3.1 組成可能性調査行程
3.1.4 介入プログラムの決定
35 いため、新しいサービスを導入するにあたって、2 倍の対象者が必要になり、コスト高になることが挙 げられる。また、固定費の高いサービスの場合、サ ービスを継続させる為に充分な一定量の対象者を 確保する必要が発生する
③成果に対する補正の可能性の検討では、最終的な評価を行う場合に、過大評価や効 果の置き換え、外部要因による影響や効果の逓減等の可能性を考える。例えば、介入サ ービスがなくても現れる可能性のある変化や、介入サービスを行ったがゆえに、別の部 分で起きてしまう変化、時間経過によって効果が逓減する可能性について考える必要が ある。これにより、より適切な測定の期間、対象群の設定を行うことができる。
④統計的な測定の厳密さの検討は、支払い条件と直接的に関係する部分でもある。統 計的な厳密さをどう取り扱うかは、行政機関と資金提供者の信用度へのコミットメント、
介入群の大きさ、介入サービスによる効果量によって決まる。一般的には、統計的な厳 密さを上げるほど、資金提供者の興味をひきやすいと考えられるが、コスト高な介入サ ービスを設計することにもつながりやすい。統計的有意差を厳密に求めるためには、効 果量を増加し、介入群・対照群のばらつきを抑え、確実性への要求を下げ、サンプルサ イズを大きくする、といった手法がある。一方で、厳密さを求めすぎることは、いわゆ る社会実験的な手法である
SIB
を採用する必要がなくなるので、評価の厳密さは各関 係者の同意ができるかによって決まる。⑤測定方法を変化量で行うか変化率で行うかは、どのような測定を行うかによって、
決定される。変化量の測定を行う場合は、対象群、介入群が完全な異なるグループに分 けられて、サービスの提供が行われた場合である。変化量の計算の式は、(変化量)=
(対照群の割合)-(介入群の割合)となる。変化率での測定を行う場合は、介入の前 後で比較した場合である。(変化率)=(対照群-介入群)/(対照群)*100となる。
36 介入プログラムの検討にあたっては、主に「パフォーマンス」及び「実現可能性」の 2つの要素が重要になると考えられる。「パフォーマンス」は、当該プログラムの実施 によって成果指標に与える影響と実施に要する想定費用等を考慮し、既存プログラムよ りも高い成果を見込めるプログラムとなっているかを評価する。特に成果指標へ与える 影響については、その根拠となる情報の信頼性が重要であり、また、適切な成果指標を 設定しているか、クリーム・スキミング等の課題がないかを確認する。「実現可能性」
は、当該プログラムを適切に実行可能な事業者候補の有無や、実行にあたって行政職員 を含む重要な関係者の理解が得られるか等の環境面、業務スケジュールや必要な業務要 件が現実的かどうか等の面から評価する。
これらの検討全体を通して、特に重要と考えられる点は、当該プログラムを実行する ことで影響がある関係者に対して、取組みに対する考えや課題意識等のヒアリングを含 めて接点を持ち、介入プログラムの検討段階から巻き込んでいくことである。これによ り、検討の初期から課題となる可能性のある部分の抽出などができ、適切なリスク管理 を行うことで円滑な介入プログラムの実現にも寄与することになる。
また、これから示す作業について、実態としては状況に合わせて統合、省略、簡素化 等をすることも考えられるが、いずれの場合においても行政機関と議論を重ねた上で合 意することが重要である。
3.1.4.1
事業モデルと実施プロセスの設計本事項では、特定されたターゲットが望ましい状態になるための介入プログラムに係 る具体的な枠組みの設計と、介入プログラムの実施に必要となる概算費用を明らかにす る。具体的には、以下の
3
つの作業について述べる。① 介入方針の選定
② 介入プログラムの設計
③ 介入プログラムの概算費用算出
①介入手法の選定では、介入対象に対する行政機関の既存プログラムの問題点の解決 や、対象者のニーズを満たすプログラムの要件を整理し、プログラムの対象とする業務 範囲やその手法を決定する。手法の決定については、対象者に対する既存プログラムの 問題点解決や対象者のニーズを満たす取組み事例を調査し、予め定めた選定基準に基づ いて事例を絞り込む方法がある。介入手法の選定基準例を以下に示す。
<介入手法の選定基準例>
パフォーマンス
介入手法によって、対象者にどのような影響があるかを評価する。影響を測る指 標については、並行して検討する
3.1.3
成果指標の設定で設定した成果指標のう ち、対象者の根本的な問題解決に関連する指標に対してより良い影響を持つ介入37 手法であることが望ましい。介入による影響の測定方法については、当該介入手 法を実施する事業者候補へのヒアリングや過去実績に関するドキュメントの分 析等により定量的及び定性的な影響を検討する。
