第 6 章 Lenovo のバリュー・チェーン分析
6.2 中国市場におけるスマートフォンのバリュー・チェーン分析
6.2.2 中国市場におけるスマートフォンのバリュー・チェーン 6.3 Lenovo のスマートフォンのバリュー・チェーン分析
6.3.1 Lenovo のバリュー・チェーン 6.3.2 Lenovo のスマートフォンの原価分析
6.4 中国のスマートフォン市場および Lenovo の海外進出 6.4.1 中国のスマートフォン市場と Lenovo の現状 6.4.2 海外進出における Lenovo
6.5 小括
6.1 はじめに:問題の所在
Lenovo はパソコン事業の成功で、世界中に知られている。それに対して、Lenovo のスマ ートフォンの存在は世界中にあまり知られていない。Lenovo のスマートフォンが 2014 年 のグローバル市場において、6.5%の割合146で世界 3 位にランキングされた147。本章では、
世界規模 3 位の Lenovo のスマートフォン事業を対象にして考察する。また、本章では、バ リュー・チェーンという分析手法を利用し、スマートフォンにおけるサービスおよびモノ づくりを考察する。さらに、Lenovo のスマートフォンのバリュー・チェーンの中での位置 づけを明らかにする。具体的に、第 2 節で中国市場におけるスマートフォンのバリュー・
チェーン分析を行う。それによって、中国市場におけるスマートフォンのバリュー・チェ ーンと海外におけるスマートフォンのバリュー・チェーンを比較し、中国市場におけるス マートフォンのバリュー・チェーンの特性を明らかにする。第 3 節では、Lenovo のスマー トフォンのバリュー・チェーンを深く考察する。特に中国市場において、Lenovo のスマー トフォンの位置づけおよび価値の分配を明らかにする。最後に、中国のスマートフォン市 場において、かつて携帯市場におけるローカルメーカー1 位の Lenovo がスマートフォン時 代に入ってから148、市場シェアが奪われる状況に陥ったまで、Lenovo の現状と課題を議論
146 Gartner,Mar.3,2015(http://www.gartner.com/newsroom/id/2996817 2015年9月6 日閲覧)参照。
147 ちなみに、2位は世界シェアの15.4%を占めているアップル社である。1位は24.7%
を占めているSamsungである。
148 本研究ではフィーチャーフォン時代のレノボには深く触れず、2010年にレノボが初ス マートフォンをリリースして以降を考察していく。
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する。さらに、モトローラの買収によって、海外市場への進出には拍車をかけたが、それ は一時的な現象に過ぎない。Lenovo の海外市場の現状および課題を含めて 6.4 で議論する。
6.2 中国市場におけるスマートフォンのバリュー・チェーン分析
6.2.1 中国市場におけるスマートフォンの背景について
政府の保護により、中国のスマートフォン市場は特殊である。中国のメーカーが例外な くアンドロイドベースでシステム・アプリを開発し、そこからの収入も得ているにもかか わらず、データには反映されていない(図 14 と図 15)。その理由は、中国政府がアンドロ イドというシステムを強制的に無料で利用できるように命じたためである。アンドロイド というシステムは図 22 が示すように、中国のスマートフォン市場の 7 割を占めている。そ こからのダウンロード数と収入を加えれば、やはり、アンドロイドがダウンロード数と収 入におけるトップに立つだろう。グーグルが一度訴えたが、中国政府に「中国には会社を 設立していない」という理由で却下された149。
中国のスマートフォンメーカーがここまで成長を遂げたのはある意味ではすべて政府の 政策による恩恵である。そうでなければ、スマートフォン市場は今の構造になっていない。
図 22 中国のスマートフォン市場シェア(OS 別)2014 年
注1 Symbian というシステムはノキアが開発した。
Bada というシステムは Samsung が開発した。
出所:Adtime Atlas を参照のうえ、筆者作成。
149 2010年に、グーグルは中国市場から撤退した。その状態は2015年も続いている。
Android 70.1%
iOS 19.1%
Symbian 3.2%
Windows Phone
2.9% Bada
2.6% others
2.0%
80
特に Xiaomi という企業は存立しえなかったかもしれない。各国の政策が今後スマートフ ォン市場に大きな影響を与えることは間違いない。特に、これから成長の牽引力になるイ ンドやブラジルなどの新興国において、知的財産に対する保護は中国より厳しく実施され ているので、これから海外に進出していく Lenovo を含めた中国のスマートフォンメーカー は知的財産権に関する課題に直面せざるを得ない。
6.2.2 中国市場におけるスマートフォンのバリュー・チェーン
中国市場におけるスマートフォンのバリュー・チェーンの構造は先進国と異なる。本節 では、日本と中国のバリュー・チェーンを取り上げ、比較しながら中国におけるスマート フォンのバリュー・チェーンを考察していく。図 23 で示されるように、日本と中国のスマ ートフォンのバリュー・チェーンの構造に、後半の順番が逆になっている。このような構 造によって、バリュー・チェーンの特性も異なってくる。
図 23 日本と中国におけるスマートフォンのバリュー・チェーン
出所:筆者作成。
日本のような携帯市場において、キャリアに採用してもらえなければ、携帯への参入は できないのである(丸川,2010,6 頁)。言い換えれば、市場構造は寡占である。しかし、中 国では、キャリアと携帯メーカーはあまり深い関係を持たず、いわば「垂直分裂」構造で あり(丸川,2010,9 頁)、それぞれの利益を追求するため、携帯への参入は日本と比べれば、
相対的に容易である。簡易に言えば、スマートフォンを製造することが可能であれば、中 国携帯市場に参入することが可能となる。すなわち、市場構造は独占的競争である。
そのような構造の下で、生産・製造をアウトソーシングして、ソフトウェア・ブランド を自社が支配して、スマートフォン市場に参入し、成功を収めた会社もあれば、バリュー・
チェーンのすべての活動を支配しスマートフォン市場に参入した会社もある。前者は中国 ではまだ少数であるが、代表的な会社は Xiaomi である。一方、後者は中国では多数であり、
代表的な会社は Lenovo である。しかし、中国のスマートフォン市場への参入は前述した形 にとどまらず、様々な形が存在する。つまり、従来の考えと異なり、スマートフォンのバ
デザイン サプライ
ヤー 組立 ブランド
企業 キャリア 顧客
デザイン サプライ
ヤー 組立 ブランド
企業 顧客 キャリア 日本
中国
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リュー・チェーンへの参入は必ずしも高付加価値の活動(ブランド、ソフトウェア)から 参入するというわけでもない(Bamber,2014,p.7)。
そのような背景で、中国のスマートフォン市場は国内および海外メーカーの参入で、競 争が激しくなっている。それに対応するために、各メーカーがスマートフォンのバリュー・
チェーンを常にアップグレードしている。
Gereffi et al(2010) & Kaplinksy et al(2001)によると、バリュー・チェーンのアップ グレードは、おおむね 4 つの方法があるとされる。①生産プロセスのアップグレード、つ まり、生産システムや生産技術等の向上。②完成品のアップグレード、つまり、新製品の 開発や既存品の改善等のこと。③機能上のアップグレード、たとえば、生産を担う工場が 物流やアカウンティングなどの機能を追加すること、あるいは、既存の機能を放棄するこ と。④チェーンのアップグレード、すなわち、新しいチェーンに移ること、つまり、現在 と違う産業に参入することである。中国のスマートフォンメーカーを見渡せば、前述の 4 つの方法をすべて利用している。そこで、本章での研究対象である Lenovo は具体的にどう いう方法を利用したのかを第 3 節で考察する。