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食品から異物が発見された場合,企業は大きな リスクを背負うことになる場合もあります。例え ば,食品中にガラス片が混入して,それを食べた 消費者が口の中を切った場合,PL法(製造物責 任法)により製造者の責任が厳しく問われるよう になり,損害賠償責任を課せられるだけでなく,
さらなる被害を防止するために商品の全面回収,
原因究明や安全確認のための操業停止が必要とな り,企業の信用も無くなります。そのため,企業 はHACCP(食品の安全性について危害を予測し,
その危害を管理することができる工程を重要管理 点として特定し,重点的に管理することにより,
工程全般を通じて食中毒などによる危害の発生を 予防し,製品の安全確保を図るシステム)を導入 するなど,食品への異物混入防止対策にかなり力 を入れています。それでも保健所に届けられる食 品中の異物に関する苦情は年々増加しています。
食品中から発見される異物の事例は多数ありま すが,ここでは,私が担当した苦情検査の中から,
企業が製造販売した食品が消費者の手に渡る前に 混入した異物と消費者の手に渡ってから混入した 異物についての事例をいくつか紹介します。また,
消費者の勘違いで,保健所に届けられた苦情につ いても紹介します。
1.食品の原料や,製造,流通販売過程で混入し た異物
漬物から注射針が出てきた:漬物は,輸入品を 国内で袋詰めしたものであり,異物の注射針を現 在国内で使用されている注射針と照合した結果,
該当するものは無く,生産国で混入したものと推 察されます。
外国に旅行した友人からもらったおみやげのパ スタ(乾麺)から,ネズミの糞が出てきた:ネズ ミの糞は図2の様に,ほとんどの場合糞に毛が混 入しており,この毛がネズミの毛であるならば,
ほぼネズミの糞に間違い有りません。
クッキーから毛が出てきた:毛はクッキーに練 り込まれており,一部が外に飛び出していたこと
東京都の保健所に届けられた食品中の 異物の事例
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から,製造時に混入したものと推察されます。毛 と思われる異物の検査は,まず毛が食品に付着し ている状態をじっくり観察することから始まり,
実体顕微鏡による毛の形状観察(長さ,太さ,色,
毛根部や先端部の有無及び形状,ねじれ具合や表 面の凹凸),顕微鏡による毛表面の小皮紋理(キ ューティクル)の形状(図3)や毛の中心を走る 随と呼ばれる部分の形状の観察を行い,さらに毛 を輪切りにして,横断面の形状や随の形状観察を 行い,どの様な動物の毛であるかを推測します。
また,赤外吸収スペクトルを測定することによ り,リンスなどで処理された毛か否かも分かりま す。
缶入り紅茶(葉)から綿ぼこりの固まりが出て きた(図4):この綿ぼこりのような固まりの一部 を顕微鏡で見ると,植物の毛が見えました。紅茶,
日本茶,中国茶などのお茶の葉は,新芽で毛の多 い葉ほど高級なお茶とされています。新茶(日本 茶)を入れた時,水面にたくさん毛が浮いている のを見たことは有りませんか?。この苦情の場合 は,缶に充填する前の紅茶の葉を入れておく大き な容器の底に貯まっていた紅茶の毛の固まりが入 ってしまったものと思われます。
アップル・チョコレートから虫の幼虫が這い出 してきた(図5):この幼虫は,木になっていた林 檎に住み着いた幼虫で,間違って食べても害はあ りません。
ミネラルウオーターに異物が入っていた:5年 程前に起きたミネラルウオーターの異物混入事件 を覚えている方もいらっしゃると思います。この 事件は,都民が,購入したミネラルウオーターの 中に小さな浮遊物を発見し, これは何か とい う苦情が保健所に届けられた事が発端となりまし た。この異物が混入した苦情検体を詳しく検査し た結果,小さな浮遊物はカビであることが分かり ました。この異物混入事件は,マスコミで報道さ れた事から全国的な広がりを見せ,多くの一般の 人々が自分の家で購入したミネラルウオーターに 異物は入っていないかどうか目を皿のようにして 検査するとともに,衛生研究所で多数のミネラル ウオーターを一斉検査した結果,青カビ,黒カビ などのカビ類の他に,プラスチックの破片,ミネ ラル分が析出した結晶など,多数の異物が発見さ れました(図6)。実は,東京都では毎年ミネラ ルウオーターの検査を行っており,この事件が起 図2 ネズミの糞
豚 鼠 猫 犬 人 兎 山羊 図3 動物の毛の顕微鏡写真
図4 紅茶缶から異物 図5 アップル・チョコレートから異物
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きる前にもカビが検出されたことがありました が,苦情として届けられる件数は極わずかであり,
大きな問題にはなりませんでした。しかし,この 事件が起きた頃は,地震対策用の備蓄飲料水とし て推奨されたこともあり,ミネラルウオーターが 一大ブームとなった結果,今まで全く素人の会社 が,ただ湧き水をペットボトルに詰めただけで販 売するものまで出てきたのも一因です。但し,こ の大きな事件の後,ミネラルウオーター製造業者 の製造工程における衛生管理が徹底され,異物は 検出されなくなりました。
