平成 17 年に行われた日中合同セミナーにおいては、事業経費及びその他の経費を使 用して、修士・博士課程等の学生を同行させ、ワークショップ(Satellite Workshop for Young
5) 中国側大学院生の案内による水土保持研究所見学
英語による発表の経験や相手国研究者との交流は、これら学生のその後の研究・学習意 欲向上に大きな効果があり、その後の研究の基礎となる例も出てくるなど、大変有意義なも のとなった。
ワークショップ(Satellite Workshop for Young Scientists)の様子
3-5. 交流を通じての相手国からの貢献
(1)研究活動に対する直接的な支援
①本事業は、日本側と中国側で技術やデータをカバーしあいながら進めており、例えば、
日本側が土壌表層と大気の間での熱収支と水収支、地下水位と河川流動を取り扱い、
中国側はその中間層である土壌内水収支を取り扱うことで互いにデータのない部分を 共有して研究をスムーズに進行させた例等がある。
②観測機器の管理、監視、データ取得等に関しての協力。具体的には、データは月に 一度のペースで取得され、その都度電子メールで送付されたり、データ異常の際の対 応、機材等のメンテナンスに関しても迅速かつ適切な協力を得た。また、ベンチマーク の一つである延安においては、延安市の協力により、地元住民が観測機器の見回りを 行ってくれている。
③砂漠化防止に関する研究は自然環境、地域特性、経済、文化、政治、人文社会、生 活と密接に関係しており、これらを把握するために必要な情報(各種データ、文献、経 験と知識等)を相手国の研究者から得ることができた。また、相手国関係省庁等(中国 林業局、地方政府)の行政官、研究者を紹介され、意見交換の機会を得ることができ たことにより、研究の新しい方向性について助言を受けたり、情報の分析と解釈に役立 っている。
④現地住民の協力が不可欠である聞取り調査やアンケート調査について、相手国の研 究者の協力により、調査がスムーズに実施できる。
(2)研究活動の後方支援に対する貢献
① 観測機材の輸送、持込みに際して相手国側の税関等の問題に適切な対応を得た。
② 空港での送迎には相手国側カウンターパートが常に立ち会うため、通関時等に問 題が生じた場合に適切なサポートを受けることができる。
3-6. 交流を通じての相手国への貢献
(1)研究活動に対する直接的な貢献
①相手国側がカバーできない研究領域についてサポートを行った。具体的には、リモ ートセンシングによる流域の情報、気象データ、土壌水分のデータ提供等であり、相 手国側の研究者・学生等はこれらのデータを有効に活用している。
②日本側持込機材により、相手国側研究者の効率的な観測を可能にした。具体例とし て、現地では、気温・湿度、地温測定では最大最小温度計、地中温度計を用いて毎 朝定時に手動で観測していたが、これに対しては温湿度自動記録計と地温自動測定 器を提供した。
③日本側研究者は研究に対する思案、理論とモデルを提供し、相手国の研究者に新し い視点を与えた。
④日本側研究者の研究方法、データの処理方法は相手国の研究者及び学生等にとっ
て参考になる点が多かった。
(2)中国側研究者の人材育成・研究者交流に対する貢献
①これまでに、相手国側留学生等 13 名(内 1 名は論文博士)が学位(博士)を取得して いる。その内の 2 名(杜盛、楊勝利)は、大学院生の時、本事業の参加研究者に加え、
その課程で学位を取得した。なお、楊勝利は平成 16 年度に日本学術振興会外国人 特別研究員に、杜盛は平成 16 年度に 21 世紀COEプログラム研究員、平成 17 年度 に日本学術振興会外国人特別研究員に採用されている。
②平成 17 年 10 月現在、相手国側協力大学(北京師範大学、中国農業大学、中国科学 院石家荘農業現代化研究所(現中国科学院遺伝与発育生物学研究所農業資源研 究センター))から 4 名(張 清涛、魏斌、殷俐娜、李偉強(拠点枠))の留学生を受け 入れている。また、新疆農業大学からは、21 世紀COEプログラム研究員 1 名(黄俊 華)を受け入れている。
③交流を通じて、日本での研究体制や関連分野の動きなどを相手国の研究者に紹介 するとともに、日本の他の研究機関・研究者を紹介し、相手国研究者のネットワークを 広げることができた。
④現地調査時、また日本においてもメール等で連絡を取ることにより、相手国の学生
(修士課程・博士課程学生等)に対して研究指導を行っている。
このように、本事業を通じて、相手国側研究の発展及び人材育成に大きく貢献している。
3-7. 成果の社会への還元
(1) 日本における社会への還元
成果の実用化、産業化された事例はないが、本事業の研究成果等を機会を捉えて発 信している。具体的な内容は次のとおりである。
①日本砂漠学会及び 21 世紀 COE プログラム「乾燥地科学プログラム」共催の日中 国際研究シンポジウム(黄土高原の自然、沙漠化、沙漠化対処/平成 17 年 5 月 20 日) において研究成果を発表した。
② 「砂漠化に挑む」と題して、山陰中央新報社に平成 16 年 10 月 9 日から計 21 回の半 年連載した中で、本事業の必要性、成果等を紹介した。
③乾燥地研究センターの展示室(休日も公開)に黄土高原コーナーを設置するとともに、
年 2 回実施している乾燥地研究センター一般公開で、研究対象地である中国黄土高 原における砂漠化対処の取り組みについて講演を実施するなど本事業の成果を広く 社会に紹介している。
④市民公開講座等で研究成果の紹介を行った。
(a)日本砂丘学会市民公開講座
「世界各国における乾燥地農業振興と水環境」(平成 14 年 3 月)
「過酷な栽培環境-乾いた大地に豊かな農地に」(平成 15 年 11 月)
(b)国際協力の最前線から-途上国の食料・農業・農村-、まなびピア鳥取 2005 in 鳥
取大学、(平成 17 年 10 月)
⑤次代を担う高校生に対して、研究成果を通して砂漠化等地球環境問題を考えてもらう ための授業を行った。
(a) 和歌山桐蔭高校:同校が実施している「桐蔭総合大学」にて「地球の砂漠化に立 ち向かう」と題して講演した(平成 15 年 3 月)。
(b) 鳥取県立鳥取東高校:同校が実施している「サイエンスゼミ」にて、「乾燥地農業」
についての授業を2回にわたり行った(平成 16 年 6 月)。
(c )鳥取県立鳥取工業高校:同校が進めている連携型科学技術・理科教育推進事業
(サイエンス・パートナーシップ・プログラム)事業において、「乾燥地の水問題」に ついて授業を行った(平成 17 年 10 月)。
(d) 兵庫県立川西緑台高校:模擬授業で「乾燥地の農業と砂漠化防止」について授 業を行う予定(平成 17 年 12 月実施予定)。
本事業の取り組みを紹介した新聞記事「砂漠化に挑む」(山陰中央新報社)