1.はじめに
本章では「キット」と同様に話し手の推量判断と関わる副詞「タブン」、「オソラク」、
「サゾ」、および「カナラズ 」と同じように事態の確実性 と関わる「タイテイ」につい て 考察する。まず2節では、「 タブン」がモダリティ副詞で あるのに対し、「タイテイ」 は 命題副詞であることについて 論じる。「タイテイ」につい ては、「タイガイ」、「オオ カ タ」との意味の違いも分析す る。3節では、「キット」、 「タブン」、「オソラク」を 対 象に分析し、これらの違いが 単なる蓋然性の違いにあるの ではなく、推量判断との関わ り 方の違いにあることを明らかにする。4節では、「サゾ」について分析し、これが「共感」
に基づく推量判断を表すことを指摘する。
2.タブンとタイテイ1)
2 . 1 類似点と相違点
第4章では「キット」と「 カナラズ」に判断と事態の違 いがあることを見た。ここで は
「タブン」と「タイテイ」の 間にも判断と事態の違いがあ ることを見る。まず『日本語 大 辞典』(講談社)の記述を示しておく。
た-ぶん〔多分〕一(名) ①多いこと。たくさん。相 当。a lot of用例 ―の寄付をい た だく。②その中の大部分 。多くの例。the most part二 おそ らく。たいてい。おお か た。probably用例 ―駄目でしょう。
たい-てい〔大抵〕一(名)①おおよそ。おおかた。たいがい。mostly用例 ―の人々。
②((下に打 ち消し をとも なって))ひ ととお り。な みなみ。 ふつう 。ordinary用例 ― のことでは負けない。二(副)①たぶん。おそらく。probably用例 ―だいじょうぶ だろう。②ほどほど。用例 うそも―にしろ。
1) 本節は杉村(1997)をもとに加筆修正したものである。
このうち、「タブン」の 二 と「タイテイ」の 二 ①は、その意味記述に互いの語を使用 し ている。このこ とは二語が類 義語として意 識されている ことを示す。 実際、例文(1) (2)の
「タイテイ」は「タブン」と置き換えることができる。
(1)a. 「試験はたいてい通るだろう」(『現代国語例解辞典』第二版)
b. 「試験はタブン通るだろう」
(2)a. 「でも、大てい大丈夫でしょう。明倫なら、大したもんですわ。お父さまもお母 さまもさぞかしご安心でしょう」(曾野綾子『太郎物語』)
b. 「でも、タブン大丈夫でしょう。明倫なら、大したもんですわ。お父さまもお母
さまもさぞかしご安心でしょう」
しかし、「タブン」 が 二 の意味で使われ ている場合でも、必ず しも「タイテイ」で 置 き換えられるわけでは ない。「タイテイ」が 二 ①の意味で使われ るのは一般的な用法 で はない。
(3)a. 登場する山本屋旅館の人々は、今はもう別の土地に引っ越してしまい、多分2度 と私はあの人たちと共に生活することはないと思う。(吉本ばなな『TUGUMI』)
b. *登場する山本屋旅館の人々は、今はもう別の土地に引っ越してしまい、タイテイ 2度と私はあの人たちと共に生活することはないと思う。
一方、「タイテイ」が 一 ①の意味で使われる場合、「タブン」と置き換えると意味が 変わってしまう。次の例文において「タイテイ成績は上位だった」、「タイテイいくつか の意味をもっている」と言うと、当該の事態は発話時点において既知のものであることに なるが、「タブン成績は上位だった」、「タブンいくつかの意味をもっている」と言うと、
当該の事態は発話時点において未知のものであることになる。
(4)a. 彼女は頭が良く勉強家で、病欠のわりにはたいてい成績は上位だったし、あらゆ る分野の本を読みあさっていて知識が深かった。(吉本ばなな『TUGUMI』)
b. 彼女は頭が良く勉強家で、病欠のわりにはタブン成績は上位だったし、あらゆる
分野の本を読みあさっていて知識が深かった。
(5)a. ひとつひとつの格助詞はそれぞれ異なる機能を担うが、ひとつの助詞がひとつの 関係しか表さないというわけではない。たいていいくつかの意味をもっている。
(森本順子『日本語の謎を探る ──外国人教育の視点から』)
b. ひとつひとつの格助詞はそれぞれ異なる機能を担うが、ひとつの助詞がひとつの
関係しか表さないというわけではない。タブンいくつかの意味をもっている。
以下、こうした「タブン」 と「タイテイ」の違いについ て、「キット」と「カナラズ 」 に平行して分析する。
2 . 2 先行研究
先行研究で「タブン」と「 タイテイ」を比較したものは 辞書類の記述に見られるぐら い である。 そのよう な中で、 比較的詳 細な記述 を行なっ たものに 森田(1989) がある。 森 田は「キット」の関連語とし て「オソラク、タブン」、「 タイテイ、タイガイ」、「オ オ カタ」を挙げている。
おそらく たぶん
両語と も「き っと」 に比べ て弱い 推量。 「恐ら く」は 丁寧な 文体に 用いら れる 。
(後略)(森田1989:374)
たいてい たいがい