パフォーマンスの信頼性
ターゲットへの定量的な影響について、どのような根拠に基づいて算出したのか を確認し、想定する影響が信頼できるデータかを評価する。例えば、その根拠と なるデータの測定方法や項目は何か、データの測定対象とターゲットに相関はあ るかなどを評価する。
介入手法の拡張性
資金調達によって新たな介入プログラムを実施することで、既存プログラムより も高い成果を創出する余地があるかを確認する。例えば、想定する介入プログラ ムを提供するための特殊要件があり、資金調達によってプログラム対象人数の増 加や新しい地域へのプログラム提供が著しく困難である場合などは、
SIB
による 介入プログラムの対象とするターゲット人数等を十分な規模にすることができ ず、SIB
による組成コスト等の割合が大きくなることで行政コスト削減効果が低 くなる可能性も考えられる。 事業者候補の有無
想定するプログラム対象地域において、当該介入手法を実施可能な事業者候補の 有無を評価する。例えば、当該介入手法に類似する業務実績を有する事業者候補 がプログラム対象地域に拠点を構えていない場合においても、プログラムを提供 可能かどうか、また、プログラムを提供する意思とそれが実現可能かどうか等を 含めて評価することも考えられる。
②介入プログラムの設計では、選定された手法を基に事業モデルを設計する。具体的 には、「業務分析」、「関係者分析」、「環境分析」及び「事例調査」を考慮した事業モデ ルを設計する必要がある。
「業務分析」とは、介入プログラム開始から終了までの実施プロセス毎のインプ ットやアウトプット、業務量、情報連携方法、実施時期や時間、実施体制、実施 場所等を検討する。その際、介入プログラムが行政機関の既存プログラムのどの プロセスにどのような影響があるか、また、行政機関との役割分担及び責任分解 点がどこにあるか等が重要となり、設計段階から行政機関と議論を重ねる必要が ある。なお、業務量や実施体制など実施規模によって影響がある事項は、並行し て検討する
3.1.3
成果指標の設定における成果指標とその達成目標に影響を受 けるため、これを考慮すること。 「関係者分析」とは、介入プログラムによって影響を受ける関係者を洗い出し、
各関係者における影響や影響のある頻度等を考慮した上で、必要な対応策を検討 することである。また、介入プログラムを推進する上で、課題・障壁となる可能
38 性がある重要な関係者については、説明会やヒアリング等を通して、介入プログ ラムの推進に対する意向を把握し、特に重要な関係者がプログラム実施に対して 否定的な意向を有する場合、介入プログラムの円滑な推進に大きな影響があると 想定されるため、状況に応じて適切なアプローチをすることが重要である。
「環境分析」とは、介入プログラムを取り巻く現状と将来の環境変化の見込み、
例えば、介入プログラムに関連する計画や法令の有無とその動向等を確認し、介 入プログラムにどのような影響があるかを分析することであり、必要に応じて介 入プログラムの見直し等の対応策を検討する。また、行政機関においては、定期 的な人事異動があるため、承認者等重要な関係者の異動が想定される場合はその 異動時期までに文書で合意を得ること、異動による引継ぎの支援及び異動後の新 任者の意向を踏まえた対応など、状況に応じて適切なアプローチをすることが重 要である。
「事例調査」とは、介入プログラムに類似する取組み事例について、優良事例や 失敗事例などを分析することであり、必要に応じて介入プログラムの見直し等の 対応策を検討する。
③介入プログラムの概算費用算出では、②で設計した事業モデルに基づいて、事業者 候補へ概算見積提出を依頼し、介入プログラムの実施に要する概算費用を算出する。原 則として、複数の事業者候補へ概算見積を依頼することで適正な費用算出をすることが 望ましいが、介入プログラムを実施できる事業者候補が限定される等特筆すべき事情が ある場合はこれに限らない。
また、3.1.3 成果指標の設計や
3.1.5
財政モデルの検討などの検討結果によっては、介入プログラムの実施規模等の要件が変更となることもあり、要件変更の都度、事業者 候補へ概算見積を依頼することは現実的ではなく、概算見積の算出に必要となる項目の 細分化や単価・数量を事業者候補へ予め求めることで、細かな要件変更等は事業者候補 へ修正を確認することなく調整できるように考慮する必要がある。
なお、介入プログラムを単一事業者で実施することが困難であると想定される場合、
複数の事業者が関わることを前提とし、全ての事業者を取りまとめる「中間支援組織」
が担う役割である、プロジェクト管理にかかる間接費用を別途算出しておくことが望ま しい。