第三章 内モンゴル自治区における砂漠化の現状
3.2 中国における砂漠化の現状
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乾燥地科学に関する研究が急速に増加した背景を「1960年に約 30億であった世界人口は,
2014年に72億を超え,今後の50年間に90数億に達する」と記述し,これに対する「地球 環境変動下での食料供給手段の問題は人類が直面する最大の課題である」と示唆している.
これに続いて奥野(2016)は,「人口増加に伴うエネルギー消費とCO2排出量の増加,生 存環境の劣化,それらに伴う温暖化や気候変動はますます激しさを増し,近年の作物の生 産性や品質の低下は食料安全保障の視点から大きな課題となっている」と指摘している.
また,地球の温暖化に関しては,2013年9月に公表されたIPCC18の第5次評価報告書に よると,21 世紀末には地球の平均気温は 0.3~4.8℃の範囲で上昇すると予測している.人 間活動がこのまま継続され,温室効果ガスの排出削減対策が講じられない場合,21 世紀末 には地球の平均気温は2.6~4.8℃(平均 3.7℃)上昇すると予測され,地球規模での温暖化 は一層深刻化し,局地的には猛暑,豪雨,豪雪などの気象による災害が発生し,人類の歴 史上最大の危機的なシナリオが進行すると警告している.
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図 8 中国の砂漠地域の分布図
(出典)百度ネットより
全国では新疆ウイグル自治区における砂漠化地域面積が最多で,続いて内モンゴル自治 区,青海省,甘粛省,陝西省,寧夏回族自治区等である(図9).また,中国には約4億ha 面積の草地があり,世界でも有数の草地資源面積を保有している(及川 2001).主な草地 は内モンゴル自治区,青海省,チベット自治区,新疆ウイグル自治区に分布し,そのうち
90%が一定の土地の退化や砂漠化の影響を受けている.中国環境局の2010年の統計による
と既に62%の利用可能な草地が砂漠化の影響を受け,危機的な生態環境となっている.
図 9 中国の地域別砂漠化土地面積
(出典)中国荒漠化和沙化状況公報2015より作成 全国 新疆ウ
イグル
内モン ゴル
チベッ
ト 青海省 甘粛省 その他 荒漠化 261.16 107.06 60.92 43.26 19.04 19.5 11.38 砂化 172.12 74.71 40.79 21.58 12.46 12.17 10.41
500 100150 200250 300
万km²
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(2) 砂漠地域の気候特徴
中国の砂漠地域の気候特徴は,夏は高温で猛暑日が多く,非常に乾燥している.冬季は 寒く,春は黄砂の多発時期であり,昼晩の温度差が激しいなどである.具体的には以下の a~dの特徴を有する.
a. 乾燥,少雨
西部地域での年間降水量は年間平均的に200~400mmであり,そのうち一部地域では
200mm以下である.内モンゴル自治区西部の巴丹吉林砂漠(バダンジラン)における降水
量は50mm以下であり,中国での降水量が極端に少ない地域である.また,これら地域に おける蒸発量が非常に大きく,年間平均的に2500~4000mmを超え,降水量の数十から数 百倍となっている.
b. 強烈な日照時間,極端の温度差
中国の西部地域の年間日照時間は2500~3600時間となり,すなわち,年間の30~40%の 時間が太陽光の照射を受けている.また,夏と冬の温度差は30~40℃あり,極端な年は50
~60℃の差になることもある.夏場の朝晩と昼間の温度差が激しく,真夏の昼の砂漠地で
の温度が70℃を超える時もある.
c. 風が多く,黄砂が多発
風速が5~6m/minと強く,黄砂の風揚が多い.年間の半分以上の日数に黄砂が飛砂する
地域もある.春季から夏季にかけて黄砂の回数が増加し,西東風に吹かれて,飛砂が中国 の沿海部や日本にやってくる.年によって秋季に黄砂が発生する時もあり,その発生が長 引くと東北地域における干ばつが発生しやすくなる.
d. 水資源
水資源は砂漠化の影響を受けやすい乾燥地域での最も貴重な自然資源である.中国の新 疆ウイグル自治区と甘粛省の境界地域以外の砂漠地域は高山に囲まれており,これら高山 地帯には豊富な降水がある.年間平均500~1000mmの降水量で,河川や地下水の主な水源 となっている.また,多くの山岳地帯は年中雪に包まれ,その溶解水は周辺の砂漠地域で の地表水の水源となっている.
新疆ウイグル自治区と甘粛省の境界地域や内モンゴル自治区の西部地域における水資源 が非常に乏しく,主に黄河による水源である.しかし,近年では黄河沿岸における工業,
農業の発展と都市化による水資源使用の増加及び水脈の汚染により,黄河の流水が年々減 少している.
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(3)砂漠化防止への取り組みの概況
中国では,1700年頃から甘粛省の住民たちは既に粘土圧による砂地19改良を認識し,1940 年代には,陝西省靖辺県楊橋畔では引水拉砂20及び引洪淤地等方法を用いて砂地を農田と改 良していた.居住民はその頃からすでに砂漠化の被害に対し危機感を抱いていたのである.
