3. ブータン「地方電化事業」を事例とした既存配電網延伸による地方電化事業 CDM 新方法論
3.3. ホスト国の特徴
3.3.1. 追加性立証に係るブ国の国情
前述のとおり、2010年5月第54回国連CDM理事会において、決定2/CMP.5及び、決定3/CMP.6 に基づき承認された、出力5MW以下の再生可能エネルギー技術プロジェクト、年間の省エネ規
模が 20GWh 以下の省エネプロジェクトを対象としたマイクロスケールプロジェクトのための
追加性立証に関するガイドライン(マイクロスケールガイドライン)29は、その後の改訂を経て 年間削減量20kt以下のタイプIIIのプロジェクトにも適用範囲が拡がった30。この新しいマイク ロスケールガイドラインによると、開発途上国の中でも特に開発が遅れている国々を指す後発 開発途上国(LDC: Least developed country)にて実施される年間削減量20kt(CO2換算)未満のタ イプIIIプロジェクトは、自動的に追加的とみなされ、追加性テストが免除される。
29 “Guidelines for demonstrating additionality of renewable energy projects less than or equal to 5 MW and energy efficiency projects with energy savings less than or equal to 20 GWh per year (version 01)”, EB 54, Annex 15
30 “Guidelines for demonstrating additionality of microscale project activities (version 04)”, EB68, Annex 26
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調査実施時点において、ブ国は国連の定義31に従い、LDCに指定されている32。また、グリッ ド延伸による地方電化事業はタイプIIIプロジェクトに分類されることから、DRE、BPC、及び 調査団はマイクロスケールガイドラインが当該地方電化事業の CDM 登録のために有益である との認識を改めて共有した。
また、DREによると、メキシコ・カンクンにおけるCOP16にてブ国政府代表は「マイクロス ケールプロジェクトのための追加性立証に関するガイドライン」の適用範囲を、CDM登録件数 10件以下のホスト国で実施されるプロジェクトまで広げるよう訴え、ブ国がLDCを卒業したあ ともブ国で実施される CDM プロジェクトに対してマイクロスケールガイドラインが引き続き 適用可能となるよう働きかけた。これは同国が近い将来LDCから卒業することを見込んでの働 きかけであると考えられるが、直ちにLDC から卒業するとのことではないと DREに確認でき たことから、より短期間でCDM理事会から方法論承認を得ることに主眼を置き、本調査で作成 する新方法論では既存のマイクロスケールガイドラインの適用のみを念頭に、登録実績数の少 ないホスト国でプロジェクトを実施する際にマイクロスケールガイドラインに沿って追加性立 証を免除する措置については言及しないことでDRE及びBPCと合意した。
調査団はDRE及びBPCに対し、プロジェクトのクレジット期間中にブ国がLDCを卒業する 場合、国連CDM理事会に対して、マイクロスケールCDMプロジェクトに対する追加性立証に おけるホスト国がLDC であることの規程について、いつの時点で LDC である必要があるのか
(登録時点、投資決定時点など)の確認が必要となる可能性があることを伝えた。
3.3.2. ブ国のグリッドの特徴
現在ブ国で登録されている電力供給に関わるCDMプロジェクトは、グリッドから独立した小 規模水力発電プロジェクト33と、大規模水力発電所をグリッドに接続し、発電した電力をインド へ売却するプロジェクト34の2件である。また、新たに大規模水力発電所からインドへの売電プ ロジェクト2件が現在有効化審査中である。
インドへの売電プロジェクトのプロジェクト設計書(PDD)には、ブ国とインド間のグリッ ドは送電制限(transmission constraint)がなく完全に結合(fully integrated)した多国間の包括グ
31 国連によるLDC基準:以下3つの基準を満たした国がLDCと認定される。ただし、当該国の同 意が前提となる。(1)一人あたりGNI(2005-2007年平均):905米ドル以下 (2)HAI(Human Assets
Index):人的資源開発の程度を表すためにCDPが設定した指標で、栄養不足人口の割合、5歳以下乳
幼児死亡率、中等教育就学率、成人識字率を指標化したもの。 (3)EVI(Economic Vulnerability
Index):外的ショックからの経済的脆弱性を表すためにCDPが設定した指標。
32 ブ国は1971年に国連の定めるLDCのリストに加えられ、2012年12月現在LDCである。(国連 ホームページhttp://www.un.org/en/development/desa/policy/cdp/ldc/profile/country_23.shtml)
33 “e7Bhutan Micro Hydro Power CDM Project (Project 0062)”
http://cdm.unfccc.int/Projects/DB/JACO1113389887.76/view
34 “Dagachhu Hydropower Project, Bhutan (Project 2746)”
http://cdm.unfccc.int/Projects/DB/DNV-CUK1247228633.76/view
29
リッド(trans-national grid)であり、ブ国からの電力(水力メイン)は、特定の送電線を経て一 つの横断電力系統(integrated electricity system)にてインドに送られていると記載されている。
このため、インドへの売電プロジェクトでは、ベースラインシナリオにおけるグリッド排出係 数の算出に、ブ国国内のグリッド接続発電所(水力)だけでなく火力比率が高いインドのグリ ッド接続発電所も考慮されており、結果として高いグリッド排出係数が導き出されている。ほ
ぼ 100%水力で賄われるブ国単独のグリッド排出係数をベースラインシナリオの排出係数とす
る場合はプロジェクト実施による排出削減を見込めないが、インドとの包括グリッドをベース ラインとすることで、ブ国内で実施されるグリッド接続の再生可能エネルギー電源建設事業の CDM事業化が可能となっている。これまでに公表された UNFCCC に登録済み或いは現在有効 化審査中のブ国のCDMプロジェクトで用いられている排出係数を表3-3にまとめた。これらの プロジェクトのうち、”e7 Bhutan Micro Hydro Power CDM Project” だけがグリッドからは独立し た小規模水力発電プロジェクトであり、残りの3件はインドへの売電プロジェクトである。
表3-3:ブ国CDMプロジェクトにおけるベースラインシナリオのグリッド排出係数
プロジェクトタイトル タイプ
(適用方法論)
ステータス
(登録日)
グリッド排出係数
e7 Bhutan Micro Hydro Power CDM Project
(Ref#0062)
水力発電 (AMS-I.A.)
