い。
9. 企業の環境適応 とその生活能力
最後 に,我 々は,既述 して きた ミューラーの所論の検討を介 して,本論文 の課題である企業の 「生活能力」について より具体的 に考察する。
(1) ミューラーの所論の検討 (∋ 企業概念の矛盾点
ミューラーは,企業を様 々な企業関連的集団か ら構成 される 「連合」 と定 義 している。
「連合理論」は企業の利害関係者の確定 と企業の 目標形成過程を説 明する のに適切な理論であると評価で きる(1)。 したがって,環境管理 において も企
業内外の環境関連集団 と彼等の環競関連的要求の確認,お よび具体的な環境 関連的な企業 目標の形成過程が説明で きるとい う長所がある。 しか し,問題 点はここに潜んでいるのである。すなわち 「企業 内外の」 とい う表現は既 に 特定の企業概念が存在 していることを示 している。また,企業 目標の形成 に ついて も,制度 としての企業の 目標 は無視 されてお り,連合理論 による企業 概念は非現実的である と判断されざるをえないであろう(2)。
しか し,上の批半舶ま連合理論の全てを否定す るものではない。企業はその 内部要求集団 (出資者 と協働者)か ら構成 され る 「組織」であるとともに, 企業外部の様 々な利害者集団を持つ 「制度」として も理解 されるか らである。
企業の 目標 は制度 としての企業の生得的 目標 (営利的商品生産 目標)を中心 として,内外の様 々な利害者集団が要求する 目標 (社会的 目標)か ら形成 さ れる と解 される。その場合, 目標形成の大 きな要 因をなすのは各利害者集団 の持つ企業への影響力 (権力) と,制度 としての企業 に課せ られている諸条 件であろ う。 この ような連合理論の貢献は,我 々が企業の 「生活能力」を具 体的に解明する際に重要 な示唆を与 えて くれる。
(参 環境概念の特殊性
環境 とは何 らかの主体を取 り囲む,その主体 に とって意味のある存在 と理 解 され,主体を取 り囲むすべての存在は外界 と定義 されるのが一般的であろ
ラ (3)。 しか し, ミューラーは,環境概念を極めて狭 くかつ厳格 に 「自然」あ るいは 「生態系」 と定義 し,その他の一般的に定義 される環境主体は 「企業 者的外界」 と定義する。 これ らの定義は,環境問題 として特 に重要 となって いる 「自然環境」に注 目を集め,その解決を促進するとい う長所 を有 してい る。
しかし, 自然環境は物言わぬ存在であ り,その保護の要求は何 らかの社会 的集団 (例 えば
,
「グ リーンピース」の ような環境保護 団体)の要求 として 現れる。 したがって,環境管理の直接的対象の多 くは企業の環境関連的利害 者集団であ り,あるいは環境管理それ 自体 によって 自発的に認識 される自然である。 ここに, 自然のみを環境 と定義することによって概念的混乱が生 じ る可能性が生 まれる。同時に,企業 を連合 として認識する矛盾が拡大 される。
企業の 「生活能力」は,む しろ, 自然環境のみではな く企業内外の種 々の利 害関係者 に大 き く依存 していると考 えるのが現実的であろう。 この立場は, 我 々が企業の 「生活能力」 に関 して検討する際の出発点をなす。
③ 有効性 と能率の意味
ミューラーは,企業外部 における環境関連的要求集団の要求の満足化の度 合いを 「有効性」 とい う概念で把握 し,企業内部 における要求集団の満足度 を 「能率」 とい う概念で示 している。そ こでは,有効性 と能率が確保 され 企業の 「生活能力」が維持 ・確保 され,企業 と外界 との均衡が達成 されるこ
とで 「生活 目標」が確保 され る と解 されている。 したがって,生活能力 とは