しかし,1950 年代以前は砂漠の環境,動向,地理状況,土壌,植物や砂漠化過程に関す る理論的な研究や実践がなかった.砂漠に対する科学研究は新中国設立初期では空白な状 態だった.その後1952年,包頭から蘭州の鉄道建設の計画に至って,路線調査において中 国鉄道観察設計院と中国科学院地理研究所による現地視察を行い,騰格里砂漠の地理状況,
砂漠化への変動を始めて観測した.1954 年に寧夏回族自治区中衛市砂坡頭に中国初の風砂 観測站が設立され,1956 年から専門家による砂漠地域の環境,砂漠化状況,砂漠の動き,
植生,土壌,気候等の研究が始まった.
また,1965年~1966年にかけて蘭州の砂風洞研究室が建設されたことが砂漠化に関する 科学発展の基盤を構築した.1966年~1976 年末までは「文化大革命」によって 10 年間も の間,研究発展は大きな影響を受けて停滞していた.そして,1977 年に国連で開催された
「砂漠化防止会議」に参加し,「砂漠化の危険が極めて深刻な国の一つ」に挙げられたこと をきっかけとして,砂漠化防止への取り組みが本格的に始まった(王涛,2005).
1991年7月に甘粛省蘭州にて「1991〜2000年における全国砂漠化治理プロジェクト規模 要点」が発表され,2000 年頃から中央政府により「西部大開発戦略」が実施された.この 戦略は西部地域21となる新疆ウイグル自治区,チベット自治区,青海省,甘粛省,内モンゴ ル自治区などにおける経済発展を促すプロジェクトであり,その一環としてこれら地域で の砂漠化防止活動が本格化した.同時に,国内外のNGO・NPOによる取り組みや地域レベ ルでの取り組みが行われるようになった(西川ら,2006).
中国の砂漠化防止への活動は4期に区分することができる.第1期は1844年にフランス の宣教師が中国の砂漠化を調査し,1857 年にオルドス22の自然について論文を発表,1926 年から中国の研究者による論文が発表されている.第 2 期は新中国の成立から文化大革命
19 砂地:中国語での「沙地」と同じ意味.中国では,砂漠地域を主に「砂漠」,「ゴビ砂漠」,「砂 地」と分類し,またこれら地域を「沙化土地」,「荒漠化土地」と分類する.
20 引水拉砂:風の風用によって形成された砂丘に,河川からの水を流し込み,その水の流れに よって凹凸になった砂漠化土地が平地に戻り,土壌が改良されるとの土地の劣化を防ぐ方法であ る.中国の陝西省,内モンゴル自治区,甘粛省,寧夏回族自治区等地域に広く使われていた(中 国水利白科全書2006).
21 西部地域:陝西省,甘粛省,寧夏回族自治区,青海省,新疆ウイグル自治区,四川省,重慶 市,貴州省,雲南省,チベット自治区,内モンゴル自治区,広西チワン族自治区などを言う.総
面積は685万km²(全国面積の約71%を占める).人口は約3.7億人と全国人口の29%を占め,
そのうち少数民族は1/5を占める.これらの地域に中国の55の少数民族のうち52種の少数民族 が居住しており,全国の約8,000万人の少数民族のうち中西部地区に86%以上が居住する.
22 オルドス:内モンゴル自治区の盟.中国語で“鄂尓多斯”と書く.
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期までの1950-1960年代,内モンゴル自治区及び西北各省に6つの砂漠研究所を設け,22
か所の研究組合が作られ,全国に砂漠化防止のネットワークが形成された.第 3 期は文化 大革命後から20世紀末まで(1980―1990年代)に,国務院に砂漠化防止事務室を設置し,
「砂漠化防止対処条約」を批准し,2000年に「砂漠化防止法」が実施された.第4期は21 世紀に入ってからなる砂漠化防止と関連する法律を制定し,2050 年までに全国の森林被覆
率を2010年の19%から26%に森林生態系を拡大する目標を揚げ(王琳和ら,2008)4段階
で実行,改善されてきた.
砂漠化防止への取り組みの初期段階は政府による政策の実施であり,具体的には農業に 対する「退耕還林政策」や放牧業に対する「退牧還草政策」など農業と放牧業の削減であ った.同時に,大規模な植林活動が行われ,2004年の438万km²の砂漠化土地面積が2014
年に433万km²と減少し,毎年平均約5,000 km²の減少が観測されている.こうした中,内
モンゴル自治区における減少面積が最も大きく,次に甘粛省,陝西省と続いている.これ らにより,中国は砂漠化防止に関して一定の成果を得ているが,これは全国的に進められ ているのではなく,今後とも取り組みの改善や拡大が必要である.特に新疆ウイグル自治 区や青海省地域で適切なプロジェクト構築が必要とされている.
図 10 中国の地域別砂漠化土地の減少面積
(出典)中国荒漠化と砂化状況公報2007-2015より著者作成
一方,政府により実施された政策では,全国的に多くの放牧民や農民の移民政策が行わ れている.この移民政策は,人口増加に対して,非農業地域における農地開拓によって食 糧増産を目指す目的が強く,移民の未熟な農業技術も災いして,極めて資源略奪的なもの であった.「耕作不適切においても大規模な農業生産が実現可能という考えが強くみられ,
半乾燥地域における農地開拓や伝統的な牧畜形態の否定が行われた」(淡野ら,2011)こと 内モン
ゴル 甘粛省 陝西省 河北省 寧夏自
治区 山西省 新疆ウ
イグル 青海省 系列1 -4169 -1914 -1443 -1156 -1097 -622 -589 -507 -4500
-4000 -3500 -3000 -2500 -2000 -1500 -1000 -500 0
単位:km²