登録・発行済
(2005/5/23)
0.8kgCO2/kWh
(ディーゼル排出係数 に基づく既定値) Dagachhu Hydropower Project
(Ref#2746)
水力発電 (ACM0002)
登録済み
(2010/2/26)
1.004tCO2/MWh (インド-ブ国包括グリ ッド排出係数)
Substitution of grid generation through transmission of renewable electricity generated in a hydro power generation station
水力発電 (ACM0002)
有効化審査 0.793tCO2/MWh (インド-ブ国包括グリ ッド排出係数)
Punatsangchhu-I-Hydroelectric Project
水力発電 (ACM0002)
有効化審査 0.779tCO2/MWh (インド-ブ国包括グリ ッド排出係数)
上記のように、ブ国がホスト国となる登録済みCDMプロジェクトでは、ブ国国内で生産され た水力発電による電力をインド-ブ国を結ぶ包括グリッドを通してインドに売電し、インド国内 の火力電力を代替することにより排出削減を行うものが先行しており、インド-ブ国間の包括グ リッドの排出係数(0.78~1.0 tCO2/MMh)がブ国のグリッド排出係数としてCDMでは認められ ている。
一方、本調査が対象とする配電網延伸による地方電化事業は、プロジェクト実施前に化石燃 料を使用する未電化地域へ再生可能エネルギーである水力主体の既存配電網を延伸し電力供給 することにより化石燃料の使用量の削減を図り、排出削減を実現するものである。もし、この 地方電化事業により前述のブ国によるインドへの売電プロジェクトで認められているブ国グリ
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ッドであるインド-ブ国間の包括グリッドを延伸すると考えると、ブ国国内の配電網延伸プロジ ェクトは排出係数の高い電力の消費を促進するプロジェクトとなり、排出削減の効果が期待で きないこととなる。しかし実際には、ブ国が国内需要を大きく上回る電力を発電し、隣国イン ドに供給していることからも明らかなように、ブ国内の地方電化のために国外から電力を調達 することは考えにくく、配電網延伸プロジェクトによって供給される電力は全量ブ国国内で生 産される水力発電により賄われると考えて間違いない。このことから、調査団は本調査が対象 とするブ国における配電網延伸による地方電化プロジェクトの排出削減量算定には、これまで CDMで認められてきたブ国のグリッド排出係数(インド-ブ国包括グリッド排出係数)によらな い方法が必要であると考えた。
第1回現地調査において、調査団は上記の課題をDRE及びBPCと協議した。協議において、
今後もインドへの売電プロジェクトのCDM化が進む可能性が高いことに鑑み、登録済み或いは 有効化審査中のグリッド排出係数には抵触したくないという意向がブ国側に強いことを確認し、
新方法論については、ホスト国内で生産される再生可能エネルギー電力のホスト国内未電化地 域への供給を対象とし、他国から供給される電力を排出削減の対象としないことを明確にする ため、適用条件に以下を含めることで了解を得た。
ホスト国内の既存の電力配電網に電力を供給する全ての発電所・施設35は再生可能エ ネルギー源(或いは低炭素源)であること。
電源開発計画において、建設が計画されている国内の発電所・施設が再生可能エネル ギー源(或いは低炭素源)であることが確認できること。
ホスト国が他国から調達した電力量が定量可能であり、その電力量がプロジェクト実 施者によって確認可能であること。
ホスト国国内の年間の消費電力量が定量可能であり、その電力量がプロジェクト実施 者によって確認可能であること。
これらの適用条件を満たすことによりホスト国国内に設置された電源から供給される電力は 再生可能エネルギー由来の電力であり、再生可能エネルギー主体の既存配電網の延伸というプ ロジェクトシナリオの条件を満たすと考えた。さらに、新方法論にホスト国の年間消費電力量 における他国からの電力調達量の割合を明確にする適用条件を盛り込み、再生可能エネルギー 由来であることが明確でない、ホスト国が国外から調達する電力についてはプロジェクト排出 を算定し、排出削減量から差し引くこととし、方法論の国連承認を目指した。プロジェクト排 出量の考え方に関しては、次の「CDM新方法論構築及び国連承認手続き」の項において詳述す ることとする。
35 物理的にホスト国内に存在するグリッド接続の発電所・施設のみを対象とし、包括グリッドに接 続するホスト国外に設置されている発電所・施設は対象外。