JICA
付録 2. 主要ドナーの廃棄物管理に対する取り組み
国連機関、世界銀行及び各地域開発銀行、二国間協力機関の廃棄物分野における基本方針と支援 の特徴及び主な協力事例をまとめた。なお、本付録の取りまとめにあたっては、各ドナー・国際機関のウ ェブサイトから入手可能な情報、資料を参考にした1。
2−1 国連機関
廃棄物分野の開発途上国支援を行う主要な国連機関には、世界保健機関(WHO)、国連環境計画
(UNEP)、またこれらと連携する形で国連開発計画(UNDP)が挙げられる。国連機関は直接の技術協力 事業や支援プログラムの実施のみならず、情報の集約と一般化、ガイドラインの策定、ペーパーやマニュ アルの作成に注力しており、その意味で国際的な情報源としての役割がきわめて大きい。また、こうした 情報に基づき、廃棄物処理に係る基準化やガイドラインの提唱を行っていることも国連機関の重要な機 能として挙げられる。従って、廃棄物分野の技術協力を行うにあたっては、まずこれらの機関の情報を確 認することが必要である2。
(
1)
世界保健機関(WHO)■廃棄物分野に関わる基本方針及び支援の特徴
WHO
3では、公衆衛生や住民の健康的な生活の確保といった観点から、医療廃棄物に関する 技術協力を行っている。WHO の協力には、医療廃棄物管理ガイドラインの策定、国家活動計画 や低所得国を対象としたキャパシティ・ビルディングが含まれる。大洋州ではJICA
との連携も多く、“ Healthy Cities Programme”(都市部における健全な環境を促進するための研修)を協同実施し、
第三国集団研修では、JICAから廃棄物管理全般、WHOから医療廃棄物管理に関する講義を行 っている4。
WHO
は感染性医療廃棄物管理に関する体系的なマニュアルを作成・公開しており、医療廃棄 物分野の技術協力にあたって必読の資料を提供している5。■主な協力事例の概要
・ウクライナ:注射器の非焼却処分に関するパイロットプロジェクト(2003〜2004)
(Pilot project on how to dispose of syringes using non-burn options)
2002
年に実施した注射器の安全評価に基づき実施された。AD注射器を焼却せずに、安全で、かつ実行可能な処分法を見極めるため、パイロットプロジェクトが行われた6。
1
2008
年2
月時点アクセス2 国際協力機構国際協力総合研修所 (2005) 『開発途上国廃棄物分野のキャパシティ・ディベロップメント支援の ために』
3
http://www.healthcarewaste.org/en/115_overview.html
4
http://homepage2.nifty.com/GHD00070/JICA/swm-TCTP-2006F.doc
5
http://www.who.int/docstore/water_sanitation_health/wastemanag/begin.htm
(
2)
国連環境計画(UNEP)■廃棄物分野に関わる基本方針及び支援の特徴
UNEP
では廃棄物管理を大きく抑制と処分に分類している。抑制では、クリーナープロダクショ ン、持続可能な購買等の発生抑制に比重を置き、処分では、有害廃棄物管理、リサイクル、汚染 土壌、汚染と廃棄物の監査と電子・電気機器の廃棄物管理を重点分野としている7。また、日本国 内(大阪と滋賀)に設置された国際環境技術センター(International Environmental TechnologyCentre:IETC)が、管理システムをはじめ、持続可能な生産と消費、防災、水と衛生のための環境
上適正な技術(EST)の研究を促進している。持続可能な生産と消費では、「3R プラットフォーム」をアジア・太平洋州地域の開発途上国を対象に展開している8。また、IETC では、廃電子電気機 器の廃棄物管理マニュアルや、固形廃棄管理に関するアジア、アフリカ等の地域別レビューを発 行している9
。
■主な協力事例の概要
・インド:プネ統合的廃棄物管理(2006〜2007)
10(Integrated Solid Waste Management Pune)
西インドのプネで、地方政府廃棄物、医療廃棄物、有害廃棄物、電気・電子機器廃棄物と産業 廃棄物を対象に、3R のコンセプトに基づく統合的廃棄物管理計画と、計画を推進するための
31
のサブプロジェクトを策定した。計画の立案にはワークショップ形式が用いられ、集中的に啓発と キャパシティ・ビルディングが図られた。・ケニヤ:ナイロビ市プラスチック廃棄物管理プログラム(2005)
11 12(Plastic Waste Management Programme for the city of Nairobi)
