1.市電の復旧
(1)交通局施設の被害状況
①局庁舎等の被害
熊本市交通局は、大江局舎(総務課・電車 課・大江営業所)、上熊本車両工場、上熊本詰 所の庁舎等を有しており、今回の地震におい ては、軽微ながら以下に示すとおり被害が生 じた。
図表6-4-1 交通局庁舎等の主な被害状況
■ 大 江 局 舎
・ 外階段床の剥離・ ひび割れ
・ 外壁・ 柱の亀裂、剥離、雨漏り
・ トイレ故障、タイル落下、冷暖房機器類破損等
■ 上 熊 本 車 両 工 場
・ 外壁・ 柱の亀裂、剥離、破損等
■ 上 熊 本 詰 所
・ 外壁・ 柱の亀裂、剥離、破損等
②軌道施設等の被害
熊本市電の営業路線は12.1 ㎞に及び、運行 系統は2 系統で、A系統(田崎橋~健軍町)
が約9.2 ㎞、B系統(上熊本駅前~健軍町)
が約9.4 ㎞を運行している。
今回の地震においては、軌道のみならず、
電停、架線、電車車両等にまで被害が及んで おり、特に4 月16 日の本震の発生後は全線運 休を余儀なくされた。
軌道施設等の主な被害状況は、次に示すと おりである。
図表6-4-2 軌道施設等の主な被害状況
軌道施設等の具体的な被災箇所は、次の路 線図および一覧に示すとおりである。
熊本地震による被災箇所は、A系統および B系統の双方に見られ、路線の多くの範囲に 被害が及んだ。特に、動植物園入口電停付近 および健軍校前電停付近の軌道の沈下がひど く、応急復旧後も徐行運転で通過する必要が あった。
■ 軌 道
・全線でレールの変形等
・健軍方面の軌道敷の沈下2か所
・上熊本車庫内線路の沈下、歪み
■ 電 停
・熊本駅前電停、上熊本駅前電停でホームの 段差、亀裂
■ 架 線
・軌道上の歩道橋の照明灯1本が倒れ、架線に 接触
■ 電 車 車 両
・車庫内において吊り 下げ式の作業用通路が 大きく揺れ、格納していた電車車両が損傷
図表6-4-3 軌道施設等被災箇所一覧
軌道施設等被災箇所一覧(平成29年3月31日時点)
⑧上熊本詰所棟損傷
③ホームの段差
⑨上熊本営業所棟損傷
⑭レール破断
⑬レール破断
④ 基地内のレール 及び 砕石沈下
⑥車両損傷
⑦車両工場棟損傷
⑮電柱傾き
⑯レール変形
①レール沈下
⑩変電所基礎剥離・ひび
②レール沈下
【 凡例 】
被 害箇所(一部応急措置済) 被 害箇所(一部経過観察中)
補 修 箇所(項目⑤)
⑪IC定期券継続機アンカ ー損傷
⑫大江局舎損傷
被災箇所 主な被災状況 復旧の工期
① 動植物園入口電停付近の軌道 レール沈下 H28.4.18~5.20
② 健軍校前電停付近の軌道 レール沈下 H28.9.20~11.8
③ 上熊本駅前電停付近の軌道 ホームの段差 H29 年度
④ 上熊本車両基地 基地内のレール、砕石沈下 H29 年度
⑤ 軌道狂い補修 軌間、水準、走行時の沈み等 H29 年度
⑥ 上熊本車両基地内の電車車両 カメラカバー・アルミパネル 損傷
H29.3.27 対応済
⑦ 上熊本車両工場(建物) 建物損傷 H28~H29 年度
⑧ 上熊本詰所 建物損傷 H28~H29 年度
⑨ 上熊本営業所 外壁、内壁、外門扉損傷 H29.3.27 対応済
⑩ 健軍変電所 基礎、外壁損傷 H28.6.11 対応済
⑪ 大江営業所 IC定期券継続機アンカー損傷 H28.4.26 対応済
⑫ 大江局舎 建物損傷 H28~29 年度
⑬ 上 熊 本 駅 前 電 停 か ら 県 立 体 育 館 前 電停間
レール破断 H28.4.17 対応済
⑭ 杉塘電停から段山町電停間 レール破断 H28.4.17 対応済
⑮ 杉塘電停から新町電停間 電柱の傾き H28.9.1 安全確認
⑯ 大甲橋付近(九品寺交差点側) レ ー ル 変 形 、 電 車 走 行 時 の 異 音
H28.4.18 対応済
第6章応急復旧対策の実施
(2)発災時の対応
4月14 日21 時26 分の前震発生時には、19 車両が運行中であった。地震の発生により運 行中の全車両へ緊急停止の指示を行い、乗客 の安全確保に努めた。地震の発生直後は、建 物等からの落下物を避けるために歩行者等が 軌道敷内に一時避難をする状況も見られたた め、その安全の確保にも努めた。乗客の避難 誘導を進めるとともに、軌道施設の安全確認 を実施したところ、特段の異常は見られず、
乗客の避難が終わった車両から順次、最徐行 で回送入庫させ、おおむね発災後3時間程度 で運行中の全車両の入庫が完了した。
(3)市電の復旧・運行再開
①前震後の対応
4月14 日の前震発生後、安全確認作業を行 うため、終電まで運休とすることを決定した。
同日、軌道施設(線路、変電設備、架線、電 停等)の巡視および点検を実施するとともに、
車両工場、電車車両、営業所および詰所の被 害状況の確認を行ったが、異常は見られなか った。被害状況については、軌道法施行規則 等の関係法令に基づき、九州運輸局へ速報し た。
翌15日は、始発前に再度軌道等を巡視し、
安全確認を実施した。余震が継続しているた め、当日は終日徐行運転で運行した。
②本震後の応急復旧対応
