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中所得段階の経済的特徴:輸出構造からの考察

4 章で見た通り、中南米や東アジア諸国は天然資源、低廉な労働力といった要素投入によ って、発展軌道に乗り、低所得段階を脱し、中所得段階に達した。しかし、いずれの発展も 要素投入型の成長パターンといえる。ソロー・モデルに従えば、要素投入型の成長は各国ご とに収束値に近づくにつれて、成長率が低下していく。また、その水準は高所得段階を保証 するものではない。

では、高所得段階にステップアップする国と中所得段階で停滞する国との間にはどのよう な違いがあるのだろうか。この点で、輸出構造に着目した先行研究がなされている。

Eichengreen et al.[2013]は、高い成長を続けた中所得国の成長減速の発生とその要因につ いて、分析・考察した。その結果、「輸出面における天然資源、労働集約的な製品の依存を低 下させ、質の高い人的資源の蓄積に基づく、技術力ある製品の輸出が可能となった国は、成 長率の停滞が生じにくいこと」(pp.11-12)を明らかにした。また、Lin and Treichel[2012]

は中南米諸国の多くは資源依存の構造が変わらず、高技術製品へのアップグレードができな かったことを指摘している(p.9)。

Felipe[2012]は、開発と成長を「生産構造における構造転換のプロセス」とみて、発展の過 程で「資源は生産性の低い活動から生産性の高い活動へ移行する」(p.33)と説明するが、こ の考え方に従えば、発展を遂げ、所得水準を向上させた国では、高次の段階の生産構造のも とで高度な製品を多く輸出できるようになるはずだ。であるとするならば、高所得段階にス テップアップした国では輸出構造が付加価値の高い製品を中心とする先進国型になっていく 一方、中所得段階にとどまる国では輸出構造に大きな変化がみられないのではないか。

こうした問題意識に基づき、本章の目的は中所得段階から高所得段階にステップアップし た国と中所得段階に長期的にとどまる国の輸出構造を比較し、経済発展と輸出構造の関係を 考察することである。

本章の構成は以下の通りである。1 節では、本章における輸出構造「高度化」の意味を明 確化した上で、高度化の計測方法を述べる。第2節は、高度化の計測結果を踏まえて、中所 得段階から高所得段階にステップアップした国と、中所得段階に長期的にとどまる国では輸 出構造にどのような違いがあるのかを比較、考察する。最後に、本章の結論と今後の課題を 述べる。

5-1.輸出構造高度化の明確化及び計測方法

5-1-1 輸出構造「高度化」の明確化

貿易構造の変化における基本的な見方は、経済発展とともに輸出の中心が一次産品から工 業製品へ、工業製品においては労働集約型製品から資本・技術集約型製品へ移っていくとい うものである。実際、日本をはじめ先進国の多くは経済発展を遂げる過程で、一次産品、素 原材料から機械機器等の技術的に高度な製品へ輸出構成の中心が移っていった。

Felipe[2012]が言うように、経済発展とは「生産構造における構造転換のプロセス」であ

り、より高次な生産構造が輸出構造に反映されるとみるならば、先進国ほど輸出品目が特定 品目に限られず、技術力に基づく高付加価値財の輸出割合が高まるだろう。本章では、輸出 構造の高度化を以下の2点で捉えることとする。

①先進国と同様の輸出品目で比較優位を持ち、その割合が総じて高まっていく。

②輸出品目が特定品目に集中することなく、多様化していく。

5-1-2 輸出構造高度化の計測方法 A. 輸出品目の高付加価値化

各国の輸出構造を比較する際、各国が輸出する財は様々であり、財の特徴を明確化するた めには何らかの指標を導入する必要がある。一国の輸出構造の高度化水準を測るにあたり、

関[2002]、Hausmann et al.[2007]らは「所得水準が高い国ほど付加価値の高い製品を輸出す る」と仮定した。この仮定は「所得水準が高い国が生産する財は高い労働コストがかかるた め、高所得国ほど付加価値の高い製品でなければ、世界市場で競争できない」との考え方に 基づく。そして、「付加価値の高い製品を多く輸出している国ほど輸出構造は高度化している」

と判断する26

関[2002]は、財の質の高低を比較するため、輸出国の所得水準に基づき付加価値指標を考

案した。ここで、ある製品(i 財)の付加価値指表(Vi)は、i 財を輸出する j 国の所得水準

(1 人当たり GDP) Yjに i財の輸出全体額に占める j 国のシェア Sijを乗じたものをすべて の輸出国(合計 m カ国)について算出し、合算したものである。i 財の付加価値指標(Vi) は、算式で示せば以下のようになる。

