第 3 章 ナガラ節のアスペクト的特徴
3.2 アスペクト的特徴に基づくナガラの分類
3.2.5 付帯状況ナガラと逆接ナガラの構文的な違い
付帯状況ナガラと逆接ナガラの違いは意味的なものではなく、文の構造的なものによるとする 主張に、佐藤(1997)(1998)がある。佐藤(1997)は付帯状況ナガラは動詞句内に生起するが、逆 接ナガラは動詞句内にはないと主張している。
佐藤(
1997
)ではまず、Koizumi
(1993
)で示された、とりたて詞「サエ」を使った焦点化テストを行 い、付帯状況ナガラが動詞句内に生起することを確認している。「サエ」を使った焦点化テストとは、「動詞に付置されたサエは、
VP
とVP
に支配される要素を焦点化できるという性質を利用し、問題 にスル要素がVP
内に存在しているかどうかを確かめるため(佐藤1997 p.64)」のテストである。
Koizumi(1993)は(20)のような文をあげて、焦点化について説明している。
(20) Kiyomi-ga[xp
[
vpringo-o tabe]-sae] si-ta](キヨミがりんごを食べサエした)
Koizumi
(1993
)は(20
)でサエが焦点化できるのは「りんご」「食べる」「りんごを食べる」であるとす る。この焦点化される語句にサエを直接接続させたものを(21
)a
、b
、c
に記す。(21)a. キヨミは [りんご]サエ食べた。
b.
キヨミはりんごを [食べ] サエした。c.
キヨミは[
りんごを食べ]
サエした。ナガラの用法 主節との接続関係
・ 付帯状況ナガラ 順接
逆接(文脈的逆接)
・ 逆接ナガラ 逆接(構文的逆接)
に生起すると指摘している。
(
22
)[TV-o mi -nagara]benkyoosi-sae sita.
(TV
を見ながら勉強しさえした)(Koizumi 1993 p.412)
(22)でサエが焦点化できるのは「TVを見ながら」と「勉強する」である。焦点化された語句にサエ を接続させた文を(23)に示す。「TV を見ながら」を焦点化する場合は、サエではなくデサエを使 用した。
(
23
)a. [TV
を見ながら]
でサエ勉強した。b. TV
を見ながら[勉強]サエした。サエと同じく、否定するものを焦点化するとりたて詞「ハ」でも、同様の現象が見られる。(24)ハ が焦点化できるのは「TVを見ながら」と「勉強する」である。
(
24
)Kiyomi-wa [TV-o mi -nagara]benkyoo-wa sinai.
(Koizumi 1993 p.414
)a. [TV
を見ながら]ハ勉強しない。b. TV
を見ながら[勉強]ハしない。佐藤(1997)は、このテストを逆接ナガラについても行っている。
(
25
)太朗が父が病気でありナガラ学校に来さえした。(佐藤1997 p.65
)(25)でサエが焦点化しているのは「学校に来る」だけで、「父が病気でありながら」は焦点化されな い。
(26)a. *[父が病気でありながら]でサエ学校に来た。
b.
父が病気でありながら[
学校に来]
サエした。これらのテストを「チョコレートを食べナガラやせたいとこぼす」の文にも行ってみよう。
(27) チョコレートを食べナガラやせたいとこぼす。(付帯状況)
:「食べナガラ」は動作進行を表す。ナガラ節と主節は同時に起こっている。
a. [
チョコレートを食べながら]
でサエ、やせたいとこぼす。b.
チョコレートを食べながら[
やせたいとこぼし]
サエする。(
28
)チョコレートを食べながらやせたいとこぼす。(逆接):「食べナガラ」はパーフェクトを表す。ナガラ節は主節に先行して終了している。
a.* [チョコレートを食べながら]でサエ、やせたいとこぼす。
b.
チョコレートを食べながら[やせたいとこぼし]サエする。(
27
)を付帯状況ナガラで、ナガラ節のアスペクト的意味は動作の継続であると設定すると、「チョ コレートを食べながら」「やせたいとこぼす」はサエで焦点化されるが、(28
)のように逆接ナガラで、ナガラ節はパーフェクトであると設定すると、「チョコレートを食べながら」はサエで焦点化されない。
このことからも、(27)は付帯状況ナガラの構文的特徴を持つが、文脈的に逆接の意味を帯びてい ると判断される
また、主節に否定表現がある(19)で、否定を焦点化するハを付加しても、やはり、逆接ナガラは 焦点化されない。
(
19
) 多くの小説を書きナガラ文壇で認められず、東京での創作生活は失敗に終った。(新)
a. *[多くの小説を書きナガラ]ハ、文壇で認められず b.
多くの小説を書きナガラ[文壇で]ハ、認められずc.
多くの小説を書きナガラ文壇で[認められ]ハ、せず以上、付帯状況ナガラと逆接ナガラの違いは意味的なものではなく、文の構造的なものである ことを見た。
3.2.4
では、ナガラ文に見られる「逆接」には、付帯状況ナガラ文に現れる「文脈的逆接」と、ナガラ節がパーフェクトというアスペクト的特徴をもち、ナガラ節の運動が主節に先行して終了する場 合に必ず現れる「構文的逆接」とがあることを指摘した。
ナガラ節が継続というアスペクト的特徴を持つ場合、主節との時間関係は「同時」であり、同時 におこる二つの出来事のうち、従属節であるナガラ節の運動は主節の運動に付随して成立する。
この場合、ナガラ節と主節の接続関係は、「順接」の場合もあれば、「逆接」の場合もある。どちらの 接続関係となるかは、構文的に決まっておらず、文脈に依存している。付帯状況ナガラ文に現れ る逆接を「文脈的逆接」とするのはこのためである。一方、ナガラ節がパーフェクトである場合、ナ ガラ節は主節に先行し、主節との接続関係は常に「逆接」となる。このような逆接は「構文的逆接」
となる。
また、
3.2.5
では付帯状況ナガラは取立て詞「サエ」や「ハ」によって焦点化されるが、逆接ナガラは焦点化されないという現象から、両者は異なる構造を持つことを確認した。取立て詞「サエ」や
る構造を持つ。
これらの事柄は、ナガラの用法が明確に