• 検索結果がありません。

2

節第

1

款で取り上げたパリ商事裁判所の判決では、次のように判断された。法定の 情報である契約締結に先立つ

1

年の間にチェーンを抜けた企業の数についての情報が提供 されなかった。しかし、ザーはジーの店舗設置地域の経済的潜在性に関する情報、および店 舗設置場所であるアビニョンにあるチョコレートショップおよびキャンディショップの詳 細なリストを提供し、これら情報はジーが署名した文書に記載されていた。くわえて、夫婦 で店舗経営したジーの夫がザーに対し、「あなたよりもアビニョンの中心街の市場を知って いる」と発言していた。こうした点を考慮し、ジーの契約の無効の主張は否定された。

同じく第

2

節第

1

款で取り上げたレンタカーのフランチャイズ契約の事例であるパリ控 訴院判決もここに挙げることができる。本件では、フランチャイズ契約締結に先立ちジーが ザーの企業の代理人(représentant)と会っており、同日中に契約の最低継続期間等、契約 の主要な条件を記載したファックスを受け取っていたこと、ならびにザーのチェーンに加 盟するジーの下で研修を受けていた点も併せて考慮され、契約の無効が否定されている。

このように、ザーに情報提供義務違反があっても、提供されなかった情報以外の情報に基 づき、契約内容をきちんと理解してジーが契約できていたと判断される場合、同義務違反が あっても契約は無効にならない。また、契約締結過程でのジーの言動も、情報提供義務違反 による契約の無効が否定される方向に作用することがあるといえる。

第2款 十分な時間的猶予の存在

既製服の製造に関するフランチャイズ契約の事例であるパリ控訴院

1996

2

16

日判 決では次のように判示された。すなわち、売上予測に関する情報は契約締結の

10

か月以上 前に作成されたものであるから、かかる期間はジーが必要な財務的協力を模索したり事業 から期待される収益性をよく知って意思決定するのに十分な期間であった。しかも、当該売 上予測に関する情報は慎重に作成されており、詐欺的な(illusoire)ものではなかった。よ って、契約の解除の原因をザーのフォートにあるとしたジーの主張は認められない272

1

節第

2

款で取り上げたカーン控訴院判決では、ジーは契約締結の是非について公認 会計士の助言を受けるべきであったが、“avant-contrat”と題された契約書が契約への署名最 低

20

日前までに提供されなかった。かかる点も考慮され、ジーは契約内容をよく知って契 約を締結することができなかったとされ、契約の無効の主張が認められている。

日焼けサロンの経営に関するフランチャイズ契約の事例であるパリ控訴院

2011

9

14

日判決では次のように判示された。すなわち、ジーは、フランチャイズ契約締結の

6

カ 月近く前にザーから情報を記載した文書を提供されていた。このことは、ジーが経営を検討

271 CA Pau, 10 oct. 2005, Juris-Data no 291080.

272 CA Paris, 16 fév. 1996, Juris-Data no 021233.

65

している営業財産から得られる経済的収益性に関する情報を収集するのに必要な期間が慣 習上のそれよりも長かったことを意味する。同時に、一般的にかかる期間は、ジーがザーの チェーンに加盟しているジーと連絡を取り、契約締結の是非の判断を可能にするものであ る。提供された情報には、市場の全般的および地域的現況に関する情報の記載はなかったが、

上記期間は情報の不十分性補うのに十分であった。よって、

L.330-3

条に基づく契約の無効 を主張できないとされた273

以上のことから、情報の提供から契約の締結までに十分な期間が確保されていたような 場合には、情報提供義務違反があったとしてもジーは自身で必要な情報を収集したりして、

契約内容を正確に把握して契約できると理解されていると評価できよう274。このことは裏 を返せば、ジーが情報の提供から契約の締結までに十分な期間を確保されなかった場合に は、契約内容をきちんと理解して契約できていなかったとして契約の無効が宣言され得る ことを意味するのではないだろうか。

第4節 予測数値と実際の売上額との乖離-売上予測に関する情報の場合

続いて、売上予測に関する情報に独自の判断要素の検討に移りたい。売上予測に関する情 報については、予測の数値と実際の売上高との間に著しい乖離があったと認められると、ジ ーに事業経験があったとしても契約が無効とされることがある。売上予測に関する情報が 原因で契約が無効になる場合には、その予測数値と実際の売上高との著しい乖離が重要に なる。以下、予測と実際の数値との著しい乖離が問題になった事例を挙げる275

