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第1節 はじめに

高齢者人口の増加に加え、今後在宅での高齢者介護はますます増加していくと考えられ る。介護保険が適用されているとは言え、介護者の身体的・精神的負担は大きく、それまで の生活パタンの変更を余儀なくされることになる。塚田ら(1992)によれば、日本には未 だに、「老親の世話は子供(特に嫁)がするもの」「介護は女性が担うもの」といった古い家 族制度的体質が残っていると言われる。またニーズがあるにも関わらず、公的サービスの 利用は恥ずかしいと思う高齢者や家族がいることも報告されている。公的サービスを必要 としながらも世間体が気になり利用できず、ひとり悩み・迷いながら日々の介護を行ってい る介護者にとって、セルフヘルプグループである「介護者の会」の参加は、介護者自身の心 身に大きな影響を与えていくのではないかと思われる。

介護者の負担軽減に、公的サービス、特にデイサービスの存在は大きく、要介護者がデ イケアに行っている間、介護者は「介護者の会」に参加し、同じ立場にある者同士の交流に よって、それぞれの抱える身体的・精神的健康問題を軽減することができると言われている。

セルフヘルプグループとは、同じ悩みを抱えた人同士が集まり、苦しみを分かち合ったり、

問題解決のために助け合ったりするグループを指し、近年ますますその活動は盛んになっ てきている。その理由として、西川(2000)は、①家族・近隣などの普段のサポートシステ ムが崩壊したり、機能しにくくなってきていること、②ニーズがあるのに専門機関・制度な どが少なかったり、まったくないこと、③制度によるサービスでは満足できないものを満 たしたいという欲求が出てきていること、④利用者の主体性、権利意識などが増大してい ることを挙げている。また岡(1999)は、セルフヘルプグループを、「わかちあい」「ひとり だち」「ときはなち」の場であると述べている。

さらに西川(2000)の紹介によれば、Adamsはセルフヘルプグループを、①専門職がセ ルフヘルプグループを取り込むタイプ、②専門職がセルフヘルプグループを側面から援助 するタイプ、③専門職からセルフヘルプグループが自律しているタイプの 3 つに分類して いる。「自律的」タイプでは、専門職とセルフヘルプグループのあいだにはっきりとした距 離があり、専門職から独立して運営がなされ主体的に組織されており、常に両者の関係を 問いながら活動する特徴が見られる。更に全国規模で運営されているもの、個人が発起し、

地区単位で行われているものなどにも分類される。

また、今回調査の対象とした「介護者の会」には、現在介護をしている介護者(以下、現役 介護者とする)と、現在は介護を終了した介護終了者の両者が参加している。現役介護者同 士が経験を話し合うことで得られるピアカウンセリング効果に関する研究報告は過去にも いくつか見られるが、介護終了者に焦点をあてた研究は見あたらない。

そこで本研究は、介護終了者に焦点を当て、入会のきっかけや会参加する前に何を期待 していたのか、実際に何が得られたのか、介護が終わっても「介護者の会」に継続参加して

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いる理由は何かを研究課題とし、介護者の会がもたらす意味を明らかにすることを目的と した。

第2節 研究方法 1.調査対象

介護が終わっても「介護者の会」に継続して参加している11名である。対象者の選定に ついては、次の通りである。第5章のアンケート調査を行った際に、質問紙の末尾にイン タビュー調査協力の可否について印をつけてもらった。その中から、介護が終わっても継 続して「介護者の会」に継続して参加している人に調査協力の依頼をした。

2.調査期間および方法

調査期間は、2014年3月~7月であった。

調査は半構造化面接法で行った。具体的には次の通りである。所要時間は、一人当たり 60分~90分であり、すべてのインタビューはICレコーダーで録音した。面接場所や面接 時間については、対象者の指定場所・指定時間に従った。なお、面接終了後、得たデータ について筆者の解釈が適切かどうか、郵送・メールにて再度確かめる機会を持つとともに 聞き漏らした事柄や事実確認を行った。

3.調査項目

①「介護者の会」に参加した経緯について、②「介護者の会」参加前後の変化について、

③「介護者の会」以外からの支えについて、④介護を終了しても継続して「介護者の会」

に参加している理由について、⑤介護者に必要な支援についてである。また、必要に応じ て質問をしながら対象者の自由な「語り」に従った。

4.分析の手続き

本研究では、介護終了者の体験に注目し主観的意味世界を射程しているため、特定の現 象だけでなく社会の文脈の中での人々の感情や認識に焦点を当てる手法である質的研究法 を選択した。また、質的研究法の中、佐藤(2008)の定性的コーディングの手法を参考に して分析を行った。

定性的コーディングで内容分析するにあたっては、あらかじめICレコーダーに録音され たデータを文字化し逐語録を作成した。各対象者の文章をある一定の長さの内容によって 区切り単位化し、その内容を適切に表現するオープンコードをつける作業を行った。次に、

対象者間のデータを継続的に比較分析し、同様の内容であると判断したものを集合させ、

オープンコードの上位の意味をもつコードをつけた。さらに、これらのコード間で同様の 意味をもつと判断したものを集約しカテゴリー化を行った。この作業は何度も繰り返し行 った。

