5. 結論と提言
5.2. 両国における CDM 事業化に向けての展望と課題
5.2.1. CDMの制度及び市場の動向と本調査プロジェクトへの影響
① 京都議定書第二約束期間のCDMと日本の立場
2012年11月26日から12月8日まで、カタール・ドーハにおいて、国連気候変動枠組条約第 18回締約国会議(COP18)、京都議定書第8回締約国会合(CMP8)等が行われた。
ドーハ会議では、前年のダーバン合意58を受け、2015年までの交渉を進める作業計画に合意 すると同時に、2020年までの取り組みを決定した。第二約束期間設定のための京都議定書の改 正については、同期間中の各国の排出抑制及び削減に関する約束が記載された附属書Bを含む 改正案が成果文書 として採択され、第二約束期間の長さは2013年から2020年までの8年とす ることが決定された。第二約束期間に参加しないという日本の立場は改正された付属書Bに反 映された。日本をはじめ第二約束期間に参加しない先進国、及び途上国は自主的な削減目標・
行動を掲げているカンクン合意に基づき、新しい枠組みが運用開始する2020年まで気候変動対 策を進めることとなった。
ドーハ会議では、クリーン開発メカニズム(CDM)について、第二約束期間に参加しない国 もCDMプロジェクトに参加して2013年以降のCDMクレジット(CER)を原始取得(自国に 転送)することが可能であることが確認された。また、一旦第二約束期間不参加国の国別登録 簿内に入ったCERは、国外への移転は認められないが、現行の国連ルール上は、国内事業者間 での国内取引に制約はなことから、国内で自主的な削減目標達成への利用など、今後CERの国 内利用が可能となることが期待される。
57 有効化審査中の公開PDD:
http://cdm.unfccc.int/Projects/Validation/DB/RAF02M1RO8Q7V2WW1RPI9ZB6U3QWM2/view.html 進 行中の有効化審査は、現時点では1年目より排出削減が見込める方向で現在進んでいるが、今後CDM 登録までに、プロジェクトによる森林伐採がより大きなリーケージ排出につながると判断される可能 性も引き続き残る。
58 2011年の南アフリカで開催されたCOP17において採択された「ダーバン合意」で2015年に全て
の締約国が参加する新しい枠組みを採択し、2020年から運用開始されることとなった。
60
なお、第二約束期間に参加する先進国で2020年までの削減遵守目標を挙げる地域は欧州連合
(EU)とオーストラリアに加え、リヒテンシュタイン、モナコ、ノルウェー、及びスイスがあ る。
② CERの市場と規制
EUは2005年1月からキャップ&トレード方式の欧州連合域内排出量取引制度(EU-ETS)を 導入し、第2フェーズ(2008年から2012年まで)を経て2013年から第3フェーズに入った59。
EU-ETS では、CER の取得・提出を削減実績としてカウントすることが認められている。CER
の価格は、投資家の動向に左右されるが、中でも、市場として最も早くから確立し、取引量の 点でも支配的な地位を占めるEU-ETSの動向に大きく左右されてきた。
EU-ETSでは、2013年1月から、工業ガスプロジェクト60のCER及び、2013年以降登録のCDM プロジェクト由来のCERが原則使用不可になるなど、適格条件が規定された。しかし、LDC国 のプロジェクトやEUと二国間合意した国のCERは、例外的に2013年以降の登録でもEU-ETS での使用が認められることとなった。
EU-ETS に加え、今後、CER の利用が可能となる市場として、オーストラリアの排出権市場
が挙げられる。オーストラリアでは2011 年10月に温暖化ガスを排出する企業に負担を求める 炭素価格制度に関連した一連の法案が可決されたことを受け、2012年7月より炭素価格制度(炭 素税)が導入された。これにより、温暖化ガスが比較的多い企業は1トン当り23オーストラリ アドルの支払が求められ、負担額は 2014年にかけて毎年 2.5%引き上げられる予定である。そ の後、2015年 7月より排出権価格が市場の需給で決まる排出量取引制度(ETS)へ移行するこ とが予定されているが、これに合わせてCERを含む国際排出権の一部使用が可能となる見通し である。
また、前述の通り、第二約束期間に参加しない国もCDMプロジェクトに参加して2013年以 降のCDMクレジット (CER)を原始取得(自国に転送)することが可能であり、例えば、今 後日本の自主目標達成への CER利用が可能となった場合、日本においても CER の需要が見込 めると考える。
③ EU-ETSにおけるCER価格の推移とLDCのCER価格
排出権価格は2011年央以降の下落に続き、最安値を探る動きを続けている。2009年頃の金融 機関を巡る不安が広がった際(いわゆる“リーマンショック”)には大幅に下落し、第一回目の 下落トレンドとなった。その後、約 2 年間、景気の回復期待に支えられ横ばいの推移を続けた が2011年後半の半年間は、欧州の一部の財政問題が拡大する懸念が広がる中、2回目の下落ト レンドを形成した。その後、2012 年の前半は踊り場の様相となったが反転のきっかけはなく、
59 EU-ETSへはEU加盟国に加え、リヒテンシュタイン、ノルウェーなど、EU非加盟国も参加して
いる。また、スイスは独自のETSを持つが、EU-ETSとの相互リンクに向け、現在協議中である。
http://www.bafu.admin.ch/emissionshandel/10923/index.html?lang=en
