第 6 章 小正準集団の例題 – 2準位系 37
6.3 弱く相互作用した多準位粒子からなる系
6.3.1 ラグランジュの未定乗数法
この様な、拘束条件の下での最大値問題はラグランジュの未定乗数法 (Lagrange’s method of undetermined multiplier)を用いて解ける。最初に、
この方法の手順を説明して、その後に、どうしてこの方法で解が得られ るかを示す。
手順: (i)まず、束縛条件(6.18)および(6.19)に対応して2つの未定乗 数αおよびβを導入し、
S ≡ S −˜ αN −βE (6.25) を考える。
(ii)次に、束縛条件なしにS˜を最大にするpiを求める。即ち、それぞれ 独立で任意の変分δpiに対して、
δS˜=δS −αδN −βδE
=−∑
i
(lnpi+α+βϵi)δpi = 0 (6.26) を満たすpiを求める。ただしα+ 1を改めてαと定義し直した。この解 piは未定乗数αおよびβに依存する。
(iii) 最後に、乗数αおよびβを束縛条件(6.18)および(6.19)を満たすよ うに決める。すると、その結果得られたpiは求める解になっている。
これが解になっていること: こうして得られたpiが束縛条件を満たす のは、未定乗数αとβをそのように決めたのであるから、当然である。こ れが、束縛条件を満たす変分δ′piに対して、δ′S = 0となることを示せば よい。
これは、以下のように簡単に示せる:このように求めたpiは式(6.26) を満たす。即ち、S˜は任意の変分に対してδS = 0なのだから、変分を束 縛条件を満たすものに制限してδ′piとしてもやはりゼロ、即ち
δ′S˜=δ′S −αδ′N −βδ′E = 0 (6.27) である。一方、束縛条件を満たす変分δ′piは式(6.22)および(6.23)を満 たしδ′N = 0およびδ′E = 0なので、結局式(6.27)よりδ′S = 0を満たす ことが分かる。
具体的計算: 式(6.26)は互いに独立で任意のδpiについて成り立つの で、δpiの係数がすべてゼロ
lnpi+α+βϵi = 0 (6.28) でなければならない。これより直ちに
pi =e−α−βϵi. (6.29) となり、piはαおよびβの関数として求められる。このpiを条件式(6.18) および(6.19)に代入して、
1 = ∑
i
pi =∑
i
e−α−βϵi (6.30)
E
N =∑
i
ϵipi =∑
i
ϵie−α−βϵi (6.31) を得る。これらの式よりαとβは決められる。まずαは、式(6.30)より
eα =∑
i
e−βϵi ≡f (6.32)
とβの関数として与えられる。一方βは、式(6.31)より E
N = 1 f
∑
i
ϵie−βϵi (6.33)
によって決められる(一般には陽な形には解けない)。結局、式(6.29)よ り、Sを最大にするpiは
p∗i ≡ Ni∗
N = e−βϵi
f (6.34)
で与えられる。
未定乗数βの意味: 更に、エネルギー一定の条件に対する未定乗数β は、温度の逆数
β = 1
kBT (6.35)
となることが示される。
〔証明〕エントロピーSは式(6.16)で与えられ、これを式(6.20) のようにpiを用いて表すと、
S ≈kBlnW∗ =−kBN∑
i
p∗i lnp∗i (6.36) となる。Wを最大にするpiは式(6.29)
p∗i =e−α−βϵi で与えられ、更にこの中のαおよびβは
1 =∑
i
p∗i, E
N =∑
i
p∗i ϵi (6.37) によりN とEの関数として与えられるので、結局、p∗i もN とEの関数である。
エントロピーの表式(6.36)より、温度は 1
T = dS
dE =−kBN∑
i
dS dp∗i
dp∗i dE
=−kBN∑
i
(lnp∗i + 1) dp∗i dE
=−kBN∑
i
(−α−βϵi+ 1)dp∗i dE
=−kBN(−α+ 1)∑
i
dp∗i
dE +kBN β∑
i
ϵidp∗i
dE (6.38) で与えられる。これに、式(6.37)の両辺をEで微分した式
0 = ∑
i
dp∗i
dE , 1
N = d(E/N)
dE =∑
i
dp∗i dEϵi
を用いると、
1
T =kBβ すなわち、 β = 1 kBT
が得られる。 証明終■
■ ラグランジュの未定乗数βが1/kBT であることの別の証明
系のエントロピーがNiの関数S(N1, N2,· · ·)を最大にするNi∗に対し て、S(N1∗, N2∗,· · ·)と与えられることを用いると、このことは以下のよう に証明できる。
〔別証〕系の粒子数N および系のエネルギーEも、Niの関数として N =N(N1, N2,· · ·), E =E(N1, N2,· · ·) (6.39) と表されているとする。これらの具体的な関数形は以下の議論で不要。
ラグランジュの未定乗数法では、未定乗数αおよびβを導入して、Ni∗ は、関数
S(N1, N2,· · ·)
kB −αN(N1, N2,· · ·)−βE(N1, N2,· · ·) (6.40) を最大にするように決める。即ち、
Ni −→ Ni+δNi (6.41)
に対する変分がゼロ、即ち 1
kBδS−αδN −βδE = 0 (6.42) となるようにNi∗はαとβの関数として決められている。更に、αとβは
条件(6.39)により、NとEの関数として決められている。
このNi∗からの変分δNiを、N は一定でEのみ変化するようにとった とする。すると、それに対するSとEの変分は、式(6.42)でδN = 0と したもの
1
kBδS−βδE = 0 (6.43)
を満たすので、これから直ちに (∂S
∂E )
N
=kBβ (6.44)
が得られる。 証明終■