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事態の蓋然性と判断の蓋然性 1)

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1.蓋然性の二類型

 蓋然性を表す副詞の議論に 入る前提として、本章と次章 では蓋然性を表す文末表現に つ いて考察する。本章では事態 の蓋然性と判断の蓋然性の区 別について論じ、次章では文 末 のモダリティ形式について論じる。

 先行研究では、事態の蓋然 性と判断の蓋然性が混同され て議論されることが多かった 。 しかし、前者は客体世界と関 わる命題表現、後者は話し手 の心的態度と関わるモダリテ ィ 表現であり、それぞれ別々の概念であることに注意する必要がある。

  「事態の蓋然性」:客体世界における事態成立の可能性の度合い   「判断の蓋然性」:話し手の判断の中での事態成立の可能性の度合い

 たとえば、同じ可能性を表 す表現でも、「何々の可能性 ガアル」が客体世界に存在す る 事態を表すのに対し、「何々ニチガイナイ」は話し手の判断を表すという違いがある。

 (1) 明日は雨が降る可能性ガアル。

 (2) 明日は雨が降るニチガイナイ。

その証拠に、「事態」は真偽 の対象となるためそれを否定 することができるが、「判断 」 は発話時点における話し手の 心的態度を表すものであり、 真偽の対象とはならないため そ れ自体を否定することはできない。

 (3) 明日は雨が降る可能性ガナイ。

 (4) 明日は雨が降るニチガイナクナイ。

こうした違いがあるにも関わらず、両者を一律に「蓋然性」として捉えるのは問題である。

両者は図2-1、図2-2に示されるように、区別して考える必要がある。

1) 本章は杉村(1999)をもとに加筆修正したものである。

     明日は雨が降る可能性ガアル  φ

   図2-1 「可能性ガアル」文の構造

     明日は雨が降る  ニチガイナイ

   図2-2 「ニチガイナイ」文の構造

 以下、蓋然性を表す文末表現「80パーセント(である)」、「確率ガ高イ」、「可能 性 ガアル」、「ソウダ」、「(ような)気ガスル」、「ト思ウ」、「φ」、「カモシレナイ」、

「ニチガイナイ」、「ヨウダ 」、「ラシイ」、「ダロウ」 を対象に、事態の蓋然性を表 す のか判断の蓋然性を表すのかを分析する。

2.主観性判定テスト

 次に、第 1章2.4節で 設定した 主観性判 定テスト に従って 、上に挙 げた蓋然 性を表す 文 末表現を事態の蓋然性を表す ものと判断の蓋然性を表すも のとに分類する。このテスト で 適格となるものは事態の蓋然 性を表し、不適格となるもの は判断の蓋然性を表すと考え ら れる。

2 . 1 否定形テスト

 まず、各表現が否定形となるかどうかをテストする。

 (5)a. 明日の降水確率は80パーセントデハナイ。

  b. 明日は雨が降る確率ガ高クナイ。

  c. 明日は雨が降る可能性ガナイ。

  d. 明日は雨が降りソウニナイ。

  e. 明日は雨が降るような気ガシナイ。

  f. 明日は雨が降るトハ思ワナイ。

  g. 明日は雨が降るφナイ。1)

1) 「明日は雨が 降らないφ」な ら適格な文であ るが、その場合 は「φ」を否定 したことにはな ら ない。したがって、「φ」は極性(肯定・否定)の外側にあると考えられる。

  h. 明日は雨が降るカモシレナクナイ。

  i. 明日は雨が降るニチガイナクナイ。

  j. 明日は雨が降るヨウデハナイ。

  k. 明日は雨が降るラシクナイ。

  l. 明日は雨が降るダロウナイ。

 このテストでは「ト思ウ」 までが適格で「φ」以降が不 適格となる。後者が否定形を 持 たない理由は、発話時点にお ける話し手の心的態度は真偽 の対象とはならず、それ自体 を 否定することができないためである。

2 . 2 疑問の焦点テスト

 次に、各表現が疑問の焦点となるかどうかをテストする。

 (6)a. 明日の降水確率は80パーセントですか、90パーセントですか?

  b. 明日は雨が降る確率ガ高イですか、雨が降る確率ガ低イですか?

  c. 明日は雨が降る可能性ガアリますか、雨が降る可能性ガナイですか?

  d. 明日は雨が降りソウですか、雨が降りソウニナイですか?

  e. 明日は雨が降るような気ガシマスか、雨が降るような気がシマセンか?

  f. 明日は雨が降るト思イマスか、雨が降るトハ思イマセンか?

  g. 明日は雨が降るφですか、雨が降るカモシレナイですか。1)   h. 明日は雨が降るカモシレナイですか、雨が降るφですか?

  i. 明日は雨が降るニチガイナイですか、雨が降るφですか?

  j. 明日は雨が降るヨウですか、雨が降るφですか?

  k. 明日は雨が降るラシイですか、雨が降るφですか?

  l. 明日は雨が降るダロウですか、雨が降るφですか?

