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代用品の価値の変遷

第3章 人間の代用品思考

第1節  代用品の価値の変遷

 第1項  「間に合わせ」から「利便性」の追求へ

 原型の持つ価値を代用する役割を担うものを「代用品」と捉え て、これまで考察を進めてきた。とりわけ、造花のように、原型 の形を模造したものに原型の持つ価値を代用させたものを「代用 品としての模造品jと捉えた。

 しかし、調査や実験を通して、造花の価値が「生花の代わり」

という代用的な意義だけではもはやありえないのではないかと考 えるに至った。

 そこで、まず、戦前戦後の代用品の価値の変遷をたどってみた

い。

 そもそもの代用品の意味は、「ある物の代わりとして間に合わせ に用いる製品」5)であり、戦時中の物資の不足を補うために代替 材料を用いた製品としての呼称である。例えば、戦時中に「お米 がないから麦やさつまいもを食べる」といったようなことが含ま れる。現在の造花のような、本物に似せて作られたものを代用品 と呼ぶような感覚はさほどなく、ある事物に対して、元来からあ るもので、なおかつ、本物より価値の低いもので「代用する物」

と考えることが一般的であった。r間に合わせ」という言葉から分 かるように、代用品は本物に対して「価値の低い存在」と認識さ れていたことが理解できる。本物の存在があればこそ成立する概 念であるがゆえに、代用品は本物を越えることはできないという 性質を持つはずのものである。

 しかし、この認識が変わっていくことになるのが、物が増えて いくことに裕福さを見出していった時代、つまり高度経済成長期 であると思われる。物が増え、生活水準が高くなったことで、他 の物で代用する必要性がなくなっていったことがまず挙げられる。

その一方で、麦やさつまいもといった「代用晶」と呼ばれていた 物が、代用としての役割を終える、つまり「本来の価値」を取り 戻していった時期とも考えられる。

 しかし、そのように時代が変わっても、「代用する」という考え 方自体はなくならなかった。裕福になり行く時代の中で、我々は 代用品の「新たな意味」として、「利便性jというものを求めてい

ったのではないだろうか。必要に迫られて代用するのではなく、

より手軽で便利な物を、原型の代用として生み出していくという ことである。使い捨てライターはライターの代用品ではあるが、

当初は確かに、ライターの「間に合わせ」といった意味があった だろうが、安価で気軽に購入でき、使い終わったら捨てればよい という「利便性」が、新たな価値を持ち出したのではないだろう か。「代用する」という言葉が、「間に合わせ」から「利便性」と いう意味に変化したことによって、本物では不可能であったこと を、代用品を用いることによって実現させようとしていったとい

うことである。

 造花の利点は経済性と物理的安定性が主であったが、そのこと によって、大量に、しかも多様な場所で、さらには生花とは別の 豪華さを、手軽に演出することができるようになった。造花の活 用範囲が拡張されるにつれ、心を安らげ、部屋を飾るといった、

代用品としての本来的な価値が別の価値へと変換されていったの

である。

 石子順三はホンコンフラワーを『自然の花の模造ではなく、人 工の花であることの豪華さを競う」6)ものと定義している。

 ホンコンフラワーは、造花が庶民の生活に浸透していく先駆け 的な存在であり、1962年頃より広まり始めた。この年は、まさに 高度経済成長期のど真ん中に当たる年でもある。ホンコンフラワ ーはプラスチック製で、他の造花に比べて水洗いもでき、扱いや すいということから爆発的な人気を生んだということはすでに述 べたが、これらの理由により、造花というものが庶民の生活にな じみ、「あって当たり前なもの」として生花の代用とは別の存在価 値を深めていったのである。その後ホンコンフラワーは下火にな るのだが、まさに高度経済成長期の産物といっても過言ではない。

 以上のように、代用品が「利便性を追求するもの」として、そ

の価値が新たに見出されていったものと考えられる。

第2項 代用品思考の希薄化

 戦前から現代に至る代用品の価値の変容過程を次にまとめた。

時代 ︑︑ 代用品の価値

戦前 戦後

高度経 済成長

現代

物不足、貧困

        利便性の追求

生活水準の向上

物があふれ出す 科学技術の進歩

  間に合わせ  価値の低いもの

豊かさを追求する物

価値の多様化

不自由のない生活

①代用品そのものの価値

②本来の価値からの転用

③代用品から別のものへと転換

図23 代用品の価値の変容

 代用品に対する「利便性の追求」という考え方は、現代に生き る我々とって、もはやさほどの意味を持たなくなっているのでは ないだろうか。高度経済成長の終焉から40年近くが経とうとして いるが、その長い何月の中で、めまぐるしく生活が変化してきた ことは言うまでもない。代用品が「利便性の追求」という存在で あった時代では、そのものでは不可能であったことを、代用品を 活用することによって実現させるという、簡潔な構造式が成り立 っていた。しかし、現代ではさらに複雑であり、代用品という存 在自体が不明瞭になってきている。