Vi =Si1・Y1+Si2・Y2+Si3・Y3+・・+Sim・Ym

Vi が高ければ高いほどi財は高付加価値財であり、低ければ低いほど低付加価値財と解釈 する。27 ただし、この手法で付加価値指標を作成すると、高所得国ほど大きなウエートが付 与されてしまい、それに基づく指標は実態を反映したものとならない。

関[2002]に基づく手法で生じるバイアスを除去するため、Hausmann et al.[2007]は国別シ ェアではなく、顕示比較優位(RCA:Revealed Comparative Advantage)に基づくウエート により付加価値指標を算定した。その算式は以下の通りである28

26 実際には「高所得国だから輸出構造が高度化している」わけではない。後述するように、サウジアラビア、

オマーンのような高所得資源国の輸出構造は高度化していない。

27 本章における付加価値とは各財の付加価値率によって決まるものではないことに留意が必要である。

28 顕示比較優位(RCA)指数は、ある国がある地域との貿易においてどのくらい比較優位を持っているかを 表す指数。具体的には、世界の平均的な輸出比率と比較した時の当該国の輸出比率の大きさを財ごとに示 し、比較優位の程度を計測する。ある財に対する RCA 1 よりも大きければその国の輸出シェアは、世 界の平均的な輸出シェアよりも大きいことを意味し、比較優位を持っている。他方、RCA指数が1よりも 小さければ、比較劣位を意味する。

・・・・・ ①

・・・・・ ②

n:全輸出品目、m:全輸出国

ここで、Xijはj国のi製品の輸出を意味し、RCAijは①式のように適宜できる。また、ウエ ートのWijはi製品における j国のRCAijをi製品の輸出国全て(mカ国)の RCA合計で除し たものであり、約分すれば②式のようになる。すなわち、i製品に関して各国の全製品輸出(n 品目)に占める割合の合計で、j国の割合を除することで求められる。

i製品の付加価値指標PRODYiはj国の1人当たり GDPであるYjに上記で求めたウエート Wijを乗じ、これをすべての輸出国について合算した値である。こうして算定されたPRODY は、高所得国が比較優位を持つ製品ほど高い値をとる。

次に、②式のように、j国の輸出合計に占める i 財の割合をウエートとして、PRODYiの加 重平均値を求め、全ての財について合算したものをEXPYjとする。

・・・・・ ③ これは、j国の輸出構成をPRODYに基づき把握するものといえ、PRODYの高い財を多く 輸出する国ほどEXPYは高くなる29

本章ではEXPYを用いて、一国の輸出構造の高度化水準を測定する。

29 PRODYiおよびEXPYj はいずれも各国の Yjに依存するように定義されている。従って、EXPYjYj 一定の相関を持つはずである。このため、EXPYjの上昇は各国のYjの上昇によって、定義上それが確認さ れたにすぎないとの批判が生じる。ただし、表 5-3、表 5-4 で確認できるように、高付加価値の PRODY 品目は、一般的に技術力や高度のノウハウを必要とする製品で総じて構成されている。産業構造あるいは 輸出構造の高度化を測定する場合、製品ごとの技術集約度を客観的に示すデータなどがあれば望ましいが、

こうしたデータは客観的な測定や入手が困難である。こうした状況下、本稿ではEXPYjが高い国は総じて 高い技術力やノウハウを駆使して製品を産出、輸出できる生産能力を備えていると解釈する。

B.輸出品目の多様化

輸出構造高度化を評価する上で、もう1つの基準は「多様化」である。

輸出の多様化について、Amurgo-Pacheco & Pierola[2008]は図5-1のように、新たな輸出 国の増加(地理的拡張)や新たな輸出品目(品目的拡張)として捉えた。本章では、輸出相 手国を世界全体としているため、地理的拡張による多様化の側面は捨象し、輸出品目数の増 加を多様化としてとらえることとする。

多様化の度合いを計測する場合、ジニ係数やタイル指数が用いられることもあるが、ハー フィンダール(Herfindahl)指数によって計測されることが多い。本章でもハーフィンダー ル指数(以下、HI)を用いた計測を行うが、HIは③式のように示される。

・・・・・ ④

ここで、Xiをi製品の輸出額とすると、Siはある国の全輸出(n品目)に占めるi製品の割 合である。すなわち、HIは全ての製品に関して、輸出総額に占める割合の二乗を合計したも のである。定義から0<HI<1であり、指数が大きければ特定品目に集中して輸出すること を意味し、小さければ各品目に分散して輸出しており、多様化を意味する。

5-1 輸出多様化の分類

現輸出品目 新輸出品目

現相手国 A B

新相手国 C D

(注)A部分が現在の輸出領域とすると、領域(C+D)は地理 的拡張、領域(B+D)は品目的拡張を示す

(資料)Amurgo-Pacheco & Pierola[2008]を基に作成