その他:ガラス,石,金属片,虫など,とても 書ききれないほど多種類の異物が食品から検出さ れています。
2.消費者が食品を入手後に混入(析出)した異物 ペットボトル入りコーラを飲んでいたら,ボト ルの中に変なものが浮いていた:最近の清涼飲料 水は透明なペットボトル入りが増えており,缶入 りと違い飲みながら中身を観察できるため,この ような苦情が増えています。このような異物は,
顕微鏡で見ると,ほとんどの場合粘液質の中に核 の入った細胞が見つかります(図7)。この異物
混入原因は,清涼飲料水などの容器に直接口を付 けて飲むことにより,口の中ではがれ落ちた表面 の細胞を含む唾液などが容器の中に逆流すること により起こります。容器に直接口を付けて飲む場 合は,できるだけ早く飲み終わりましょう。
パンを食べていたら,口の中でカチンと歯に当 たるものがあり,石のようなものが出てきた:消 費者がパンを食べていたときに,自分の歯や,治 療した歯の詰め物が取れたものでした。この様な 異物は,その形状を観察すると共に,蛍光X線分 析装置で元素分析することにより,構成元素の割 合から推察できます。
図6 ミネラルウォーターから検出された異物
青カビ 黒カビ 炭酸カルシウム結晶
ゴム プラスチック 合成繊維
図7 コーラ(清涼飲料水)から異物
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ビールをコップに空け,飲もうとしたらビール が濁っていた:ビールは,古くなりすぎたり,冷 やしすぎたり,また冷蔵庫に長期間入れっぱなし にしておくと,ビールの成分であるシュウ酸や蛋 白質,炭水化物が析出して濁ることがあります。
析出物を顕微鏡で見ると正8面体をしたシュウ酸 カルシウムの結晶が認められます。この様なビー ルは飲んでも害は有りませんが,味は当然低下し ています。ビールは飲む5〜6時間程前に冷蔵庫 に入れ,購入したら早めに飲みましょう。
チューブ入り練り洋カラシから5mm前後のガ ラスの破片が出てきた(図8):苦情品の練り洋カ ラシチューブは,消費者が購入後数年間冷蔵庫に 入れっぱなしにしておいたものでした。そのため,
洋カラシに添加されていたグルコースが徐々に結 晶化し,ガラス状の大きな塊になったものです。
この事件の後,この洋カラシ製造業者は,グルコ ースの使用をやめ,結晶化しにくい糖に変えたそ うです。尚,この事例に似たものとして,塩分濃 度の高い魚醤からガラスの破片に似た塩化ナトリ ウムの大きな結晶が出てきたことがあります。や はり,冷蔵庫での長期間保存が原因でした。食品 は賞味期限に注意しましょう。
サツマイモをふかしたら皮の内側の黄色い部分 が緑色に変わった:サツマイモの中に含まれるク ロロゲン酸という成分が,アルカリ性になると緑 色に変わります。さいの目にしたサツマイモを入 れた蒸しパンを重曹で膨らませると起こることも あります。
3.消費者の勘違いによる異物混入
餃子から糸くずが出てきた:原料のネギの繊維 でした。
牛丼の具からゴムが出てきた:牛肉の筋でし た。
タケノコの缶詰を開けたら,タケノコに白いカ ビが生えていた:白いカビ様物質はタケノコに含 まれるアミノ酸のチロシンが析出したものでし た。
カレーライスを食べていたら,カニの爪の様な ものが出てきた:カレーライスに添えた福神漬の ナスのヘタにはトゲが有り,トゲが少し大きかっ たため,カニの爪のように見えました。
食品中に異物または異物と思われるものを見つ けた経験は,ほとんどの方に有ると思います。そ の対処方法は冒頭に書いたように様々だと思いま すが,もし,製造業者や販売店に苦情を言う場合 や,保健所などに届け出る場合は,次の点にご注 意ください。まず,食品の購入日,購入先,異物 を発見した日と食品の保存方法などをメモしてお き,発見した異物の入った食品は,なるべくいじ らずに,食品の入っていた包装類を含めて,その ままの状態で持参することです。食品はほとんど 食べてしまい,異物だけを持参する方もいらっし ゃいますが,情報が少なく,試料が少なすぎて分 析できない場合もあります。また,食品中に発見 した異物が何であるか探求したい衝動に駆られ,
たまたま手近に顕微鏡が有ったことから,プレパ ラート迄作って観察してから保健所に届けられた 方がいました。しかし,異物を検査する側からす ると,異物が食品に練り込まれていたのか,表面 に付いていたのかなど,異物がどのような状態で 食品に入っていたかが異物混入原因究明の一つの 重要な決め手になります。特に薬剤師の方は知識 があるだけに,気持ちは分かりますが御自制下さ い。また商品の包装が透明で,開封前に異物を発 見したら,絶対封は切らないで下さい。開封後に 発見された異物は,消費者の不注意により混入し たものであると疑われても仕方がありません。さ らに,同時に入手した同じ商品があれば,参考の ために一緒にご持参下さい。未開封品や第三者立 ち会いの元で開封された食品から異物が発見され れば,消費者の手に渡る前に異物が混入したこと
食品中に異物らしきものを発見したら
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図8 チューブ入り洋カラシから異物