 このテストでも「ト思ウ」 までが適格で「φ」以降が不 適格となる。後者が疑問の焦 点 とならない理由は、発話時点 における話し手の心的態度と いうものが真偽の対象とはな ら ないためである。

2 . 3 文代名詞化テスト

1) この文は、「『明日は雨が降るφ』と言ったのですか、『明日は雨が降るカモシレナイ』と言っ たのですか?」という引 用文としての解釈なら できる。しかし、「φ」 や「カモシレナイ」と い う判断自体を真偽の対象とする解釈はできない。以下の文も同様である。

 次に、各表現が文代名詞の対象となるかどうかをテストする。

 (7)a. A:明日の天気はどうでしょうか?

    B:明日の降水確率は80パーセントだ。

    A:それは本当ですか。

      (それ=明日の降水確率が80パーセントであること)

  b. A:明日の天気はどうでしょうか?

    B:明日は雨が降る確率ガ高イ。

    A:それは本当ですか。

      (それ=明日は雨が降る確率ガ高イこと)

  c. A:明日の天気はどうでしょうか?

    B:明日は雨が降る可能性ガアル。

    A:それは本当ですか。

      (それ=明日は雨が降る可能性ガアルこと)

  d. A:明日の天気はどうでしょうか?

    B:明日は雨が降りソウダ。

    A:それは本当ですか。

      (それ=明日は雨が降りソウなこと)

  e. A:明日の天気はどうでしょうか?

    B:明日は雨が降るような気ガスル。

    A:それは本当ですか。

      (それ=明日は雨が降るような気ガスルこと)

  f. A:明日の天気はどうでしょうか?

    B:明日は雨が降るト思ウ。

    A:それは本当ですか。

      (それ=明日は雨が降ること)

  g. A:明日の天気はどうでしょうか?

    B:明日は雨が降るφ。

    A:それは本当ですか。

      (それ=明日は雨が降ること)

  h. A:明日の天気はどうでしょうか?

    B:明日は雨が降るカモシレナイ。

    A:それは本当ですか。

      (それ=明日は雨が降るカモシレナイこと)

  i. A:明日の天気はどうでしょうか?

    B:明日は雨が降るニチガイナイ。

    A:それは本当ですか。

      (それ=明日は雨が降ること)

  j. A:明日の天気はどうでしょうか?

    B:明日は雨が降るヨウダ。

    A:それは本当ですか。

      (それ=明日は雨が降ること)

  k. A:明日の天気はどうでしょうか?

    B:明日は雨が降るラシイ。

    A:それは本当ですか。

      (それ=明日は雨が降ること)

  l. A:明日の天気はどうでしょうか?

    B:明日は雨が降るダロウ。

    A:それは本当ですか。

      (それ=明日は雨が降ること)

 このテストは前二つのテス トとは異なり、「カモシレナ イ」は文代名詞の対象となり 、

「ト思ウ」は文代名詞の対象から外れる。

 まず、「ト 思ウ」につい て説明する。 例文(7f)(=(8))は 、明日の天気 についてどう 思 うのかを問答したものである 。こうした客体世界の事態に ついてそれをどう思うのか述 べ た文脈では、「発話時点」、 「話し手」、「心的態度」と いうモダリティの3要素を満 た すため、「ト思ウ」はモダリティとして機能する。

 (8) A:明日の天気はどうでしょうか?

   B:明日は雨が降るト思ウ。

   A:それは本当ですか。

     (それ=明日は雨が降ること)

 一方、同じ「ト思ウ」とい う形でも、「思ウ」自体が問 答の焦点となる場合には、客 体 化された命題として機能する。

 (9) A:明日は雨が降ると思いますか、雨が降ると思いませんか?

   B:明日は雨が降るト思ウ。

   A:それは本当ですか。

     (それ=明日は雨が降るト思ウこと)

 次に「カ モシレナ イ」につ いて説明 する。第 1章2.4節で 論じたよ うに、「 カモシレ ナ イ」は当該の事態の成立が不 確実で、他の事態の成立する 可能性もあると認識したこと を 表す。一般に「カモシレナイ 」は推量判断を表す表現の一 つに数えられているが、必ず し も推量文のみに使われるわけ ではない。事実、次の「カモ シレナイ」は推量を表しては お らず、二つの可能性が同時に存在することを述べているにすぎない。

 (10) 生まれる子供 は男か女のどち らかである。男の 子カモシレナイ し、女の子カモ シ レナイ。昔から決まっていることである。

 このように、「カモシレナ イ」は複数の事態の成立可能 性がともに存在することを表 す 表現である。「複数の事態の 成立可能性がともに存在する 」ということ自体は、話し手 の 存在と は独立 した客 体世界 の事態 である 。した がって 、本研 究では 「カモ シレナ イ」 を

「カモシレナイ」と分析し、前半の「カモシレナイ」は命題を表し、後半の「-φ」 はモダリティを表すと 考える。連体形のとき は「-φ」がつかない ため命題として機能 す る。

 (11) あの人はもう来ないカモシレナイ。  (12) 来ないカモシレナイ人を待つ。

表面上同じ「カモシレ ナイ」という形をとっ ていても、「-φ」の つく場合とつかない 場 合があるのである。

2 . 4 連体修飾テスト

 次に、各表現が連体修飾成分となるかどうかをテストする。

 (13)a. 降水確率が80パーセントノ空模様だ。

  b. 雨が降る確率ガ高イ空模様だ。

  c. 雨が降る可能性ノアル空模様だ。

  d. 雨が降りソウナ空模様だ。

  e. 雨が降るような気ガスル空模様だ。

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