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また、データの信頼性と妥当性を高めるために、分析の全過程は高齢者福祉分野の専門 家とともに行った。カテゴリー化は2名の判断と解釈が一致するまで繰り返し検討を行っ た。

5.倫理的配慮

東洋大学大学院倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には、研究の趣旨を文章と口 頭で説明し協力を依頼した。また、協力を断ってもよいこと、協力した場合データは個人 のプライバシーの保護に十分配慮し、匿名性が確保されること、インタビューに際しては 語りたくないことは語らなくてもよいこと等を説明し、本研究以外の目的では調査結果を 使用しないことを書面にて確認し同意を得た上で実施した。

第3節 結果

1.対象者の概要

対象者の概要は、表7-1に示した通りである。性別は、女性が8名、男性が3名であり、

平均年齢は67歳であった。介護中にも仕事量を維持した人が4名、仕事をやめた人が3名、

仕事を制限した人が2名であった。また、介護者の会に参加した時期は、1名を除いた全員 が介護中に参加しており、参加した年数の平均は、10年であった。

また、以下の文章において氏名のあとの( )の中には、対象者の性別、年齢、要介 護者との関係についてこの順で示している。

<表7-1.インタビュー調査、対象者の概要>

関係 年数 介護度 疾患名 A 67 女 仕事量維持 介護中 17 義母 21 3→5 認知症 B 76 男 仕事量維持 介護中 4 実母 11 3→5 認知症 C 67 女 仕事を制限 介護中 12 義母 16 2→5 認知症

D 74 女 仕事をやめた 介護中 15 義母 4 老衰

E 58 女 仕事をやめた 介護する前 4 実父 3 2→4 認知症 F 84 男 仕事量維持 介護中 13 配偶者 24 2→5 若年性認知症 G 62 女 無職 介護中 7 実母 10 3→5 認知症 H 55 女 仕事を制限 介護中 7 実母 4 3→5 パーキンソン

I 62 女 仕事をやめた 介護中 11 実父 10 5→5 身体障害 J 63 女 無職 介護中 12 実母 12 2→5 認知症 K 70 男 仕事量維持 介護中 14 実母 14 3→5 認知症

年齢 性別 介護中の 仕事状況

会参加 時期

参加 年数

要介護者①

95 A さん(女、67、義母・義父)

結婚してからずっと義父母と同居していた。息子2人が産まれてからは6名家族で暮ら す。介護保険制度が始まる約 8 年前から義母の様子がおかしくなり、認知症と診断され、

在宅で介護をすることになった。家計のために仕事をしなければいけなく、寝る暇もない くらい忙しい毎日であった。Aさんが仕事に出ている間は、義父が義母の面倒をみていたが、

義父も高齢だったため、ショートステイを利用することになった。しかし、義母が段々暴 力的になったり、徘徊をするようになり、2カ月に1回利用していたショートステイを1 カ月に1回に増やしたり、デイサービスを利用し始める等の工夫をしてきた。その後も何 年か在宅で介護を行ったが、義父がガンになり、在宅で介護をするのが難しい状況になっ た。その時、義母が利用していたデイサービスで開かれた父兄会にて、(外部の)介護者の 会の代表に出会い、介護に関する色んな情報を得るようになった。嫁として義母を施設に 入所させることに戸惑いがあったが、介護者の会の代表の話と次男からの後押しで義母を 老人保健施設に入所させることになった。入所後も仕事の帰りに義母の施設に毎日のよう に訪問する等見守り続けて、在宅で10年、施設で11年と計21年間介護を行った。

義母が施設に入所するとほぼ同時に義父がガンと判明され、手術後は在宅で10年間療養 生活を送ることになった。

(本稿では、義母に対する介護を中心にお話を聞き、分析を行った。)

B さん(男、76、実母)

同居していた実母を11年間在宅で介護をしたBさん夫婦。長男ということで、兄弟には 何も頼まず奥さんと2人ですべての介護を行った。実母が認知症だと診断され、介護をし 始めたのがちょうど介護保険制度が施行された2000年である。近くの施設でショートステ イやデイサービス等を利用した。徐々に回数を増やして、最後は2か所の施設で週に 5日 間サービスを利用した。当時、Bさんは仕事をしていたため、実母と時間を過ごしたのは奥 さんの方が多かった。しかし、実母が施設に行っている間、Bさんが洗濯や掃除等をしたり、

友人と約束をしても、実母が帰ってくる時間に合わせて帰ってくる等、制約された生活を 送った。その時、実母が利用していたデイサービスで年に2回ほど開かれた、家族会に参 加していた(ここでいう家族会とは、施設側が設けたデイサービス利用者の家族の集まり である。)

C さん(女、67、義母・叔母・夫)

5人兄弟の長男の嫁だった C さん。同居していた実母に認知症の病状が現れはじめたの が、介護保険制度が開始される4年前である。認知症と診断された後、兄弟に集まっても らい、義母の症状を説明したが、全く理解してもらえなかった。介護保険制度が施行され た年に、義母が入退院をしており、介護保険制度を使い始めることになった。Cさんが仕事 に行っている間は、ヘルパーさんに頼んでいた。しかし、段々義母が夜に寝ないで起きて