60 HFCs及びアジピン酸N2Oプロジェクト
61
夏場以降は再び最安値を探る動きとなった。2013年2月現在、先物12月限は0.3ユーロ台、ス ポット価格は0.1ユーロ台を推移している。欧州のアナリストの見通しは、2013 年の平均 0.71 ユーロである。グラフで示した先物価格は現在、2013年12月にCER価格が0.33ユーロになる と見通していることを表している。また、現在、スポット取引のCER価格は0.11~0.12ユーロ 程度とされている。CDM事業者にとっては、CERの価格が事業推進のインセンティブとなって いたが、現在はそのインセンティブが著しく低下した状態である。
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
2011/1/4 2011/2/4 2011/3/4 2011/4/4 2011/5/4 2011/6/4 2011/7/4 2011/8/4 2011/9/4 2011/10/4 2011/11/4 2011/12/4 2012/1/4 2012/2/4 2012/3/4 2012/4/4 2012/5/4 2012/6/4 2012/7/4 2012/8/4 2012/9/4 2012/10/4 2012/11/4 2012/12/4 2013/1/4 2013/2/4
単位:ユーロ
図5-1:CER先物価格推移(2011年から2013年2月まで)
出典:Point Carbon http://www.pointcarbon.com/
上述の通り、最安値圏で推移しているCER価格の大幅な改善は一般的には見通しづらい。し かしながら、EU-ETSによる適格条件の規定により2013年1月から、工業ガスプロジェクトの CERが使用不可となったことに伴い、今後EU-ETS市場へのCER供給量が大幅に縮小すること が見込まれることや、長期的には欧州経済の回復も見込まれること、さらには、2015年7月1 日以降はオーストラリアの排出権市場でもCERの取り扱いが一部可能となることから、CERの 需給バランスの大きなズレは軽減される方向にあるといえる。また、LDCのCERは、先進国が 目標達成・遵守のために使用するのではなく、後開発途上国の持続可能な発展を支援するとい う観点から、別の価格形成がされていくことが今後十分に期待しうるものと思料される。
④ 本調査プロジェクトから期待されるCDM収益
本調査が対象とするブ国の地方電化事業及びザ国の小規模水力発電事業から見込まれる CDMによるCERの売却による収益の見込みを現時点のCER価格を含めいくつかのシナリオに ついて表5-1に示した。
62
表5-1:本調査プロジェクトから期待されるCDM収益
CER売却による収益見込 プロジェクト 年間CER61
(tCO2e/年)
2013年2月 スポット価格
(0.10€/tCO2e)
2011年前半 レベルの価格
(10€/tCO2e)
LDC独自のCER
価格形成がなさ れた場合 ザンビア「電力アク
セス向上事業」小水 力発電事業
11,037 1,103.7 €/年 110,370 €/年 未知数*
ブータン
「地方電化事業」 19,25962 1,925.9 €/年 192,590 €/年 未知数*
*未知数ながら LDC 支援の観点から相応に高い価格で購入意向を示す投資家が出てくることが
期待される。
5.2.2. CDMプロジェクトの地理的不均衡是正に向けた国連の動き
排出権市場におけるLDCのCER価格に関する動向に加え、CDMの制度においてもLDCに おけるCDM実施を支援する取り組みが進められている。これまで、CDMプロジェクトが特定 の国(中国、インドなど)に集中し、持続可能な開発が求められるLDC等で実施されない地理 的不均衡がCDMの課題であった。2013年2月現在において、CDMの全登録件数は6,602件に 上るが、このうちLDC がホスト国となっている登録案件は 78件と全体の 1%に留まる。CMP では、このCDMの地理的不均衡の是正について、継続的に検討しており、以下のような取り組 みの実施を決定している。
① 極小規模プロジェクトに対する追加性証明の免除
CDM において、CDM の支援が無ければプロジェクトの実施がなされないことを証明する、
追加性の証明はプロジェクトの CDM 事業登録を求めるプロジェクト実施者の大きな負担とな っていた。CDM理事会はCDM案件の地理的不均衡是正策のひとつとして極小規模(マイクロ スケール)CDMプロジェクトに関する手続きの簡素化を検討し、出力5MW以下の再生可能エ ネルギープロジェクト(タイプIプロジェクト)、20GWh/年未満の省エネプロジェクト(タイプ IIプロジェクト)、及び、再生可能エネルギープロジェクトや省エネプロジェクト以外のプロジ ェクト(タイプIIIプロジェクト)で年間削減量20kt(CO2換算)未満のプロジェクトについて、
後発開発途上国(LDC)で実施されるなど、一定の条件を満たす極小規模プロジェクトを対象に、
61 有効化審査中のPDDにおける年間CER量。(実際の電力供給量に基づく下方修正の可能性有)
62 進行中の有効化審査は、現時点では1年目より排出削減が見込める方向で現在進んでいるが、今 後CDM登録までに、プロジェクトによる森林伐採がより大きなリーケージ排出につながると判断さ れた場合、CER発生はクレジット期間開始後16年目以降となり、クレジット期間平均の年間CER
は約6,000トンが見込まれる。