983],104頁)。1984年には 第1次の改定が行われている。本章では,当該一般公認会計原則を,台湾会計制度における 会計概念フレームワークとして捉え,以下においてその内容を検討している。さらに,一般 公認会計原則は,IFRSとのコンバージェンスを経た2002年には第2次の改定が行われ,
名称も「財務会計概念フレームワークと財務諸表の作成」と改められた。それから数回の改 定,2009 年のIFRSアドプションの決定を経て,現行の会計概念フレームワークは IASB が2010年9月に公表したThe Conceptual Framework for Financial Reporting 2010を翻 訳した「財務報告に関する概念フレームワーク(財務報導之觀念架構)」となっている。
第2節 一般公認会計原則の意義と目的
1.一般公認会計原則の意義と構成
一般公認会計原則は,次に示す前文にあるように,経済の急速な発展や取引の複雑化,情 報利用者の意思決定への役立ち,資源分配の効率化等を背景として公布された。
「近年,わが国の経済は,急速に発展し,その取引もますます複雑になったため,社会一 般の会計情報を得たい気持ちは切実なものである。どのような財務諸表を提供するかによ
1 劉・椎名[1987]においては,先進国家とされている(劉・椎名[1987],104 頁)が,
第2章で述べたARDF設立の背景,注2で述べている一般公認会計原則修正の背景及び 後述する一般公認会計原則の基本目的・基本原則等から,米国の影響を強く受けていると 判断したため,ここでは先進国ではなく,米国としている。
2 本修正の背景には,台湾政府が招聘した米会計学者Jhon C.Burton教授による次の指摘 がある。「中華民国(台湾:筆者挿入)の会計水準は,今日国際水準からかけ離れてい る。会計士及び財務諸表利用等,専門家によって,積極的に会計水準や原則を制定,更 新しなければならない。法律(たとえば商業会計法)によって,会計基準や原則を制定 しているのが中華民国の現状である。このことは,会計実務の硬直化と低水準の主因と なる。なぜならば,立法機関は会計知識をもっていないし,会計原則の切迫性を知らな い。また,法律の修正には,時間を要し過ぎる。したがって,一般公認会計原則は会計 士協会によって制定されねばならない。政府機関は,監督的地位におかれるべきであ る。」(陳[1982],5頁,夏目[1983],441頁)。
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って財務諸表利用者の各種政策を決定する助けとなり,会計の積極的機能により経済発展 を促進し,資源の有効な配分ならびに一般投資家の利益を保護するために,わが国の会計担 当者は,よりよい財務諸表を提供することが義務である。」(ARDF[1984],1頁;山本・
陳[1983],127頁)。さらに,一般公認会計原則設定のアプローチとして,次のように述べ られている。
「会計問題評議会より公布された『一般に認められた会計原則』を更に増減・修正・改正 し,最近発展した会計理論を参考に,優れた会計実務を考慮し,慎重に検討した上で,本委 員会公報第1号として公布した。」(ARDF[1984],1頁;山本・陳[1983],127頁)。
ここで,「優れた会計実務を考慮し,慎重に検討した上で」とすることから,帰納的アプ ローチを採用していると捉えることができる。帰納的アプローチとは,「すでに存在し普及 した会計実務をベースにしたルールの設定方式」(藤井[2015]37頁)である。一方,「最 近発展した会計理論を参考に」とし,後述するように,財務諸表の目的,財務報告の質的特 性及び財務諸表の体系において,AICPAやFASBの影響を受けている。これらの会計原則 または会計基準の設定は,「先験的な規範概念(すなわち「かくあるべき会計」)を起点にす え,そこから会計規制の指針となるルールを導き出す方式」(藤井[2015]37-38頁)であ る演繹的アプローチによるものである3。したがって,一般公認会計原則における基準設定 のアプローチは,帰納的アプローチと演繹的アプローチが混在していることも想定される。
一般公認会計原則は,次に示すように全7章,57条から構成される。
前文
第1章 基本原則(第1条~第15条)
第2章 資産(第16条~第25条)
第3章 負債(第26条~第33条)
第4章 資本(第34条~第39条)
第5章 損益計算(第40条~第51条)
第6章 財務諸表(第52条~第55条)
第7章 附則(第56条~第57条)
2.企業会計の基本目的
第1章の基本原則において,企業会計は「企業の財政状態,経営成績及び財政状態の変動
