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第6章 まとめ

6.1 政策提言

提言① 未着手路線の定期再評価を法制化

実証分析①において、区域隣接地の建物更新の先送り、実証分析②において、見直し方針 公表が区域隣接地における建物更新先送りの解消に効果があることが確認された。このこ とから、見直しの有効性は建築制限の解消のみならず、効率性の改善にも寄与していること が言える。

しかしながら、公共事業では事業着手した後における定期的な事業再評価・公表制度は定 着しているが、都市計画道路の計画決定においては社会的に影響を与えているにも関わら ず、再評価を定期的に行う仕組みが存在しない。道路整備がなされるか否かの不確実性によ る社会的損失が存在することから、再評価を義務化することで社会情勢への変化に対応し、

その都度再評価の結果を公表することで必要性がなくなった路線により生じる影響を取り 除き、効率性を改善する必要がある。

このため、通常、公共事業の再評価は3年ないしは5年サイクルで行われているが、都市 計画道路の場合は未着手路線の数が多いため、再評価の際にはある程度のコストが必要と なることも考えられる。このため、コスト面や都市計画の性質を鑑み、10年程度のサイク ルで見直すことが考えられる。

しかし見直しの結果、存続となった路線については依然として建築制限による逸失利益

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(提言②で対応)や不確実性による建物更新抑制効果(提言③で対応)を有する。

提言② 建築制限による実効容積率の制限に応じた固定資産税補正措置を固定資産評価基 準39に明記

再評価の結果、存続と判断された路線については引き続き建築制限による逸失利益が発 生することとなる。本研究のシミュレーションや実証分析により、住居系地域への逸失利益 はほとんど生じていないが、商業系地域では区域内の建築制限による逸失利益が非常に大 きいことが判明した。

現状では、都市計画道路の区域内の地積割合や指定容積率に応じて土地の固定資産税を 補正する制度を導入している市町村も存在するが、全国的にばらつきが存在する。また、補 正を導入している場合であっても、接道条件や敷地形状に基づく実効容積率による評価が なされていないため正確な補正が行われていない。都市計画法に基づく建築制限は全国一 律の制度でありながら、逸失利益に対する手当は市町村の裁量とされている点については 地域間格差を生み出し公平性の妨げとなる。

建築制限によって権利者が受ける損失は、判例上は「土地価格上の損失」と「土地利用上 の損失」に分けられる。これらの損失について、最高裁判所の判決には主に以下の2点が存 在する。(1)「土地価格上の損失」については、都市計画道路の事業実施時に行われる用地 買収の際に、制限を受けていないものとして時価で買収すべきというもの40。(2)「土地利用 上の損失」については、受忍の範囲内であるが、裁判官の補足意見において、「60 年にわた って制限が課せられている場合に損失補償の必要は無いという考え方には大いに疑問」、

「原告の土地の所在する地域は、第 1 種住居地域(容積率 200/建蔽率 60)であり、高度な土 地利用が従来行われていた地域でも、現にそれが予定されている地域でもない」との指摘が なされているもの41

上記(1)においては都市計画道路が事業着手された場合には損失は問題とはならないが、

未着手状態において当該土地を市場で売買する際には「土地価格上の損失」が補填されるこ となく損失として確定することとなる。上記(2)においては一定の権利制限は受忍の範囲内 であるものの、商業地域などの高度な土地利用が可能な用途であった場合においては、土地 利用に大きな制限を課すこととなるため、憲法第 29 条第 3 項を根拠とする補償の必要性が 生じる可能性を示唆していると捉えられる。

39 地方税法の規定により総務大臣が定めた「固定資産評価の基準並びに評価の実施方法及び手続」を示 し、土地、家屋及び償却資産の別にそれぞれの評価の基準、評価の実施方法及び手続きが定められている もの。

40 最高裁昭和 48 年 10 月 18 日判決

41 最高裁平成 17 年 11 月1日判決

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このため、これら2つの問題に対応するため、「都市計画決定時に損失をあらかじめ補償 する」ということが考えられる。これは、補償費用を都市計画決定のコストとして行政側が 認識することとなるため、政府の失敗を抑制する効果があるが、一方、「土地利用上の損失」

についてはどれ程の期間について補償するのかという点や、都市計画道路を見直して廃止 することとなった場合、損失が消失することとなるために支払った補償費をどのようにす るのかという点が課題となる。

また、「事業時の補償を2階部分までとすることを条件とした建築制限の解除」というこ とも考えられるが、一定の制約下に置かれていることには変わりがないため、「土地価格上 の損失」が完全になくなる訳ではないこと、補償費用の算定に際し、高層建築物の2階部分 までの補償費の算定が技術上困難であることなどが課題となる。

このため、「土地価格上の損失」と、「受忍限度を超過した土地利用上の損失」を踏まえ、

建築制限による実質的な土地利用制限に応じた土地の固定資産税の補正を全国一律の算定 方法に従って行うことが最も現実的な手法と考えられる。これにより、建築制限に起因した 逸失利益を緩和することにより、公平性の改善のみならず、不必要な路線を放置することが 行政コストとして認識され、見直しによる検証を促進するインセンティブとなることから 効率性も改善する。

なお、区域隣接地の道路整備の期待による逸失利益については提言③により対応可能。

提言③ 計画決定と事業認可の中間的位置付けとして着手時期などを含めた整備計画制度 を法制化

再評価の結果、存続と判断された路線については引き続き不確実性を有することとなる。

現行制度では計画決定から事業着手時の認可までの間において、いつ着手するかわからな いといった不確実性を有する。一方で、新幹線や高速自動車国道の整備で採用されている基 本計画、整備計画、事業認可の3段階手続きや、一部の自治体で行っている優先整備路線の 公表など、事業認可に先立ち、10年以内に着手予定の路線などにおいては整備計画を策 定・公表するなど不確実性の軽減対策が先例としても存在している。

このため、整備計画公表により優先的に着手される路線と当面着手の見込みがない路線 を明らかになるため不確実性に起因する影響を軽減し、効率性を改善することが可能とな る。

提言④ 都市計画道路の事業認可前における道路斜線制限の後退緩和は適用除外とする 現行制度では 50%未満区域内において都市計画事業認可前に計画ラインまでセットバッ クして建物更新を行うことによって、事業認可後に建物更新を行う場合と比較して土地の

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高度利用が可能となることから、事業実施時の取引費用の増加が生じる可能性がある。

このため、都市計画道路であれば計画決定と同時に道路斜線制限の後退緩和を適用でき ないようにすることで、事業実施段階での違法建築物の発生を抑制し、取引費用の増加を防 止することができる。なお、道路整備の用地買収による建ぺい率や容積率などの既存不適格 の発生については実質的な外部性は生じないため、特段の対処は必要ないものと考える。

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