破毀院商事部

1998

2

24

日判決では、ザーは、ジーが実際に達成した売上高は予測

40%程度でしかなかったことから、現実離れした(fantaisistes)結果を含んだ予測調査

を提供したと判断した。また、こうした予測を提供した反面で、周辺に存在する大型店舗の 拡張傾向を予測可能であったのに、ザーは意図的に(volontairement)ハイパーマーケット の存在といった重要な情報を秘匿したと評価されるとした。くわえて、店舗の赤字はジーの 店舗経営に起因するものではないとした。これらを考慮し、ザーは契約締結前の情報提供義

273 CA Paris, 14 sépt. 2011, Juris-Data no 019510.

274 本文で取り上げたカーン控訴院判決以外で、L.330-34項の「20日前」の期間が遵守されなかった 点を考慮して契約の無効を宣言したものとして、たとえば、CA Paris, 28 nov. 1997, Juris-Data no 024604.

ただし、かかる期間の不遵守によってジーの合意に瑕疵が生じたといえなければならない(CA Bordeaux, 15 mars 2000, Juris-Data no 117540.)

275 本文で挙げたもの以外で、売上予測に関する情報を提供したザーの責任を認めた事例としては、たと えば、CA Rennes, 30 avril 1996, Juris-Data no 045198; CA Paris, 4 déc. 2003, Juris-Data no 233437 ; CA Aix-en-Provence, 4 mai 2006, Juris-Data no 304643 ; TC Paris, 16 mai 2007, Juris-Data no 341551 ; CA Caen, 13 déc. 2007, Juris-Data no 368488 ; Cass. com., 12 juin 2012, Juris-Data no 012846.

66

務に違反したとして、ザーからの商品返還請求および契約の解除による損害賠償請求を認 めなかった276

パリ控訴院

1999

12

1

日判決は次のような事例であった。すなわち、子供服の販売 を目的としたフランチャイズ契約の締結過程で、ザーが売上予測に関する情報を提供した が、実際にジーが達成できた総売上高は上記予測の約

50%であった。パリ控訴院は、この

ような予測と実際の数値との乖離は、ザーが提供した売上予測に関する情報が契約内容を よく知ってジーが契約締結の是非を判断することを可能にする誠実な調査に基づいて作成 されていなかったことを示すものであると述べて、ドゥバン法を根拠に詐欺による契約の 無効を認めた277

2

節第

2

款で触れたチョコレート等の販売のフランチャイズ契約の事例であるパリ控 訴院判決では、次のように予測と実際の数値との乖離も考慮して解除が認められている。す なわち、1992年から

1995

年までの

3

年間のジーの総売上高が予測数値と比較して平均で

45%しか達成できなかった点を考慮し、ザーが提供した予測は厳格な方法で作成されたも

のではないとされた。

破毀院商事部

2011

10

4

日判決は次のように判断した。すなわち、オフィス用品の 販売に関するフランチャイズ契約の締結時に、ザーが売上予測に関する情報を提供した。し かし、ジーが得た収益は予測と比べ極めて少なく、早期に裁判上の清算に至った。破毀院は こうした点を考慮し、ジーはスーパーセンターの分野で

20

年以上事業を行ってきた経験豊 富な事業者であるが、企業活動における収益に関する本質的錯誤(erreur substantielle sur la rentabilité de l’activité entreprise)に陥っていたとし、民法典

1110

条に基づく契約の無効 を認めなかった原審を破毀した278

洗車場の経営を目的としたフランチャイズ契約の事案である破毀院商事部

2013

6

25

日判決は次のように判示した。すなわち、ジーは以前にもこのザーの下で洗車場を経営 して成功していたので未経験者(novice)ではないし、数年にわたり当該洗車場を経営して いた。しかし、ザーから提示された初年度の予測総売上高を一度も達成できなかった。この 予測数値と実際に達成できた数値との乖離は、ジーの店舗経営の失敗にその原因を求めら れず、当該事業分野で通常生じうる誤差を超過していた。よって、ザーはジーに対して実現 不可能かつ空想的な(irréaliste et chimérique)予測総売上高を提供したので情報提供義務 に違反した。また、予測総売上高は店舗設置によるリスクを計算するにあたり決定的な情報 であるところ、この予測に関してジーは錯誤に陥らされたとして、破毀院は民法典

1116

条 の詐欺を理由にジーによる無効の主張を認めた原審の判断を正当とした279

276 Cass. Com., 24 fév. 1998, pourvoi no 95-20438.

277 CA Paris, 1er déc. 1999, Juris-Data no 117888.

278 Cass. com., 4 oct. 2011, pourvoi no 10-20956. 本判決は第4部においても取り上げている。

279 Cass. com., 25 juin 2013, Juris-Data no 013254.