4月16日午前1時25分の本震発生時は運 行時間外であり、運行中の車両はなかった。
当日は午前4時頃から応急復旧作業を開始 した。交通局直営の作業員 11 名(土木班 5 名、電気班6名)が徒歩で軌道全線の巡視、
点検を行った。前掲の被災状況のとおり、レ ールの破断や、倒れた照明灯が架線へ接触す るなどの被害が見られたため、始発からの全 線運休を決定した。前震時と同様、関係法令 に基づき、九州運輸局へ被害状況等を速報し た。
4 月17日も始発より終日運転を見合わせ、
同日より被害箇所の復旧作業を開始した。
レール破断、電停ホームの亀裂、舗装版の 浮き上がりの補修作業や、軌道の一部を塞い でいた民家のブロック塀の撤去は交通局職員 が順次実施した。また、車庫内で損傷した電 車車両についても、可能な限り交通局職員で 応急修理を実施した。一方、健軍方面の軌道 敷の沈下箇所は、被害の程度が大きく、外注 により補修工事を実施した。架線に接触して いた歩道橋の照明灯については、道路管理を 所管する東部土木センターと協力し、撤去作 業を進めた。
③運行再開に向けた取組
市電の運行再開に向けて、4月17日より試 運転を開始した。
同日は、すでに補修が完了した「田崎橋~
神水・市民病院前間」および「上熊本駅前~
神水・市民病院前間」で試運転を行った。し かし、一部で衝動が感じられたことから、翌 18日も終日全線運休とすることとした。
4 月 18 日には前日に衝動を感じられた箇所 の補修が完了したため、再度同区間で試運転 を実施したところ、特段の異常は見られなか った。この結果を受けて、翌19 日に同区間の 営業運転(徐行運転)を再開した。また、1 8日には、「動植物園入口~健軍交番前間」の 被 害 箇 所 の 復 旧 作 業 を 開 始 し た 。 さ ら に 19 日には、「神水・市民病院前~健軍町間」の試 運転を実施した。その結果、当該区間につい て異常は見られず安全が確認された。
これにより、本震発生後より運休していた 市電は、4 月20日の始発より全線で営業運転
(徐行運転)を再開した。
4月28 日には、被害状況や被災後の応急対 応の状況について整理した災害報告書を九州 運輸局へ提出し、5 月 1日には、一部徐行運 転区間は残るものの、速度規制を解除し全線 通常運転を開始した。運転再開後も毎日の巡 回や運転士からの報告等で経過観察を行った。
また熊本地震による軌道への影響を調査する ため、6 月に全線で臨時の軌道検測を行うと
ともに 、10月末に も定期の検 測を実施し た。
なお交通局では、前震以降、HP、交通局 公式ツイッター、九州のりものinfo.com に運 行情報を掲載し、地震による市電ダイヤの乱 れや運休等について情報発信を行った。平成 29年3月21日からは市電ロケーションシス テムを導入し、リアルタイムに市電の運行情 報を取得できるなど、通行障害等における情 報提供体制の充実を図っている。
④運行再開後の取組
(ア)災害ボランティア等の運賃無料取扱い 市電は、運転再開後も、乗客の安全に十分 に配慮しながら、本市の基幹公共交通として 重要な役割を果たした。
発災後は、全国から多くの災害ボランティ アや他自治体の応援職員が本市に駆けつけ、
様々な支援活動に従事した。それらの方々が 移動手段として市電を利用する場合は、その 活動を支援することを目的に、市電の運賃を 無料取扱いとした。これにより多くの災害ボ ランティアや応援職員を輸送し、復旧・復興 に向けた取組を後押しした。
図表6-4-4 運賃無料取扱いの実施概要
対象者 期間 実績
1 熊 本 市 が 発 行 す る 災 害 支 援 自 治 体 職 員優待乗車証を提示する方
4月22 日~5月31 日、
5月24 日~6月30 日、
6月27 日~7月31 日、
7月25 日~8月31 日、
8月29 日~9月30 日、
9月26 日~10月31 日
優待乗車証発行枚数
… 1,777 枚
2 熊 本 市 災 害 ボ ラ ン テ ィ ア セ ン タ ー で 発 行 す る 氏 名 が 記 入 さ れ た 登 録 当 日 のワッペンを提示する方
4月22 日~11月26 日 無料取扱者数
… 32,822 人
(イ)手数料の免除等
市電は全線営業再開まで4 日間運休したた め、定期券利用者に対し「定期有効期間の延 長」又は「運休期間分の運賃払戻し」の特例 的取扱いを、4月21 日から10 月31 日までを 期間として行った。
また、被災者の負担軽減策として、震災に よる影響で定期券が不要になった場合の払戻 手数料および定期券(記名式ICカードを含 む。)を紛失した場合の再発行手数料の無料取 扱いを、4 月21日から8 月5 日までの期間で 実施した。
これらの特例措置等の取扱いは、払戻しの 取扱いや定期の利用履歴の確認が可能な交通 局1階営業窓口のみで行った。対応できる窓 口が1 か所であったため、定期券等の販売受
託事業者に特例措置等の案内徹底を依頼する とともに、報道機関への情報提供やHPへの 掲載を行うなど広く周知に努めた。
第6章応急復旧対策の実施