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図 11. exoA および exoB が血管新生に及ぼす影響(HUVECs)

(a)管腔形成の様子(エクソソーム添加 18 時間後) ▲は細胞凝集を示す。Scale bars: 500 µm (b)一視野中の管腔構造の分岐部数。 (c)細胞増殖能(エクソソーム添 加 18 時間後)(d)VEGFs と VEGFRs の定量 RT-PCR 発現解析(エクソソーム添加 18 時間後)。内部標準には GAPDH を用いた。*P < 0.05。(e)VEGFs と VEGFRs のウエス タンブロッティング(エクソソーム添加 36 時間後)。VE-cadherin は血管内皮細胞のポ ジティブコントロールとして用いた。内部標準には GAPDH を用いた。実験は triplicate で行い、3 回の実験の平均値±標準誤差で表した。

(a)

(b) (c)

(d) (e)

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図 12 VEGF-VEGFR 関連分子と脈管新生との関連

VEGF-A は VEGFR1 もしくは VEGFR2 に結合することで主に血管新生を誘導し、

VEGF-C と VEGF-D は主に VEGFR3 に結合することで主にリンパ管新生を誘導する。

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(2) ヒト口腔扁平上皮癌細胞由来エクソソームがリンパ管新生に及ぼす影響

次に、HDLECs を用いた管腔形成実験を行い、ヒト口腔扁平上皮癌細胞由来エクソ ソーム(exoA, exoB)が、リンパ管新生に及ぼす影響について解析した。なお、管腔形 成能は、実験開始から 18 時間後の管腔構造の分岐部数を指標として評価を行った

(35, 36)。

解析の結果、対照群と exoA 添加群との間には、分岐部数に変化はなかった(図 13a,b)。一方、exoB 添加群は、対照群や exoA 添加群に比べ、有意に管腔構造の分 岐部数が増加した(図 13a,b)。なお、エクソソーム添加時の HDLECs の細胞増殖能に は変化がなかった(図 13c)。

血管新生と同様、がん細胞はリンパ管新生因子を産生し、リンパ管内皮細胞に発 現している VEGFRs に作用することで、がん間質におけるリンパ管内皮細胞の増殖と 運動を亢進させることが知られている(37,38)。また、リンパ管新生において中心的な 役割を果たすのは、VEGF-C および VEGF-D とそれらの受容体である VEGFR3 であ る(41)(図 12)。

そこで、定量 RT-PCR とウエスタンブロッティングによって、エクソソーム添加時の HDLECs における VEGFs と VEGFRs の発現量を解析したところ、VEGFR1、VEGFR2、

VEGFR3 の発現量が、exoA および exoB 添加によって、有意に増加した(図 13d,e)。

また、それらのリガンドである VEGF-A、VEGF-C、VEGF-D については、対照群に比 べて exoB 添加群で、有意に増加した(図 13d,e)。

これらの結果から、HDLECs における exoB の添加は、管腔形成開始から 18 時間後 の管腔構造分岐部数を有意に増加させ(図 13a,b)、そのメカニズムは exoB による VEGFR3 の発現量増加が寄与していたと示唆された。また、exoA の添加では、管腔 形成開始から 18 時間後の有意な管腔形成の亢進は認められなかったが、exoB 同様、

VEGFRs の発現亢進を認めた(図 13a,b)。

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図 13.exoA および exoB がリンパ管新生に及ぼす影響(HDLECs)

(a)管腔形成の様子(エクソソーム添加 18 時間後)。Scale bars: 500 µm (b)一視野中の 管腔構造の分岐部数。***P<0.001。(c)細胞増殖能(エクソソーム添加 18 時間後)(d)

VEGFs と VEGFRs の定量 RT-PCR 発現解析(エクソソーム添加 18 時間後)。内部標準 には GAPDH を用いた。*P < 0.05、**P < 0.01(vs Vehicle)。P < 0.05、‡‡P < 0.01 (vs exoA)。

(e)VEGFs と VEGFRs のウエスタンブロッティング(エクソソーム添加 36 時間後)。

podoplanin はリンパ管内皮細胞のポジティブコントロールとして用いた。内部標準には GAPDH を用いた。実験は triplicate で行い、3 回の実験の平均値±標準誤差で表した。

(a)

(b) (c)

(d) (e)

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考 察

本章では、口腔扁平上皮癌細胞由来エクソソームが血行性転移とリンパ行性転移 に及ぼす影響について検討を行った。

血管新生の検討では、HUVECs を解析に用いた。exoA と exoB の添加により、

HUVECs における VEGFR2 の発現が増強したが、管腔形成実験開始 18 時間後では、

エクソソーム添加による有意な管腔形成能の亢進は認められなかった。

しかし、exoB 添加時には、管腔形成の起点となることが報告されている不規則な 細胞凝集像(42)が多数認められた。この細胞凝集が形成される機序については不 明であるが、これらの結果をふまえ、実験開始から 18 時間以降も継続して管腔形成 を観察した場合、exoB が血管新生能を亢進すると推察された。

一方、リンパ管新生の検討では、HDLECs を解析に用いた。exoB 添加により、

HDLECs の管腔形成能亢進が認められた。VEGF-VEGFR 関連分子の発現解析では、

exoA および exoB 添加によって、VEGFR2、VEGFR3 の発現量が増加したことから、

exoA および exoB は、血管新生に比べて、リンパ管新生を亢進させる作用が大きいこ とが示唆された。

また、exoB 添加によって、HDLECs における VEGF-A、VEGF-C、VEGF-D の発現 亢進が認められた。通常、がんにおける脈管新生について VEGFs-VEGFRs 関連分 子を考慮する場合、VEGFs はがん細胞が産生・分泌するものとして重要視されるが、

今回の解析では、リンパ管上皮細胞からもこれらのリガンドが産生されていることが 確認された。これらのリガンドが細胞外に分泌されているかどうかについては、今後 の検討が必要となるが、exoB による VEGF-A、VEGF-C、VEGF-D の発現亢進が確認 されたことは、in vivo において、exoB がリンパ管新生のみならず、リンパ管上皮細胞 を介した間接的な血管新生をも促進させる可能性を意味しており、興味深い。

以上のことから、口腔扁平上皮癌細胞は、エクソソームを介して血管内皮細胞やリ ンパ管内皮細胞の VEGF-VEGFR 関連分子の発現量を制御していることが示唆され た。また、exoA および exoB は、血管新生に比較して、高いリンパ管新生亢進作用を もつことが確認され、このことは、口腔扁平上皮癌の多くが、リンパ行性転移指向性 をもつことと関連する可能性が高いと考えられた。

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