3R の原則に基づく、包括的なプラスチック袋の再使用とリサイクルのプログラムを促進するプロ グラムである。製造業者、仕入業者、小売業者等の関連団体との協議に基づき、プラスチック袋の 再使用とリサイクルの方向性が打ち出され、プログラム促進のための経済的手法が示された。
(
3)
国連開発計画(UNDP)■廃棄物分野に関わる基本方針及び支援の特徴
国連開発計画(UNDP)は、世界銀行、国連工業開発機関(UNIDO)、UNEP、国際連合人間居 住計画(UNCHS-Habitat)と連携し、多数の廃棄物分野の開発途上国支援事業を実施してきた。
Waste-to-Energy
の考え方から、埋立地ガスによる発電の支援プロジェクト、温室効果ガス削減のための
CDM
スキームに着目した廃棄物埋立処分場の改善(メタンガス回収)等の支援がある13。7
http://www.unep.fr/pc/pc/waste/waste.htm
8
http://www.unep.or.jp/ietc/spc/index.asp
9
http://www.unep.or.jp/Ietc/Publications/index_pub.asp
10
UNEP(2008) Waste Management: Note by the Executive Director (UNEP/GC.25/INF/29) http://www.unep.org/gc/gc25/info-docs.asp
11
UNEP(2008) Waste Management: Note by the Executive Director (UNEP/GC.25/INF/29) http://www.unep.org/gc/gc25/info-docs.asp
12
http://www.unep.ch/etb/publications/EconInst/Kenya.pdf
13 国際協力機構国際協力総合研修所
(2005)
『開発途上国廃棄物分野のキャパシティ・ディベロップメント支援オランダ、ノルウェー、ドイツ、アメリカ等の二国間ドナーとの連携も多く、日本(JICA)がフィリピン・
マニラ首都圏で行ったコミュニティに依拠した廃棄物管理プロジェクト(パイロット・プロジェクト)も 日本政府との連携で
UNDP
が継承発展させた14。
■主な協力事例の概要
・中国:都市廃棄物によるメタン回収の促進(1996〜2003)
15 16(Promoting Methane Recovery and Utilization from Mixed Municipal Waste)
地球環境ファシリティー(GEF)と連携で、中国国内における最終処分場から排出されるメタンガ スの回収技術の普及のため、鞍山、馬鞍山、南京市の
3
か所でパイロットプロジェクトを実施した。都市廃棄物管理の基礎的なシステム分析を行い、廃棄物の適切な処理技術の開発を行った。
・イラン:地方固形廃棄物管理システム(2007~)
17(Rural solid waste management system in Iran)
地球環境ファシリティ(GEF)小規模グラント・プログラム(SGP)と連携で、地方統合的固形廃棄 物管理システムの開発と、環境・保健状況の改善のため、4 村でパイロット事業を実施する。ミレニ アム開発目標(MDGs)や国家開発計画の到達と関連づけ、本プロジェクトには、貧困の緩和、雇 用の拡大、女性のエンパワーメントの促進が要素として含まれている。意思決定者とコミュニティ間 での連携の促進を図るため、参加型手法を取り入れている。
2−2 世界銀行及び各地域開発銀行 (
1)
世界銀行(World Bank)■廃棄物分野に関わる基本方針及び支援の特徴
世界銀行グループ(IBRD、IDA、IFC、MIGA、ICSID)では、2008 年現在、120 の廃棄物管理 のプロジェクトを実施している。うち、85%は都市環境に関するもので、固形廃棄物管理がその中 心である18。持続可能な廃棄物管理の重点分野として、固形廃棄物管理戦略計画、組織・制度的 なキャパシティ・ビルディング、財政面でのキャパシティ・ビルディング、技術選択の分析、民間セク ターの連携、コミュニティのイニシアティブ、環境問題を挙げている19。
14 国際協力機構国際協力総合研修所 (2005) 『開発途上国廃棄物分野のキャパシティ・ディベロップメント支援 のために』
15
http://www.gefonline.org/projectDetails.cfm?projID=304
16
