第 9 章 粒子浴に接した系と大正準集団 61
9.5 付録:
ヘルムホルツの自由エネルギーF の統計力学的表現 F(T, V, N) =−kBT lnZ(T, V, N) を用いて、熱力学の関係式
µ=
(∂F(T, V, N)
∂N )
T,V
を導いてみる。
分配関数を、量子状態の和∑
nから、∆E間隔でのエネルギーの和∑
E
に書き換えると、第7章で行った変形をくりかえして、
Z(T, V, N) =∑
n
exp [
−En(V, N) kBT
]
=∑
E
W(E, V, N) exp [
− E kBT
]
=∑
E
exp [
− 1 kBT
(
E−S(E, V, N)T )]
≈CNaexp [
− 1 kBT
(
E0−S(E0, V, N)T )]
と表される。但し、Cとaは定数で、E0は和の中で最大の寄与をする項 のエネルギーで、条件
∂
∂E (
E−S(E, V, N)T )
= 0, 即ち
(∂S
∂E )
E=E0
= 1 T を満たす。即ちE0はT,V, N の関数E0(T, V, N)である。
これより、
−kBTlnZ(T, V, N)≈E0(T, V, N)−S (
E0(T, V, N), V, N )
T
と表されるので、
∂F(T, V, N)
∂N = ∂
∂N (
E0(T, V, N)−S (
E0(T, V, N), V, N )
T )
=−T (∂S
∂N )
E0,V
−
((∂S(E0)
∂E0
)
V,N
T −1 )∂E0
∂N
=−T (−µ
T )−
(1 TT −1
)∂E0
∂N
=µ をえる。
第 10 章 T P 集団とギブスの自由 エネルギー
この章では、系が環境とエネルギーのやりとりをするとともに、体積 も変化する場合を考える。これまで考えた他の場合と同様に、環境も含 めた全系に等確率の原理を仮定すると、系の量子状態の出現確率が、温 度T と圧力P をパラメタとする、T P 集団と呼ばれる統計集団で表され ることを示す。その規格化因子の逆数であるT P 分配関数から定義され る熱力学ポテンシャルは、ギブスの自由エネルギーになる。
10.1 熱浴に接して体積が変化する系
系が、環境とエネルギーをやりとりするだけでなく、一定圧力の下に 体積も変化する場合を考える。例えば、熱浴に接したシリンダーに可動 のピストンで閉じ込められた気体を考える。気体の圧力が一定になるよ うにピストンには重りが乗っているとする(図10.1)。重りの位置エネル ギーは系の体積V とピストンから加えられている圧力P の積P V で与え られるので、これと系の内部エネルギーEと熱浴のエネルギーEBとの 和が全系のエネルギーで一定、すなわち
E+P V +EB =一定
であることに注意して、系と重りを合わせた系が熱浴に接していると考 える。全系に等確率の原理を仮定すると、第7章の正準集団の場合と同 様の議論の結果、体積V の量子状態nが出現する確率Pn(V)は、
Pn(V)∝exp [
− 1 kBT
(En(V) +P V)]
(10.1) で与えられることが分かる。ただし、T は熱浴の温度で、体積V の量子 状態nのエネルギーをEn(V)とした。
図 10.1: シリンダーとピストンに閉じ込
められた気体。系全体は熱浴に温度T の 接している。
10.1.1 最大確率を与える体積
体積がV となる確率P(V)は P(V) = ∑
n
Pn(V)∝Z(V)e−P V /kBT
= exp [
− 1 kBT
(F(V) +P V)]
(10.2) で与えられる。ただし、Z(V)は分配関数(7.4)、F(V)はヘルムホルツの 自由エネルギーで、式(7.20)を用いた。
もっとも大きな確率を与える体積V0はF(V) +P V を最小にするもの で、それは
∂
∂V
(F(V) +P V)
= 0 (10.3)
をみたすが、これから、
− (∂F
∂V )
T
=P
がえられる。左辺は熱力学の関係式から系の圧力なので、この式は
「系の圧力が外から加えられた圧力P に等しくなる体積が、
最大確率をあたえる」
ということを表している。ヘルムホルツの自由エネルギーF は、系の体 積V に加えて、温度T、粒子数Nの関数でもあるので、式(10.3)を満た し最大確率を与える体積V0は、T, P, Nの関数V0(T, P, N)である。
問題 10.1 式(10.2)を示せ。
10.1.2 体積の揺らぎ
体積の平均値からの揺らぎを求めるために、式(10.2)の指数をV の関 数としてV0のまわりにテーラー展開する:
F(V) +P V =F(V0) +P V0+ 1 2
(∂2F
∂V2 )
T
V=V0
(V −V0)2+· · ·
=F(V0) +P V0+ 1
2κTV0(V −V0)2· · · (10.4) ここで、2次の項の係数は、熱力学の関係式から等温圧縮率
κT ≡ −1 V
(∂V
∂P )
T
によって (
∂2F
∂V2 )
T
=− (∂P
∂V )
T
= 1
κTV と表されることを用いた。
これより、
P(V)∝exp [
−(V −V0)2 2kBT κTV0
]
(10.5) なので、体積の揺らぎの分散
⟨(V −V0)2⟩
=kBT κTV0 (10.6) を得る。