3 AICPAの会計原則審議会(APB)が1973年10月に公表した『財務諸表の目的』(Objectives on Financial Statements; 以下, APB[1973])は,同文書を翻訳した川口[1976]によ って,「実態調査もとにしながらも,きわめて演繹的な論法によっており,このことは,
従来のアメリカ公認会計士協会の公式文書が,すべて帰納的アプローチによってきたの といちじるしい相違をみせている」とされるように,アメリカにおいて初めて演繹的アプ ローチによる会計基準設定を試みたものとみられる。
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に関して,真実な記録と報告を提供するものでなければならない」として,次の7つの基本 目的を挙げている。
①財務諸表の利用者が投資及び貸付けにおける意思決定を行う際に役立つ。
②財務諸表の利用者が,投資及び貸付金の回収可能な金額・時期・リスクを判断する際に 役立つ。
③企業の経済的資源,経済的資源に対する請求権及び資源・請求権の変動の状態を報告 する。
④企業の経営成績及び効率性を報告する。
⑤企業の流動性,返済能力及び資金フローを報告する。
⑥資源の運用について,経営管理者の責任及び業績を評価する。
⑦財務資料を解釈する。
図表3-1 SFAC第1号と一般公認会計原則における財務報告の目的の比較
SFAC第1号 一般公認会計原則
(1) 投資及び与信意思決定に有用な情報を提供す る(par.34)。
(2) キャッシュ・フローの予測額を評価するにあ たって有用な情報を提供する(par.37)。
(3) 企業の資源,その資源に対する請求権及び資 源の変動に関する情報を提供する(par.40)。
① 経済的資源,債務及び所有者持分に関す る情報(par.41)。
② 企 業 の 業 績 と 稼 得 利 益 に 関 す る 情 報 (pars.42-48)。
③ 流動性,支払能力及び資金フローに関す る情報(par.49)。
④ 経営者の受託責任及び業績に関する情報 (pars.50-53)。
⑤ 経営者の説明及び解釈(par.54)。
(1) 財務諸表の利用者が投資あるいは貸付の意思 決定を行う際に役立つ。
(2) 財務諸表の利用者が投資及び貸付債権の回収 可能額と時期あるいはリスクを予測する際に 役立つ。
(3) 企業の経済的資源,経済的資源に対する請求 権と,資源及び請求権の変動状態を報告する。
(4) 企業の経営成績及び効率を報告する。
(5) 企業の流動性,支払能力及び資金フローの量 を報告する。
(6) 経営者の資源運用に対する責任及び業績を評 価する。
(7) 財務資料を解釈する。
出所:FASB[1978],pars.34-54及び笠井[1983],420頁の内容にもとづき作成したものである。
7つの基本目的をどのように体系的に捉えるかについて,一般公認会計原則において明 示されていないが,笠井は観点の相違から,①⑥を利用目的,②④⑤を認識目的,③④を情
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報作成目的と3区分し体系化を試みている(笠井[1983],426頁)。これらのうち,企業会 計の目的として中心となるのは利用目的,すなわち,財務諸表利用者の意思決定への役立ち と経営管理者の責任・業績の評価であると考えられる。さらに,笠井は,FASBが1978年 に公表した SFAC 第1号『営利企業の財務報告の基本目的』における財務報告の目的と,
一般公認会計原則における企業会計の基本目的とを対応表示し,その内容が酷似している ことから,SFAC第1号の強い影響を受けているとする。
第3節 基本原則のフレームワーク
一般公認会計原則の第1章基本原則の2条から15条にわたって基本原則が設定されてお り,その内容は次のように要約できる。
第2条 客観的な事実,または必要によっては合理的な推定に基づく,一般公認会計原則 への準拠。
第3条 企業実体による資源の所有,義務の負担。
第4条 継続企業 第5条 貨幣的測定
第6条 歴史的原価を原則とする。
第7条 会計期間 第8条 重要性
第9条 保守主義(穩健之估計數字)
第10条 会計処理選択適用の容認 第11条 継続性
第12条 内部統制制度の整備 第13条 適時性
第14条 発生主義会計の採用(企業會計採權責發生基礎)
第15条 実質優先
基本原則の中には,会計公準,財務情報の質的特性及び認識・測定基準に相当する原則が 混在しているとみられる。まず,会計公準に相当する原則として,企業実体(第3条),継 続企業(第4条)・会計期間(第7条)及び貨幣的測定(第5条)が挙げられる。
つづいて,財務情報の質的特徴であるが,上述のように,一般公認会計原則は米国で設定 されていた会計原則をもとに設定されていたこと考えられるため,図表3-2でAPB[1973]
及び SFAC 第2号『会計情報の質的特性』における財務情報の質的特性と一般公認会計原 則のそれとを整理する。