http://gec.jp/gec/gec.nsf/cc0545bc7408f27649256b47001a7489/249d77a858e01b45492570460020f9a3/$FILE/%E4%B8%
AD%E9%83%A8%E9%9B%BB%E5%8A%9B_%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8.pdf
17
Governing Council of the United Nations Environment Programme “Waste Management: Note by the Executive Director”
2007.11.12
18
http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/TOPICS/EXTURBANDEVELOPMENT/EXTUSWM/0,,contentMDK:20 239395~menuPK:497783~pagePK:210058~piPK:210062~theSitePK:463841,00.html
19
http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/TOPICS/EXTURBANDEVELOPMENT/EXTUWM/0,,contentMDK:202
■主な協力事例の概要
・アルゼンチン:サルタ処分場ガス回収プロジェクト(2007〜)
(Salta Landfill Gas Capture Project)
サルタ市のサン・ハビエル処分場における処分場ガス(LFG)の回収とフレア施設の設計、建設 と運営を行い、最終処分場に投棄された有機物から発生するメタンガスを回収し分解する。削減さ れた
GHG
量は、CDCF(Community Development Carbon Fund)を通じて売却される。
・チュニジア:持続可能な都市固形廃棄物管理プロジェクト(2007〜)
(Sustainable Municipal Solid Waste Management Project)
組織・制度的な支援、キャパシティ・ビルディング、施設整備によって、持続可能な都市固形廃 棄物管理の強化を図る。キャパシティ・ビルディングは、都市廃棄物管理に関する制度の整備を 国家レベルで行うための支援であり、施設建設には、セルの建設やバイオガス管理システムの設 計、建設、運営が含まれる。
(
2)
アジア開発銀行(ADB)■廃棄物分野に関わる基本方針及び支援の特徴
ADB
では、廃棄物分野を特定した援助方針は必ずしも強く打ち出されていないが、都市環境 改善の一環としての廃棄物管理への支援を行っている。一般的なADB
の協力案件は、政策の改 善、キャパシティ・ディベロップメント、衛生埋立のような施設への投資から構成されている20。また 廃棄物問題をとおして、ウェイストピッカーやスラム・スクワッター等にみられる都市の貧困問題を 扱うケースも多い21。3Rイニシアティブにも積極的に取り組み、アジア3R
レポート、サブリージョナ ル対話、3Rナレッジ・ハブ(http://www.3Rkh.net/)を展開している22。■主な協力事例の概要
・ブータン:都市インフラ整備(2006)
23(Urban Infrastructure Development)
借款案件で、ティンプー市における最終処分場の改修、コンポスト・パイロットプロジェクトの実 施・運営、リサイクル・センターの改修施設整備、排出源での分別のための機器を整備した。また、
本プロジェクトには、コミュニティでの廃棄物分別の促進や啓発プログラムも含まれる。
・ラオス:固形廃棄物管理と収入向上(2003〜)
24(Solid Waste Management and Income Generation for Vientiane’s Poor)
ビエンチャン市の貧困世帯とウェイストピッカーの生活向上を目的としている。計画策定能力を 高め、持続可能な固形廃棄物管理を導入し、貧困地域の回収、運搬、処分サービスを向上するこ
20
Environment Program 2003-2006 (http://www.adb.org/Documents/Reports/Environment-Program/default.asp)
21 国際協力機構国際協力総合研修所
(2005)
『開発途上国廃棄物分野のキャパシティ・ディベロップメント支援 のために』22
Governing Council of the United Nations Environment Programme “Waste Management: Note by the Executive Director”
2007.11.12
23