 科学技術が進歩し、物の氾濫状態であるといっても良い現代の 生活では、代用品と本物の判断基準が曖昧になってきており、代 用品という意識すら持たず、さまざまな商品を当たり前のように 生活に取り入れているともいえる。

 今目における代用品は図23に示した3つのカテゴリーに分類さ れるのではないだろうか。

①代用品そのものの価値

 これまで造花についてさまざま考察をしてきたが、現在、100 円ショップなどでもみかける一般的な造花は、意識調査でも確 認したように、生花の代用品としてはさほど意識されておらず、

生花とは別の、造花ならではの存在として認められているとい うことである。生花を模造した代用品として製造され、生活に 取り入れられてきた造花は、あくまでも生花の代用品であるに もかかわらず、もはや代用品としては意識されずに、「造花」と いう、生花とは切り離された存在として当たり前のように受け 入れられているのである。

 私たちは花の代わりに造花を飾るのではなく、まさに造花を 飾るのである。

②本来の価値からの転用

 ホンコンフラワーは自然の花の模造ではなく、人工の花とし

てその豪華さを競う存在であるとする、石子順三の定義を先に も述べた。現代の造花は、生花の代用としての価値からはなれ、

人工の花ならではの別の価値を持って用いられている場合が多 い。商店街やデパートのデコレーションに大量に使われる造花 は、あくまでもデコレーションのための造花として開発され、

使用されるものであり、生花の代用としてではない。

 また、最近では手工芸造花を教える教室が増えているが、造 花を装飾品としてではなく、自ら作り出す対象として価値を転 換させている例であると考える。

③代用品から別のものへと転換

 科学技術の進歩は、より便利なものを開発し、さまざまな製 品を生み出してきたが、原型に次々と付加価値をつけて展開さ せてきたために、そもそもの原型からはずれ、まったく別のも のへと転換させてきた。一頃流行った花の形をした玩具「フラ ワーロック」は①生花の代用、あるいは②造花としての別の価 値を持つものといった範疇に入るものではなく、音に反応する 花型ロボットであり、元来のr花」とはまったく別のものであ

る。花の香りの消臭剤なども、ある意味でこの範疇に入るので はないだろうか。

 このように現代では代用品の価値が変質・多様化してきており、

「代用品」として意識されること自体がなくなりつつあるのでは ないだろうか。

第2節 代用品をめぐる今後の展開

 さて、本論冒頭に模造品と代用品の関係について述べたが、こ れまでの考察を踏まえ、現代における構造を図24に示した。

 。   ③      模造品

 代用品としての模造品』髄の転用

④      ②

  !一一一 }、、、

         、

        、

 ,      、  ノ      、

ノ      、 ノ      ヤ ノ      ヤ

    ①      ・、

原 型

      大量生産、

       、

ロの  りはロ ロロココのロほ  コドドロロコロぴりほロロじ ロロロのリ  ロリしロロのラロリ  ヤ

      ヤ       代用 ・、

 ヘ       デ  ノ   ヤ       ヂ

ノ    、噛辱噌陶一囎一ρ

 ,  , ,  ノ

 ⑤

別のものへの

 転換

図24 現代における模造品と代用品

 まず、「間に合わせ」としての代用品(④)は、今目の物質的に 豊かな時代においては、ほとんど用いられなくなっている。また、

代用品としての模造品(③)は確実に大量生産されつつも、先に も述べたように代用品としては意識されず、そのもの自体として 価値付けられている。一方、代用品として製造されたものの多く

は本来の代用品としての価値を離れ、別の価値へと転用されてい く。つまり模造品(②)の範囲が拡張されることとなる。また、

もはや代用品でも模造品でもなく、それらから転換されてきたま ったく別の新たな領域が生まれていると考える(⑤)。

 さてそれでは、原型(①)は現代ではどのように捉えられてい るのだろうか。造花と生花の実験では、明らかに生花が人の心を

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