「外界 と調和 して生活する能力」 と定義 され,外界 との調和すなわち有効性 の維持 ・増大が企業の生活能力の確保 に とって絶対的な条件 となる。 もちろ ん,能率の確保 と増大がその前提条件 となっていることは論を待たない。環 境管理の課題は, この ように企業の 「生活能力」の条件 を規定 しそれを左右 す る要因の向上 にある と解 される。
外界 とは 「自然」をも含んだ企業を取 り囲むすべての存在であ り,企業の 利害関係者は環境 (自然)関連的要求を持 つ集団のみではないか ら,外界 と の調和 とは決 して 自然環境の保護 に関す るもののみではない。 また,利害関 係者の要求は多種多様であ り,各要求間にコンフ リク トが存在す る と考 える のが現実的であろう。 ミューラーの言 う環境管理はそれ ら 「生態無関連的要 求集団」の要求をも満足化の対象 とするもの と解 されざるをえず,そ うであ るな らば これ らの活動 に関与する管理活動 を何故 に 「環境」管理 と呼ぶので あろうか。 この矛盾は能率概念にもあてはまる。出資者 と協働者の要求は環 境無関連的であるものが多いか らである。環境管理 との関連で企業の 「生活 能力」を解 明す るためには, 自然をも含めた企業の利害関係者を も環境概念 に含めて考察す るのが合理的であると考 え られる。
(2)企業の 目標 と生活能力
ミュー ラーの所論 には上述 した問題点以外 に もい くつかの疑 問点があ る が,我 々の課題 に本質的な関連を有 しない と解 されるのでそれ らの論評 は避 け,企業の 「生活能力」の問題 に入ろう。我 々の出発点は, ミューラーによ って示唆 されたマズ ローの欲求のピラミッ ドである。
(ヨ マズローの欲求ピラミッドと企業生活
マズローの欲求ピラミッドは, ミューラー と同様 に我 々が企業の 「生活能 力」を考察する際に,貴重な示唆を与 えて くれる。既述の ように,ミュー ラー は企業 目標 を 「生存 (生 き残 り) 目標」 と 「生活 目標」 とに二分・し,前者 を マズローの言 う最低 レベルの欲求 (生理的欲求) に対応 させ,後者 をそれ以 上の欲求に相当する企業生活の 「質」 を伴 った生活に例 えている。 しか も彼 は
,
「生存 目標」 も一種 の 「生活 目標」であ る として これを 「生活 目標」 に 加えている(4)。そ こで,我 々は概念の混乱を避けるために 「生存 目標」 を最 低 レベルの生活 を意味す る 「狭義の」生活 目標 とし,そ こに生活の 「質」が 考慮 された 「生活 目標」 を加えた概念 を 「広義の」生活 目標 と呼ぶ こととす る。当然なが ら,我 々の課題は,広義の 「生活 目標」を明 らかにし,そ こか ら企業の 「生活能力」を解 明することにある。ここで問題 は,「生存 目標」 とは何 を もってそ う呼ぶのか,そ して生活の
「質」 とは一体何を指すべ きなのか, とい うことである. この問題は,企業 の最低限の生存要件 とは何であ り,企業の 「質」 とは具体的 ・一般的に どの ようの ものか, とい う極 めて困難な解答を求めている。 しか し,我 々は ここ にその解答 を示唆する極めて強力な見解を見出す ことがで きる。それは,藻 利教授の経営管理の発展 に関する見解 である。我 々は教授の見解 に我 々の独 自の見解を加 え,それを基礎 として企業管理の発展 ピラミッドを構築 し,そ こに企業の具体的 ・一般的な 「生活能力」の内容 を見出す ことがで きる と考 える。
(∋ 企業管理の発展
周知の ように,企業管理は19世紀末に成立 したその初歩的形態である 「成 り行 き管理
」( d r i f t i ngma n a ge me n t )
か ら始まった。成 り行 き管理 を批判 し 独力で 「科学的管理」( s c i e n t i f i cma na ge me n t )
といわれる本格的な企業管 理を作 り上げたのがテイラー( F. W.Ta y l o r )