「大抵」「大概」とも 、推量としても用いるが、本 来これらの語は〝大部分〟〝 お おかた〟〝あらまし〟の意味 で用いられる。したがって 「たいてい大丈夫だ」「た い がい大丈夫だ」は〝十中八、 九という高い確率で大丈夫 であろう〟という確率の高 さ を表す。
「彼はたいてい欠席だ 」は、出席ではなく欠席であ ることを、「梅雨時だから、 た いがい雨だ」は、晴天ではな く雨天であることを、単な る推量からではなく、〝十 日 のうち八、九日は欠 席だ/雨だ〟と比率 意識から述べている のである。(森田1989:
374-375)
おおかた
「大方」は「大方の予 想を裏切って……」「おおか た(の)見当はつく」のよう に
「ほとんど」の意味である。 推量として用いるときも、 「あらかた」「ほとんど」 の 意味として、その事柄の比率の高さを述べる。
「おおかたそんなこと だろうと思った」「今度の連 休はおおかた雨だ」など。( 森 田1989:375)
まず、「タブン」について は、他の先行研究と同じよう に「キット」より弱い推量を 表 すと説明している。しかし、 「キット」が推量文だけでな く意志文、命令文、勧誘文に も
使われるのに対し、「タブン 」は推量文にしか使われない ため、本研究では単に推量判 断 の強弱では説明できないと考える。(この点については本章3節で考察する。)
また、「タイテイ」、「タ イガイ」、「オオカタ」につ いて森田は、これらの副詞は 本 来確率、比率の高さを表す副 詞で、推量に使われる場合も 確率、比率意識で使われるこ と を指摘 してい る。本 研究で もこの 指摘に 従い、 この点 で「例 外なく 」とい う意味 を表 す
「カナラズ」と性質を異にす ると考える。(「タイテイ」 、「タイガイ」、「オオカタ 」 の違いについては本章2.6.4節で考察する。)
2 . 3 命題とモダリティ
次に主観性判定テストによって、「タブン」と「タイテイ」が命題副詞なのかモダリティ 副詞なのかを分析する。以下 のテストにおいて、命題副詞 の場合は適格と判定され、モ ダ リティ副詞の場合は不適格と判定される。
〔1〕 否定の焦点テスト
次に示されるように「タブ ン」は否定の焦点とならない が、「タイテイ」は否定の焦 点 となる。
(6)a. *太郎は[タブン10時に寝る]のではなく、[カナラズ10時に寝る]のである。
b. 太郎は[タイテイ10時に寝る]のではなく、[カナラズ10時に寝る]のである。
〔2〕 疑問の焦点テスト
このテストでも、「タブン 」は疑問の焦点とならないが 、「タイテイ」は疑問の焦点 と なる。
(7)a. *太郎は[タブン10時に寝る]のですか、[カナラズ10時に寝る]のですか。
b. 太郎は[タイテイ10時に寝る]のですか、[カナラズ10時に寝る]のですか。
〔3〕 文代名詞化テスト
このテストにおいて、「タ ブン」は文代名詞の対象とな らないが、「タイテイ」は文 代 名詞の対象となる。
(8)a. A:太郎はタブン10時に寝ますよ。
B:それは本当ですか。
(それ=10時に寝ること)
(それ≠タブン10時に寝ること)
b. A:太郎はタイテイ10時に寝ますよ。
B:それは本当ですか。
(それ=タイテイ10時に寝ること)
(それ≠10時に寝ること)
ところで、ここまでのテス トでは「タブン」は「キット 」と同じ性質を示してきた。 し かし、次の場合に「キット」 は「それ」に含まれるが、「 タブン」は「それ」に含まれ な いという違いがある。
(9)a. A:私はキット10時に寝ます。
B:キットですね、それは間違いありませんね。
b. A:私はタブン10時に寝ます。
*B:タブンですね、それは間違いありませんね。
この場合の「キット」は「絶 対に、間違いなく」の意味で 使われたもので、話し手の意 志 を表している。こうした用法 は一般的なものではなく、「 カナラズ」や「ゼッタイニ」 を 使った方が自然であるが、「 キット」を使って表すことも 可能である。一方、「タブン 」 にはこうした用法はない。
〔4〕 連体修飾テスト
一回的文脈の場合、「タブン」と「タイテイ」はともに連体修飾成分とはならない。1)
(10)a. *花子は[太郎が明日タブン10時に寝る]予定であることを知った。
b. *花子は[太郎が明日タイテイ10時に寝る]予定であることを知った。
一方、反復的文脈の場合は 、「タブン」は連体修飾成分 とならないが、「タイテイ」 は 連体修飾成分となる。
(11)a. *花子は[太郎がタブン10時に寝る]習慣であることを知った。
1) 三原(1995:296) は「多分、 秋頃には出版 される本」 を可としてい る。たしか に、こうし た 表現自体は自然に使うことができる。しかし、これは「多分、秋頃には出版される(と思われる)
本」の「と思われる」の 省略された形である。 もともと「と思われる」 のついていない形とし て 連体修飾を考えると不自然な文となる。