である。 これ らの企業管理は 全‑的な企業構造 に対応 した単一的な企業管理であ り,「企業管理 の生産管 理的展開」 として特徴づけ られる。単一的な企業管理 か ら二重体系を持つ企 業管理へ と発展 させたのはフ ォー ド( H.Fo r d)
の企業管理であ る。彼 はい わゆ る 「フ ォーデ ィズム」( Fo r di s m)
を指導原理 とす る 「フ ォー ド ・シス テム」( Fo r dSys t e m)
を展開 し,
「同時管理」( ma na ge me ntb ys y nc r o ni z a ‑ t i o n)
と称 される純粋の 「生産管理」 と高賃金支給方策 を中心 とす る労働者 対策である狭義の 「労務管理」 とい う,二重の管理体系を成立せ しめた と解 することがで きる(5)0経済 と企業の発展 に対応 し企業管理はさ らに発展す る。現代企業の企業管 理はその規模の拡大 に伴 う非経済的な権力をも獲得す ることによって 「市民 化管理
」( c o r po r a t ec i t i z e n s h i pma n a ge me n t )
を生成せ しめ, ここに現代の 企業管理は,営利的商品生産 とい う企業の 「経済的職能」 に対応す る 「生産 管理」 および 「労務管理」 と,営利的商品生産 と直接的 には関わ らない企業 の 「非経済的職能」に関連す る 「市民化管理」 とい う三重構造 を成 している と解 される。 もちろん,それは,企業構造 が,単一構造 か ら二重構造へ,二 重構造 か ら三重構造へ と発展 して きた結果 に対応するものである。すなわち, 現代企業の企業管理は,企業の構造 を成す 「経営技術的構造」の合理化を課 題 とす る 「生産管理」,
「経営社会的構造」の合理化を課題 とする 「労務管理」,「経営市民的構造」の合理化 を課題 とする 「市民化管理」,そ して これ ら三 つの管理の統合を課題 とする 「総合管理
」( ge ne r a lma na ge me nt )
とい う三 重構造 を成 している と解 され るのである(6)0(参 現代社会 における実践的企業管理
上述 したのは企業管理の歴史的な発展なのであるが,その発展過程 とその 段階は,現代社会 における企業の生成 とその発展あるいはその現在 における 発展段階 とい う形で,現在社会の実践 において も当てはまるもの と解 される。
すなわち,環境適応システム としての企業は現代の社会 において既 に三重構 造を もって存在 しているもの もあれば,その発展への途上 にある企業 もあ り,
また単一構造 を もって設立 され企業環境への適応過程の中で徐 々に三重構造 へ と成長 してい くこともあ り得 るであろう。実 に,実践 における企業の有 り 様は多種多様であ り,さまざまな段階をもって存在 している と解 されるので
ある。
我 々も,企業の 「生活能力」 とは, ミューラーが指摘するように一般的に は 「環境 に調和 しなが ら生活する能力」すなわち 「環境適応能力」 に他な ら ない と考 える。現代の企業管理は,環境適応システム としての企業がその維 持 ・存続のために変化する環境 に適応 して維持 ・発展 して きた結果 と解 され るか らである。 したが って,我 々はその発展の中に,企業の環境適応能力す なわち企業の 「生活能力」を把握す ることがで きると考 えうるのである。
④ 「生存 目標」 としての生産管理的企業管理 とその発展
さて,以上の様 な考察 か ら企業の 「生活能力」 を考 える と,企業生存の最 低条件は環境管理 を内包 した企業管理の生産管理的展開に相応するもの と解 され る。 もちろんそれは,「成 り行 き管理」や 「科学的管理」その ものを指 すのではない。企業の経済社会的職分である 「商品生産」のための生産過程 を合理化す る活動 を中核 とした,単一的管理の段階の企業がそれである。限 界企業の多 くは この ような段階にある と解 され る。 ミューラーの見解で言 え ば